おもしろいと一部で評判の映画で、2800円と手頃だったので買ってみた。1942年に実際にあった事件を映画化したそうだが、戦争映画というよりは芸術映画である。ボリス・パルネットに通ずるユーモアと幻想味があり、ポエジーを感じた。冒頭、無名戦士の墓を空撮に「祖国は英雄たちを忘れない」という国策映画的ナレーションがかぶさるが、毛色の変った映画を作るためのエクスキューズだろう。
主人公のイワンはドイツ軍の捕虜収容所にいれられている戦車兵だが、ある日、SSの将校がやってきて、他の戦車兵とともに兵器試験場に連れていかれる。試験場では捕虜に操縦させたT-34戦車を標的に新型戦車砲の試射をしている。炎上する戦車から出てきた捕虜は口封じのために射殺される。
破損したT-34は捕虜が修理させられているが、目的が目的だけに、空気取り入れ口にガラス片をいれたりして、サボタージュする者が多い。主人公のイワンは妨害工作をやめさせ、仲間から裏切者呼ばわりされるが、彼には秘めた計画があった。T-34で脱走しようというのだ。
イワンのT-34は新型砲弾で炎上したと見せかけ、まんまと試験場から脱出する。野砲を踏みつぶしていく場面は喝采もの。
ドイツの戦車は前線に出払っているので、T-34が街にあらわれると、ドイツ兵も警察も一般市民も逃げまどうしかない。ロシア女性が働かされている農場をT-34が爆走し、その後ろを「味方だわ、味方だわ」と叫びながら、ロシア女性の群が追いかけていくシーンなど、唖然とするような場面がつづく。タルコフスキーやソクーロフのような大芸術ではないが、ロシア・インテリゲンチャの伝統はこんなマイナーな戦争映画の中にも生きていたのだ。
しかし、いくらT-34が無敵でも、燃料がつきれば一巻の終りである。愉快な反乱はわずか2時間で終止符を打たれる。冒頭の無名戦士の墓はここで生きてくるわけである。
粗悪DVDで悪名高いIVCにしては、画質はいい(字幕はoffにできないが)。音はややきんきんするが、40年前の作品だから、しょうがないだろう。不満がないわけではないが、貴重な作品を紹介してくれた点は評価したい。