SF映画の古典とされている作品である。50年代の作品なので、たかをくくっていたが、よりも面白かった。
ストーリーはウェルズの曾孫が監督した2002年版よりも原作に忠実である。違っているのは近未来に立ち寄ることと結末くらいだ。ただし、原作では主人公は「タイムトラベラー」と呼ばれおり、ジョージという名前はこの映画のオリジナルである。
タイムマシンはビクトリア朝風のデコラティヴなデザインで、2002年版はこのデザインに影響を受けている。天窓や向かいの店のショーウィンドーのマネキンの衣装の変化で時間の経過をあらわす趣向も1960年版を踏襲している。
最初に停止したのは1917年で、家は廃屋になっている。軍服のフィルビーの息子と出会い、フィルビーがドイツとの戦争で戦死したことを知る。
次に停止したのは1966年。財産管理をゆだねたフィルビーの遺志で土地が自分を記念する公園になっていることを知るが、今度は核戦争の真っ最中で、ロンドン市民は地下シェルターに我先にと避難していく。ロンドンに水爆が落ち、なぜかマグマが噴出して、タイムマシンは溶岩に埋もれてしまう。ジョージは外の景色が見えないまま、溶岩が侵食されるまで、ひたすら未来に進む。
こうしてたどりついたのが80万年後の世界で、イーロイ人とモーロック人のおなじみの話になる。ジョージが川に落ちたイーロイ人の娘、ウィーナを助け、恋に落ちるというエピソードもそのまま映像化している(ウィーナのイヴェット・ミミューの白痴美がいい)。ただし、イーロイ人とモーロック人の起源が階級対立にあるという原作のキモの部分は省かれている。
モーロック人との戦いは仮面ライダー・ショーなみだし、音楽のつけ方は単細胞、演出も一本調子だが、奇をてらわない作りに好感がもてた。80万年後の地球は低予算のスタジオ撮影見え見えだが、古典だと思えば気にならない。
特典は作品公開の32年後に製作されたドキュメンタリーで、白髪の好々爺になったロッド・テイラーがホストとなって、撮影に使われたタイムマシンの実物をバックに撮影の裏話を紹介し、最後にロッド・テイラーとアラン・ヤングが、ジョージとフィルビーの再会の場面を演じる。タイムマシンの実物がたどった運命は数奇だ。オークションで興行師に競り落とされた後、全米をまわる見世物にされ、ボロボロになって中古屋に売られた後、マニアが買いとって復元したのだという。このドキュメンタリーだけでも、DVDを買う価値はある。
画質はやや赤味を帯びているものの、くっきりしていて、非常によい。フィルムの傷はほとんどない。音声は5.1チャンネルとなっているが、広がりはない。