「K-19」がよかったキャサリン・ビグローの作品で、ショーン・ペン、エリザベス・ハーレー、サラ・ポリー、カトリン・カートリッジ、キャサリン・マコーマックという錚々たる役者が出ているのに、アメリカでは限定公開にとどまったそうだ。試写会の悪評で、商売にならないと判断したらしい。日本ではビデオ・DVD発売のみの未公開作品。邦題からしてB級のあつかいである。
実際に見てみると見ごたえのある作品で、傑作といっていい。ただ、アメリカでの悪評はわからなくはない。キャスリン・ビグローは女だてらにアクション映画のうまい監督ということになっているが、この作品はヒロインの妄想世界に照準をあわせた心理サスペンスだからだ。日本ならシネマスクエア東急あたりの単館ロードショーで公開すれば当たったのではないかという気がする。
ヒロインのジーン(マコーマック)は報道カメラマンで、百年前の殺人事件を調べるために、詩人の夫のトーマス(ペン)とその弟、弟の恋人のアデライン(ハーレー)とともに、ヨットで事件の起きた島に向かう。アデラインは無意識に男を挑発する女で、女好きのトーマスが手を出すのではないかとジーンはピリピリしている。ヨットという開いているようで閉ざされた空間の中でじわじわ高まっていく緊張感が絶妙である。
ジーンが調べている殺人事件は、ドイツ移民の風来坊が世話になったノルウェイ移民の漁師の家で女性二人を惨殺したというもの。犯人は犯行を否認したまま絞首刑になったが、真相はいまだに不明とされている。事件時、家には一家の主婦であるマレン(ポリー)がいて、彼女だけが生き残り、犯人を証言した。ジーンはマレンが真犯人ではないかと考えるようになり、島の公文書館で、死刑の執行される直前、彼女が検事に出した上申書を発見する。上申書の中で、彼女は複雑な家族関係と犯行を告白するが、検事は女性にありがちの情緒不安定として無視していた。
百年前の移民一家の中で、事件に向かって高まっていく緊迫感に、ヨットの上の男女関係がリンクし、ついに現在でも事件が起こる。二つの事件の間に因果関係はなく、ジーンの妄想の中で共鳴しあっているだけなのだが、モンタージュの妙で一つの事件のように見えてくる。
現代の場面と19世紀の場面では、19世紀の方がいい。抑圧された若妻を演ずるサラ・ポリーがすばらしい。「めぐり逢う大地」もそうだったが、この人は貧しい移民の役があっている。
特典のインタビューはキャスリン・ビグローとエリザベス・ハーレーだけだが、どちらも尻切れとんぼだ(ハーレーは1分足らず)。ビグローは母方の一族がノルウェイからの移民だったので、アニタ・シュレーブの原作に興味をもったと語っているが、中途半端は困る。
画質は透明感があり、美しい。19世紀場面の重苦しい映像と、現代場面の光まばゆい映像の対比がよく出ている。音質はサラウンド感は出ているが大味。