『モビー・ディック』

加藤弘一 *[01* 原 題<] Moby Dick
*[02* 製作年<] 1998
*[03* 監 督<] ロッダム,フランク
*[03* 原 作<] メルヴィル
*[04* 出 演<] スチュアート,パトリック
*[04*    <] トーマス,ヘンリー
*[04*    <] ペック,グレゴリー
*[04*    <] ワレンティ,ピリピ
*[04*    <] バーン,ヒュー・キース
*[05* 製 作<] ジェネオン
*[05* 地 域<] R2、NTSC
*[06  枚 数<] 片面2層×1
*[06  時 間<] 184分
*[06* 音 声<] 英語
*[06* 字 幕<] 日本語
*[06* 画 面<] 4;3
*[07  特 典<] 無し
*[08* 作 品<]☆☆☆
*[08* 特 典<]
*[08* 画 質<]☆☆☆
*[08* 音 質<]☆☆☆

 コッポラ総指揮のテレビ・ムービーで、前後編あわせて3時間ある。ジャケットに「完全版」とあるのは2時間に短縮したVHS版が別にあるため。

 フェダラーとそのクルーが登場するし、ピップが漂流して頭がおかしくなる挿話や樽の油漏れの挿話がはいっているが、妙な脚色がしてあるので、ヒューズ=ブラッドベリ版よりも原作に忠実というわけではない。エイハブをリア王になぞらえるヒューズ=ブラッドベリ版の趣向は、この作品でも踏襲されている。気がふれたピップが四六時中、エイハブにつきまとって、予言めいた言葉を吐きつづけるのは、リア王と道化の関係を重ねあわせようとしたのだろう。

 フェダラーは原作では拝火教徒パールシーと呼ばれており、インド人かマレーシア人のはずだが、この作品では弁髪の中国人になっている。

 原作では、南洋育ちのクィークェグは冷たい船倉で油漏れした樽を探す作業をしたために病気になって危篤におちいり、棺桶を作るという展開だったが、この作品ではエイハブは樽の修繕を拒否したので、クイークェグは船倉にこもらず、病気にもならない。結局、棺桶作りは、ヒューズ=ブラッドベリ版同様、野蛮人の気まぐれのためということにしてある。

 ヒューズ=ブラッドベリ版ではかっこよく描かれたスターバックは、こちらでは権力志向の強い、腹黒い男に描かれている。モビー・ディックとの対決では、自分から船に残ると言いだし、船長室でふんぞりかえっている。原作では冷静な反面、エイハブに心酔してもいる、弱い男だったのだが。

 南極で立ち往生しかけるというオリジナルの挿話が出てくるが、ヒューズ=ブラッドベリ版の赤道の無風地帯で立ち往生する挿話(これも原作にはない)を裏返したのだろう。このリメイクはヒューズ=ブラッドベリ版を意識しすぎているように思う。南極なんていう無茶な創作をするより、抹香鯨の大群の真ん中に捕鯨ボートがはいりこんでしまう挿話とか、鯨脳油を採取中、タシュテゴが鯨の体内に落ちてしまう挿話を持ってきた方がよかったのではないか。

 全体にTVムービー的なゆるい作りだったが、最後の30分はよくできている。パトリック・スチュワートのエイハブがようやく本領を発揮し、独白など、堂にいっている。白鯨のSFXはヒューズ=ブラッドベリ版よりも格段に進歩している。

 グレゴリー・ペックがナンタケットの牧師役でカメオ出演している。撮影時、82歳。最後の映画出演だった。

 画質、音質は並。TVムービーなので、特典はなし。

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