フィッツジェラルドの短編の映画化である。原作は「バビロン再訪」、「再びバビロンにて」、「雨の朝、パリに死す」などと訳されてきたが、最近、村上春樹訳が「バビロンに帰る」という表題で出て評価が高い。
例によって、駄目男が過去を悔いる話だが、原作が第一次大戦後にパリにずるずるといつき、馬鹿騒ぎをやっていたアメリカ人の喪失感を背景としているのに対し、映画は第二次大戦後の話にしているので、リアリティがなくなってしまった。『日はまた昇る』同様、この作品も両大戦間のパリでしか成立しないはずなのだ。「失われた世代」の喪失感抜きでセンチメンタリズムだけをなぞったために、水ぶくれした印象しか残らない。
ヘレンのエリザベス・テーラーは貫禄がありすぎて、原作とは随分違う。チャールズのヴァン・ジョンソンはまじめすぎて、駄目男向きではない。マリオンのドナ・リードは存在感が足りない。マリオはもっと大きな役のはずだ。
ワンコインDVDの中では評価の高いPD Classic版だが、この映画は苦しい。画質はボケ気味で、色は退色したのを無理に補正した感じで、不自然。特典に簡単な人物紹介がつくが、紹介というほどのものではない。