文庫で読む安部公房

加藤弘一

講談社文芸文庫

『終わりし道の標べに〈真善美社版〉』

 1948年に真善美社から刊行された安部公房の処女作、『終わりし道の標べに』は、1965年に全面改稿されて冬樹社から再刊された。本書は改稿前の真善美社初版を復元したもの。満州を舞台にしているが、ハイデッガーの影響のあらわな観念小説で、生硬だがういういしい青年時代の安部のおもかげがうかがえる。安部公房はここからはじまった。

 「著者に代わって読者へ」 真能ねり(解説 リービ英雄  作家案内 谷真介)

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『砂漠の思想』

 『猛獣の心に計算機の手を』、『文学的映画論』、『裁かれる記録』、『東欧を行く』という4冊の初期エッセイ集を1965年に安部公房自身が再編集したもので、親本は講談社から刊行されている。文芸文庫から再刊するにあたり、一部作品が省かれ、順序がいれかえられているが、本文は親本を踏襲している。(解説 沼野充悳  作家案内 谷真介)

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新潮文庫

『終わりし道の標べに』

 徴兵忌避をして満洲をさまよいあるく青年をえがいた安部の処女作の改稿版。1965年冬樹社版に基づく。(解説 磯田光一)

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『壁』

 芥川賞を受賞した「壁──S・カルマ氏の犯罪」と「バベルの塔の狸」、「赤い繭」をおさめる。安部公房の出世作。

 「序」 石川淳(解説 佐々木基一)

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『水中都市・デンドロカカリヤ』

 「デンドロカカリヤ」、「手」、「飢えた皮膚」、「詩人の生涯」、「空中楼閣」、「闖入者」、「ノアの方舟」、「プルートーのわな」、「水中都市」、「鉄砲屋」、「イソップの裁判」をおさめる初期短編集。SF的な趣向と社会主義リアリズムの影響が顕著。(解説 ドナルド・キーン)

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『R62号の発明・鉛の卵』

 「R62号の発明」、「パニック」、「犬」、「変形の記録」、「死んだ娘がうたった……」、「盲腸」、「棒」、「人肉食用反対陳情団と三人の紳士たち」、「鍵」、「耳の値段」、「鏡と呼子」、「鉛の卵」をおさめる初期短編集。共産党員として活動していた頃の作品が多く、安部公房にしてはストレートな社会批判が見られる。「棒」は後に戯曲化され「棒になった男」に。(解説 渡辺広士)

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『飢餓同盟』

 地方都市を舞台に、よそ者たちの叛乱の夢の行方を描いた長編。日本的な共同体の不気味さが直接的に描かれており、初期では最重要の作品。(解説 佐々木基一)

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『けものたちは故郷をめざす』

 敗戦後の無政府状態となった満洲を脱出し、日本に帰ろうとする少年の冒険を描いた長編。ストレートなリアリズムで書かれているが、登場する大陸奥地の風景は超現実的である。(解説 磯田光一)

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『夢の逃亡』

(解説 渡辺広士)

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『幽霊はここにいる・どれい狩り』

 安部公房は演劇でも大きな仕事を残したが、代表的な戯曲である「制服」、「どれい狩り」、「幽霊はここにいる」をおさめる。

 「制服」は処女戯曲で、戦争末期の朝鮮を舞台にした推理劇。井上ひさしの『頭痛肩こり樋口一葉』に大きな影響をあたえた。「どれい狩り」は後に改作され、「ウェー」となる。「幽霊はここにいる」はたびたび上演されているミュージカル仕立ての傑作。(解説 清水邦夫)

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『第四間氷期』

 地球温暖化で世界は水没し、人類は生きのびるために水棲人間化するという正真正銘のSF長編。これが「世界」に連載されたとは。(解説 磯田光一)

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『無関係な死・時の崖』

 中期短編集。「夢の兵士」、「誘惑者」、「家」、「使者」、「透視図法」、「賭」、「なわ」、「無関係な死」、「人魚伝」、「時の崖」をおさめる。超現実な奇想爆発で、一番脂がのっているかもしれない。(解説 清水徹)

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『人間そっくり』

 「SFマガジン」創刊まもない頃、SFに理解を示した唯一の文学者、安部に、初代編集長の福島正実がたのみこんで書いてもらった中編。ラジオの脚本家の自宅に火星人と称するあぶない男が押しかけてくる話で、虚虚実実の観念ゲームが繰りひろげられる。(解説 福島正実)

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『砂の女』

 砂丘の村にとらえられた男が何度も脱出をこころみたすえに、砂に埋れた生活に不思議な解放感をおぼえていく。讀売文学賞受賞。20ヶ国以上で翻訳された最高傑作。岸田今日子主演の映画も名高い。(解説 ドナルド・キーン)

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『他人の顔』

 事故で顔にケロイドのできた男が仮面をつくって妻を誘惑しようとする。文章の密度の高さは安部の作品随一で、息づまる観念の世界が展開される。(解説 大江健三郎)

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『友達・棒になった男』

 ブラックユーモアの傑作「友達」、超現実的な手法で日常の中に潜む不条理を切りとった「棒になった男」、後に小説化された戊辰戦争異聞「榎本武揚」をおさめる中期戯曲集。三篇とも傑作中の傑作。(解説 中野孝次)

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『カーブの向う・ユープケッチャ』

 中期短編集。「ごろつき」、「手段」、「探偵と彼」、「月に飛んだノミの話」、「完全映画」、「チチンデラ ヤパナ」、「カーブの向う」、「子供部屋」、「ユープケッチャ」をおさめる。

 「カーブの向う」は『』に、「ユープケッチャ」は『方舟さくら丸』に発展する。(解説 菅野昭正)

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『燃えつきた地図』

 失踪者をさがしていくうちに、自分自身も失踪者になっていく探偵をえがいた傑作。海外ではニューヨークタイムスの外国文学Best5に選ばれるなど、『砂の女』とならんで評価が高い。勝新太郎主演で映画化されている。(解説 ドナルド・キーン)

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『箱男』

 安部は写真にも関心をもち、無機質の都市風景を多く撮ったが、その写真への傾倒からうまれたといっていい長編。段ボールの箱をかぶって生活するホームレスを通して、新たな都市神話を構築している。(解説 平岡篤頼)

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『密会』

 病院の迷宮にとじこめられた夫婦を描き、安部公房の作品中、もっともエロチックな長編。(解説 平岡篤頼)

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『方舟さくら丸』

 地下採石場の洞くつに現代の方舟というべき核シェルターをつくった男を軸に終末論的情況を描いた長編。後期作品のなかではもっとも読みごたえがある。(解説 J・W・カーペンター)

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『死に急ぐ鯨たち』

 70年代に発表されたエッセイとインタビューをおさめる。終末論的情況に対する危機感があらわだ。(解説 養老猛司)

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『笑う月』

 夢のスケッチ集で、小説というよりはパズルである。

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『緑色のストッキング・未必の故意』

 「未必の故意」、「愛の眼鏡は色ガラス」、「緑色のストッキング」、「ウエー」の4篇をおさめる後期戯曲集。晩年の安部公房は安部スタジオを結成し、演劇に専念するが、本書収録作品は安部スタジオのために書かれたもの。

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『カンガルー・ノート』

 脚にかいわれ大根がはえた男の地獄下りをえがく最後の長編。(解説 ドナルド・キーン)

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中公文庫

『榎本武揚』

 圧倒的に優勢な幕府海軍をまかされながら、一戦もせずに北海道にのがれ、新政府に投降し、後に政府高官となった榎本武揚は転向者、変節漢とののしられ、歴史上の評価はきわめて低い。その榎本の真意をさぐろうと、肉親を裏切った男が歴史の裏面を探索する長編小説。(解説 ドナルド・キーン) Amazon

『内なる辺境』

 1968年に中央公論に発表された「ミリタリィ・ルック」、「異端のパスポート」、「内なる辺境」という三篇のエッセイをおさめる。(解説 ドナルド・キーン)

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『反劇的人間』

 ドナルド・キーンとの長編対談。

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Copyright 1996 Kato Koiti
This page was created on nov11 1995; Last updated on Sep22 2003.
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