エディトリアル   Febuary 2013

加藤弘一 Jan 2013までのエディトリアル
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2月 1日

 「声をかくす人」を見た。2011年から12年にかけてリンカーン大統領ものの映画が何本も作られたが、これもその一つ。レッドフォードが監督しているのでかったるい映画かと思ったが、昨年のベスト3に入れてもいいくらいの傑作だった。見てよかった!

 リンカーン暗殺はケネディ暗殺と比較されるが、決定的に違うのは南北戦争という悲惨な内戦の直後に起きたこと。暗殺グループは南部主義者だっただけに、政治裁判化した。それに北軍の将校だった主人公の若い弁護士が孤立無援で立ち向かう。こういう映画が撮れるところがアメリカの底力だ。

 併映は「The Lady アウンサンスーチー」。リュック・ベッソンがなんでアウンサンスーチの映画を作るのだろうと首をひねったが、見てもよくわからない。夫婦愛の映画としてはそこそこよく出いているが、西洋人の上から目線が引っかかる。

2月 5日

 銀河劇場で「テイキング サイド」を見た。フルトベングラー(平幹二朗)が連合軍にナチス協力疑惑を追求される話で、尋問にあたるアーノルド少佐(筧利夫)が主人公。

 アーノルドの前職は保険の査定員。まったく音楽がわからず、巨匠と崇められているフルトベングラーに最初から反感を持ち、保険の査定と同じ要領でガンガン責めまくるが、噂程度しか攻める材料ないので、ドラマは深まらない。台本が浅い上に、筧はアングラの絶叫芝居にもどってしまい、台詞が上滑り。

2月 6日

 「ヴィダル・サスーン」を見た。2010年製作のドキュメンタリーで、この年ヴィダルは81歳だったが、かっこいいのだ。1960年代のロンドンの文化をリードしたカリスマ美容師の元祖だということすら知らずに見たが、颯爽とした生き方に感動した。

 併映は「クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち」を見た。ヌードショーを見せる高級キャバレークレイジーホースのドキュメンタリーだが、日本のストリップとは似て非なる完全なアートだ。ダンサーもスタッフも超一流で、伝統を守ることに誇りをもっている。

 2時間15分のうち1時間はクレイジーホースの舞台にあてられる。この舞台が素晴らしくくりかえし見てみたいが、Blue-rayはなく、DVDでしか出ていない。豪華版と通常版があるが、グッズがはいっているかどうかの違いで、特典ディスクがつくわけではない。

 フランスで出ているクレイジーホースの実況DVD Live Au Crazy Horse が日本のアマゾンでも買える。リージョンフリーだが、PALなので普通のDVDプレイヤーではかからない。しかしパソコンなら大丈夫だ。

2月 7日

 新文芸座の若尾文子特集で「不信のとき」を見た。ブラック・コメディの傑作で、調子に乗っていた田宮二郎が最期に見せる情けない顔が絶品。原作は有吉佐和子。底意地の悪い話を書かせたら彼女の右に出る者はいない。

 併映の「砂糖菓子が壊れる時」はマリリン・モンローをモデルにした女優ものだが、完全なミスキャストだ。若尾文子はモンロー・ウォークで頑張っているが、天真爛漫なオバカ女優にはどうしても見えないのだ。この役は野添ひとみにやらせるべきだった。

2月 8日

 新文芸座の若尾文子特集で「濡れた二人」を見た。白戸家のCMで親子役で共演している若尾文子と北大路欣也が恋仲になるという設定で、今見ると面白すぎる。前半はロマンチックに進んでいくが、後半日本の漁村のみみっちい人間関係がリアルに出てきて落差がリアル。さすが増村保造。

 併映の「妻二人」は前にも見たことがある。「不信のとき」と同じ若尾文子と岡田茉莉子の対決だ が、「不信のとき」にはおよばない。というか、「不信のとき」が凄すぎる。

 若尾文子特集は混んでいたが、明日からはじまる「裏切りのサーカス」と「アルゴ」は一週間の興行だし、老人客が来ないのでガラガラになるのではないか。「裏切りのサーカス」はル・カレの「テインカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」の映画化である。最高のカップリングなので、見ないと損だ。

 映画館の回し者のようなことを書いたが、新文芸座まで閉館になってしまったら、ロードショーで見逃した映画を映画館で見ることができなくなる。Blue-rayで画質が向上したといっても、映画館で見るのとはまったく違う。音もだ。狭い部屋でいくらサラウンドをかけても、名画座にさえおよばない。

 来週で閉館になる三軒茶屋中央劇場の存続をもとめる署名サイトができている。 「スタッフ有志」が呼びかけているということだが、閉館を決めたのは「事業主」で、デジタル映写システムを導入する資金が用意できなかったことが閉館の理由だったようだ。

 「事業主」とは別に「土地建物の権利所有者」がいて、署名は所有者に提出するそうである。昔からいたオヤジさんが「事業主」だと思うが、「スタッフ有志」というのは誰だろう。もぎりの女性二人と、一年前からいる男と最近見るようになった男がいるが、オバチャン以外の3人だろうか?

 ちょっと気がかりなのは「事業主」のオヤジさんが手を引いてしまったら、番組編成ができるのかということ。多分、あのオヤジさんが選んでいたのだと思うが、レイトショー公開されたマニアックな映画からB級映画の隠れた傑作まで、いい映画がかかっていた。三茶中央は番組編成が最大の魅力なのだ。

 と書くには理由がある。今年になって急に番組がつまらなくなったのである。昨年の暮れに予告されていたラインアップがとりやめになり、シネコンでやるような番組になってしまった。だから今年は一度も行っていない。この一か月半のような番組なら存続しても行かないだろう。

2月 9日

 田村正和主演のテレビ朝日の「上意討ち」が面白かった。ヴェネツィア映画祭国際映画評論家連盟賞を受賞した小林正樹の映画のリメイクで、オリジナルの橋本忍脚本に橋本自身が加筆したとのこと。TVの時代劇としては出色ではないか。

 小林正樹のオリジナルはまだ見ていない。Blu-ray版で出ているが、映画館で見たいのだ。時々かかるが、一日しかやらないので機会がなかった。間違いなく傑作だから、今度かかったらなんとしても見よう。

 そういえば「切腹」もまだ見ていなかった。海老蔵主演で「一命」としてリメイクされた時に新文芸座にかかったが、見逃してしまった。けっこう見ているつもりだったが、見ていない名作がまだまだある。

 原作の滝口康彦の短編も面白そうだ。「拝領妻始末」で調べると絶版だが、『一命』(講談社文庫) に収録されているそうだ。「切腹」の原作もはいっているので、お買い得である。

2月11日

 「ビブリア古書堂の事件手帖」で『時計じかけのオレンジ』は本当はアレックスが改心する結末だったが、出版社の意向で最終章がカットされてしまい、キュブリックの映画も削除版にもとづいていたことを知った。初訳時は削除版だったが、その後完全版が出ているよし。

 「ビブリア古書堂」は原作の読者にはヒロインのイメージが違うと不評だそうだが、読んでいないので剛力でも抵抗がない。このシリーズの影響で梶山季之の『せどり男爵数奇譚』が売れているらしい。なんであれ本に興味を持ってくれるのは結構なことだ。

 TBSの「最新遺伝子ミステリ 人間とは何だ…!?」 を途中から見た。見るつもりはなかったが、統語機能の遺伝子スイッチ foxp2 が見つかったという条だったのでずるずる最後まで見てしまった。

 foxp2が先天的に働かない人が見つかっており、聞きとりはできるがターザンのようにしか喋れない。生成文法でいう深層構造は作れるが、表層構造に変形できないということだろうか。生成文法の遺伝的基盤が見つかったと受けとっていいのだろうか。

 チンパンジーの瞬間的記憶力には驚いた。いわゆる写真的記憶ができるのだ。人間は写真的記憶を失うことによって言語を発達させたたらしい。写真的記憶のできる人が稀にいるが、もともとその能力は持っているわけで、スイッチがはいれば甦えるのだろう。

 エチオピアのアファール低地に住むアファール人も出てきた。アファール低地は人類発祥の地の最有力候補で、異端的なアクア説でも人類揺籃の地とされている。

 アファール低地は大地が裂けつつある場所でマグマが近く、有毒ガスの濃度が高いが、アファール人は薬物を代謝する遺伝子を複数組もっており、有毒ガスをすみやかに分解できるのだそうだ。

 面白いのはエチオピア人にはアファール人のような強力な薬物代謝能力をもった人が30%近くいるが、エチオピアから離れれば離れるほど比率が下がり、アジア人は数%、日本人にいたっては0.5%しかいない。強力な薬物代謝能力を維持するには何らかのコストが必要で、有毒ガスのない環境では維持しつづけるのが負担になるのだろう。

2月12日

 ペンクラブの言論表現委員会に出た。Google和解問題では間もなくQ&Aを公開する。著作隣接権問題ではガイドライン委員会の現状について二委員から報告がある。やはり漫画関係三団体が強硬とのこと。昨年のダウンロード処罰を議員立法で通した反発から議員立法なら反対というところもある。

 とはいえ権利者が一堂に集まったのははじめてのことであり、こういう協議の場はデジタル時代に必要なので、隣接権の法制化を前提としない会合として存続させていこうという空気が生まれているよし。ということもあって、ガイドライン委員会という名称は変更になる。

 権利者が一堂に集まっているとはいっても、装幀家の団体は含まれていない。本の売行には装幀が大きく影響するが、出版社が細かいところまで関与することが多いので装幀家は単なる役務の提供という扱いが現状だ。

 この委員会は表向きは新聞系の某団体が中心になっているが、新聞社はいろいろな法律で守られているので隣接権には関心がなく、本当は某々団体と某々々機関が推進役だそうだ。某々団体はわかるとして、某々々機関が積極的というのはわけがわからない。一同首をひねる。

 版面権がこれまで認められなかったのはコピー機が売れなくなるという産業界の意向が決定的だった。産業界は今回の著作隣接権にも反対と見られてきたが、コンテンツの二次利用を促進するために出版社に包括的な権利をあたえようという動きが一部にあるそうだ。産業界がその気になったら、あっという間に通ってしまう。著作者にとっては最悪である。

 本の自炊代行を認める代わりに管理下に置き、一冊30円程度徴収しようという仕組を作ろうという動きがあるのをはじめて知った。委員会の間はそれもありかなと思ったが、終了後のフリートークで、きな臭い事実がいろいろ出てきた。次回関係者から話を聞くことになったが、実現は無理だと思う。

2月13日

 早稲田の古書店で『講座・記号論』を買った。ネットで調べたところ、書きこみのない四冊揃いでは一番安く、しかも早稲田なら実物を見てから買える。さて実物は……値段相応といったところか。必要な本だし、宅急便をうけとる手間もないので買うことにしたが、絶妙な値付である。

 買った店は学生の頃にはなかった。耳の遠い婆さんがパソコンを操作しながら店番していた。ネット販売があるので新しくはじめても商売になるのだろう。久しぶりに早稲田の古書店街を歩いたが、文献堂がなくなった以外はどこも健在で、見かけない店が四軒ほどあった。代替りしたところもあったが、半分くらいは学生時代と同じ人が店番をしていた。K書房の爺さんは90歳近いんじゃないか。

 早稲田松竹のロメール特集で「友達の恋人」と「飛行士の妻」を見た。どちらも昔見たことがあるが、今見ても面白い。「友達の恋人」の原題が「友達の友達は友達」だということを知った。だから「諺と喜劇」シリーズなのだ。

 「友達の恋人」はニュータウンを舞台にしたプラスチックな男女関係だが、「飛行士の妻」はパリの古い町並みを背景にした痴話喧嘩で、現代風の女子高生がからんでくる。無名時代のマチュー・カリエールとファブリス・ルッキーニがちょい役で顔を出す。

 ムトウ楽器がムトウ楽器らしからぬ派手な閉店セールの看板を出していた。全商品半額だったので、記念に「大鴉」というDVDを買った。ポオ原作とあるが、多分ポオとは無関係のC級ホラーだろう。

 この前ムトウで買物をしたのは向かいのビルの二階にあったクラシック・ジャズ売場が本店と統合される時だったと思う。本店二階のDVD売場が縮小されたので、DVDが格安で出た。ブルース・ウィルス主演の「チャンピオンたちの朝食」を買ったが、まだ見ていない。

 あれは10年前だったか。これではつぶれるわけだ。4月まで半額セールをつづけるということだから、またのぞいてみよう。

2月15日

 新文芸座で「裏切りのサーカス」を見た。期待にたがわぬ傑作。ロンドンの貧寒としたかび臭い雰囲気がぞくぞくする。こういう毎日を送っていたら、007のような夢を見たくなるだろう。

 併映の「アルゴ」もよかった。予告編はコメディの部分を強調していたが、硬派のサスペンス映画だった。ハリウッドの場面がコメディ的だが、ほんのわずか。ハッピーエンドの史実はわかっているのに、飛行機がイランの領空を出るまではらはらしどうしだった。

 SF映画のロケハンというふれこみでイランに入国するが、「アルゴ」という脚本は中東の場面が出てくるという理由だけで選ばれたゴミ脚本で、作中でボロクソにけなされている。「アルゴ」の本物の脚本家はどんな顔をしてこの映画を見たことだろう。

 驚いたのは作中の「アルゴ」には原作があり、それがゼラズニーの『光の王』だったこと。『光の王』は仏陀の神話をもとにしているが、インドとイランの区別もつかないヘボ脚本家があの名作を台無しにしたということか。

 主人公のモデルになった元CIAのアントニオ・メンデスの回想録が早川文庫から出ている。ハリウッドでどんな準備をしたかが詳しく書かれているそうだから、読んでみようか。原作者としてゼラズニーが登場する可能性もなくはない。

 「アルゴ」が第85回アカデミー賞の作品賞・脚色賞・編集賞の三冠に輝いた。「レ・ミゼラブル」のアン・ハサウェイの助演女優賞もよかったと思う。

2月19日

 新文芸座の小沢昭一追悼特集で「にあんちゃん」を見た。佐賀の炭鉱町で育った貧しい四人兄弟の10歳の末娘の日記が原作で、炭鉱不況のさなかの超貧乏生活をあっけらかんと描いた秀作。長兄の長門裕之以外は公募の素人から選んだそうだが、長姉は松尾嘉代だ。この時点では彼女も公募の素人だったわけだ。

 北林谷栄演ずる業つくばりの婆さんなど在日韓国人が重要な人物として登場する。小沢昭一も兄弟に親切な在日韓国人の役で、理想に燃える保健婦(吉行和子)に片思いしている。映画ではぼかしてあるが、原作では四人兄弟も在日韓国人だそうである。つまり在日ワールドの映画だったのだ。

 併映の「あこがれ」は内藤洋子と田村亮主演のアイドル映画。一郎と信子孤児院でいっしょに育つが、一郎が裕福な瀬戸物屋の養子におさまったのに対し、信子は飲んだくれの父親(小沢昭一)について飯場を渡り歩いている。同じ町の飯場に流れてきて、二人は男女として惹かれあうようになるが、一郎の養父は名家から嫁とりする夢を描いていて悲恋の展開に。

 どうということのない映画だが、内藤洋子の潑刺とした美しさは特筆に値する。同年代の酒井和歌子は昭和のアイドルだったが、内藤洋子は21世紀にタイムスリップしてきてもそのままアイドルとして通用するだろう。

2月20日

 紀伊國屋書店南店で安部ねりさんとトークイベントをやらせてもらった。会場は小さかったが、40人か50人集まる盛況で一時間立ちつづけの人も多かった。司会の近藤一也さんが周到に準備してくださり、未公開の写真を含むスライドを映してくれた。あの小さな会場ではもったいない。

 箱根の山荘以来御無沙汰していた鳥羽耕史さん(『運動体・安部公房』の著者)も来てくださった。鳥羽さんによると中学生の二人組が『榎本武揚』の話にしきりにうなづいていたという。『榎本武揚』を読みこなすとは中学生恐るべし。

 新潮社の担当者から読売新聞に載った橋爪大三郎氏の『題未定』の書評のコピーをもらった。とてもいい書評で感謝。

 『題未定』はページ数が増えてしまったし、売れるのか心配だったが、再版がかかったという。文芸書で発売一ヶ月で再版がかかるなんて最近では珍しいことである。もう一回増刷があれば、次の企画が可能になるかもしれない。

 来年は安部公房生誕90周年なので早くもイベントの話が持ちあがっている。アカデミズムの世界でも、早ければ年内に若手研究者の論文を集めた論集が出るそうだ。安部公房再評価の時がいよいよ来たのである。

 トークは会場が小さかったこともあって、出さないことになっていた話が出たり、取材の機微にかかわる話が出てきたり、あわてる場面がすくなくなかった。安部ねりさんの対談相手というよりブレーキ役である。来た人はラッキーだと思う。

2月21日

 新文芸座の小沢昭一追悼特集で「3匹の狸」を見た。伴淳三郎、宝田明、小沢昭一、星由里子演ずる四人の詐欺師が意気投合し、大きな仕事をしかけるという犯罪映画。詐欺師の話はやはりおもしろい。

 宝田明の結婚詐欺の相手として悠木千帆時代の樹木希林と市原悦子が顔を出す。被害者があまりも他愛なく騙されるのが物足りないが、90分ではしようがないか。小沢の妻が千石規子なのは笑わせる。星由里子は美しい。

 併映は「ネオン太平記」。東大前の古本屋に生まれるが、生真面目な父親と兄に反発して関西に出奔、偽名でアルサロのやり手支配人にのしあがった磯田敏夫をモデルにした映画。ベテラン助監督の初監督作品にありがちな有名俳優の御祝儀出演が多いが、渥美清のゲイバーのホステスは圧倒的。

 90分にあれもこれも詰めこみすぎだし、小沢も久々の主演で力がはいりすぎている印象がある。エネルギッシュではあるが、焦点がぼやけているのも事実。悪くはないが、見終わってどっと疲れた。

2月25日

 「ゼロ・ダーク・サーティ」を見た。アカデミー賞は音響編集賞にとどまったが、「アルゴ」に劣らず面白い。CIAの女性アナリストがビンラディンを追いつめる話だが、一口でいうと現代版「忠臣蔵」である。苦労の末にアジトを突きとめるが、オバマがなかなか攻撃許可を出さず、我慢に我慢を重ねた末に討ち入りとなる。特殊部隊がビンラディン邸に突入したものの、ターゲットがなかなか見つからない。一方パキスタン空軍のF16がスクランブル発信し、退去のタイムリミットが迫ってくる。炭小屋ならぬ某所にいたわけだが、まだ確証をもてない。遺体を基地に持ち帰り、ヒロインが首実検してようやくビンラディンと確認される。

 ヒロインのジェシカ・チャスティンはジュリア・ロバーツを小柄でひ弱にした感じで、拷問の場にはおよそミスマッチである。多分本物もこんな女性なんだろう。尋問する側も大変なストレスで神経をすり減らすことがよくわかった。

 エリア51が出てくるが、UFOではなくステルス仕様のブラックホークが登場した。情報漏れを防ぐためにパキスタンにも秘密にした作戦だったので、ステルス仕様のヘリコプターが必要なのだ。そういえばエリア51をルポルタージュした本が出ていた。

 原作がないかと調べたが、『ビン・ラディン暗殺! 極秘特殊部隊シール・チーム・シックス あるエリート・スナイパーの告白』は突入した特殊部隊の話で、今回の映画とは無関係のようだ(これはこれで面白いらしいが)。「アルゴ」の主人公のモデルになった元CIA局員が回想録を書いたのは30年後のことだった。機密を要する仕事なので本当の話が出てくるまでにはそれくらいの時間が必要なのだ。映画で描かれたのは実際の探索作業のほんの一部だろう。

 立花隆の「私の読書日記」(週刊文春 3月14日号)によると映画中盤の山場であるアラブ人医師の自爆テロはウォリック『三重スパイ CIAを震撼させたアルカイダの「モグラ」』(太田出版)に、クライマックスの討入はカウソーン『世界の特殊部隊作戦史 1970-2011』(原書房)に描かれているそうである。(Mar09 2013)

 韓国で朴槿恵大統領が就任した。いわゆる従軍慰安婦問題にはこれまでは距離をおいていたということだが、日韓基本条約を結んだ朴正煕の娘だけに親日を疑われ、逆に日本に強硬な姿勢を見せざるをえなくなるのではないかと懸念されている。 池田信夫氏のblogにあるように、従軍慰安婦問題では国際的には日本は完全に悪者であり、従軍慰安婦問題に関する反論はナチスの収容所にガス室がなかったという類のトンデモ説と見なされている。

 国内ではとっくにウソと決着のついている情報が国外ではいまだに事実として語られているのが問題だ。慰安婦問題を正確に伝える英語の本がないのが決定的にである。

 ネットの議論やWikipediaでも最後は活字の典拠がないと相手にされない。権威のある本が英語に翻訳され、しかるべき出版社から紙の本として出版されなければ従軍慰安婦のウソがどんどん世界に浸透して、取り返しがつかなくなる。一日も早く英語の紙の本を出すべきだ。

2月28日

 キネカ大森のジェニファー・ローレンス特集を見た。ローレンスは今年のアカデミー賞主演女優賞をとったので演技派だろうと思っていたが、ソニンに似た肉体派アイドルだった。この娘がたった一年でオスカー女優に化けるとは。

 「ボディ・ハント」はサイコスリラーだが、よくできている。二重底だろうとは思ったが、この展開は読めなかった。恐怖感もたっぷり。ローレンスの素直な芝居は好感が持てる。傑作とまではいかないが、見て損はない。

 併映の「ハンガー・ゲーム」はつまらなかった。設定が御都合主義で子供たちのバトルが中途半端。テンポが悪く、安っぽさが目につく。なんでこんな駄作の続編を作るのか?

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