エディトリアル   January 2005

加藤弘一 Dec 2004までのエディトリアル
Feb 2005からのエディトリアル
Jan03

 新年おめでとうございます。

 まずは新年の抱負から。

 昨年はエディトリアルの毎日更新をやめた後遺症で、サイトを維持していくモチベーションが低下し、公約していた「読書ファイル」と「映画ファイル」の再開がならなかった。

 更新しなかった1年半分はなかったことにして、今年からリセットし、新しく書きつごうかとも考えたが、「読書ファイル」でとりあげた、ある本の著者の方から、暮れにメールをいただき、完全にリセットもまずいかなと思うようになった。時間はかかるが、来月から、ぼちぼち再開していく予定である。

 「DVDファイル」の方は、昨年4月にDVDレコーダーを買って以来、数枚しか見ていないので、来月から新しくはじめることになる。未見のDVDを数えたら、74枚あった。選んで買っているつもりだが、見ないで終わりそうなものもある。

Jan13

「アンナとロッテ」

 オランダでベストセラーとなったテッサ・デ・ローの同題の小説の映画化で、両親の死で引きはなされた双子の姉妹の生涯を描く。

 姉のアンナは父親の従兄弟で、貧しいカトリック農民に引きとられ、下女のようにこき使われる。6歳で読み書きできたのに、学校にいかせないために、知恵遅れということにされ、成人してから、危うく断種手術を受けさせられそうになる。

 カトリックというと、日本では高級なイメージがあるが、ヨーロッパ、特にプロテスタント圏では、愚昧な貧乏人の宗教あつかいされていることがよくわかる。

 成長したアンナは、当時、勢力を伸ばしつつあったナチスに興味をもつが、インテリを嫌う養父は彼女に暴力をふるい、重傷を負わせる。見かねた神父は彼女を寄宿学校にいれ、卒業してからは、住み込みのメイドとして働きはじめ、オーストリア生まれの将校に恋をする。

 妹のロッテは父親と同様、結核だったが、オランダの裕福な遠縁の夫婦に引きとられ、何不自由なく育てられ、ユダヤ人の青年と婚約する。

 姉妹は再会を果たすが、アンナは親衛隊将校の妻になり、ロッテの婚約者はアウシュビッツに送られる。

 ユダヤ人ものということになるが、アンネ・フランクを匿った小国、オランダで作られただけに、従来のユダヤ人ものとは一味も二味も違う。ナチスに加担した側の事情を、ここまで同情的に描いた映画はなかったのではないか。ドイツではこういう映画は作れないだろう。

 二人のヒロインは幼年期、青春期、晩年を別の女優が演じているが、青春期のアンナを演じたナディア・ウールが断然光っている。知的で誇り高い美貌は『愛は静けさの中に』のマーリー・マトリンを思わせる。彼女はメイド服で登場するが、これくらいメイド服の似合わない女性も珍らしい。

公式サイト
Jan14

 第1期ブッシュ政権で韓半島和平担当特使をつとめたプリチャード氏は、13日、ウリ党のシンクタンクが開いた国際シンポジュウムにおいて、北朝鮮が崩壊すれば、南北朝鮮が統一されるという見方を否定し、中国に吸収される可能性が高いと指摘した(朝鮮日報)。記事から引く。

 プリチャード氏は「北朝鮮は燃料と生活必需品の相当数を中国に依存しているため、吸収過程は実際、極めて順調かつ自然である可能性がある」とし、「中国は全面的な(北朝鮮)吸収を正当化するため、満洲と北朝鮮がはじめから中国領土だったということを立証する趣旨で、北東アジアプロジェクトチームによる学術的研究を適切に行うだろう」と述べた。

 中国が友好国のはずの北朝鮮に侵攻し、占領するなどというと、荒唐無稽と感じる人が多いだろうが、この説は一昨年9月、中国が国境警備を武装警察から15万の野戦軍に交代させたあたりから、北朝鮮専門家の間で注目されている。軍への交代は、表向きは武装脱北者対策だが、動員されたのが野戦軍となると、額面どおりには受けとれない。

 RENKの2004年8月7日付レポートによると、中国軍は鴨緑江で7月から千人規模の渡河訓練をおこなっている。長さ20〜30m、幅5〜7mの仮設橋梁を10組ほどつがえ、丹東付近でおよそ500mある鴨緑江中間の国境線まで仮設橋を伸ばしたというのだから、もはや脱北者対策とはいえない(中朝国境の東半分を流れる豆満江は川幅が狭いので、渡河訓練は必要ない)。

 中国は昨年9月には国境の軍を大幅に増強している。3万人から10万人まで諸説あるが、RENKの11月7日付速報によると、増派部隊は国境の要衝に通ずる道路の舗装や、軍用電話線を埋設、国境に沿った鉄条網の設置などの工事にたずさわっている。工事のための一時的駐留という見方もなりたつが、RENKは一部の町で軍が定着する動きを確認している。もしそうだとすると、18万から25万という、朝鮮戦争時に匹敵する大軍団が中朝国境に展開しつづけることになる。

 また、一般兵士は「北朝鮮内で戦争が起こる可能性に備えるため」と動員理由を説明されているという。さらに、北朝鮮国内から中国人商人が「北朝鮮国内の動静不穏」を理由に中国へ引きあげる動きが出ているという。

 中朝国境の変化はアメリカも注目している。12月24日付朝鮮日報は、ハドソン研究所のマイケル・ホロウィッツ主席研究員がワシントンでおこなった講演で、北朝鮮の自動崩壊が避けられないとし、「中国は金正日政権を持続させる政治的なコストが極めて大きいため、すでに金正日(総書記)の後継者にどういう将軍を選定し、この将軍が受け継いだ北朝鮮に20万人の人民軍を駐留させるシナリオを作成している」と述べたと伝えている。

 中国が金正日後の北朝鮮を占領する可能性は、ブッシュ政権中枢部でも真剣に検討されているらしい。櫻井よしこ氏は週刊新潮の連載コラム「日本ルネサンス」で、アーミテージ国務副長官は10月に訪日した際、日本と中国の北朝鮮占領の可能性を話しあおうとしたと書いている(12月16日号)。コラムから引く。

 中国が或る日突然、何万認可の軍隊を北朝鮮にどっと繰り出し、北朝鮮人民を”解放”するとの大義を掲げて金正日一人を拘束し大量の食料を配ったらどうなるか。金正日に憎しみを抱く国民は必ずしも中国軍に反抗しないだろう。食料支援でとりあえず大混乱を避け、短時日で北朝鮮を実効支配する事態もあり得る。……中略……

 仮に盧武鉉政権が強く抵抗せず、中国の北朝鮮支配が実現するなら、中国は韓国も含めて朝鮮半島全体に強い影響力を有することになる。……中略……

 アーミテージ氏は、そのような事態が中国によってひきおこされる可能性にどう対処すべきかを、日本と話しあおうとした様なのである。ところが外務省側はそのような事態は想像さえ出来ないようで、アーミテージ氏の問題提起に、全く、反応しなかった。

 外務省の鈍感さにはあきれるが、中国軍が北朝鮮にはいれば、即、併合となるだろうか?

 確かに、2002年の経済自由化以降、北朝鮮には人民元が流れこみ、国境地帯は人民元経済圏になってしまったといわれており、経済的には併合されつつあるとみていい。

 しかし、北朝鮮を政治的に併合するには、国際監視団の監視のもとで国民投票をおこなう必要がある(国民投票なしに併合したら、中国は国際的に孤立する)。いくら飢えているとはいえ、北朝鮮には北朝鮮のナショナリズムがあり、投票で併合が承認されるとは考えにくい。

 北朝鮮を併合したなら、国境を接する吉林省との一体化が進み、吉林省を巻きこんだ分離独立の動きが起きかねないという将来的なリスクも生ずる。帝国主義国家中国にとって、北朝鮮併合は爆弾を抱えこむことを意味する。

 韓国については、あの国は極端から極端に振れうごく国だということを忘れるべきではない。近年、反米親中の傾向が強まり、盧武鉉政権成立となったが、1月12日におきた、ハンナラ党の訪中議員団の記者会見を、中国公安当局が暴力で中止させた事件で、にわかに反中国感情が沸き起こっている。朝鮮半島は、漢の武帝から日清戦争にいたるまでの2千年間、中華帝国の属国だったので、宗主国意識まるだしの態度には敏感に反応するようだ。

 盧武鉉政権は穏便にことをおさめようとしているが、「このような誠実さの欠如は、韓国政府の低姿勢が助長した面もある」(東亞日報と、国民の反発をまねいている。韓国三大紙は申しあわせたように、先年の高句麗帰属問題とからめて中国政府を批判しており、中でも、朝鮮日報は次のように警鐘を鳴らしている。

 隣国を中華帝国の辺境程度に考えている中華帝国主義の認識が復活したのだ。万一、米国の下院議員が北京で許可なく記者会見を開いたとすれば、公安要員が会場に乱入しただろうか。……中略……

 中国的ヘゲモニーのもとでの世界の姿、中でも韓国はどんな扱いを受けることになるかを、この国の大統領はもちろん政治家、経済人、そして国民全体が考えなければならない時がきた。

 中国に反発するのは韓国だけではない。このところ、中国はアメリカを排除した東アジア共同体を作ろうと工作を進めているが、北朝鮮を併合したら、アジア諸国は警戒を強め、共同体構想は空中分解するだろう。

 おそらく、中国は北朝鮮を軍事占領したとしても、金正日派を排除した親中国政権を樹立するにとどめ、韓国を威嚇しつつ、懐柔しようとするのではないか。そうなれば、韓国はもはや反米・反日などとはいっていられなくなる。日本にとって、こうした展開は決してマイナスではない。

Jan15

 テレビ朝日「ドスペ」の「2005超巨大地震は必ず来る!」を見た。予想どおり、よく知られた情報をセンセーショナルに味つけした番組だったが、二つ、興味を引かれる話題があった。どちらも地震雲の話だが、宇宙からしか観測できないという点が目新しい。

 一つ目は、ロシアの宇宙飛行士ワレリー・ポリャコフ氏がミールから観測したという銀色にきらきら光る雲で、宇宙長期滞在記録保持者だけに、なんと3度も見ている。

 最初に見たのは1988年12月7日アルメニア上空で、あまりにも美しいので地上に報告したが、その後、睡眠をとっていたら官制センターから起こされ、アルメニアで大地震が起こったと告げられたという。二度目は1994年7月のカリフォルニア地震の直前で、やはり地震の前兆ではないかと思ったそうである。三度目は、1995年1月の阪神神戸大地震の直前で、この時は官制センターに地震が起こるかもしれないと通報したとのこと。

 この目撃談は、ポリャコフ氏の著書『地球を離れた2年間』に書かれているそうで、こちらのページに抜粋がある。宇宙開発関係者の間でも注目されていて、「ロシアの宇宙ステーション利用計画について」に言及がある。

 写真をもとに、銀色の雲の組成を分析したイゴール・アナシニ博士によると、70〜90kmの高度に発生する二酸化ケイ素を成分とする雲だそうだが、地震との因果関係は不明だという。

 70〜90kmというと、中間圏と熱圏の境界の中間圏界面あたりだろうか。大変な高度だが、電離層の下と考えれば、地震の前兆があってもおかしくないのかもしれない。

 二つ目は、元東大地震研職員の宇田進一氏の「さざなみ雲」説。この雲は幅が10km以上あるので、衛星写真で見つけるしかないという。

 出現範囲の面積からマグニチュードを予測することができるそうで、小さい地震までいれると、これまでに300例以上的中させたとのこと。

 論文を検索したところ、オーソドックスな地震関係の論文に共同執筆者として名前をつらねていることがわかった。2002年の「地球惑星科学関連学会合同大会」では、「地球電磁気学セッション」の「地震電磁気現象」の部で、「1993年北海道南西沖地震の余震の平面分布と一致するガス体(雲)の地震直前の発生」という、地震雲に関する発表をおこなっていた。

 宇田氏は的中率が高いので、予知情報をどんな形で発表したらいいか悩んでいると語っていたが、わかる人にはわかるというような、ぼかした形ででも、流してほしいと思う。

Jan23

 拉致被害者贋写真騒動の火元のTBS「報道特集」が、写真の男女と写真を提供した脱北者にインタビューした。なお、贋写真を1時間まるまる費やして紹介した16日の放映内容は、番組公式サイトからそっくり削除されている。

 TBS側が写真が贋物だと知ったのは、衛星放送で斎藤裕さんと松本京子さんとされた写真を見た呉寿竜という元在日朝鮮人の脱北者から、写真の男女は脱北者仲間で、日本人ではないと連絡を受けたからだという。

 贋写真の男女は一昨年、韓国に亡命した脱北者で、写真はハナ院で研修中、実地見学で訪れたソウル近郊の公園だという。取材班は、提供者の嫂だという写真の女性とともに公園に向かった。冬枯れして印象が変わっていたが、細かく見ていくと、確かに写真の場所だった。

 提供者は今回の写真が贋物であることをあっさり認め、金が必要なので、本物の流出写真に贋物の写真を混ぜたと語った。一応、拉致被害者の家族に対して謝罪の言葉を口にしたものの、日本のマスコミは十分な対価を払わないとか、謝礼を後で払うといわれて、そのままになったケースもあるとか、自己正当化が目立った。

 TBSは昨年6月に提供者に接触し、藤田進さんと加瀬照子さんと見られる写真の提供を受けたが、8月に再接触した際は、提供される写真の数が急に増えたそうで、簡易鑑定を依頼された東京医科歯科大の橋本助教授が「これは中国系。これもそれも中国系……」と、写真をはねていく場面を流した。TBSは問題の写真以外にも、贋写真を多数つかまされていたようである。

 単純に考えれば、藤田さんと加瀬さんの写真で味をしめた提供者が、手っとり早く金を稼ごうとして、中国の知り合いの写真や近親者の写真を、北朝鮮工作機関からの流出写真と偽って、TBSに売ったということだろう。

 TBSは謝礼を提供者にわたしたことは認めたものの、金額については記者会見で明かさず、番組でも一切ふれなかった。検証番組を放映する以上、贋写真を誘発した謝礼について、どういう計算で、どれだけの金額をわたしたかを公表すべきだった。

 22日のフジテレビ「ワッツ!?ニッポン」でも、贋写真提供者にインタビューしていたが、こちらの番組では、謝礼の額が推定できる数字が出てきた。

 なぜ贋写真を混ぜたのかと問われた提供者は、拉致被害者の写真を北朝鮮からもちだしたキム・ソンジュクという脱北者に、謝礼のわけまえをわたすために、8月10日に中国に向かおうとしたが、仁川国際空港で所持していた2100万ウォン(約210万円)を盗まれたと語った。キム氏は他の写真を所持しているが、新しい写真の提供を受けるためには金をわたさなければならず、やむなく贋写真を日本のマスコミに売ったというのである。提供者は8月10日以降の写真には贋物をまぜたが、それ以前の写真は本物だと力説していた。

 謝礼の何パーセントをキム氏にわたす約束になっていたのかはわからないが、もし折半だとすると、提供者は400万円以上の報酬をえていたことになる。これは韓国政府が脱北者の定着支援のために支給する一時金(約360万円)よりも多い。

 仮に400万円だとして、TV局6系列と新聞4紙がすべて謝礼を払っていたとすると、一社あたり40万円。半数が払っていたとすると、80万円。出版社には難しい金額だ(笑)。

 脱北者に証言には怪しげなものがあるとは、かねてから指摘されていたことだし、今回も金目当ての他愛もない嘘にTBSが乗せられただけなのかもしれないが、今後におよぼす影響はすこぶる大きい。小泉政権がつづく限り、政府の追加認定が難しくなったことは確実だろう。

 提供者はフジテレビに対して、キム氏の家族はすべて脱北を完了しており、キム氏自身が取材に応じる可能性があると語っていた。おそらく、相当な謝礼を要求するのだろうが、TBSは誤報した責任をとって、キム氏のインタビューをとり、彼の経歴と写真の信憑性を検証すべきだと思う。

Jan24

 従軍慰安婦(戦地売春婦と呼ぶべきだという人もいる)に関する模擬裁判番組をめぐる騒動は、朝日新聞とNHKの泥仕合の様相を呈してきた。はっきりいって言った・言わないの水かけ論になってしまい、世間の関心も薄らいできている。

 数年前までだったら、言論弾圧反対一色で盛りあがっていたところだが、左翼不信が広まっている現在、いくら朝日新聞が笛を吹いても、踊りだすのはプロ市民ぐらいである。

 朝日新聞が広告掲載を拒否した週刊新潮によると、政治的圧力と決めつけた記事を書いた本田雅和記者は「進んで、有名人に議論をふっかけにいく」ことで有名だそうで、筒井康隆氏を挑発して断筆宣言に追いこんだり、小林よしのり氏に事実誤認にもとづく批判をし(事実誤認であることは、本田氏自身認めているという)、マンガの中にキャラクターの一人として登場した戦歴があるとのこと。

 発端となった模擬裁判の番組だが、毎日新聞の「発信箱」というコラムによると、かなり問題のある代物だったらしい。

 報道に対する「圧力」は常に微妙な問題であり、一般論をもって個別のケースを律することはできないからである。そもそもどういう報道プランがあり、それがどう改変されたのか。具体的な事実経過を吟味しなければ、いいも悪いも判断のしようがないだろう。

 問題の特集番組「戦争をどう裁くか/問われる戦時性暴力」(01年1月30日、NHK教育テレビで放映)のビデオを見たが、「圧力」を経た修正版にもかかわらず、「従軍慰安婦」の取り上げ方に危うさを感じた。92年1月、朝日新聞は「朝鮮人慰安婦募集に日本軍関与」の大報道を展開、直後に訪韓した宮沢喜一首相が盧泰愚(ノテウ)大統領に謝罪した。日本軍による慰安婦「強制連行」を糾弾する動きは相変わらず根強いが、強制連行を否定する実証的な反論も出ている。90年代の慰安婦報道と日本政府の謝罪が、日本に「性奴隷」(海外ではsexslaveと報道)制度が存在したかのような誤解をまき散らしたという批判はさらに根強い。

 朝日新聞の記事は「NHK幹部が政治家に会った」ことと、「NHK幹部がディレクターに番組の再編集を指示した」ことを因果関係で結びつけているが、毎日新聞はどのような再編集がおこなわれたかを具体的に検討しなければ、判断できないとしている。これは正論である。報道機関として放映する以上、番組はプロデューサーの個人著作物ではありえず、チェックがはいるのは当たり前のことだからだ。朝日新聞の問題の記事だって、上役や校閲部が二重三重にチェックしているはずである。

 そもそも番組がとりあげた模擬法廷とはどのようなものだったのか?

 Sankei Webによると、模擬法廷を傍聴するには誓約書と署名が必要で、「「法廷」の趣旨に賛同する者のみに傍聴を許可する仕組み」になっていたという。女学生を工場に徴用した「女子挺身隊」と、慰安婦(戦地売春婦)を混同する初歩的な誤りもあったらしいが、「音楽にのって被害国を代表するという九人の女性が「法廷旗」を掲げ入場するや、会場は拍手と歓声に包まれた」というから、模擬法廷というよりは、政治集会である。

 NHKから番組の製作を請け負ったドキュメンタリー・ジャパンが発表した長井氏の会見に対する反論によると、同社の当初の構成案では「、「主催団体」に近い考え方の要素だけでなく、別の視点の要素も盛り込んでいた」が、長井氏がプロデューサーとして「より法廷を主にした内容で行く方針」を打ちだしたという。

 ドキュメンタリー・ジャパンの反論が正しいのなら、多様な視点をふくんだ構成案を、長井氏が主催団体べったりに改変し、それをNHK幹部たちが、多様な視点をふくんだ内容に再編集させたことになる。

 ところが、毎日新聞によると、問題の番組「修正版にもかかわらず、「従軍慰安婦」の取り上げ方に危うさを感じ」させる代物だったというのだ。

 同様の見方は、朝日新聞社内部にもある。1月22日の「愛川欽也 パックイン・ジャーナル」で、朝日新聞編集委員の田岡俊次氏は「あの番組を流したら安倍氏の圧力は正当化される」と語ったという(以下、田岡発言は「見えない道場本舗」の1月22日の項から孫引きさせていただく)。

 ここまでつきあった以上、言った・言わない問題にもふれておこう。

 取材の録音があるかどうかについては、田岡氏は「これはイスラエルの核のようなもので、あるともないとも言えないですがね・・・でも、あれだけ詳しく一問一答を紙面化出来ることから察してください」と答えているそうだ。

 仮に取材録音があるとして、そこに松尾氏が政治的圧力を認めた発言は含まれているのだろうか?

 「見えない道場本舗」氏は、朝日新聞が1月20日に掲載した詳細な会見録を次のように分析している。

松尾氏は「圧力とは感じるけど、それはひとつの意見だったと聞く耳は持ちましょうと」と言っているらしい。

あたしが朝日側だったら、(これが事実としても)この松尾氏の弁明はかなり周到、有効なものであってチッ、うまく逃げやがるなと思う。「意見として聞く」(政治家側から言えば「意見を言う」)これ自体が問題なのだ、というのが最近の片方の主張だが、その範囲に収まってしまうおそれありなのだ。

しかし、今回本田氏か朝日全体かはうしろに「ひとつの意見だったとして聞く」うんぬんというのがあっても「圧力」の言ありで攻められると判断した。

NHK(松尾)側は、逆にその補足で「圧力」という言葉はあっても無効化されている、と判断している。

であるから、どっちも「俺は正しい、証拠も有る」と思い、今回の全面対決になったのではないか。

 妥当な見方だと思う。もちろん、録音が公開されてみないと何ともいえないが、朝日側が録音を裁判で公開すると言わんばかりのほのめかしに終始していることからいって、松尾氏の発言は解釈の余地のある玉虫色の言い方で、圧力の決定的な証拠になるものではないと見るのが自然ではないだろうか。

Jan25

 読売新聞一面のトップに「常用漢字、情報化時代で抜本見直し…文化審が報告書案」という記事が出た。

 文化審議会国語分科会が、来月開かれる文化審議会総会に、戦後の漢字政策を抜本的に見直す報告書案を提出するというのだ。もちろん、常用漢字表も見直しの対象となる。

 文化庁サイトにはまだ掲載されていないので、YOMIURI ON-LINEから引く。

 今回の報告書案では、こうした現状に対し、情報化を想定せずに作られた現行の常用漢字表が、「一般社会で使用する目安」として、十分に機能しているかどうかを改めて検討する必要があると指摘。新聞でも常用漢字表以外の漢字が少しずつ使われてきている実態を踏まえ、常用漢字表に掲載する漢字の数のほか、その位置づけについても抜本的に見直す時期に来ていると提言した。

 また、法務省の審議会が独自に増加案を作成した人名用漢字についても、今後は国語分科会と連携して選ぶよう提案した。

 こんなことは20世紀のうちに片をつけておくべきだったが、遅れたとはいえ、誤りを改めることは結構なことである。

 記事中、気になった箇所がある。常用漢字が文化庁、人名用漢字が法務省、JIS漢字が経済産業省と縦割りになっている点を批判した条に、

 6000字を超えるJIS漢字も、近い将来は1万字を超えるとみられている。

とあるが、これは誤りだ。

 「1万字」という数字からすると、JIS X 0213を指しているのだろうが、JIS X 0213は2000年に施行され、昨年、表外漢字字体表に合わせて改訂されている。ISO 10646系のJIS X 0221にいたっては2万7千字の漢字を収録している。実装ベースでも、Windows系で約2万字、Macintosh系でも1万〜1万5千字は使えるようになっている。

 本サイトをお読みの方なら、「深圳」、「鄧小平」、「森鷗外」のように、従来使えないとされていた漢字がごく普通に表示できることをご存知だろう。

 実際は1万字を越える漢字が使えるようになっているのに、一般に知られていないのは、メーカー側がアナウンスを怠っているからだろうと思う。

 理由は二つ考えられる。第一に、プラットフォーム間で搭載グリフにズレがあるので、一部の漢字が表示されない場合があること。

 これを機種依存文字問題と混同している人がいるが、一部機種で見えないのはグリフがはいっていないからであって、コードポイントはISO 10646という国際規格にもとづいていおり、機種依存文字のように別の文字に化けるわけではない。

 第二に、ユニコード未対応のソフトがまだかなり残っており、ユニコード対応ソフトから未対応ソフトへ語句を貼りつけると、シフトJISにない文字が「?」に置きかえられてしまうこと。一度「?」に変わった文字は、ユニコード対応ソフトにもどしても、「?」のままである。

 どちらの現象も、文字コードの知識があれば対処可能だが、知識のない人に説明するのは絶望的に難しい。こんな状態で、本当は1万字以上使えるようになっているとアナウンスしたら、メーカーやソフトハウスのサポート電話に苦情が殺到するのは間違いない。さわらぬ神に何とやらということだろう。

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