日本で公開された張藝謀の作品はすべて見ているが、これが最高傑作だと思う。原作は余華のベストセラー小説で、日中戦争期から文革までの20年の激動の歴史に翻弄された一家を描いたもの。まだ読んでいないが、翻訳や注解版の読者評をみると、すこぶる評価が高い。
庶民の体験する悲劇なのだが、主人公の福貴を演ずる葛優の愛すべきダメ男ぶりと、美しい影絵芝居のおかげで、悲しくもユーモラスな、懐の深い作品になっている。大躍進や文革の馬鹿馬鹿しさをしっかり描いていて(さすが国民党員を父にもつだけのことはある)、当然、中国では上映されていない。最近の張藝謀はあざとさが目につくが、こういう傑作を撮っていたのだから、目の離せない作家である。
特典のインタビューは断片的な上に、張藝謀は吹替音声しかない。その代わり、メイキングはよかった。社会主義国なのに、撮影前に土地神に線香をあげる儀式をやっていたり(他の監督の現場でもやっているのだろうか?)、中国の撮影現場の雰囲気がわかっておもしろい。子役に演技をつける場面は貴重。この頃はまだ鞏俐とあつあつだったそうで、休憩時間に監督がマッサージをしてやったり、仲のいいところを見せている。
「張藝謀スペシャルウィーク」は、2003年2月にル・シネマでおこなわれた「張藝謀映画祭」のトークショーを抜粋したもので、今野雄二、岡部まり、中国人料理研究家の三名の発言が収録されている。欲をいえば、もうちょっと長くいれてほしかった。
画質はかなりいい。音声はステレオだが、臨場感がある。