Solaris

加藤弘一
*[01* 邦 題<] 惑星ソラリス
*[02* 製作年<] 1972
*[03* 監 督<] タルコフスキー,アンドレイ
*[04* 出 演<] ボンダルチュク,ナタリア
*[04*    <] バニオニス,ドナタス
*[05* 製 作<] Criterion
*[05* 地 域<] R All、NTSC
*[06  枚 数<] 片面2層×2
*[06  時 間<] 169分
*[06* 音 声<] ロシア語
*[06* 字 幕<] 英語
*[06* 画 面<] 16:9 LBX
*[07  特 典<] ヴィダ・ジョンソンとグレアム・ペトリによる音声解説
*[07     <] インタビュー(ボンダルチュク、ユソフ、ロマディン、アルテミエフ)
*[07     <] 未公開シーン、レムのTVドキュメンタリー
*[08* 作 品<]☆☆☆☆☆
*[08* 特 典<]☆☆☆☆☆
*[08* 画 質<]☆☆☆☆
*[08* 音 質<]☆☆☆

 IVCから新しい日本版が出たが、評判がよくないので()、評価の高いクライテリオン版で見た。

 2枚組で、1枚目に作品全編と音声解説、2枚目に未公開シーン、インタビュー集、ポーランドのTV局が作ったスタニスラフ・レムのドキュメンタリーの抜粋がはいっている。Region Allなので、日本のDVDプレイヤーでもかかる。英字幕つき。

 『ソラリス』は、先日、新文芸座のタルコフスキー特集で再見したばかりなのだが、画質はこちらの方がいい。色ののりがまったく違う。新文芸座が上映に使ったのはかなり状態のいいフィルムだったが、やはり褪色していたのだ。

 中味については今さらふれない。映画史上の最高傑作の一つであり、映像美に酔わせてもらったとだけ書いておく。

 音声解説は男女二名のタルコフスキー研究者が交互に喋っている。客観的なデータと技法解説が主で、本に書いてあるようなことがほとんどという印象を受けた。

 特典で注目したいのはインタビューで、4人で90分を越える。ナタリア・ボンダルチュクとヴァディム・ユソフはどちらも30分以上で、中味が濃い。

 まず、ヒロインのナタリア・ボンダルチュク。彼女は『戦争と平和』を主演・監督したセルゲイ・ボンダルチュクの娘さんだそうで、タルコフスキーも訪れたことがあるという自宅の暖炉の前で、揺り椅子にすわりながら質問に答えていた。30年たってしまったわけで、よくも悪くも貫禄が出ている。ハリーの神秘的な美しさを期待するのは無理だが、42本の映画に出演し、父に倣って監督もしたことがあるという根っからの映画人だけに、実におもしろい。

 ボンダルチュクはレムの大ファンで、『ソラリス』映画化を聞きつけオーディションを受けたが、若すぎて(当時18歳)クリス役のドナタスと釣りあわないという理由で落ちた。その後、ロシア以外の俳優も含めて一年余もオーディションをつづけたが、決っていないと聞き、彼女は共通の友人を介してもう一度売りこんでハリー役を射止めたという。

 ソ連時代のことゆえ、この映画も40箇所以上検閲にひっかかった。ハリーが液体酸素で自殺するシーンもその一つで、最初はもっと官能的だったらしい。出演作の中では『ソラリス』が一番好きで、中でも無重力になった書斎でケルビンと宙に浮かぶ場面が気にいっているそうだ。

 カメラマンのヴァディム・ユソフと、美術のミハイル・ロマディンの話も聞きごたえがある。二人とも『ソラリス』の前の『アンドレイ・ルブリョフ』にも参加していたタルコフスキーの盟友である。キュブリックの『2001年宇宙の旅』をタルコフスキーが意識していたという点は二人とも一致しているが、ニュアンスがやや違う。

 ユソフによると、ソ連の技術では『2001年』のようなものは撮れないと諦め、ソラリス・ステーションの内部を汚して、生活感を出したという。

 一方、ロマディンはタルコフスキーとならんで『2001年』を見たそうで、タルコフスキーがキュブリックに対して敵愾心を燃やしていたこと、過去の生活へのノスタルジーが復活した未来社会という設定にしたこと、最初のプランではソラリス・ステーションの内部は三間のアパートメントのようにし、窓も四角くすることになっていたが、レムが激怒して今のようになった。

 レムとの対立はユソフも語っているが、予算がつき製作準備の第一段階がはじまったのに、あわや決裂という場面にいたったそうである。

 二人ともロシアの映画人だけに、西欧に亡命してからの作品よりも、ソ連時代の作品を評価している。特に『アンドレイ・ルブリョフ』を重視しているが、ちょうど新文芸座で見たところだったので、言わんとするところはよくわかった。

 ボンダルチュクも語っていたが、タルコフスキーの貧乏生活は業界では有名で、電話を引く余裕すらなかった。カンヌ映画祭で西欧の映画人から電話番号を聞かれ、お金がないので電話が引けないと答えたら、誰も信じなかったそうである。ソ連国民なのにカトリック映画賞の受賞を承諾したのも、賞金がほしかったからだという。

 ポーランドのTV局が製作したレムのドキュメンタリーは『ソラリス』に関する部分だけの抜粋で10分もないが、雨は聖霊だというような興味深い指摘がある。レム自身が『ソラリス』をめぐる対立を語った場面では、モスクワで三週間話しあったが距離が縮まらず、最後に「この白痴!」と叫んで席を立ったという秘話を明かしている。ソラリス・ステーションの窓を四角にするといわれては、レムが怒るのも無理はないが。

 転送レートはそれほど高くないが、画質・音質ともにすばらしい。最新の高画質DVDにはおよばないが、1970年代の映画のデジタル化としては申し分なしではないか。

 IVC版について評判がよくないと書いたが、本作のIVC版はロシアでテレシネしているというから、他のIVCのDVDと同様に考えてはいけないだろう。DVDBeaver.comでロシア版(IVC版)、PAL版、クライテリオン版の画質を比較しているが、平均ビットレートはロシア版(IVC版)が一番高い。

 ただし、高いといっても、ロシア版(IVC版)はビットレート固定なのに対し、クライテリオン版は場面の重要度や動きに応じてビットレートを名人芸的に変えていて、「シャープさとディティールに対する配慮は傑出」と絶賛されている(比較画像でもクライテリオンは引き締った絵で、一目で優位がわかる)。

 PAL版はオリジナルのモノラルの音声を5.1に変換し、なかなかの効果をあげているものの、不自然さがつきまとうということである。(Jun23 2003)

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This page was created on Jun10 2003.
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