うっかりしていたが、『砂の女』には封切時の147分版とカンヌ映画祭出品時に短縮した122分版の二つがあった。カンヌ以降、勅使河原監督は122分版を正式版としたので、147分版は上映されなかったという。
このDVDが「特別版」と銘打たれているのは幻の147分版を併録しているからである(画質は122分版と変わりない)。予告編はフィルムの傷が目立ったが、本篇はニュー・マスターということで良質である。ただし、夜の砂丘を逃げるシーンなどはブロックノイズが激しい。
久しぶりに濃厚な世界を堪能した。若い頃の岸田今日子(市川実和子に似ているような……)の隠花植物的な魅力は今でも圧倒的だ。脚本も安部公房自身が担当したが、原作の文章が脳裏にフラッシュバックするほど忠実でいながら、まぎれもなく映画になっている。安部公房の小説はもともと映像的だったのだ。
安部公房の傑作をDVD化してくれたのはありがたいが、画面を4:3のTVサイズにトリミングしたのはいかがなものか。オリジナル・サイズで見たければ、『勅使河原宏の世界』を買えということか。