封切時と新文芸座とで二回見ているが、DVDで分析的に見てもうならされた。フラクタル図形のように細部まで入念に作りこまれていて、何度見ても発見がある。
本篇ディスクだけの廉価版や、『インデペンデンス・デー』つきのお試しパックが出ているが、特典ディスクが充実しているので、アルティメット・エディションをお勧めする。
特典ディスクの方のメイキングはTVの紹介番組らしく25分ほどだが、随所に引用された1900年当時のムーラン・ルージュの映像が見もの。当時のフランス人は足が短く、現代のダンサーとは体格も技術も較べものにはならないが、あの時代ならではの味がある。
インタビューは3〜6分程度に手際よくまとめたものが10数本つく。本篇と同じで、エッセンスが凝縮されているが、途中で切っているわけではなく、すべて完結しているので、食い足りない印象はない。衣装や振付など、裏方の話がおもしろい。
あえてリアリズムをとらなかったのは、電気を使うこと自体が驚異だった19世紀末にムーラン・ルージュはいち早く電気の照明を導入していたからだと監督が語っていた。
バズ・ラーマンと脚本家のクレイグ・ピアースは幼なじみで、ずっと脚本を共同執筆してきたという。長い机の両端に向かいあってiBookの画面をにらめっこしている二人の姿が出てくるが、一シーン書きあげると、その場で即興で読みあわせをやっていた。バズ・ラーマンは脚本段階からテンションが高い。
最初の脚本では侯爵は単純な悪役ではなく、主役二人を気球に乗せて森の中の館に招待し、クリスチャンをも魅了することになていたが、本筋と関係ないのでカットしたという(この条は撮影されていて、未公開シーンの最初にはいっている)。
ダンスのロングバージョンも見ものだが、圧巻はリハーサル・シーンだ。本番では群舞にいたるまで満艦飾の衣装に身を包んでいるが、リハーサルでは筋肉の躍動がわかり、さらに迫力がある。カンカン踊りの場面は、35人の女が男を取りあう「闘鶏」だといっていたが、リハーサルはまさに「闘鶏」そのものだ。
デッサン集はデザイン原画と本篇の画像を対比している。スチール集は5人の写真家の競作で、これも見もの。予告編は本国版が猥雑さを強調しているのに対し、日本版は悲恋一本槍と対照的だ。
画質・音質ともすばらしい。低音のレベルが高いので、サブウーファーは控え目にした方がいい。