ヘンリー・ジェイムズ中期の問題作、『ボストンの人々』の映画化で、日本では劇場未公開。うっかりしていたが、日本版DVDが出ていた。中味は未見だが、ジャケットは日本版の方が洒落ている(左図)。
監督は『眺めのいい部屋』でブレイクする直前のジェイムズ・アイヴォリー。『ボストンの人々』はフェミニズムの創始者たちを茶化したというので、肯定的にあつかわれることのすくないマイナーな作品である。アイヴォリーとしてはまだ習作のつもりだったかもしれないが、主演女優賞(レッドグレーブ)と衣装デザイン賞の二部門でアカデミー賞の候補になっている。陽光まばゆいイタリアを舞台にした『眺めのいい部屋』と較べると、暗く、地味な映画だが、ウィットもあって、アイヴォリー流のコスチューム・プレイのスタイルはすで確立されている。
ほぼ原作通りだが、ヴェリーナ・タラント(ポッター)の演説場面は二回しかない。ヴェリーナが演説で聴衆を熱狂させ、より大きな舞台に挑んでは成功をおさめていくくだりが原作前半の見せ場だったが、映画は彼女の社会的な活動ではなく、女権拡張論者の狭いサークルの中の葛藤に焦点をあわせており、ミス・バーズアイ(タンディ)の臨終は間接的にしか出てこない。
メインになるのは、ヴェリーナと、後援者であるオリーブ・チャンセラー(レッドグレーブ)とのレスビアンを思わせるほど親密な関係で、そこにオリーブの従弟で、男性至上主義のバジル・ランサムがからむ。バジルを演ずるのはクリストファー・リーヴだが、生意気な小娘を圧伏する役なので、元スーパーマンは似合っている。
画質はIVC並みに悪い(ビデオがマスター?)。音質も推して知るべし。特典は予告編はもとより、リーフレットすらない。日本版はどうなっているのだろうか。