「文字コード問題早わかり」続・漢字編に、JIS X 0208の83年改正における字形変更・字形入れ換えは、従来いわれていたような常用漢字表に則った措置どころか、常用漢字表前書にある「各分野における慎重な検討にまつこととした」という文言に反するものであると書いたところ、JCS委員会幹事の豊島正之氏から抗議をいただいたことは、「「文字コード問題早わかり 3」第二章の公開再開にあたって」に書いたとおりです。
この問題について、文化庁文化部国語課長の大島有史氏に見解をうかがいました。
──1981年に漢字制限色の強い当用漢字表が廃止され、漢字使用の「目安」を示した常用漢字表が内閣告示として公布されました。常用漢字表は戦後の漢字政策の上で大きな区切りをなすと評価されています。
特に重要なのは、当用漢字表では政令の範囲外として放置されていた当用漢字表表外文字について、当用漢字表の字形にもとづいて統一すべきだという意見が一部にあったのをしりぞけ、「各分野における慎重な検討にまつことにした」とした点だと考えます。
そう書いたところ、国語審議会の議事録や、途中段階で出た文書には、字形統一の推進が言われている。常用漢字表の文言は、そうした経過に照らして解釈すべきであるという抗議を受けたのですが、文化庁としてはどうお考えでしょうか?
──すると、常用漢字表の前段階にあたる「新漢字表試案」(1977年1月21日公開)にあるという「新漢字表は目安であるから、表に掲げない字でも、字体を考える必要がある」を根拠に、常用漢字表は「「字体の統一」推進の方針」を打ちだしているという主張はなりたたないわけですね?
──今年2月の「国語施策懇談会」(文化庁主催)の予稿集で、JCS委員会の豊島正之幹事は、「第2次規格が採用した新字体の類推適用は、当時の国語審議会が当用漢字字体表の表外字への類推適用を企図していた事に基づくもので、第1次規格委員会の議事もその様に進行している」と述べられておられ、その根拠として、1978年施行の JIS C 6226(現在の JIS X 0208)の第一次規格審議に文化庁から参加した委員の1977年1月28日の発言を JCS委員会の議事録から引用されています。1983年の第二次規格における字形変更と字形入れ換えは、文化庁側の要請によるというわけですが、そうした事実はあったのでしょうか?
──規格の途中変更は、国民生活に多大の迷惑をおよぼしますから、もし、文化庁が本当に表外字の部分字形統一を要請していたのだとしたら、第一次規格の段階で字形を統一していたはずですね。
このことは、「国語施策懇談会」の前に豊島先生によくご説明申し上げたはずです。国語審議会総会で「懇談会」の報告をおこなった際、豊島先生の原稿の当該部分については、誤解にもとづくものであることを指摘済みです。
──よくわかりました。ただ、文字コードに関心をもつ人間の間では、豊島幹事のような理解が一般的で、ユーザーに多大の迷惑をかけた 83年改正の字形変更と字形入れ換えは、81年に告示された常用漢字表にもとづくものだったという「常識」がまかり通っています。ぼく自身、昨年、自分で調べはじめるまでは、そう思いこんでいました。
──そういう間違った認識を、事実であるかのように書いていた人が当時いたということもありますが、83年改正と同時に施行された JIS C 6234(現在は JIS X 9052)というドットプリンタ用のフォントの規格に、「常用漢字表が目安とされるところからも、情報交換用の文字集合である JIS C6226と関連をもつ本規格として、統一的な字形を用意することが望ましい。むしろ、同一の部分字体に対して、異なる字形……が混在することこそ不自然である」とあります。
この規格も、JIS X 0208の第二次規格と同じく、国語学者の野村雅昭氏が中心的な役割をはたしたといわれています。おそらく、この部分を書いたのも野村氏でしょう。
──「JCS委員会独自の判断」ですか。それは決定的ですね。今日はお忙しいところ、どうもありがとうございました。