「文学の戦後史」展

加藤弘一
創刊号からの「群像」の全表紙
丸善日本橋本店ギャラリーで「文学の戦後史展」が 9月 8日から17日まで開催される(丸善京都支店では10月 2日から 8日)。「群像」ゆかりの作家の写真のほか、「群像」に掲載された作品の肉筆原稿が一堂に展覧され、じつに壮観である。


村上春樹『風の歌を聴け』の原稿

 最近では原稿は大半がワープロになり、推敲の過程が見えなくなったが、肉筆原稿には訂正や削除、加筆の痕が生々しく刻まれており、作家が文章と格闘するプロセスが如実にわかる。

 先日、三島由紀夫の原稿と創作ノートが三億円で山中湖村に買収されたという報道があったが、現在、肉筆原稿は「お宝」化しつつあり、遺族から返却してほしいという申し入れが増えているという。これだけの質・量の原稿をそろえるのは、今後不可能だろう。

 東京会場だけだが、会期中、午後 5時から作家による自作(「群像」50周年記念号に掲載されたもの)の朗読と質疑応答おこなわれる。

8日村上龍
9日中沢けい
11日黒井千次
12日津島佑子
13日小田実
14日柳美里
16日高橋源一郎
朗読後、サインする村上龍氏

 村上龍氏は文芸誌を読む若者をどう思うかという質問に、「新人賞をとった頃は文芸誌なんて読むやつは駄目だと考えていたし、そうしゃべったこともある。今の日本は経済力はついたが、幸せだと感じている人はいない。だからオウム事件みたいなこともおきる。若い人が現状に疑いをもち「群像」のような雑誌を読むのは自然なことだと思う」と述べた。

 なお、50年間の「群像」総目次をエキスパンド・ブックのかたちでおさめた非売品のCD-ROMが抽選で百名にあたる。「群像」は作品もさることながら、創刊号以来、50年間、毎月つづいている「創作合評」という三人の作家・批評家による鼎談形式の作品評バトルがあり、作品研究の上できわめて重要なだけでなく、通して読むことで文壇の推移や作家の受けいれられ方が手にとるようにわかる。めぼしい作品はほとんどすべて取り上げられているのだが、総目次がなかったので、図書館で調べようとすると大仕事だった。「創作合評」が調べやすくなっただけでも、この CD-ROMはありがたいのだが、非売品なので、一般の人はこの抽選に応募するしか入手の方法がないのは残念だ。

 なお、講談社のサイトにも関連のページがある。

 また、9月10日、「『群像』創刊50周年を感謝する会」が帝国ホテルでひらかれ、ゆかりの作家・批評家があつまり、50周年を祝った。

乾杯の音頭をとる木下順二氏

 「群像」の記念号では51人の批評家に戦後文学のベスト3を問うアンケートを実施したが、以下はその上位 5位である。単純に集計しても意味がないという考え方もあるだろうが、それをいうならベスト3というアンケートそのものが意味がないのだから、これも一興だろう。


著者ベスト


著者 得票
1 三島由紀夫 13
2 大岡昇平 11
3 大江健三郎 8
4 埴谷雄高 6
中上健次

作品ベスト


作品 得票
1 死霊 6
2 神聖喜劇 5
3 仮面の告白 4
4 瘋癲老人日記 3
野火
武蔵野夫人
夢の中での日常
抱擁家族
豊饒の海
枯木灘

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