電脳社会の日本語』 補足と訂正

加藤弘一

チベット文字について
 本書197ページのチベット文字に関する記述に、一部で異論が出ているようです。直接、わたしのところにメールが来ているわけではありませんので、答える必要はないのですが、一応、典拠とした論文と背景事情について、エディトリアルに書いておきました。(Jul15 2000)

不必要な補足と訂正で混乱をまねいたことについて
 問題の発端である本書184ページにあるJIS拡張漢字(JIS X 0213)の隙間方式シフトJISは「主要な基本ソフトはどこも実装しない」という文は、日本工業標準調査会におけるJIS拡張漢字の審議とその後の業界の動きをそのまま書くことにためらいをおぼえ、ベンダーサイドの強い意向で事態が進行したことを婉曲に伝えようと選んだものでした。本書は担当者に逐行に近い密度で質問を受けながら、膝詰めで原稿を練っていったもので、同時にどういう材料をもとに書いているのかという確認を受け、関係者に直接原稿をチェックしてもらうようもとめられた箇所もいくつかあります。これで随分原稿が変わりました。
 くだんの箇所は原稿読み合わせ時にはまだ存在しませんでしたが(進行中の出来事でした)、初校の読み合わせの際に確認を受けました。「どこも実装しない」という強い表現を残したには、それなりの材料があったのですが、なにが起こるかわからないコンピュータ業界のこと、全否定は将来的にまずいかなと心に引っかかっていました。

 ところが、本書校了後、小形克宏様が連載されている「文字の海、ビットの舟」の存在を知り、そのうちの「特別編」に、MacOS Xが「2000JISを実装」とあるのを拝見して、MacOS XがシフトJIS方式の2000JISを実装を検討しているのか、と思いました。
 ある文字コードを「実装する」とは、その文字集合だけでなく、符号位置をそのまま使うことを言います。たとえば、Windows98はJIS基本漢字(JIS X 0208)の文字集合を使っていますが、JIS基本漢字を「実装」しているとは言わず、シフトJISとユニコードを「実装」している、というように。
 「特別編」には「文字集合としては2000JIS」、「符号法としてはユニコード」という限定がついていましたが、変換テーブルについては言及がなく、「ことえりなんかが標準で吐く符号位置は、すべて2000JISの中に収まるようになる」とあったことから、同連載第五回でJCS委員会の芝野様が強く示唆しておられる、Windowsにおける2000JISの変則的実装(シフトJIS=ユニコード変換テーブルのJIS拡張漢字対応)と同様のことを、アップル社も内々に検討しているのかなと受けとりました。
 本書の担当者からは、出版時点で発表がなかったのだから、そこまでフォローする必要はなく、もしフォローするにしても今の段階は早過ぎるのではないかという助言をもらったのですが、サポートページはあくまでわたしの責任で開くページなので、早手回しに載せることにしました。文字コードに関心を持つ人の中にはいろいろな方がおられ、この四年間でいろいろなことを経験してきたので、神経過敏になっていたのかもしれません。
 全否定をあらためるのが目的ですから、現実にそういう実装がおこなわれるかどうかはともかく、将来的に可能性があることを示せれば十分と考えました。あくまで補足情報として、そういう可能性があることを示しただけですから、「可能性」にすぎないことを記し、固有名詞も入れずに未確認情報であることを明示しました。その点では問題はなかったと思っています。
 いずれにせよ、184ページに関する「補足と訂正」を削除するともに、混乱をまねいた点をお詫びする次第です。( May27 2000; Jun06 2000更新)
 
(速く真意を伝える文章にしなくてはというあせりに体調の悪化が重なり、27日の公開以来、文章をいろいろ変更してきましたが、6月3日版をもって正式版とします。以後の変更は、このページ末尾に「変更履歴」として記録します。
 一連の経緯は6月5日付のエディトリアルに書きましたので、興味があればご覧ください。Jun03 2000; Jun06 2000更新)


モールス符号について
 45ページで「使用頻度の低いZは、長休止(長点と同じ長さ)をふくむ「・・・_・」、Qには「・・−・」と長い符号をわりあてている」と書いた点について、Zは「−−・・」、Qは「−−・−」ではないかというご質問をいただきましたが、本書記載の方が正しいです
 現在普及している「国際モールス符号」ではご指摘の通りなのですが、モールスが考案したオリジナルの符号体系は本書記載の符号の方です。
 この間の事情は同ページに「アメリカはモールスの符号体系を使いつづけたが、無線電信の時代になり、国境を越えて電波が飛びかうようになると、国際モールス符号に転換した」と説明しています。(May27 2000)

「78JISのもとになった文字セット」について訂正
 「78JISのもとになった文字セット」についての下の補足には誤解がありました。池田証寿様があげられた八つの文字セットは、78JISが直接もとにしたわけではなく、78JISのもとになった「行政情報処理用標準漢字選定のための漢字使用頻度および対応分析結果」がもとにしたものでした。詳しくは、池田様が御自身のサイトに「「対応分析結果」のことなど」として、解説を公開されましたので、そちらを御覧ください。(Apr17 2000)

GT書体
 GTプロジェクトの作成しているフォント(「東大明朝」、「GT明朝」と名称が変わってきた)を本書中では「GTコード」と表記しましたが、最終的には「GT書体」になりました。(Apr05 2000)

78JISのもとになった文字セット
 芝野委員会(97JIS原案委員会)の委員であった池田証寿様から本書77ページの記述について、誤りの指摘と重要な追加情報をいただきました。
 本書では、97JISの解説を参照して、78JISのもとになった文字セットを四つとしましたが、実際は以下の八つだったということです。
 
  漢字表の名称                漢字数
  (1) 標準コード用漢字表(試案)        6086
  (2) 6社協定新聞社用コード表(CO-59)     1985
  (3) 内閣調査室収容漢字表           3181
  (4) 科学技術情報センター収容漢字表(JICST)  1864
  (5) 大蔵省主計局収容漢字表          4276
  (6) 国立国会図書館収容漢字表         3956
  (7) 日本生命収容人名漢字           3044
  (8) 国土行政区画総覧使用漢字         3251
 
78JISの成立過程を明らかにした芝野委員会の功績がきわめて大きいことは本書第六章で述べたとおりです。78JISに関する本書の記述も97JISの解説に多くを負っており、この場を借りてあらためて感謝の意を表します。(Apr05 2000)

102-3ページ
 102ページから103ページにかけての「外主義者」は「外主義者」の誤りでした。仮名漢字変換時のミスですが、正反対に意味になってしまいました。(Mar17 2000)

以下の補足と「主要な基本ソフトはどこも実装しない」の削除については、「不必要な訂正で混乱をまねいたことについて」に書いたように、取り下げます。
184ページ
 184ページで、JIS拡張漢字(JIS X 0213)の隙間方式シフトJISについて、主要な基本ソフトは実装しないと書きましたが、本書校了後、この夏に発売されるある基本ソフトの新版が変則的な形で隙間方式シフトJISに対応する可能性が出てきました。
 その基本ソフトは早々とユニコードへの移行がアナウンスされており、実際、ユニコード実装なのですが、ユニコード←→シフトJIS変換の際、JIS拡張漢字対応の変換表を使うことで、隙間方式シフトJISの文字番号を生成するというものです。ただし、JIS拡張漢字の文字盤そのものを実装するわけではないので、ユニコードとISO 10646に未収録の三百余の漢字はあつかうことができません。
 もし、同方式が採用された場合、この基本ソフト上で作成したシフトJISのホームページを、iモードを含む他の基本ソフトのマシンで閲覧すると、175ページで示したような文字化けが起こるでしょうし、「高」や「間」を追加するには半角カナ領域をつぶすしかなくなります。文字コードの状況はいよいよ先が読めなくなりました。(Mar17 2000)
変更履歴
「早手回しに載せることにしました(それが裏目に出たわけですが)。」→「早手回しに載せることにしました。」(Jun06 2000)
「しかし、どこの製品か推測できる語句を残した以上、関係者に確認をとった方がよかったと反省しています。」→「あくまで補足情報として、そういう可能性があることを示しただけですから、「可能性」であることを明記し、固有名詞も入れずに未確認情報であることを示しました。」(Jun06 2000)
 しかし、このたび小形様から「特別編」は、MacOS Xが2000JISの本来の意味での「実装」をすることを示唆したものではなく、2000JISの文字集合の「実装」を言ったものだと御指摘を受けました。この件はわたしの深読みであり、不必要な補足と訂正をおこなって、小形様とアップルコンピュータ様にご迷惑をおかけしてしまいました。」→削除 (小形様およびアップルコンピュータ様のお名前は、もともとの「補足と訂正」ではまったく出していませんでした。)(Jun06 2000)
「184ページに関する「補足と訂正」をとりさげる」→「184ページに関する「補足と訂正」を削除する」(Jun06 2000)


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This page was created on Mar17 2000; Updated on May26 2000.