ナボコフの、というより20世紀小説の傑作『ロリータ』の映画化で、ナボコフ自身が脚色している。監督はキュブリックである。
追記:原作はながらく大久保康雄訳で親しまれてきたが、ナボコフを専門とする若島正氏による新訳が2005年11月に刊行された。
今まで、TVの不完全版しか見たことがなかったが、完全版をTVよりもずっといい画質で見ることができるようになったことを喜びたい。映画史に残る作品だが、1962年の時代的制約から、エロチックな場面はほとんどない(それでも、公開禁止になった国があるという)。原作は「注釈版」を読めばわかるように、暗黙の引用やもじりが無数にあり、能の詞章のような過去の文学作品の綴れ織りになっているが、映画版は文学趣味を切り捨てている。正しい選択だと思う。
本作の成功は、クエイルのピーター・セラーズに負うところが大きい。クエイルは"Finnegan's Wake"のHCEを思わせる神出鬼没のキャラクターで、セラーズは不気味なほど誇張した演技で、ハンバート・ハンバートを追いつめていく。それと較べると、ジェイムズ・メイスンのハンバートは影が薄い。
ロリータはこの一作で消えたスー・リオンで、酷評する人が多い。芸達者の中で演技的に見劣りするのは否めないが、ライン版のドミニク・スウェインと違って品があり、悪くないと思う。
特典はオリジナル予告編だけ。画質は普通。