エディトリアル   July 2011

加藤弘一 April 2011までのエディトリアル
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7月28日

 26日、小松左京氏が亡くなった。80歳だった。

 日刊スポーツが臨終の様子を書いている。

 死去の直前には集まった全員と「銀座カンカン娘」を合唱。小松さんは声を振り絞るように口を動かし、ベッドを取り囲んだ計十数人の顔を1人1人見つめて「ありがとう」と感謝を告げたという。

 映画の「銀座カンカン娘」は最近見たばかりで、高峰秀子と笠置シズ子の歌う主題歌は耳に残っている。底抜けに脳天気というか、敗戦後の一時期にだけあったアナーキーな明るさが眩しかった。あの明るさが小松左京の原風景だったのだろう。

 能がないが、長編のベスト5をあげておく。

  1. 果しなき流れの果に
  2. 継ぐのは誰か?
  3. 日本アパッチ族
  4. 見知らぬ明日
  5. 日本沈没

 寂しいことに『果しなき流れの果に』と『日本沈没』以外は絶版だった。亡くなったことで一時的に復刊されるかもしれないが、その後はどうなるだろう。どんな作家も没後煉獄の期間を経験し、その後に本当の評価がはじまるというが、小松左京復活はいつになるのだろうか。

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7月29日

 某サイトで青山繁晴氏の7月27日アンカーを視聴した。ヨーロッパ出張の報告が主だったが、重要な内容なので紹介したい。

 まずアレヴァ社の件。福島原発の汚染水浄化システムはアレヴァ社の放射性物質除去装置を中心に、アメリカのキュリオ社の油除去装置、日本の塩分除去装置を組みあわせている。日本政府は条件をフランス任せで契約してしまったために当初は数兆円を請求されるのではないかといわれていたが、意外にも全処理費用の10%でいいという話が伝えられた。虎の子の放射性物質除去装置を提供しているのに本当に10%でいいのか、なにか裏があるのではないかとフランスで取材したところ、10%は事実とわかった。本当の事故はアレヴァ社にとっても初めてであり、ノウハウを獲得するまたとない機会にしても、なぜそんなに安いのか?

 フランスの本当のターゲットは中国なのだという。中国は目下原発建設ラッシュだが、フランスは中国で必ず原発事故が起こると見ていて、福島で確立した技術と実績を高く売るつもりなのだという。

 ウォールストリート・ジャーナルは「断層抱える中国の原発計画に懸念強まる」という記事を配信したが、バッタものの新幹線のお粗末さを考えると中国の原発が安全とはとても言えまい(大連で原潜が事故を起こしたという情報もある)。中国の原発が大事故を起こしたら放射性物質は偏西風で日本に飛んでくる。今回汚染をまぬがれた西日本が直撃されるだろう。そうなったら日本中全部放射能まみれになるではないか。

 もう一つはエジンバラで開かれたICGH(国際ガスハイドレート学会)の件。青山氏のヨーロッパ出張はこちらがメインの目的だった。

 今年のICGHはこれまでで一番盛況で、イランやアラブ首長国連合からも来ていたという(ペルシャ湾の海底でもメタンハイドレートは発見されている)。

 中国は南シナ海のメタンハイドレートの埋蔵情況をすでに詳しく調査しており、昨今のベトナムとの対立もメタンハイドレートがからんでいるという。天然ガスが豊富なロシアも、天然ガスが尽きた後のエネルギー源としてメタンハイドレートに注目しており、今年になってプーチンはバイカル湖のメタンハイドレートの研究所をわざわざ視察に訪れているという。

 しかし一番活発な動きをしていたのは韓国で、日本海を「東海イースト・シー」、竹島の周囲をウルルン海盆と呼び、勝手に鉱区割りして2014年の実用化を目指すと明言していたそうだ。

 日本海を「東海」と呼ぶという韓国の首長は学会の中ではすでに既定の事実となっていて、日本の研究者が日本海と言っても第三国の研究者から「ああ、東海のことですね」と直される情況になっているという。竹島なんていう小さな島は韓国にやってしまえと脳天気なことをいっている人がいるが、韓国は竹島周辺を始めとする日本海海底に厖大なメタンハイドレートが埋蔵されていることを知った上で、戦略的に竹島を占拠し、「東海」という呼称を国際的に広めていたのである。

 第三国が「東海」という呼称を受け入れつつある背景にはアメリカの存在があるという。

日本56
中国45
アメリカ43
韓国20

 今年の発表数を見ると日本の発表が一番多く韓国は日本の約1/3にすぎないが、アメリカの発表者の中には韓国人ないし韓国系の研究者がかなり含まれているのだそうである。また学会のルールとして資金提供を受けた企業名・機関名を明示しなくてはならないが、韓国の発表のスポンサーには石油メジャーやアメリカ・エネルギー省が名を連ねているのだという。

 アメリカは韓国の野心を利用して日本海のメタンハイドレートを手に入れようとしていると見るしかない。アメリカが公然と韓国の後押しをしているので、国際的に「東海」という呼称が認知され出したのだ。

 青山氏は日本はアメリカの裏切りを責める資格はないという。日本は韓国による竹島の不法占拠をずっと黙認してきたし、日本海側のメタンハイドレートの開発には手をつけようともしていない。アメリカが日本を見限って韓国と手を組んだのは日本の責任というべきだ。

 日本は太平洋側のメタンハイドレートを2018年から実用化すると発表している。韓国の2014年に4年も遅れている。日本の技術は韓国に劣っているのだろうか?

 青山氏によれば日本のメタンハイドレート技術は世界的に最も進んでいるという。進んでいる日本が韓国に4年も遅れをとるのは日本海側のメタンハイドレートが比較的浅い海底に塊になって転がっていて簡単に採取できるのに対し、太平洋側のメタンハイドレートは深海底に泥と混ざった状態で埋蔵されており、採掘がきわめて難しいからなのだという。

 青山氏はこれまでにも日本海のメタンハイドレートが有望なことを力説し、あまりにも有望すぎるためにエネルギー利権を守ろうとする人たちに妨害されていると語っていた。陰謀論じゃないのかと眉唾な受けとり方をしていたが、韓国が2014年実用化を明言しているというなら、日本海のメタンハイドレートは間違いなく宝の山なのだろう。

 こういう重要な事実が関西のニュース番組でしか報じられないというのは困ったことだ。東京のマスコミはまったく信用できない。

「江戸の悪太郎」

 信州伊那の長者手代木家の跡とり娘浪乃(大川恵子)が婿を嫌い、婚儀から逃げだす場面からはじまる。手代木家を一代で築いた曾祖父の九左衛門(渡辺篤)は浪乃がかわいくてたまらず、取引のある江戸の鍵屋太兵衛を頼れと耳打ちする。浪乃は鍵屋を訪ねるが、男に扮装していたので追いかえされる。

 伊那からは父、祖父、曾祖父三代そろって浪乃を迎えにくるが、鍵屋にいないとわかり懸賞金を出して探す騒動に。

 一方、浪乃は貧乏長屋で寺子屋を開く剣持三四郎(大友柳太郎)のところに小僧の三吉として転がりこんでいたが、長屋では崖の上に邸を構える悪徳旗本秋山典膳(山形勲)の差し金でインチキ祈祷師道満の祈祷所を建てるべく立ち退き話が起こっていた。人望のある三四郎は長屋の住民をたばねて秋山一味に立ち向かうが……。

 大友の明朗磊落な持ち味が全開のさわやか時代劇である。貧乏長屋の住民がそれぞれいい。浪人仲間で蝦蟇の油売り兵助(田崎潤)、講釈師の三山(石黒達也)、その娘で三四郎に惚れているおすみ(梶すみ子)、強欲な金貸しのようで実は人情家のお勘(浪花千栄子)、浪人の夫の帰りを待つお栄(喜多川千鶴)と味のある人物ぞろいだ。妬みがないので後味がいい。

 結末は予想通りのハッピーエンド。名作である。

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「捨てうり勘兵衛」

 大友柳太郎の浪人ものである。勘兵衛(大友柳太郎)と名乗る浪人が屑屋の長兵衛(星十郎)に空の財布をわたし、一両にはなるから居候させろと言って貧乏長屋に強引に転がりこむ。長兵衛は長屋の住民に米を借りて勘兵衛に食わせるが、財布は二朱にしか売れなかったので頭をかかえる。勘兵衛は稼いでくるといって街に出るが、女歌舞伎の花形中村鶴吉(大川恵子)がからまれているところに出くわす。勘兵衛は鶴吉を助けて手間賃を稼ぐが、三両の約束なのに五両あったので芝居小屋に返しにいき、下働きの松太郎(里見浩太郎!)に預ける。

 女歌舞伎の一座では悪徳旗本の青山伊織(堀雄二)が堅物で売っている鶴吉に伽をさせろとねじこみ、座頭の鬼熊(進藤英太郎)は承知してしまう。そうとは知らぬ鶴吉は青山の待ちかまえる柳橋の料亭に向かうが……。

 「江戸の悪太郎」の後で見たので、出来の悪い二番煎じにしか見えなかった(実際は「捨てうり勘兵衛」の方が一年早い)。話に無理がありすぎるし、大友柳太郎に豪放磊落でありながら、過去に鬱屈のある男なんていう複雑な役は似合わない。この人は単純明快な役で真価を発揮する。

 悪徳旗本が山形勲でないので変だなと思ったら、和解の段取をつける親友の役で出てきた。実力のある俳優さんだと思うが、善玉役はどうも落ち着かない。

 よかったのは大川恵子の舞台姿。もともと現代的なシャープな美貌なので普通のお姫様より宝塚的な役の方が映える。

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