エディトリアル   May 2012

加藤弘一 Aug 2011までのエディトリアル
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5月20日

 印刷博物館で西田宗千佳氏の「日本で電子書籍ビジネスが花開くには」を聴いた。西田氏はちゃんとした取材にもとづく『iPad vs.キンドル』や『電子書籍革命の真実』を出していて、電子書籍関係では信頼できるライターさんである。

 講演の前に一階ギャラリーでやっている「What's 電子書籍?」を見たが、一部、歴史的な展示があったものの、iPadとKindle、Readerの実機を並べただけで、家電量販店の売場とさして変わらない内容だった。パネルに埋めこまれているので、手にとって読むわけにはいかなかったが、気兼ねなくさわれるというメリットはあった。

 講演は二冊の著書の内容を電子書籍ビジネスの可能性という視点から整理したものになっていて、よくまとまっていた。プラットホーム・ビジネスの評価については本では曖昧だったが、ケータイ・コミック時代には支配力を発揮したが、これからはプラットホームを握ってもたいした意味はないと断言していた。その通りだと思う。

 先日発足した「出版デジタル機構」については、アメリカではアマゾンのような市場を制覇した企業が余力でおこなうことを日本では公的資金でやろうとしているが、公的資金を使うと無駄な本まで電子化してしまうとも批判していた。

 「無駄な本」とは聞き捨てならないので質問しようかと思ったが、別の人がアーカイブの見地から質問してくれた。西田氏はアーカイブの必要性をあっさり認め、国会図書館との二重投資になるという言い方に変えた。それならわからなくはない。

 昨年までは電子書籍関係の講演会は業界関係者らしい人ばかりだったが、今回は一般のご老人が多いような印象を受けた。電子書籍の認知度が上がったということだろう。

5月30日

 5月20日のエディトリアルで西田宗千佳氏の出版デジタル機構は国立国会図書館のアーカイブ事業と二重投資になるという批判を紹介したが、同じ内容を日本ペンクラブのMLに流したところ、三田誠広氏から国会図書館は1968年の本までで止まっているうえに画像による電子化だから、二重投資にはならないのではないかとご教示いただいた。蔵書の電子化の予算は当分無理らしい。

 国会図書館がテキスト化の実験をしたところ、「ば」と「ぱ」の判別もできない段階だそうで、テキスト化の予定はないようである。日本語の宿命とはいえ、公的アーカイブが近代デジタルライブラリーの段階でとどまるのだとしたら、諸外国との差は開くばかりだ。

 なお、諸外国には中国も含む。中国は人海戦術で文献をテキスト化しており、『四庫全書』の完全テキスト化という成果を上げている。アマゾンから日本語書籍数万冊のテキスト化を受注して日本語電子化センターを立ち上げていて、日本の出版社にも売り込みに来ていると聞く。電子化も中国だのみになるのか。

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