羽生生純の同題のマンガの映画化。芸術至上主義的に「石のマンガ」を追求する青年、蒼木門(松田龍平)とコスプレと同人誌にはまりこむOL、証恋乃(酒井若菜)のもどかしい恋に、喫茶店の店主に身をやつしているが、筆を折って喫茶店のマスターをやっているかつての天才マンガ家、毬藻田(松尾スズキ)がからみ、濃厚な松尾スズキ・ワールドを作りだす。
作品自体、過剰すぎるくらい過剰だったが、DVDはさらに輪をかけて過剰である。
まず、本編ディスクに音声解説が監督一家版と主演二人版の二種。監督一家版はくどい。
通常版にも特典ディスクがつく。ディスクは通常の特典セクション、マンガ・セクション、音楽セクションにわかれる。
通常の特典セクションのメインはメイキングで、クランクアップ前の打合せからクランクアップまでを時間順に追う構成で60分と手頃にまとまっている。松尾は初監督の上に出演もしているので、最初はカメラマンが現場を仕切っている印象だったが、だんだん監督らしくなっていくのがわかる。悲惨なのは最終日で、撮り残しがたくさん出てしまい、朝6時から翌日の午後4時まで38時間のマラソン撮影になった。朝5時に酒井若菜があがり、12時に松田龍平があがるが、それでも撮影はつづく。他の仕事のはいっているスタッフが抜けていくが、それでも撮影。
インタビューは監督、主演二人、原作者、主演二人の代作をしたマンガ家で、それぞれ5〜10分程度に編集されている。原作者の羽生氏は2ちゃんねるで見かけるオタクを戯画化したアスキーアートに酷似している。酒井若菜の代作をした刹奈はマンガ家にしては美人だ。撮影現場で次の場面に使う画を描いたり、ペンを握るアップで手の代役をつとめたりで、撮影所には詰めっきりだったようだ。
作中アニメのオープニング部分と、ナレーションつきの作中マンガがはいっているが、これはディープなマニア向き。
音楽セクションは中味が濃い。忌野清志郎をフィーチャーした野外ミュージカル場面が売りの一つだが、そのバックをつとえめたのは今を時めくサンボマスターだったのである(撮影時はまだ無名)。わたし自身は忌野もサンボマスターも興味はないが、ファンにはこたえられないだろう。
「監督ちゃんコレクターズ・エディション」にはさらに「監督ちゃんディスク」と絵葉書が3枚つく。「監督ちゃんディスク」にはベネチア映画祭に出品した模様をドキュメントした「松尾スズキ in ベネチア」、映画の宣伝をかねた松尾スズキの恋愛相談、シネマ・ライズでのトーク・ショーがはいっている。
「松尾スズキ in ベネチア」はあまり映画祭らしくない。松尾は海外では無名なので、上映まではノーマークだったのだ。時間をもてあまし、観光をしたり、うだうだしている。ちょうど開催中のベネチア・ビエンナーレの「オタク文化」の展示を見にいく場面が出てくるが、この映画が招聘された背景にはヨーロッパにおけるオタク文化への注目があったことがわかる。上映会場は半分くらいしか客席が埋まらなかったが、終わるとスタンディングオベーションが起きた。オタクに関心のある外国人には宝の山に見えたらしい。
恋愛相談は三件ある。三件とも女性の方がコスプレーヤーだが、太って不細工なことも共通している。シネマ・ライズのトーク・ショーはどうということはない。通常版で十分である。
画質・音質ともに並。疲れた。