『安部公房全集』担当者に聞く

加藤弘一

 個人全集といっても、著作集といった方がいいようなものがすくなくないが、『安部公房全集』の場合は、「安部公房全集編集室」という専門の部署をつくり、三島由紀夫全集以来の徹底した編纂作業をおこなっているという。それだけに、刊行の時期がなんどか延びているようだが、ようやく全体像があきらかになってきたらしい。実際の編集にあたられている新潮社出版部の佐久間憲一氏にお話をうかがった。

──『安部公房全集』はすごいものになるようですが、どのくらいの規模で、いつごろ刊行が開始されるのでしょうか?

佐久間 全三〇巻に別巻が数巻くわわります。一巻あたり四百字詰め原稿用紙換算で八〜九百枚です。ちなみに全収録枚数は三万八千枚。そのうち未発表作品は講演、インタビューを含めて約二千枚。著者の単行本に未収録の作品は、放送劇、エッセイ、対談・座談会を中心に約一万五千枚です。刊行開始は来年五月の予定で、六月は休み、七月からは毎月配本します。

──八〜九百枚というと、長編が二冊はいる巻もあるわけですね。

佐久間 いえ、総編年体でだしますから、長編が二冊ということはありません。個人全集の場合、小説とか戯曲とかジャンルにわけて、その中で発表順にならべることが多いのですが、安部公房全集の場合は、ジャンルに関係なく、すべての作品を執筆年代順に配列します。ラジオドラマを集中的に書かれていた時期があるので、その年代にあたる巻にはラジオドラマがかたまるということはありますが。
 ノン・ジャンル編年体として、各巻に同時期の作品を以下の原則で並べます。

  1. 詩、小説・戯曲
  2. 放送劇、シナリオ
  3. 未完・未定稿作品
  4. 評論、エッセイ、講演、談話、インタビュー、対談・座談会
  5. 翻案物、異本

──おお! 三島由紀夫全集の場合はジャンル別に巻をわけた上での編年体でしたが、文学者の全集で総編年体というのはほとんどないですよね。

佐久間 あれだけ多方面で活躍されていた方ですから、ジャンル別にわけるよりも、すべての作品を執筆した順番に配列した方が、全貌が把握しやすくなるのではないでしょうか。

──『砂の女』の前後にどんな短編やエッセイを書いていたか、どんな発言をおこなっていたかが、一目で分かるわけですね。ということは、短編集にはいっていた短編はばらばらになる?

佐久間 そうです。別巻に本全集の内容を含めた書誌を収録しますから、それを見ればどんな短編が一冊になっていたかがわかりますが、短編集ごとの収録というかたちはとりません。

──未発表作品や単行本未収録作品もはいるということですが、一〇代に書いた習作とかもはいるのですか?

佐久間 『無名詩集』以前の作品もありますが、未完成の作品、ほぼ完成していたが発表にいたらなかった作品など、相当な量があります。

──完成していたのに未発表の作品があるんですか?

佐久間 かなりあります。

──なるほど。全三〇巻というと、以前出た『安部公房全作品』の倍以上ですからね。これはいよいよ楽しみです。書簡や創作ノートもはいるのですか?

佐久間 一部はいります。どれが収録できるかは、まだ流動的ですが。

──写真はどうなるのでしょうか?

佐久間 はいるということは決まっているのですが、どういう形になるかはまだ検討中です。『箱男』の写真のように小説にくみこまれたものもありますし、『都市の肖像』という連載もありますから、総編年体といっても難しいです。それに、写真の場合、特 別な紙を使わなくてはなりませんから、いろいろな可能性を考えています。

──写真も総編年体にしてほしいところですが、紙の問題があると難しいでしょうね。今日はお忙しいところありがとうございました。来年五月を楽しみにしております。


(Oct14 1996) 付記
巻数について
 「全三〇巻に別巻が数巻」の予定だったが、最終的には全二九巻、別巻一巻となった。
総編年体
 当初は巻割りだけの総編年体の予定だったが、最終的には巻の内部もふくめた、文字どおりの総編年体になった。詳しくは「安部公房短信」を参照のこと。
写真
 二三巻、二五巻、二七巻に収録されることになった。

 なお、安部公房を特集した「國文學」1997年 8月号に、安部公房全集の装丁を担当し、編集にもかかわった近藤一弥氏による「安部公房と写真」という談話が掲載されいるが、刊行にいたるまでの曲折をうかがうことができて興味深い。(Jul14)
Copyright 1997 Sakma Ken'iti
Kato Koiti
This page was created on Oct22 1996; Last updated on Jul14 1997.
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