MP3ファイルをパソコンにためこんでいるが、パソコン用のアクティブ・スピーカーでは音がお粗末すぎるので、ONKYOのアンプ一体型のHDDレコーダBR-NX10を買ってみた。二ヶ月使いこみ、落ち着いてきたので感想を書いておく。
BR-NX10は 205x147x337mm というコンパクトな筐体にCDプレイヤー、チューナ、HDDレコーダ、アンプが組みこんであり、スピーカーをつなぐだけで音が出る。LAN端子とUSB端子がついているので、CDやラジオ放送だけでなく、パソコンやMP3プレイヤーからMP3ファイルを取りこむこともできる。アンプはこのクラスでは珍らしくディスクリートで組んでいて、オーディオメーカーらしい音質対策を謳っている。同種の製品にDENONのCHR-F103 SPとソニーのNAS D55HDがある。DENONは音がいいと評判でネットラジオが聞けるが、HDDが40Gしかない(定価の半額程度で売られているところからすると、そろそろ新版が出る時期なのだろう)。ソニーのはBR-NX10より安いのにスピーカーがつくが、ネットの評判はさんざんである。
BR-NX10は春ぐらいから気になっていたが、新版が出そうな雲行きだったので買うのを控えていた。7月、新版が BR-NX10Aとして発売された。一層の音質対策をほどこし、ソフトを改良したということだが、HDDの容量が80Gのままだった。1TのHDDが1万円を切っているというのに、何を考えているのだろう。容量が変わらなかったし、新版のソフトはネットから更新できるというので、型落ちで値下がりしていた旧型を買うことにした(8月はじめの時点で1万円以上安かった)。
セッティングは簡単そのもの。スピーカーをつなぎ、LANケーブルをルーターにさすだけである。LANの設定も不要で、電源をいれるといきなりネットにアクセスし、最新版のソフトを勝手にダウンロードしてきて、確認後、自動で組みこんでくれた。完全に家電製品感覚である。
用語も家電製品感覚だ。CDをリッピングすることを「録音」と呼ぶのでおやおやと思ったが、パソコンや外付HDD、MP3プレイヤーからフィルをとりこむことも「録音」と呼ぶのである。異和感があるが、一般にはこの方が通じやすいのだろう。
パソコンからとりこむ際は MyDocumentフォルダの下位フォルダを自動探索してくれるので、これも手間いらずだ。
拙宅の場合、MyDocumentフォルダにはファイルを置かないようにしているので工夫が必要だった。Cドライブ以外では、たとえMyDocumentという名前のフォルダであって、自動探索が働かないのである。MP3ファイルがはいっているフォルダーを個別に指定すればとりこめるらしいが、CDごとにフォルダがわかれているので、膨大な数があるのでやっていられない。
そこでバックアップ用の外付HDDをUSB端子につないだところ、こちらは自動探索が働いて勝手にとりこんでくれた。ただ、この方法だと新たにリッピングしたファイルをとりこもうとすると、前にとりこんだファイルが二重にとりこまれてしまうので、新ファイルは、MyDocumetフォルダに一時的にコピーしてとりこむようにしている。
スピーカーはONKYOのD-105という小型スピーカーをつないだ。2年前まで5.1chのフロントに使い、以後、埃をかぶらせていたものだ。
いよいよ音を出したが、平板なつまらない音でがっかりした。しかし、一晩たってみるとかなり改善している。2週間くらい音が変わっていき、瑞々しくなり、スピーカーの外側まで音場が広がるようになった。しかし、前後感までは無理である。D-105は十分使いこんでいるので、BN-RX10の方のエージングだろう。
背後の放熱器にふれてみると、単体のアンプとは比較にならないくらい振動している。BN-RX10Aの方はHDDの振動対策をしてあるとのことだが、BN-RX10Aの方がよかったかもしれない。
BN-RX10はMP3のリッピングは256kbpsまでだが、再生は320kbpsも大丈夫である。パソコンには320kbpsで蓄積していたので、これが一番気がかりだった。なお、再生の際、256kbpsまでだと画面下に「MP3 256bps」とレートが表示されるが、320kbpsでは「MP3」という文字だけになる。
リッピングには無圧縮の「リニアPCM」というモードもある。WAVだろうと思うが、こちらは著作権への配慮かファイルの出し入れができない。MP3との差は歴然としていて、ONKYO伝統の繊細な音作りはこのモードでしか聞けない。無圧縮音源と圧縮音源の間にこれほどの差があるとは、パソコン用のアクティブスピーカーではわからなかった。こうなると、気にいったディスクは全部「リニアPCM」でとりこみ直したくなる。80Gという制限がうらめしい。
チューナがついているのも、本機を選んだ理由の一つだった。パソコンはノイズの塊のせいか、チューナボードはありそうでない。本機を使えばラジオ番組がデジタルで保存できると目論んだのだ。タイマー録音の機能もついている。
だが、チューナがお粗末すぎた。拙宅だと、一番よく聞こえるNHKとTBSでも録音したくなる音ではない。FMは全滅である。これならラジカセの方がましだ。電波の状態のいいところでないと、録音は無理ではないか。
ネットでは反応が遅いという声が多いが、やはり遅かった。しかし、BGMを鳴らしっぱなしにする使い方なら、遅くてもどうということはない。
遅さが影響するのはアーティスト名やプレイリストを編集する場合だ。遅すぎて使いものにならない。ファイルはアーティスト名で管理しているので、バッハをまとめて聞きたい場合はアーティスト名を「Bach_演奏家名」という形にしておかないと具合が悪いのである。プレイリストでできないことはないが、プレイリスとはプレイリストで使いにくい。転送前に「SuperTagEditor」などでタグを編集しておいた方がいい。
不満はいろいろあるが、値段とコンパクトさ、親切設計を考えればバランスのとれたいい製品だと思う。HDDオーディオの簡便さを知ったら引き返し不可能で、よほど気合いをいれて聞く場合でないとCDをかける気がしなくなった。
しかし、容量の問題は残る。今どき80Gとはどうしたことか。定価が上がってもいいから、500Gくらい載せてほしかった。ヤマハの CDR-HD1500 のようにHDDを自分で取りつける方式なら最高なのだが。
少年映画の傑作といわれている「秋立ちぬ」を新文芸座の成瀬特集でやっと見ることができ。評判通りの傑作だった。
1960年夏。夫を失ったばかりの茂子(乙羽信子)が一人息子の秀男(大沢健三郎)を連れて上京してくるところからはじまる。茂子は秀男を下町(築地のあたりか)で八百屋をやっている兄の常吉(藤原釜足)の家にあずけ、自分は近くの三島旅館で住込で働きはじめる。
母と離れて暮らすことになった秀男を従兄が気づかってくれるが、まだ夏休み中なので友達ができない。近所の悪ガキのグループに野球に誘われるが、野球禁止の駐車場でやっていたところを見つかってしまい、一人だけ逃げ遅れ、バッドを盗んだろうと疑われる始末。
そんな秀男に小学校四年の順子(一木双葉)が声をかける。順子は母の働いている三島旅館の娘だった。母親は関西の実業家の妾で、旅館をまかされていた。順子は小遣はたくさんあたえられているが、私生児という生まれのせいか、友達がいないらしい。順子は右も左もわからない秀男をひっぱりまわし、二人は急速に親しくなる。
秀男は順子の夏休みの宿題のためにカブト虫をつかまえてやると約束するが、東京にはいくら探してもカブトムシはいない。
ここで事件が起こる。母親が宝石卸の営業をやっている富岡(加東大介)と駆落ちしてしまったのだ。ふしだらな母親の子供と周囲から見られ、秀男はいよいよ肩身が狭くなる。一方、順子の父親は夏休みなので本妻の子供を東京に連れてきて彼女に引きあわせるが、気まずいだけだ。順子は秀男を誘って埋立地へ海を見にいくが、警察に保護されて騒動になる。
夏休みの終わりが近づいた頃、長野の父親の実家から林檎が箱で送られてくる。箱の中にはカブト虫が迷いこんでいた。やっとカブト虫を手にいれた秀男は順子にもっていくが……。
すべてがちまちまとしていて、懐かしくも切ない世界である。
通産省の役人だった夫を交通事故でなくした妻(司葉子)が、事故を起こした青年(加山雄三)に惹かれていくというよろめき風味のメロドラマだ。
十和田湖半に実家の旅館があり、兄が亡くなった後、未亡人となった義姉(森光子)が切盛りしていて、司葉子は籍を抜いた後、実家にもどるが、加山がたまたまとばされてきた支社が十和田湖の近くだったという設定である。
冗漫な上に、加山の喋り方が押しつけがましく、うるさい。当時はあんなのが好青年と考えられていたのだろう。
AFPニュースに「翼竜は飛べなかった?東大研究者が新説」という記事が出ている。
東京大学の佐藤克文氏は大型海鳥の研究から「体重40キロ以上の鳥は、風速ゼロの環境下では離陸するのに十分なだけの羽ばたきができない」という結論を導きだした。この結果を翼竜に適用すると、体重100kgあったと推定されるケツァルコアトルなど、大型翼竜は風がないと飛びたてないことになる。
先月、スタンフォード大学で開かれた国際バイオロギング・シンポジュウムでこの説を発表したところ、「「翼竜ファン」の学者たちから非難の一斉放火を浴びた」そうである。
これまでの説はどうなっているのだろうか。7月に日本未来館で開かれた「翼竜展」の図録から引く。
しかし翼開長10mのケツァルコアトルが、風のない静かな日に平らな地上から飛び立つためには、時速40kmの速さで地上を走る必要があったとされる。この4本足で歩いた巨大な翼竜にそれが可能だったのだろうか。チャタジーたちは翼の前にある前飛膜が小さい、プテラノドン型の古い復元に基づく模型を使っていたが、イギリス・ケンブリッジ大学動物学教室のマット・ウィルキンソンは、翼竜は前飛膜がもっと大きくて広く、手首から前に伸びる長い翼支骨を上下に動かすことによって、前飛膜を操作することができたと考えている。この模型を使った風洞実験では、前飛膜を下向きにすると前飛膜から翼膜にかけての断面がちょうど飛行機のつばさのように上に向かって流線型に湾曲し、浮かび上がる力(揚力)が増すことが確認された。これはケツァルコアトルが地上を走る速度が遅くても十分に離陸できたであろうことを示している。
「翼竜展」では翼竜が地上に降りた姿の想像図が展示されていたが、ボードレールの「信天翁」のようになんともぶざまな姿で、時速40kmはもちろん、4kmだって怪しい。いくら翼の形が飛行機のようになっていても、あれでは自力で飛びたつのは無理だと思う。
翼竜にかっこよく羽ばたいてもらいたいとは思うが、実際は風の力で飛びあがったのではないだろうか。
TVでヒットした「ガリレオ」シリーズの映画版で、キャストとスタッフはTV版そのまま。東野圭吾の原作は『本格ミステリベスト10 2006年版』、『このミステリーがすごい!2006』、『2005年「週刊文春」ミステリベスト10』という三大ランキングで一位を獲得しているということだが、まだ読んでいない。
「ガリレオ」シリーズは悪玉理系モンスターの仕掛けたトリックを善玉理系モンスターの湯川が見破るという趣向だが、湯川は浮き世離れした学者なので事件には興味がない。そこで湯川の興味を引きつけるために、柴咲コウ演じる女刑事が髪をふりみだして奮闘するわけである。柴咲コウのキャラクタそのままで、TV版はここが一番面白い。
今回の犯人は湯川の大学時代の友人で、天才数学者なのに家庭の事情で高校教師となった石上(堤真一)である。石上は研究だけが生き甲斐で独身をつづけているが、アパートの隣室の花岡靖子(松雪泰子)に秘かに思いをよせている。靖子はホステスをやっていたが、今は弁当屋をやりながら中学生の娘と二人でつましく暮らしている。
石上は心ならずも殺人を犯した花岡母娘を救うために大がかりなトリックを仕掛ける。従来の犯人は独りよがりな理系ヲタクだったが、石上はエゴイズムからではなく、愛する者のために犯罪を犯す点が異なっている。
「ガリレオ」シリーズは理系ヒーローを登場させてはいるが、実は理系人間=ストレンジャー観の上になりたっている。犯人はみな粘着質の理系ヲタクで、共感性の欠如したサイコパスばかりだ。今回、ようやくまともな犯人が登場したと思ったら、結末でそうではなかったことが明らかになる。石上は花岡靖子には同情するが、興味のない人間には冷酷な理系ヲタクのままなのである。
追記: 読者の方から原作は映画版とは違うという指摘を受けた。未読なのでわからないが、冷酷な理系ヲタクではないからこそ、感動を呼んだのだという。(Nov17 2008)
日本ではトリックを純粋に楽しむ本格ミステリはなかなか受けいれられず、動機面を重視する松本清張流の社会派ミステリの時代がつづいた。「ガリレオ」シリーズはトリックの面白さを一般に知らせたが、理系ヲタクのやることというエクスキューズがついている。半歩前進というところか。