エディトリアル   May - Aug 1996

加藤弘一 April 1996までのエディトリアル
May06

 ちょっと更新がとどこおっていましたが、ほら貝はこの11日に創刊半年をむかえるので、やや大がかりな模様がえにとりかかっているところです。Netscape2.0の機能を使って、より使いやすいハイパーテキスト環境が実現できそうです。今日から試験運用をはじめますので、問題点や要望がありましたら、メールをお願いします。
 今朝のニュース討論番組を見ていたら、オウムの残党が再結集に向けて動きだしたと報じていました。一時はうんざりしていましたが、読書ファイルで紹介した高橋英利氏の『オウムからの帰還』を読んだところだったので、つい身をいれて見てしまいました。
 あるところにも書きましたが、オウム事件はひと事とは思えません。麻原彰晃が「最終解脱者」を称して登場した頃には、オカルトに対する免疫ができていたので本を読もうとすらしませんでしたが、数年早くオウムが出てきていたら、道場をのぞきにいっていた可能性が大ですし、高橋氏のように井上嘉浩被告の勧誘をうけて入信していたに違いありません。あの教団は、一度はいったら金輪際抜けられないアリ地獄集団ですから、どうなっていたことやら。
 一連のオウム報道を見ていても、自分はどの信者のようになっていただろうということをいつも考えていました。一番自分に近いと思ったのは、警視庁前でヘッドギアをつけ、五体投地していたI氏という信者です。彼は出家歴は長いのだそうですが、私立文系のうえに、「信心がたりない」ということで、幹部にはなれなかったばかりか、スパイの嫌疑をかけられて左遷されたり、修行班にまわされたりしていたそうです。
 ぼくの場合、SF界をはじめとして、今まで関係した集団では、すぐにどこそこがおかしいとか、あれは程度が低いとか内部批判をはじめ、「信心がたりない」と孤立していくのが常でしたから、オウムにはいったとしら、I氏のように修行班いきは確実でしょうし、うっかりするとイニシェーションの実験台にされてラリっていたか、電子レンジでポアされていたかもしれません。つくづくわが身の幸運を思います。


May09

 一昨日の朝日新聞の夕刊に、コロンビア大学のドナルド・キーン日本文化センターでおこなわれた安部公房国際シンポジュウムの記事がのりましたが、コロンビアのホームページを検索したところ、関連のアーティクルを見つけました。
 このシンポジュウムは、安部が開設に協力したドナルド・キーン日本文化センターの十周年記念行事としておこなわれた一カ月におよぶ安部公房月間の一環としておこなわれたもので、日本、台湾、ドイツ、フランス、ポーランド、チェコ、デンマーク、メキシコなどから35名の発表者をむかえて開催されたそうです。安部公房スタジオに参加した俳優も参加し、稽古風景を再現したとのことです。安部公房スタジオの芝居は「幽霊はここにいる」しか見ていませんが、次にまた見ようという気にはなりませんでした。劇作家としてすぐれているから、演出家としてもすぐれているとはいえないのが、芝居の世界のおもしろいところで、これは逆もいえるのですが(鈴木忠志の書いた芝居を見たことがありますが、いやはやなんというか、天は二物をあたえずだなと思いました)、一本しか見ていないのでは、批判するにも腰がひけます。もっと見ておけば……と後悔しても遅いですね。
 シンポジュウムのほかにも、写真展やデスマスクをふくむ安部ゆかりの品々、原稿や初版本の展示もおこなわれたそうです。詳しくは上にリンクしたページをご覧ください。文学関係ではじめてインターネットが役にたった経験です(笑)。


May11

 昨日、飯田橋のホテル・エドモンドで第39回群像新人賞授与式がおこなわれました。受賞は小説部門の鈴木景子さん一人でしたが、優秀作に小説の堂垣園江さん、評論の川田宇一郎さん、高原英理さんと三人でて、にぎやかな会となりました。

 中沢けいさんが選考委員を代表して祝辞をのべられましたが、選考会では優秀作にとどまった堂垣園江さんの「足下の土」が一番活発な議論の対象となり、候補作の中で一番おもしろいが、文学と呼べるレベルには達していないという点で、委員の意見が一致したというのです。しかし、その場合の「文学」とはなんだろうという問いかけを、この作品はふくんでいるのではないかと締めくくっていました。
 まだ未読なので、なんともいえませんが、おもしろい問題だと思います。
 さて、ほら貝は今日で創刊半年目をむかえました。フレーム機能をつかったメニューバーを導入したので、多少、利用しやすくなったのではないかと思います。さらに石川ページ、安部ページ、演劇ページに直接アクセスした場合も、メニューバーが使えるように改めたほか、専用のカウンターも設置しました。今後、この三つのページは独立性を高める方向にしていきます。
 また、安部公房ページに、インターネット上の安部公房情報を網羅した「安部公房ホットリスト」を開設しました。Alta Vistaで検索すると 200件以上ヒットするのですが、その中の比較的ましなものをリストアップしました。自分でいうのもなんですが、「労作」です。さらに言うと、「徒労作」かもしれません。インターネットは結局「夢の島」(一般名詞ではなく、東京湾に浮かんでいる固有名詞の方)なんだなと嘆息したしだいです。インターネットが「情報の宝庫」かゴミの山か、このリストとひとつづつクリックすればわかると思います(笑)。


May17

 わが安かろう悪かろうプロバイダでまたトラブルです。一昨日まではちゃんとログインできていたのに、今朝になったら、何度リトライしてもはいれないのです。またモデムの故障かと思いましたが、それにしてはつながっている時間が長すぎる。認証手続きはやっていることはやっているようなのです。
 そこで Trumpet WinSockのウィンドウを開いて挙動を監視していましたら、「username:」を求めるはずのところで、どのサーバーに telnetでログインするかという選択画面が出てきたのです。どうもプロバイダ側で変更があったらしいのですが、そんな連絡はメールでも郵便でも来ていません。
 営業時間になるのを待ってサポートに電話したところ、応対に出た女性社員は開口一番「設定をいじりませんでした?」と高飛車に詰問してきます。いじっていないことをしつこく確認すると、「では、電話番号をxxxx番にかえてください」との返事。早速、試したところ、同じ症状です。再度電話しても、同じ女性が応対して、まったく埒があきません。やっと話のわかる社員に変わってもらったところ、回線数を増やすために、昨日、すべての回線を INSに切りかえる工事をしたので、認証方式が変更になったというのです。これでは電話番号をかえても同じ結果になるのは当たり前です。その社員いわく。事前に連絡したはずなのだが、別の部署なので手違いがあったのかもしれないとのこと。いやはや。
 事務上のずさんさは毎度のことなので、腹も立ちませんでした。所詮、安かろう悪かろうの劣悪三流プロバイダですし。ただ、技術的知識もなければ口の聞き方も知らない安かろう悪かろうの馬鹿女にはまいりました。Trumpet WinSockのことはよく知らないというのですが、ついこの間まで、Windowsから PPP接続するほとんどの人は Trumpetのお世話になっていたわけですし、Windows95にのりかえていない賢明なユーザーはいまでも使っているはずです。Trumpetを知らなくて、よくもまあプロバイダのサポートがつとまるものです。
 それにしても、いくら安上がりに回線が倍増できるからといって、いきなりすべての回線をディジタル化するというのは乱暴な話です。事前にメールしていたとしても、すべての会員がきちんきちんとメールボックスをチェックしているわけではないでしょうし、メールを受けとったとしても、設定変更といわれただけでパニックになってしまうオジサン会員だっていると思うのです。まあ、このプロバイダにまともな対応をもとめても仕方ありませんが。


May19

 わが安かろう悪かろうプロバイダの会員のためのニュース・グループをのぞいたら、今回の回線デジタル化にともなう認証方式変更でログインできなくなった人たちのぼやきがたくさん書きこまれていました。どうも事前のアナウンスはまったくなされなかったみたいです。日本語の通じる方のサポート係は「他の部署なのでわからないが、一部に連絡もれがあったかもしれない」というようなことを言っていたのですが、連絡もれどころではなかったわけです。メール一本よこさずにこういう大工事をやるとは、いやはや。
 あきれたのは、一部の回線を元の認証方式にもどしたということです。認証方式の変更なんていうややこしいことはわからないという苦情が殺到したのか、いや、それ以前に、事務局の電話が問合せでパンクしてしまったのか。パソコン通信形式のアカウントをとっていない会員にとっては、電話しか事務局に連絡する手段がないという間抜けな事態にいたったのですから、パンクしない方が不思議です。早めに電話をかけておいて正解でした。
 それにしても、これだけのことがあったのに、怒っている人が一人もいず(すくなくともニュース・グループでは)、「どうせ安いんだからしょうがないよな」で終わっているのは、さすがわが安かろう悪かろうプロバイダで泣かされてきた会員だけのことはあります。あの劣悪三流事務局に対しては、怒ってもしょうがないのですね、実際。
 ともあれ、今回の乱暴な工事で、回線数が倍増するわけですから、つながりやすくなってうれしいな……と、いい方に考えることにしました。


May22

 これまで、アメリカの Counter Digits社のフリーカウンターのお世話になっていましたが、今日から斉野さんというわが安かろう悪かろプロバイダの会員の方が自主運営しているカウンター・サービスを使わせてもらうことにしました。毎週、水曜日にアクセス数の統計をとっているのですが、トラフィックのきつい日にはなかなか数字がとれず、うんざりすることがありました。そういう日はカウントも出来ていないようです。斉野さんのカウンターは、同じサーバーにあるわけですから、トラフィックのためにカウントできないということはなくなると思います。当面はどのくらいズレが出るものか、二本立てでやる予定ですが。


May25

 会員のあいつぐ問合せや抗議にさすがの事務局もだんまりモードではいられなくなったらしく、May20とMay27に設備増強工事のために、断続的にサービスを停止するという告知を情報ページに掲載しました。ただ、会員間の情報交換によると、断続的なサービス停止はこのところ頻々と起こっており(ぼくも更新データの確認中に、急にページが読みこめなくなる現象を体験しました)、噂によると Jun01まではこういう不安定な状態が続くだろうということです。
 情報サービスの最先端を行っていることになっているインターネット・プロバイダの会員が「噂」に頼らなければならないというのは滑稽な話ですが、わが安かろう悪かろうプロバイダではログインができなくなるような重大な変更ですら事前の告知も事後のお詫びもなく、事務局に電話しても安かろう悪かろうの馬鹿女が支離滅裂な応答をするので(「平気でウソをつく」と怒っている会員もいますが、無知なだけだと考える会員の方が多いようです。ぼくの印象でもウソをつくだけの知能すらない馬鹿という感じでした)、「噂」を集めるしかないのです。
 工事の影響でしょうか、新しく設置した斉野さんのカウンターが作動不能におちいった時間帯が発生したようです。Counter Digits社のカウンターにどのくらいカウント洩れがあるか調べたところ、初日は日本語版で3割前後、斉野カウンターの数字が大きくでて、意外に洩カウントれが多かったんだなと思いました。一方、英語版はほとんどズレがなく、アメリカからのアクセスだとちゃんとカウントされるのかなと思いました。そこで曜日ごとの統計をとってみようとしたのですが、二日目には Counter Digitsの数字の方が大きくなるという意外な逆転劇がおきたのです。Counter Digitsの方でカウント出来たということは、おそらくページは読みこめるが、cgiは実行できないという状態がかなりの時間続いたのだろうと思います。単なるカウンターだったからよかったようなものの、凝ったことをしている cgiだったら異常な動作をしていたでかもしれません。わが安かろう悪かろうプロバイダでは、こういう事態の事前の通知はおろか、事後のお詫びもないというのが通常の姿です。所詮、安かろう悪かろうの劣悪三流プロバイダですから、あきらめていますが。
 これから六月にかけて、ほら貝にはまったくアクセスできなかったり、新しいページをブラウズしようとしたら突然サーバーが反応しなくなったりといったトラブルがあると思いますが、来月からは安定するらしいので、どうかご理解ください。


Jun03

 わが安かろう悪かろうプロバイダのサーバーは6月にはいっても安定していません。PPP接続していても切られることがよくありますし、ニュース・サーバーもずっと止まったままです。幸い、ある会員の方が自分の大学のサーバーを使って、ボードを開いてくれているので、ある程度の情報ははいりますが、「サポートにメールを出して返事のメールがもらえたら、SMAPのサイン色紙なみに貴重」とか、ここの会員をつづけていると「いろいろ勉強になる」とか、「人間ができてくる」とか、あきらめとぼやきばっかりです。
 知らないうちにFTPアカウントとシェル・アカウントを抹消されていたという会員もいました。サポートに電話したところ、故障だとかなんだとかわけのわからない応対をしたあげく、土日の休みをはさんで、月曜になってようやく「smssというソフトを使ったので、アカウントを停止した」という返事が返ってきたそうです。過去にsmssを不用意につかってトラブった会員がいて、それ以来、使用を禁止しているというのですが、そんなことは入会案内にも、ホームページにもどこにも告知されていません。まして、会員のアカウントを停止しておいて、事前はおろか、事後の通知メール一本すらよこさないというのは、非常識というかなんというか、商道徳以前の問題でしょう。ほかにどんなソフトが使用禁止なのかと聞いたところ、答えられないと答えたので、念のために過去にあったというsmssのトラブルについて突っこんだ質問をしたところ、支離滅裂なことを言いだし、最後には黙りこんでしまったとか。ようするに、知らないから「答えられない」だったようです。こうなると、ローカルな内職プロバイダと同じです。いよいよ移転を本気で考えなくてはならないかもしれません。


Jun07

 このほど長年使ってきたVLバスのマザーとビデオボードを PCIバスのものに交換しました。3DBenchではいきなり倍近い数字が出て、万々歳といいたいところですが、どういうわけかフロッピーとプリンターが認識されないので、ビデオボードのドライバはメーカーのホームページからダウンロードしてやっとインストールしました。普段からフロッピーとプリンターはほとんど使わないので、さしあたって不自由はないのですが、いざという時バックアップできないのは困るので、購入したショップに初期不良のチェックに出すことになりました。
 意外だったのは、電話での応対が丁寧というか、一般社会の常識にそったものになっていたことでした。これまで、DOS/V関係のサポート、特に自作パーツのショップ関係では、不愉快な経験をすくなからずしてきたで、かなりおどろきました。それだけパソコンが一般社会に根づいたということでしょう。プロバイダも早くまともな応対ができるようになってほしいものです。


Jun13

 チェックに出したマザーボードは「異状なし」で帰ってきたのですが、あいかわらずフロッピーとパラレルポートは認識されません。またコネクターを抜いたり挿したりしたり、BIOSセットアップをくりかえしたりして、途方にくれたのですが、一晩眠ってSCSIボードとのコンフリクトではないかと思いつきました。試しにSCSIボードを抜いたところ、あっけなく認識しました。なんともお粗末。

 今度買ったビデオボードは、mpeg再生をハードでやるというのが売りなのですが、ようやく mpeg用のユーティリティをインストールしたものの、SCSIボードを抜いてしまったのでCD-ROMが使えず、mpeg再生はまたしてもおあずけです。

 それにしても、SCSIボードとCD-ROMドライブも使えないとなると、新しく完成品を買った方がはるかに安上がりでした。まあ、勉強したものと考えればいいわけですが。


Jun23

 「ざべ」というパソコン業界で「噂の真相」にあたる生態学的地位をしめている雑誌の今月号に、筒井康隆氏と硬派の論客でならす中村正三郎氏の対談がのっています。買ってまで読めとはいいませんが、パソコン雑誌は元気がいいなあと思いました。
 昨年、筒井氏の断筆を悲しんで「断筆祭」というイベントがおこなわれましたが、そのスポンサーは中村氏と関係の深いビレッジ・センターという出版社の中村満社長だったそうです。中村満氏とはお会いしたことがあるのですが、異様にエネルギッシュな人で圧倒されたものでした。ビレッジ・センターからは読書日記で紹介した大冊『AV女優』が出ていますし、ジャスト・システム出版部からは小松左京の著作集が出ていました。また、翔泳社からは『神々の指紋』というSF考古学の本が出て、ベストセラーになっています。
 パソコン関連の出版社が元気な反面、既成の出版社は最近のインターネット・ブームやマルチメディア・ブームに警戒感をつよめ、万事に守りの姿勢にはいっているように見うけられます。会社や部署によって差はありますが、パソコンははいっているものの、使いこなせていないところがほとんどで、よけい警戒感を持つのかもしれません。今は大騒ぎしていますが、インターネットやマルチメディアが使い物になるのは来世紀でしょうから、大げさに考えなくてもいいのですが。


Jun26

 「東京万華鏡」でおなじみの島メディア・ネットワーク(SMN)主宰者で、前NHK会長の島桂次氏がなくなりました。島氏の『電子の火』という著書を読んだことがほら貝をはじめる直接のきっかけだけに、感じるところがあります。
 島氏はCNNをはじめとして世界の報道が欧米発であることを憂い、日本から発信する情報の重要性をNHK時代から説き、会長となってからは思いきった改革にとりかかりましたが、既得権益集団の警戒をまねき、ある程度は身から出た錆とはいえ、スキャンダルによる辞任という、信長や田中角栄とおなじような挫折を余儀なくされました。
 島氏のすばらしいところは、いちはやくインターネットの可能性に気がつき、SMNを拠点として日本発の情報発信を実践したことです。宴会芸のようなWWWサイトが「クール」と称して乱立する中、「東京万華鏡」は数少ない読む価値のあるサイトです。赤字続きといわれるSMNがどうなるのか気になるところですが、電子の火を消さないでほしいと思います。
 日本からの情報発信で、いささか気になったことがあります。先に紹介した筒井康隆氏と中村正三郎氏の対談で、中村氏がWWW版朝日新聞の日本語ページに海外から多数のアクセスがあることをあげて、世界に情報発信するのに英語にする必要がないと主張していることです。
 朝日新聞の日本語版に海外からのアクセスが多いのは事実ですが、そのほとんどは海外滞在中の日本人からのものでしょう。そもそも日本語の表示できる環境をもっている外国人自体、きわめてすくなく、jpegで日本語を画像として表示するWWWページが一部で人気になっているほどです。ちなみに日本滞在経験の長い外国人の中には漢字のわかる人がけっこういて、ちょうどわれわれが華字新聞の漢字を拾い読みして中味を推測するように、文意を解読するようです。
 さらに言うと、新聞記事や実用的な文章なら漢字拾い読み方式でかなりわかっても、文学作品となるとそうはいきません。どうしても英語にしなければ、発信したことにはならないのです。コンピュータ業界における中村氏の歯に衣着せぬ発言には敬服しますが、よくわかりもしない分野で訳知りの発言をするのはいただけません。


Jun29

 ほら貝をはじめたころは文学系サイトはいとう氏の「大江健三郎ファン・クラブ」くらいしかなく、さびしい限りでしたが、このところにきてぞくぞく誕生し、かなり充実してきたので、ホットリストを独立のページとしてディレクトリ・サービスに登録することにしました。ホットリストは階層が下で、総目次にも載せていないので、せっかくほら貝をのぞきながら、あるということを知らない方もすくなくないようですが、これで利用者が増え、文学系サイト全体の活性化につながればと考えています。


Jul08

 久しぶりに紀伊国屋ホールにいったところ、ロビーのコーヒーショップがなくなり、自動販売機にかわっていました。コーヒーショップといっても、客席にあがる階段の下のスペースに小さなカウンターをおき、太ったおばさんが手製のコーヒーやビン入りの清涼飲料水を紙コップにいれて売っていただけですが、休憩でロビーにおりていくと、コーヒーが香ばしくかおってきて、舞台に集中していた緊張をふっとゆるめてくれました。作りおきで、紙コップという悪条件にもかかわらず、あそこのコーヒーは軽い味で意外においしく、よく利用したものでした。
 紀伊国屋ホールのキャパは 400ですから、どんなに売れても100程度。コーヒー300円、コーラやジュース類が200円というリーズナブルな値段でしたから、商売にならなかったのかもしれません。


Jul16

 文芸ホットリストをリニューアルするにあたり、ポリシーを書いておきます。

 1.文学に関するWWWサイトを収集し、内容を紹介していきますが、俳句系・投稿系・読書感想文系・同人誌系・講義要綱系はすでに膨大な数があり、とても手に負えないので、別の専門リンク集におまかせすることにします。
 2.範囲をしぼるかわりに、日本語サイトは毎月、外国語サイトは偶数月に巡回し、移転・廃止・方針変更をチェックし、データのアップデートにつとめ、「Not Found」のないようにつとめます。
 3.推奨マークは当面つけませんが、つける場合は、「おもしろくためになる」をモットーとし、情報量と更新頻度を加味して判断します。著作目録・文献目録など、手間・暇のかかった資料は評価しますが、単なる題名の羅列だと点数が低くなります。現物にあたって内容を紹介したものが望ましく、読んでおもしろいリストだとさらに評価が高くなります。

こんなところです。文芸ホットリストをよろしくお願いします。


Jul18

 ASAHIネットの運営会社であるアトソンのサーバーに JALInetが開設されました。現在、ASAHIネット内の「電脳作家クラブ」というボードで活躍中の筒井康隆氏、小林恭二氏をはじめとする五氏が参加され、それぞれコンテンツを提供されておられます。文学系のサイトはずっと寂しい状態が続いていましたが、JALInetをきっかけに活性化の方向に進んでくれればと期待しています。
 筒井康隆氏が「断筆」を解除して、「越天楽」という新作の連載に踏み切ってくれたのはファンとしてはうれしいのですが、ちょっと気になることがあります。「越天楽」についているただし書きによると、「この作品は近い将来ASAHIネット会員のみのご提供になります」というのです。「ご提供」という言葉づかいからすると、このただし書きは筒井氏ではなく、アトソン側によるものではないかと思われます。

 今秋には、後発ながら CompuServeを打倒してアメリカ第一のパソコン・ネットに躍りでた AOLが日経と合弁して上陸するということなので、ASAHIネット=アトソンがなんとか特色を出して生き残りを模索するのはわかります。しかし、こういう形で筒井氏の「断筆」を利用するのだとしたら、ファンとしては悲しいです(もちろん、推測の域を出ませんが)。
 もう一つ、問題だと思うのは、専用のドメインを提供していて、将来的に購読料の代理徴収までうけおうとなると、単なるプロバイダと会員の関係ではすまなくなるということです。もし、筒井氏が活字メディアでは発表できないような危険な作品を発表したとしたら、抗議はアトソンに向かうでしょう。その場合、アトソン側が自主規制をしないという保証はあるのかということです。既成の出版社にWWW出版社が置きかわっただけという状況が出てこないとはいえないし、利害の対立もおきかねない。来年あたり、紙の出版社とWWW出版社の間で、作家の囲いこみ合戦がおこるかもしれませんね。


Aug07

 先ほど、両国のシアターXで、安部公房の長編五本をアレンジしたオムニバス劇『サクラのサクラ 原体験』を見てきました。長編一本を芝居にするのだって難しいのに、わずか二時間半で五本なんてと半信半疑で出かけたのですが、ムラはあるものの、『砂の女』、『他人の顔』、『箱男』の三つのパートはなかなかの仕上がりで、特に『砂の女』は独立の一幕劇として見ても傑作といえるほどでした(詳しくは「先月の舞台」で書きます)。
 この公演は、桐朋学園の安部公房ゼミの助教授をしていらした演出家の大橋也寸さんの呼びかけではじまった『一年がかりの芝居づくり』というプロジェクトの試演会(おさらい会?)としておこなわれたもので、実は 4月 8日に「赤い繭」、「人魚伝」など十本の短編を舞台化したオムニバス劇『アベオタク』が上演されていました。このプロジェクトには元安部スタジオのメンバーをはじめとするプロの俳優のほか、一般の人も多数参加しているそうです。
 うかつな話ですが、文芸誌の業界に足をつっこみ、芝居関係にも多少のアンテナをはっているつもりでしたが、こんな試みがおこなわれていたなんてまったく知りませんでした。BOXMAN'S Homepageという安部ファンの集まっているサイトを発見した時も驚きましたが、安部公房は文芸誌の業界では忘れられていても、一般読者の間では熱心に読まれ、支持を受けているのです。
 文学はずっと不振といわれていて、実際、文芸書の売れ行きは悲惨な状態がつづいているのですが、ひよっとしたら、文芸誌の業界が一般世間からずれているだけなのかもしれません。


Aug11

 「群像」がこの秋、創刊50周年をむかえるそうです。記念特集として、戦後文学に傑作を三つあげよというアンケートが来たのですが、ぼくがあげたのは次の三作です。

   石川淳  『狂風記』
   安部公房 『砂の女』
   丸谷才一 『後鳥羽院』

 創刊50周年はめでたいですが、では次の50年を生きのびて、創刊100周年があるかというと、かなり難しいのではないか。50年後も講談社や新潮社、文藝春秋社はつづいているでしょうが、「群像」や「新潮」や「文学界」が残っているとは考えにくいのです。残念ながら。
 現在は月刊の文芸誌が5誌もあるという、日本開闢以来、文学的にはもっとも恵まれた時代なのですが(笑)、この状況がひじょうにもろいものだということは、業界の人間はひしひしと感じています(感じていない人もいますが)。はっきり言って、書籍の再販制度がなくなったら、一夜にして季刊になったり、休刊になったりしかねないのです。
 このエディトリアルを通してお読みになった方は、こんなにインターネットの悪口ばかり言っている人間が、なぜ、WWWページなんてつくるんだと不思議に思ったことでしょうが、ぼく自身はニューメディアがどうのこうのというかっこいい議論は頭から信じていなくて、ただ、洪水がくる前に、方舟を準備しておこうという気持が強いのです。


Aug26

 最近、文芸関係サイトの新設が急増しています。まだ余裕はあるのですが、文芸ホットリストを作家系とそれ以外に分割することにしました。将来的には作家系を日本作家と外国作家に分割する予定です。もっとも、使いにくくならないように工夫してありますから、分割を特に意識しなくてもすむと思います。
 数的に増えただけでなく、質的にもかなり高くなっています。ひいき目でいうわけではありませんが、こと文芸関係に関する限り、日本のサイトは英米に引けをとっていません。日本語というハンデはあるものの、世界のトップレベルのページがいくつもあります。
 英語圏の場合、シェークスピアやポオの全作品を公開したり、エリオット自身の朗読した「荒地」がリアルオーディオで聞けるサイトがありますが、そんなことができるのはインターネット以前からテキストの電子化がすすんでいたり、作家の自作朗読をテープやレコードで供給する下地があったからです。「大作家」に限っていえば、いとも簡単に「充実」したページがつくれてしまうんですね。
 ただ、これは逆にいうと、わざわざインターネットを使うまでもないということでもあります。シェークスピアやポオの全作品のCD-ROMやエリオットの朗読のテープは日本でも数千円で簡単に入手できます。自宅から高い電話料をはらって接続している人で、そうしたものが必要なら、買った方がはるかに安いでしょう。
 はっきり言うと、全作品にしろ、朗読テープにしろ、本当に必要な人はすでにもっているし、必要はないが、文学の雰囲気を楽しみたいだけの人はちょっとのぞくだけだろうし、公開する意味がどこまであるのかなと疑問に思います。
 日本の場合、幸か不幸か、既存のリソースが絶無に近いので、作家関係のページをつくるには創意工夫をこらさなければなりません。結果として、レベルがひじょうに高くなったということも考えられます。

Copyright 1996 Kato Koiti
This page was created on May06 1996.
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