名画として評価が高いが、レイ・ブラッドベリが脚本を担当したことでも有名。撮影は英国でおこなわれたが、飛行機嫌いのブラッドベリは大西洋をヨットでやってきたので、ヒューストンはやきもきしたという。
ブラッドベリの脚本はエイハブの執念に焦点をしぼって、原作のエッセンスを伝えることに成功している。ピークオッド号はろくに操業しないまま、白鯨を追って地球を半周するようなストーリーになっているが、二時間でまとめるにはこうするしかないだろう。エイハブにリア王を重ねあわせている節がある。スターバックが反乱の根回しをする場面は原作にはないが、リア王を意識したのだと思う。グレゴリー・ペックの演じるエイハブは圧倒的だ。こういう巨大な人物は往年の銀幕スターでないと無理だ。
スターバック(レオ・ゲン)は原作よりも理知的で、強い性格に描かれており、エイハブの神憑りに船中が巻きこまれていく中で、一人だけ醒めている。原作では、エイハブはスターバックを船に残してモビー・ディックとの最期の対決に臨んだが、この映画ではスターバックは一号艇を指揮しており、エイハブの死を目にすると、それまでの冷静さをかなぐり捨てて、猛然とモビー・ディックに突進していく。原作よりもかっこいい人物に描かれており、最後の見せ場になっている。
ただ、前半の鯨漁は迫力があったが、最後のモービー・ディックとの対決場面は、今の目で見ると、作り物とわかってしまう。劇場の大画面で見たら、もうちょっとさまになっていたかもしれない。
イライジャの予言は原作より劇的になっていて、ディレイニーの『ノヴァ』を思わせる。もちろん、ディレーニーの方が、この映画の本歌取りをしたわけだが。
特典はオリジナルの予告編のみ。画質・音質は並。