住基ネットの外字記号とワイルドカードについて 正式版

加藤弘一

正式版公開にあたって

 取材させていただいた地方自治情報センターのお話が曖昧だったために、ワイルドカード検索が可能かどうかについて記述が揺れましたが、ワイルドカード検索はやはり可能でした。

 取材時は外字の検索のことしか念頭になかったのですが、今回の騒動で、ワイルドカード検索は外字を含む・含まないにかかわらず、すべての住民票を対象にしており、しかも初心者にも使えるように、検索式として「*」や「?」を書かなくてすむように工夫をこらした親切システムになっていることが判明しました。

 具体的にどんなことができるか、どこに問題があるかは「住基ネットの過剰な検索機能」にまとめてあります。

 本ページでは、なぜこういう揺れが生じ、読者の皆様を混乱させるにいたったかについて、取材の経過を説明いたします。(Aug08 2002)

 拙著『図解雑学 文字コード』の216ページと、「残存外字」を使う「渡辺」を「渡*」のように検索するの場合の「*」を「ワイルドカード」とパラフレーズし、拙サイトで公開した「文字コードから見た住基ネットの問題点」で住基ネットでワイルドカード検索が可能と書いたのは、地方自治情報センターの住基ネット担当者の方からうかがった、「残存外字」を含んだ住民票を探すには「検索によく使うアステリスク」を使い、本人以外の住民票が多数出てきたら検索条件でしぼりこんでいくというお話にもとづくものでした。しかし、ある方から、ワイルドカードが使えるという記述には疑問があるという指摘を受けましたので、7月30日に取材させていただいた担当の方にお電話であらためて問い合わせました。

 この問題は即答できないということで、一時間近くたってから回答のお電話をいただき、「検索によく使うアステリスク」という説明は便宜的なものであり、実際に使うのは外字の存在をあらわす特別な記号で、字形も「*」という形をしているわけではないという事実をあかしてくださいました。実際の字形はセキュリティの見地から部外秘だそうです。口ぶりからすると、外字記号の存在自体が部外秘だったようで、「検索によく使うアステリスク」というまぎらわしい表現になったのもそのためという印象を受けました。

 本人以外の住民票が出てくるという件についても確認したところ、外字の存在をあらわす記号は「残存外字」間ではワイルドカード的に働くが、「残存外字」を含んだ住民票は多くないので、ヒットするデータが多くなるのは、むしろ氏名と住所か、氏名と生年月日という二つの条件だけで検索できるという理由の方が大きいというお答えをいただきました。氏名は読みでもよく、「こいずみ じゅんいちろう」で検索すれば、「小泉純一郎」、「小泉順一郎」、「小泉潤一郎」、「小泉淳一郎」等々もひっかかり、ヒット数が多くなる一因になっているそうです。ヒットした住民票はもちろん中をのぞけます。

 ただし、ヒットした住民票の数が上限を超えた場合は、住民票にはアクセスできず、検索条件を再設定する画面が出てくるということでした。上限がいくつかはセキュリティ上の秘密ということでしたが、例にあげられた数字からすると、数十のオーダーだろうという印象を受けました。

 外字の存在を示す記号は特別な操作をしないと入力できないそうで、頻繁な使用は想定されていないという印象をもちました。むしろ、氏名は読みで検索する場合が多いと想定されているようです。「渡辺」の「辺」は異体字が多いことで有名ですが、「辺」の異体字を判別し、入力するのは手間がかかりますから、「わたなべ」で検索した方がはるかに能率的です。しかし、能率性は危険性と表裏することも事実です。

 氏名は必須にしても、住所と生年月日の片方だけでよいというのは、窓口で請求する場合よりも甘い条件です。大雑把な情報で個人データにたどりつけたり、任意の人物を選びだしたりといったことも可能でしょう。もちろん、こうした操作がおこなえるのは自治体の窓口担当者と、システムの保守にあたる下請会社の作業員だけですが、住基ネットは不法侵入の危険が懸念されており、特別なクラッキングの知識がなくとも、通常の操作で多数の個人データが出てきてしまう現状はきわめて問題です。

 住基ネットの文字コードは前々から気になっていましたが、昨春、地方自治情報センターが住基ネット用フォントの提案書の入札を公示し、担当部署のメールアドレスが公開された機会に、メールで取材をお願いしましたが、「まだなにも決まっていないので話すことはない」という返信をいただいただけでした。秋に『図解雑学 文字コード』の話が決まってから、メールと手紙で何度も取材をお願いしましたが、お返事をいただけませんでした。住基ネットの文字コードははずすわけにはいかないので、周辺取材でえた情報をもとに書いた初稿をメールでお送りしましたが、あいかわらず梨のつぶてでした。締切の迫った4月になってから、昨年いただいたメールの返信を手がかりに接触を試みたところ、ようやく電話でお話をうかがうことができました。その話をもとに書き直した第二稿をお送りしてチェックしていただき、さらに連休明けに電話で疑問点をうかがい、最終稿をまとめました。最終稿は見ていただいていません。

 担当者のお話が曖昧だったこともありますが、取材・執筆期間を通じて、ごくごく常識的なシステムを想定していたために、適切な質問ができなかった面も否定できません。正直いって、まさか「片山虎之助&昭和10年夏」などという大甘な条件で検索できるなど、夢にも思いませんでした。住基ネットは常軌を逸しています。

 今にして思えば、杉並区のような住基ネットに批判的な自治体に取材すれば、このあたりの情報は早期に入手でき、住基ネットの問題点の半分近くは過剰な検索機能にあったことを、一般の関心が高まる前に指摘できたかもしれません。歯噛みする思いです。

Copyright 2002 Kato Koiti
This page was created on Jul30; Updated on Aug08.
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