日本語は縦書きでなければ読んだ気がしないという人はすくなくない。それには一理ある。漢字とカナは縦にならべた時、一番読みやすいように発達した文字だからだ。それに対して、アルファベットは横書きを前提につくられている。
下の文字をご覧いただきたい。
「KANJI」というアルファベットは縦線 6本、横線 2本、斜線 5本から構成されているが、「漢字」という漢字は縦線 3本、横線 8本、斜線 6本である。アルファベットは縦線本位の文字であるのに対し、漢字は横線本位の文字なのだ。
縦線 | 横線 | 斜線 | |
---|---|---|---|
KANJI | 6 | 2 | 5 |
漢字 | 3 | 8 | 6 |
縦線は視線を横に動かすとひっかかりやすいから、アルファベットは横書きが判読しやすい。漢字は横線中心に出来ているから、視線を縦に動かした方が読みやすい。
なお、明朝体やゴチック体の活字やコンピュータのフォントの場合、文字を構成する縦線・横線が垂直・水平にきちんとそろっているので、原稿用紙のような格子枠がかぶさると著しく視認性をそこねる。同人誌を長くやっている人の中には、ワープロで書いているのに、わざわざ市販の原稿用紙にプリントアウトしてくる困った人がいることは、エディトリアルで紹介した通りである。原稿用紙に印刷すると、位置あわせに手間がかかるので、コピーを送ってくる人がいるが、こうなると最悪である。大変な手間をかけてわざわざ読みにくくしているのがわからないのだろうか。
漢字・カナまじり文で表記された日本語は縦書きが向いているのである。しかし、コンピュータは技術的な問題から、これまで縦書き表示が難しかった。最近、縦書きのできるワープロやエディタが発売され、QXのように物書きの実用に耐えるものまであらわれたのはけっこうなことである。
WWWの世界にも、縦書き表示のできるソフトが、WWWブラウザのプラグイン(付加ソフト)という形で出てきている。Adobe Systemsの「Acrobat Reader」と、Voyager Japanの「Net ExpandBook」である。いずれもデータを表示するためのプラグインは無料でダウンロードすることができるが、データを作成するためには専用の製品を買わなければならない。インターネットの世界でおなじみの海老で鯛釣り作戦である。
このうち、Acrobatはテキストの縦書き表示には向かない。右図をご覧になればわかるように、Acrobatは凝ったレイアウトの印刷物をネット上で配布するためのソフトで、単なるテキストの表示には過剰品質なのだ。データ量も厖大で、通常の電話回線では使い物にならない。
これに対して、ExpandBookは本をコンピュータ上で再現することを目指してつくられただけあって、テキストの縦書き表示にはぴったりで、作品を ExpandBook形式でネット上で販売している例もある。しかし、Acrobatほどではないにしても、動作は重い。プラグインのアーカイブファイルも 1Mbytes近くあり、通常の電話回線ではダウンロードするのも大変である。
昨年11月のほら貝創刊二周年アンケートの結果をみても、多くの人が同様の不満を持っていることがわかる。ページをめくる音とか、そういう余計なものはいらないから、とにかく軽快でシンプルなソフトがほしいのだ。
そうした手詰まり状況の中、QXエディタのaraken氏がQTViewという縦書き表示プラグインを公開した。
QTViewの特徴は小さく、軽いことである。アーカイブファイルはなんと47Kbytesしかない。動作はきわめて速く、通常のWWWページを閲覧しているのと変わらない。
第二にルビや傍点がふれるが、特殊なデータ形式を必要とせず、単なるテキストファイルでよいことである。転送するデータ量がすくなくてすむとか(普通の電話回線でも実用になる)、専用のデータ作成ソフトを購入しなくても縦書き表示用の文書が作れるという利点もあるが、それ以上に大きいのは、将来にわたって、いかなるシステムに文書をもっていこうと、可読性が保証されていることである。
ワープロやDTPソフトにはルビや傍点のふれるものがあるが、いずれも独自のデータ形式を使っているために、他のソフトに文書をもっていくとルビや傍点がとれてしまう欠点があった。同一のソフトであっても、バージョンが異なると、ルビや傍点がおかしくなる例があるようである。
QTViewで「漢字」に「かんじ」とルビをふる場合、
のようにタグではさんで指定する。傍点の場合は、
でよい。
通常のテキストファイルであるから、データが読めなくなる心配はない。「{ルビ }{/ルビ}」というタグを「るび」という読みで単語登録しておけば、一般のエディタやワープロで簡単にルビ入りの文書が作成できる。このタグは QXエディタ version5のものと同じで、ルビ入力のための支援マクロも公開されている。
もっとも、発展途上のソフトだけに課題も多い。まず、Windows版しかないこと。画像が貼りこめないので、外字が使えないのも苦しい。リンクも張れない。文字装飾も現状では寂しい。禁則処理にも問題がある。HTMLとは異なるタグを使うことに疑問をもつ向きもあるだろう(ルビは w3c.orgでも検討されていて、HTML5ではいるらしい)。
そうした不満はあるが、ひじょうに筋のいいソフトであり、発展性が高いことは誰しも認めるとろこだと思う。ほら貝では QTViewを応援していくつもりである。
さて、プラグインの入手先であるが、arakens氏の「縦書きビューアQTView」のページから、plugin版の方をダウンロードする。組みこみ方は同ページに説明してあるが、Setupプログラムがついてくるので、簡単にインストールできると思う(アンケートでは難しいと書いてこられた方はほとんどいなかった)。
縦書き表示の実験として、とりあえず、三つのページを用意した。
QTViewを利用して、電子テキストを公開するサイトは増えつつあり、以下に主なものを紹介する。
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