20年前にコッポラとスピルバーグの肝いりで製作され、カンヌで最優秀芸術貢献賞を受賞した作品である。全世界で公開されたにもかかわらず日本では遺族の反対で上映もビデオ化もDVD化もされていない。
どんなすごい映画なのだろうとわくわくしながらアメリカのアマゾンからとりよせてみたが、スキャンダラスなところはまったくなく、コンパクトにまとまった三島紹介映画だった。自決の日の出来事を時系列で追いながら、過去の回想と『金閣寺』、『鏡子の家』、『奔馬』を劇中劇として挿入する作りで、映画というより教材という印象である。アメリカでは大学の教科書用に有名作家の伝記と主要作品の抜粋を一冊にしたPortable Readerという本がたくさんでているが、ちょうどそんな感じだ。
三島由紀夫に扮するのは脂が乗りきっていた頃の緒形拳で、長官室に立てこもる楯の会幹部の一人を無名時代の徳井優が演じていた(徳井優の名前はなかったから、当時は別の芸名だったのかもしれない)。
自決パートはドキュメンタリー調であるが、あまりにも淡々としていて拍子抜けした。台詞が台詞臭くなく妙に日常的である。映画化にあたり台詞はすべて典拠がなければならないという条件が遺族からついたために片言隻句にいたるまで検事調書や関係者のインタビューにもとづいているというから、そのためかもしれない。現実はこんなものか。
作品抜粋パートは沢田研二をはじめとして1985年当時のスターが総出演している。世界公開とかコッポラという名前がなければ、これだけの顔ぶれはそろわなかっただろう。
三本の中では沢田研二主演の『鏡子の家』が面白かった。李礼仙が清美をやっていて1970年代アングラの匂いが濃厚である。
特典の「Inside Mishima」というメイキングを見ると、撮影は東宝のスタジオでほとんど日本人スタッフの手でおこなわれていたことがわかる。不自然なところがないのは当然だ。
画質・音質とも当時の映画としてはいい方だと思う。