H.G.ウェルズの曾孫が監督した『タイム・マシン』のリメイクである。1960年版と較べると、映像的には大人と子供の差だが、映画としての面白さは別である。
1960年版が原作にかなり忠実だったのに対し、こちらは随分オリジナルの要素を盛りこんでいる。原作と1960年版では主人公は町の発明家であり、純粋に知的好奇心からタイムマシンを作ったのに対し、2002年版では大学で物理学を教えるハーデゲン教授で、婚約者のエマが強盗に殺されたことから、過去にもどって彼女を救うためにタイムマシンを作る。封切時にも感じたが、このエピソードは木に竹を接いだようでしっくりしない。タイムパラドックスをもちこむと、原作とはまったく別の話になってしまうのに、後半は原作というか、1960年版のストーリーをほぼなぞっている。
1960年版は1966年以降の地球の変化は、タイムマシンが溶岩の下になってしまったので、80万年後に侵食され、再び地表に出てくるまでわからないということにして逃げたが、2002年版ではCGを使って地殻変動をダイナミックに描きだしている。ここが一番の見どころである。
80万年後の世界は視覚的には美しいが、ドラマとしては平板だ。イーロイ人とモーロック人との対立が階級対立の進化したものだという理屈の部分を切り棄ててしまったからだろう。イーロイ人が言葉を喋り、イーロイ女性と恋に落ちるのは1960年版と同じである。
封切時の印象よりはよかったが、中のやや上といったところか。
特典の未公開映像はオープニングの別バージョンだけである。完成版では学生でごった返す廊下をカメラが移動していき、教室の黒板に数式を書くハーデゲン教授を映しだすが、別バージョンでは教室は空で、雪の積もるキャンパスを教授を先頭に学生たちが歩いていく。映像的には美しいが、他愛がなさすぎる。カットして正解だったと思う。
音声解説は監督&編集版しか聞いていないが、ウェルズ監督本人が「ここは辻褄があわないね」と突っこみをいれ、編集が屁理屈をつけて合理化するという妙なやりとりをしている。
封切時、ウェルズ監督は責任の重さからノイローゼになり、途中で監督が交替したという噂が流れたが、元になるような事実はあったらしい。というのも、モーロック人の地下王国の場面はゴア・ヴァービンスキー(ハリウッド版『リング』の監督)にまかせたと、ウェルズ監督がはっきり語っているからだ。演出方針はゴアにちゃんと伝えておいたと言っているが、地下の場面は一番重要なクライマックスである。そこを他の監督にまかせるなんていうことは普通ではありえないし、それまでは饒舌だったウェルズ監督が、地下場面になると、急に口が重くなることからいっても、噂は事実に近かったのだろう。
画質はとてもいいが、音はあまり広がりが感じられなかった。