新文芸座の木下惠介特集で「破れ太鼓」を見た。大昔、進藤英太郎主演のテレビ版を見た記憶があるが、阪妻主演のオリジナルは初めて。つまらなかった。笑っている人もいたが、波長のあわないコメディは苦痛でしかない。宇野重吉が恋人をつれて火の見櫓に登る場面で出てきた。
新文芸座の木下惠介特集で「二人で歩いた幾春秋」を見た。とてもよかった。復員してきた元消防士(佐田啓二)が、妻子を疎開させていた郷里の山村にそのままいつき、道路工夫として一生をまっとうする話。辛気くさそうな話だが、これがいいのである。高峰秀子も貧乏話で本領を発揮する。
後半は勉強のよくできる一人息子が夫婦の唯一の楽しみになり、苦労して京大を卒業したところで物語が終わる。原作は夫のモデルになった人が出版した『道路工夫の歌』という歌集。夫は学歴はなくても短歌が作れるくらいのインテリなのである。
併映の「カルメン故郷に帰る」はデジタルリマスター版でみごとに修復されていたが、今回も波長があわず苦痛だった。
映画史に残る作品なので我慢して最後まで見たが、木下惠介のコメディはどうしてこうも鈍くさいのだろう。なぜ笑い声がおこるのか、まったく理解できない。
「ジャンゴ」を見た。南北戦争前夜に黒人の賞金稼ぎが恋人を救い出す話だが、タランティーノの最高傑作といっていいだろう。この数日無理をしていて途中から目の奥が痛くなったが、面白すぎて席を立てなかった。
新演出の「レ・ミゼラブル」をマチネで見た。ジャン・バルジャン福井晶一、ジャベール川口竜也、エポニーヌ笹本玲奈、ファンテーヌ知念里奈。知念は悪声。個々の場面はよりドラマチックになっているが、全体の流れでは平板になった。
最初から最後まで最大音量で押しまくる感じだ。テナルディエ夫婦は悪党ぶりが強調され、浦嶋りんこのドスの聞いた歌が迫力だったが、お笑いの部分が薄れた。
あちこち変わっているが、バリケードのセットは仕掛が簡略化され、半回転して表側を見せる場面がなくなった。ガブロシュの見せ場の弾拾いの場がバリケードを登りきったところで撃たれるように簡略化された。アンジョルラスの死体もバリケードの上ではなく、死体収容の馬車の上に変更された。下水道の場面は背景が動画になったのでよくなった。
カーテンコールは数分で終わってしまった。一応スタンディングオベーションになったが、以前の10分以上つづいた熱気はない。
遅ればせながら「桐島、部活やめるってよ」を見たが、なんだこれは。日本アカデミー賞六冠獲得とか評価が非常に高いが、どこが面白いのだ。よくある「映画への愛」とかいう、気持ち悪い種類の映画なのだろうか。
併映の「ジョゼと虎と魚たち」は久しぶりに見たが、やはり傑作中の傑作。何度見てもいい。
「ジョゼ」と「桐島」のカップリングは「桐島」の原作に「ジョゼ」が出てくるの実現したそうだが、映画としては次元が違う。久しぶりに「ジョゼ」をスクリーンで見ることができたのだから「桐島」のような駄作にも感謝しておこう。
「華麗なるギャツビー」を3D字幕版で見た。絢爛豪華なジャズエイジも見ものだが、ディカプリオのギャツビーが最高! ディカプリオはハワード・ヒューズ役よりも、エドガー・フーバー役よりも、ギャツビー役で記憶されるだろう。
原作が本屋に平積みされているが、村上春樹訳もあった。
キネカ大森で「故郷よ」を見た。チェルノブイリもので、ヒロインのアーニャ(オルガ・キュリレンコ)は原発のあるプリピャチに育つが、結婚式の日に原発事故が起こる。花婿の消防士は「森林火災」のために式の途中で緊急動員され、そのまま帰らぬ人となる。
事故の翌日、魚が大量死するとか、犬がバタバタ死ぬとか、木が紅葉して枯れるとか、放射線障害を誇張した部分はウソだが、事故が秘密にされていたのは事実で、住民は黒い雨を浴びまくる。原発技術者のアレクセイは家族を逃すが、罪悪感にさいなまれ、傘をまとめ買いして無料で配って歩く。
10年後、未亡人となったアーニャはチェルノブイリ・ツアー(本当にあるそうだ)のガイドをしている。他所から来た観光客やジャーナリストと恋愛し、何度もプリピャチを離れようとするが、結局わかれてもどってきてしまう。
原発技術者のアレクセイは殉職するが、幽霊となって列車に出没し、今は発行されていないプリピャチ行き切符を車掌に見せる。アレクセイの息子のヴァレロはプリピャチを慰霊祭で訪れ、そのまま逃亡して生家や小学校をさまよい歩く。無人のアパートには食いつめたイスラム教徒が家族で勝手に住みこんでいる。
事故を描いた前半はウソくさいが、10年後の俗化したチェルノブイリを描いた後半は面白かった。併映は「希望の国」だったが、もう一度見るほどの映画ではないので出てきた。
キネカ大森で「愛について、ある土曜日の面会室」を見た。傑作! 最初の30分はいろいろなエピソードが出てきて話が見えなかったが、無類の緊張感で目が離せない。しだいに刑務所の面会をめぐる三組の男女の話だということがわかってくる。
一組目は不法占拠をくりかえすお調子者に恋したサッカー少女の話。未成年は一人で面会できないので、献血車で知りあった若い医者がつきそってくれるが……。
二組目はフランスに出稼ぎにいった息子を亡くしたアルジェリアの母の話。なぜ息子は殺されなければならなかったのかを知ろうとフランスに行き、収監された殺人犯の家族に近づき、子守になるが……。
三組目はスクーター便で食いつないでいる駄目男の話。チンピラにからまれた妻を助けてくれた裕福な男がとんでもない儲け話をもってくる。刑務所にはいっている友人に面会室ですりかわってくれというのだ……。三つの思わくが交錯する面会日を描く最後の30分はアドレナリン噴出しまくり。見るべし。