戸籍に外字の必要な人はどれだけいるか?
         ──柏市役所 加藤仁昭氏に聞く

加藤弘一
加藤仁昭氏 1949年生まれ。1973年、柏市役所に入庁。1985年4月から1999年3月まで、市民課戸籍担当。

参考:「文字コードから見た住基ネットの問題点

戸籍と住民台帳は別もの

――柏市はいち早く XKPにもとづく総合戸籍システムを導入され、マイクロソフト社のWWWページでも紹介されています。どんなシステム構成になっているのでしょうか?

加藤仁昭 まず、戸籍と住民記録は別のものです。システム的にもわかれていることをお断りしておきます。
 戸籍は生まれてから死ぬまでの身分を証明するものですが、住民記録は住所を証明するものです。管轄も戸籍は法務省、住民記録は自治省です。
 当市では、住民記録は1973年から電算化しています。現在はディー・エス・ケーという第三セクターに委託して、同社内の大型汎用機で処理をおこなっています。
 戸籍の方は原本を庁舎外で保管してはいけないという基準があり、市庁舎内のサーバーで保管しています。
 戸籍システムのハードウェア構成についていいますと、本庁舎の市民課内にパソコン・サーバーが3台、クライアントが11台あります。出張所が9ヶ所あるんですが、そこにクライアントが1台づつ、さらにサービスセンターに2台あって、計22台のクライアントがあります。

――出張所とサービスセンターはどう違うのですか?

加藤 出張所は、各種の証明書の発行ほか、戸籍の届出、住民票の異動などを受けつけていますが、サービスセンターの方は証明書の発行だけです。その代わり、通常の窓口が5時で終わりなのに対し、午後7時まで業務を行っております。土曜日も、他は閉庁なのですが、午前9時から午後5時まで開いております。

――戸籍のシステムと住民記録のシステムがわかれているということですが、クライアントはどうなのですか?

加藤 戸籍・住民記録の併用機になっています。市民課のサーバーだけでなく、ディー・エス・ケーのホスト・コンピュータにもつながっていまして、住民記録のデータベースにもアクセスできます。

――現在のシステムになる前も、パソコンを端末にしていたのですか?

加藤 いいえ。いわゆるダム端末です。ディー・エス・ケーの大型汎用機から専用線でラインを引っ張ってきています。今の戸籍システムがはいるまで、庁舎内にあったコンピュータは、住民記録の原本管理用及びオンラインがダウンした時のための小さなコンピュータだけでした。現在は、これをパソコンのサーバーに代えて同様に使用しております。

――住民記録システムでは、外字はどのように管理しているのですか?

加藤 ディー・エス・ケーのホスト・コンピュータは汎用機ですから、最初から大量の外字を持っています。そこにない文字は、ディー・エス・ケーに発注して作字してもらいます。ディー・エス・ケーに委託しているのは柏市だけではないので、登録が完了するまではある程度の期間がかかります。

――その間、住民票の発行はできないのですか?

加藤 その間は、不備住民票として、紙の住民票で管理し、請求がある場合は、この紙の原本から複写して発行するようにしています。

――戸籍システムの外字と住民記録システムの外字は別々に管理しているのですか?

加藤 システムとしては別ですが、戸籍システムをセットアップする時に、住民記録で使用している外字データをもってこようということになりまして、ディー・エス・ケーの外字セットから、柏市で使っている外字だけを抽出しました。全部で 1972文字になりました。さらに、戸籍に必要な 132文字を新たに作りました。

――1998年10月で、戸籍システムをまる一年間運用されたわけですが、外字は増えましたか?

加藤 戸籍については、一年間で14文字、外字が発生しました。

――それには、外国の方が帰化されたとか、中国残留孤児の方が帰国されたといったケースは含まれていますか?

加藤 いいえ。すべて日本の方です。

外字管理は大仕事


――外国人登録はどうなんでしょうか?

加藤 外国人登録は外国人登録で、別系統のオンライン・システムがあります。漢字圏の方は漢字で登録するんですが、簡体字とか、JISの第1水準、第2水準にない漢字がたくさん必要です。
 数年前から、法務省入国監理局登録課の方で、NECのパソコンに外国人登録用に外字を800字ほどあらかじめ入れ、各自治体に配っていますが、柏市では、独自の外国人登録システムを運用する際に、先の外字の中から当市で使用頻度の高い外字を選択し、外字のシステムを構築しています。なお、外字のシステムは住民記録の外字システムと併用しています。

――三系統あるということですか?

加藤 外国人登録についてはディー・エス・ケーのホストを使用していますので、住民記録の外字管理と併用しております。つまり、ホストで管理する方式とサーバーで管理する方式の二系統になっております。

――この作業は市の職員の方がやるのですか?

加藤 われわれではできないので、ディー・エス・ケーに委託しております。住民記録と外国人登録については、ホスト・コンピュータに登録すれば終わりですが、戸籍システムは、パソコンのクライアント・サーバー方式ですから、各クライアント一台ごとに登録する必要があり、市民課内にあるクライアントは、その場でできますが、出張所やサービスセンターにあるクライアントは、遠隔操作で登録します。一ヶ所、10分から15分かかりますが、確認も必要ですから、22台すべてに登録すると、一日仕事になりますね。

――XKPのパンフレットを読む限りでは、外字管理サーバーに登録すれば終わりのはずなのですが、クライアントごとに作業する必要があるんですか?

加藤 詳しいことはわかりませんが、クライアントにパソコンを使用しているためか一台ごとに作業していますよ。

――登録作業は一ヶ月に一回とか、定期的にやるのですか? それとも、そのつどやるのでしょうか?

加藤 外字が発生した時点で依頼します。戸籍の届出をしたお客様ですぐに証明がほしい方もいらっしゃいますが、文字の登録を終了しないと外字の部分が「■」になり、データの登録ができないため、速やかに外字を作成し登録するようディー・エス・ケーに依頼しております。
 こういう事情ですので、お客様には、証明書の交付を登録完了まで待っていただいています。

康煕字典は今でも現役

――新たに作字するまでの手続きを教えていただけますか?

加藤 本人のお名前で表外字が出てくるのは、人名漢字の施行以前に生まれた方が多いのですが、若い方でも、お父様とか、従前の戸籍の筆頭者とかで、表外字が出てくるケースはよくあります。
 表外字が出てきた場合、まず、使える漢字かどうかを判断しなければなりません。法務省の見解では、辞書に正字または俗字として記載されている漢字なら認めることになっています。ですから、極端な例では、「この字はうちの方の辞書には載っていないんですが、お客様がお持ちの辞書で探していただけますか?」とお願いするケースもあります。

――木版本の辞書でもいいのですか? 康煕字典は木版本を写真製版した影印本で流布していますよね。

加藤 ええ。康煕字典はわたしどもの窓口にも用意してあります。康煕字典は探すだけでも大変ですが、正字であれば、どんな僻字でも、うちのコンピュータ・システムの文字セットで探し、なければ作字を依頼します。

戸籍原簿は外字の嵐

――戸籍で外字が必要な方は何パーセントくらいいるのでしょうか?

加藤 現在、当市の戸籍人口は約21万人です。これには除籍者もふくみますますので、厳密な本籍人口とは違ってきますが。そのうち、外字を使っている方は、21,587人いらっしゃいます。

――10パーセントもいるのですか!

加藤 なんらかの形で戸籍に外字の必要な方がそれだけいるということです。前にもお話ししたように、ご本人の名前だけとは限らないんですよ。ご両親の場合もありますし、戸籍筆頭者の場合もありますし、出生地の場合もあります。
 戸籍には出生した時点における市町村名、字(あざ)名を、当時の表記で記載しなければなりません。また、外国でお生まれの方は、外国の地名で記載する必要があります。

――外国生まれというと?

加藤 戦前、旧満洲や台湾、朝鮮でお生まれになった方がかなりいらっしゃるんですよ。

――なるほど! 文字コードの議論では、まだ一度も指摘されたことがありませんが、そういう問題があったのですね。
 JISコードの原案作成を請け負っているJCS委員会は、今、国土地理院と国土地理協会のデータを使って、現時点における日本全国の地名漢字を総ざらいしていますが、それでは駄目ということですか?

加藤 町名変更や統廃合で消えた地名でも、戸籍上で出てくるケースはよくあります。過去の地名や外地の地名まで網羅してくれないと、戸籍を運用していく上では十分とはいえません。

――住民記録と戸籍では、文字セットの範囲が違ってしまうわけですね。

加藤 それはそうです。最初にお話ししましたように、もともと住民台帳と戸籍は使用目的が違いますし、中央省庁の管轄も違います。

――今、電子政府構想といって、公文書をすべて電子文書化し、住民台帳なども全国的にオンライン化しようという動きがありますが、行政の現場にいる方としては、JIS表外字の問題は重大なネックになると思われますか?

加藤 なるでしょうね。行政事務の電算化では、JIS表外字の問題は避けて通れないと思います。

――今日は貴重なお話をありがとうございました。

Copyright 1999 Kato Noriaki
Kato Koiti
This page was created on Apr22 1999; Last updated on May16 1999.
文字コード
ほら貝目次