エディトリアル   April 2008

加藤弘一 Mar 2008までのエディトリアル
4月10日

 宮崎正弘氏のメールマガジンで知った「「中国」の実態を告発する国民集会」(豊島公会堂)に行ってきた。右も左も、政治集会という集まりは初めてだったが、いろいろな意味でおもしろかった。

 雨だったが、一階は早々と満席で、二階にも人をいれていた。700人という主催者側発表はほぼ実数だろう。雨が降らなかったら、会場にはいりきらなかったかもしれない。

 まず国歌斉唱、つづいてラサ騒乱で亡くなった人たちに黙祷をささげる。正面の日の丸といい、司会の太った人といい、なんとも香ばしい。政治集会に来たんだなあと実感する。

 まず、この集会の発起人である政治評論家の加瀬秀明氏。今日はダライ・ラマ法王が日本にトランジットで立ち寄り、記者会見を開くという絶妙のタイミングだったが、加瀬氏によればまったくの偶然だという。開催を決め、会場を押さえたのは昨年11月。毒餃子事件やチベット騒乱が起こるなどと予想した人はいず、人が集まるか懸念したとのこと。すごい偶然である。

 さらに加瀬氏はオリンピックを開いた独裁国家は9年後に崩壊するというジンクスがあり、中国も1917年に崩壊するかもしれないと指摘。場内爆笑。

 このジンクス、笑いごとではない。ナチス・ドイツは1936年にベルリンでオリンピックを開いたが、9年後の1945年に崩壊。ソ連は1980年にモスクワでオリンピックを開くが、やはり9年後の1989年に崩壊。ナチスはともかく、1980年時点でソ連の崩壊を予測したのは小室直樹氏くらいだった。2017年の中国崩壊だって、ないとは言えまい。

 次いで登壇したのは中国食品の危険性を指摘しつづけてきた上海出身の陳惠運氏陳。陳氏には『中国食材調査』などの著書があるが、昨年、アメリカやヨーロッパ、南米で中国食品や薬品の事故がおこるまでは、マスコミからはトンデモ本あつかいされてきたという。中国礼賛論がはびこる状況ではそうだったろう。

 陳氏は中国毒菜の危険にもっともさらされているのは中国自身だと指摘。大地と水と大気が汚染されているので、特別な無農薬農場の作物を食べ、最高の医療を受けているはずの中国共産党常務委員クラスでも癌が多発しているという。

 中国政府はオリンピックがあるので工場を北京から移転させるとか環境に配慮しはじめたが、終わったら元にもどるので、毎年オリンピックを開いてほしいと語っていた。

 三番目は民主党代議士の西村真悟氏。ファンが多いらしく、ひときわ大きな拍手でむかえられる。

 この人の演説は迫力がある。台湾と朝鮮半島が中国に呑みこまれ、日本は太平洋の端で孤立すると警鐘を鳴らすが、聞いているだけでアドレナリン濃度が高くなる。

 台湾の馬九英政権が国共合作に踏み切ったら、アメリカが手塩にかけて育てた台湾の軍事力が日本のシーレーンに向かって牙を剥くというのだが、南京「大虐殺」をフレームアップしたのはそもそもは国民党だっただけに、ありえない話ではない。。

 朝鮮半島に対する指摘も説得力がある。李明博大統領は保守派ということになっているが、損得を第一にする企業人である以上、北朝鮮が崩壊したら多大の経済負担のかかるドイツ型の統一は選ばず、国連統治にゆだねる可能性が高い。国連統治とは実質的には中国統治であり、韓国もまた中国の影響下に置かれる。38度線は対馬海峡まで下がってくるというわけだ。

 北朝鮮はすでに人民元経済圏に組みこまれており、早晩中国に呑みこまれるだろう。問題はそうなった場合の韓国のナショナリズムだ。千年以上事大主義をつづけたきた民族だけに、あっさり中国に飲みこまれてしまうかもしれない。

ペマ氏とチベットの雪山獅子旗。

 四番目は本日の主役というべきペマ・ギャルポ氏。日の丸に一礼した後、雪山獅子旗の横でチベットの窮状を明解な言葉で訴えた。この人の日本語は完璧で風格がある。

 五番目は成田のダライ・ラマ法王会見から駆けつけた西村幸祐氏。会見には内外の記者100人以上が集まったという。

 西村氏は重要な指摘をした。ダライ・ラマ法王は中国の侵略主義を批判した後、「この問題はアジアの他の地域にも波及する」と締めくくったが、通訳の女性はこの肝腎な条をスルーしてしまったというのだ。危機感がないのか、それとも中国に遠慮したのか。ちゃんと訳したとしても、マスコミが伝えるかどうかは疑問だが。

 六番目は亡命中国人で中國民主運動海外聯席會議代表の相林氏。最初に中国人としてペマ氏をはじめとするチベットの方々の謝罪したいと述べてから、中国民主化運動の現状を語った。

 七番目は中国民族問題研究会の殿岡昭郎氏。東トルキスタン(新疆ウィグル自治区)と南モンゴル(内蒙古自治区)の代表者と夫々の国旗を紹介した後、中国勢力が政界・財界・官界・言論界の内側深く入りこんだ現状を打開するには、チベットや東トルキスタン、南モンゴルの人々と連帯して中国を背後から揺さぶるしかないという危ない内容。趣旨はわかるが、明石大佐級の人がふたたびあらわれないと無理だろう。

左が東トルキスタン旗、
右が南モンゴル旗。

 八番目は民主党都議会議員の吉田康一郎氏。民主党ということで最初、会場との間に隙間があったが、高校時代に朝日新聞に電凸した体験を話しだすと距離が一気に縮まり、同志という感じになった。これが政治集会というものか。

 さて、宮崎正弘氏である。メルマガが面白いので一度話を聞いてみたいと思っていた。

 宮崎氏は中村伸郎を皮肉っぽくした感じの飄々とした爺さんだった。辺境地帯まで取材の足を伸ばすのだから、もうすこし若い人を想像していた。中国の繁栄は偽装であり、バブル崩壊はオリンピック前からはじまっているという趣旨の話でメルマガの内容と重なっていたが、冗談のような本当の話を次々と披露して、爆笑また爆笑。期待通りだった。

 トリは保守派の論客の大原康男氏。まとめと、皇太子殿下のオリンピック開会式出席はまだ完全につぶれたわけではなく、注意が必要という趣旨だったが、話がくどい。それまでの登壇者は短い持ち時間の中で内容を凝縮して語っていただけに、よけい冗長に感じられた。半分の時間でまとめるべきだ。

 プログラムはこれで終わりだったが、最後にエプロンデモ実行委員会代表の岡本明子氏が決議文を読み上げ、拍手で了承するという儀式があった。はじめて出たのでよくわからないが、政治集会とはこういものなのかもしれない。

 左翼の集会は20年ほど前から2〜30人がせいぜいで、100人以上集めるのは至難と聞いたが、保守系は軽く数百人は集まるわけである。ところが、取材にきたのはチャンネル桜くらいのようである。左翼の集会なら数十人規模でも新聞でとりあげるが、団塊世代がトップにいる間はこうした変更がつづくのだろう。

4月18日
タルボサウルス

 幕張メッセで中日新聞社主催の「恐竜大陸」を見てきた。

 昨年の夏は関東では恐龍展が一つもなかったが、名古屋ではこの「恐竜大陸」をやっていて、それが春に千葉へ来たわけである。今年の夏は新潟にいくらしい。恐龍もどさ回りをさせられて御苦労なことである。

 中国とモンゴルで出土した化石が中心で、巨大な骨格模型が売物だが、アメリカ産と違い、もっさりしているというか、あまり格好良くない。多分、種の違いというより、復元した人のセンスによるものだろう。人体のプラスティネーション標本も中国製のは陰気で垢抜けなかった。

 展示はポリシーがはっきりせず、ただ並べましたという印象で、もったいないと思った。学術色がまったくなく、図録もなかった。主催者側は子供相手のイベントと高をくくっているのかもしれない。最近の子供は大人よりよほど詳しいのだが。


手前の小さな恐龍が羽毛恐龍インゲニア
羽毛恐龍
シノカリオプテリクス
最古の被子植物
アルカエフルクトゥス
足跡の化石

 羽毛恐龍の化石は続々発見されていて、この恐龍展でも一つのコーナーができていた。羽毛の跡がわかるのは感動ものだったが、ただ寄せあつめたというだけで工夫がないし、中型の羽毛恐龍インゲニアを大型龍の隣の目立たない場所に展示してあるのは不親切だ。鳥につながらなかったにしても、同じ場所に置くべきだったのではないか。

 ゆったり展示してあるのはいいが、会場は広すぎた。展示物に較べて面積をもてあましていて、最後のコーナーは場末の遊園地にあるようなマンガ風の恐龍と、恐龍映画のスチール写真の展示でお茶を濁していた。

 季節外れの恐龍展のせいか客がすくなく、閉鎖直前のテーマパークのような物悲しさがあった。あれでは恐竜が可哀相である。

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