1936年のベルリン・オリンピックの公式記録映画で、映画史に残る作品である。この映画は開会式と陸上競技だけで、他の競技は『美の祭典』として公開された。
スポーツには興味がなく、リーフェンシュタール作品というだけで見たが意外にも面白く、身を乗りだして見てしまった。映像の氾濫する現在でもこれだけ面白いのだから、公開当時のインパクトたるやすさまじいものだったろう。
オープニングは今の感覚では陳腐である。ギリシャの遺跡の遠景から全裸で競技をする選手のイメージ映像になり、聖火リレーのイメージ映像、さらに聖火リレーの実写とつづき、オリンピックスタジアムの開会式になる。最初の9分間はこの映画で唯一退屈な部分だ。
開会式ではヒトラーが開会を宣言する。各国選手団が入場行進をするが、カナダやフランスも含めて多くの国がナチス式の敬礼をしている。さすがにアメリカは帽子を胸に当てるスタイルだが、当時はナチス式の敬礼には抵抗はなかったのかもしれない。
前半はドイツ選手が活躍する場面が多く国威発揚映画そのものだが、後半は競技の面白さに主眼が移り、公平に場面を選んでいるようだ。優勝を確実視されながら、バトンを落としたためにドイツが失格した女子400mリレーは悔しそうなヒトラーの顔も含めてちゃんと記録されている。
まだスポーツが発展途上だったのか新記録がやけに多い。男子1500mなどは5位までの入賞者全員が世界新記録である。
日本選手ははじまって50分後(チャプター7)の三段跳びで登場する。月桂樹の冠をかぶせてもらう授賞式が映るのはここが最初で、国旗掲揚の場面では日の丸がひるがえる。数え落としがあるかもしれないが、授賞式が映るのは3回、国旗掲揚が映るのは6回で、日本は授賞式で2回、国旗掲揚で3回登場する。同盟国日本を贔屓したのだろう。解説で淀川長治はこの映画が公開されると日本の世論は一気にドイツ寄りになったと語っているが、確かにそれだけの影響力はあっただろう。
この映画の日本贔屓はナチスの国策だけかというと、そうではないような気もする。たとえば男子1万メートル。背の低い日本の村社が長身のフィンランド3人組とデッドヒートをくりひろげ、最後は反撃ならず4位で終わるが、ここは国策とは無関係に、人間ドラマとしてクローズアップしたのではないか。
日米対決となった棒高跳びを中盤の山場にしたのも人間ドラマとしておもしろかったからだと思う。この大会の棒高跳びは想定外の熱戦になり、5時間以上かかったことで有名だが、こういう絵になる場面に日本選手がかかわっていたのである。
観戦するヒトラーの姿がよく映るが、ドイツ選手の活躍にはらはらしたり大喜びしたり、まるで子供だ。
特典映像は淀川長治の3分ほどの解説だけ。久しぶりに淀長節を聞き、懐かしかった。チャプターは14に切ってあるが、競技の区切りとチャプターが一致しない。I.V.C.だからしょうがない。
画質・音質ともによくないが、1938年公開としてはこんなところか。ナレーションは英語で日本語字幕がつくが、I.V.C.だけに焼付で消すことができない。全訳しているわけではないので、うるさくはないけれども。