『戦艦シュペー号の最後』

加藤弘一
*[01* 原 題<] The Battle of the River Plate
*[02* 製作年<] 1956
*[03* 監 督<] パウエル,マイケル
*[03*    <] プレスバーガー,エメリック
*[04* 出 演<] フィンチ,ピーター
*[04*    <] クェイル,アンソニー
*[04*    <] グレッグソン,ジョン
*[05* 製 作<] 東北新社
*[05* 地 域<] R2、NTSC
*[06  枚 数<] 片面2層×1
*[06  時 間<] 114+24分
*[06* 音 声<] 英語モノ
*[06* 字 幕<] 日本語
*[06* 画 面<] 16:9 LBX
*[07  特 典<] メイキング
*[07     <] 文書資料
*[08* 作 品<]☆☆☆☆
*[08* 特 典<]☆☆
*[08* 画 質<]☆☆☆
*[08* 音 質<]☆☆

 ビスマルク沈没の1年半前に沈んだドイツの戦艦グラフ・シュペーを描いた海戦映画で、監督は『赤い靴』、『黒水仙』で有名なパウエル&プレスバーガー組。

 ビスマルクは大和に次ぐ世界最大級の戦艦だったが、グラフ・シュペーはドイツがベルサイユ条約を破棄する前に建造された条約の制限ぎりぎりの小型戦艦で、「豆戦艦」とか「ポケット戦艦」と呼ばれた。装甲は戦艦にしては薄かったが、足が速かったので、戦争がはじまると大西洋全域に出没して英国のシーレーンを脅かした。

 冒頭、商船を撃沈する場面があるが、事前に警告を出して乗組員を退避させてから沈めている。そんな悠長なことを本当にやったのかと思ったが、艦長ラングスドルフ大佐は騎士道精神をもった人物として連合国側からも尊敬されていたそうで、捕虜として艦内に収容した商船の艦長や英国士官も手厚くもてなしている。

 ビスマルクは僚艦が一隻だけだったが、グラフ・シュペーは単独で航行していて、英国の巡洋艦三隻と遭遇し、大破して中立国ウルグアイのモンテビデオ港に逃げこむ。海戦から政治と情報戦に重点が変わり、悲劇的な結末に向かう。ラングスドルフ大佐の決断は不可解だが、これも騎士道精神のあらわれか。

 モンテビデオ港に舞台が移ると、ユーモラスな場面もある。まだCNNも衛星中継もなかったが、アメリカのラジオ局が電話回線を買い占めて、丘の上の酒場に陣取って実況中継をする。酒場の調子のいい店主はなんと若い日のクリストファー・リーだ。ハマー・フィルムにいく前は、こういう陽気な役もやっていたのである。

 『ビスマルク号を撃沈せよ!』は密室劇的だったが、こちらは大海原を本物の戦艦と巡洋艦が走りまわって大砲を撃ちあい、海戦の迫力を堪能させてくれる。最初期のビスタ・サイズの映画だそうだが、監督のパウエル&プレスバーガーは大画面を十分意識した演出をしたそうで、『ビスマルク』よりもわくわくする。

 『赤い靴』は大昔、見たことがあるが、あまり印象に残っていない。本作はすごくおもしろく、『黒水仙』が見たくなった。

 特典のメイキングはDVDのメイキングで、関係者の回想インタビューと映画史家の解説がおさめられている。パウエル&プレスバーガーは表現主義的な手法が飽きられてしまい、映画の資金を調達できなくなってしまった。なんとか資金を集めるために、当時、英国で流行していた第二次大戦回顧ものの映画を手がけることにしたが、ドイツ人艦長を尊敬できる人物としするなど、パウエル&プレスバーガーらしい描き方が出ているという。

 パウエル&プレスバーガーが忘れられたこともあって、フィルムの保存状態はよくなかった。DVD化にあたり、画像を電子的に修復する作業がおこなわれ、修復前と後を対比しているが、こんなにも変わるものか。

 画質は修復によって格段によくなっている。色は「總天然色映畫」特有ののっぺりした色だが、元がそうなのだから、しょうがない。音はモノラルで、時代相応といったところ。

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