映画は邦画としては群を抜いていたにしても、特別よかったわけではなかった。しかし、原作は滅法おもしろく、原作者の佐々氏の音声解説がついているというのでDVDを買ってみた。
犯人たちは「あさま山荘」に籠城する直前、25人のメンバー中、19人の仲間を凄惨なリンチで殺していたが、「映画ファイル」で指摘したように、本作ではこの一番肝心なことが描かれていない。
原作では事件が一段落した後、大量リンチ殺人が発覚して日本中を再び震えあがらせたことを伝え、「彼らが十日間呼びかけても応ぜず、アジ演説もせず、要求も出さず薄気味悪く沈黙していたのも、死霊にとり憑かれていたためだったのだろうか
」と締めくくられていたが、リンチ殺人と一体であることを明示するかどうかで、事件の意味合いは大きく変わってくる。あの事件を起したのは、武装蜂起によって革命政権を樹立できると信じこんだ社会主義カルト集団だったのに、本作の描き方では銀行強盗が人質をとってたてこもったのと同じになってしまうのだ。リンチ殺人を暗示するプロローグがついていたら、壁の穴から突きだす銃口の不気味さはもっと違っただろう。
佐々氏とプロデューサーの音声解説には言及があるが、せっかくDVDにするのだから、リンチ殺人と一体の事件であることを映像の形で伝えてほしかったと思う。当時を知らない若い人は原作か久能靖氏の『浅間山荘事件の真実』をぜひ読んでほしい。これが単なる人質立てこもり事件ではないことがわかるはずである。
音声解説は監督&撮影監督編と、佐々氏&プロデューサー編の二本が収録されている。前者はぼそぼそと技術的な話をするだけだが、後者は事件の背景から後日譚、本作を見た関係者の反応までが語られ、実におもしろい(佐々氏のサイトには封切り初日の感想がアップロードされている)。佐々氏のコメンタリーがつくことによって、本作は完成したといえるのではないか。
あれだけの大事件なのに、本作が作られるまでの30年間、映画化もTV化もされなかったのは、過激派の報復を恐れたためらしい(本作の過度に「禁欲的」な作り方も、報復をおそれてのことかもしれない)。佐々宅には事件以来、無言電話等々がつづき、本作の公開でまた嫌がらせが増えたというし、モンケン(鉄球)を操作した白田兄弟は、過激派の報復を恐れ、昨年「プロジェクトX」に出演するまで名前を伏せていたそうだから、決して過去の事件ではないのである。
初回特典のディスクは量は多いが、素人にはおもしろくない。映像作家を目指す人か、コアなマニア向けであろう。
メイキングは撮影風景を1日分づつチャプターわけした文字通りのメイキングで、アメリカ映画のショーアップされたメイキングを期待すると裏切られる。監督の撮影日誌と連動しており、25日分、140分もある。全部見たわけではないが、最終日には宇崎竜童が演じた宇田川管理官本人が登場する(オデオン座の場面で佐々氏とともに出演)。
監督の書きこみのある撮影台本(画像収録)、絵コンテ、シーン構成分析、撮影監督のインタビュー(この映画ではじめて使われたPanasonicのディジタルカメラの話が主)などは完全に映画青年向け。素人にもおもしろいのは製作発表、初日舞台挨拶、マット合成と美術監督の部谷京子氏のインタビューくらいか。
作品としての評価はともかく、画質・音質は最高峰といえる。DTSの迫力は圧倒的で、銃弾の飛びかう音、はじける音にすくみあがった。