エディトリアル   Jan - Sep 2001

加藤弘一 Dec 2000までのエディトリアル
Feb11
 先日、某政党機関紙の文化部にいる大学時代の旧友と会ってきました。長めの書評の打ち合わせだったのですが、クラスメイトの近況を聞き、同じ業界で活躍している人ずいぶんいることに驚きました。出版界は狭いようでいて、広いと再認識した次第です。
 業界人の集まる酒の席に出ていけば、顔を合わせる機会があったはずですが、文壇バーの名残のような店もふくめて、そうした席にはまったく出ない仙人生活を送っているので、人脈は狭くなる一方です。インターネット時代が来なかったら、業界からとっくに忘れられていたでしょう。
 せっかく都心に出たので、池袋にまわり、新文芸座でキャメロン・ディアスの二本立てを見ました。
 映画の方はいまいちでしたが、新文芸座には驚きました。旧文芸座跡地に建ったレジャービルの三階にあるのですが、黒を基調とした内装、非常灯が邪魔にならないような配慮、ゆったりした椅子(間隔が広い!)、音響、トイレ等々、旧セゾン系劇場を思わせるゴージャスな作りで、名画座の域を完全に超えています。都内でベスト3にはいる映画館ではないかと思いました。
 あまりにも立派すぎて、ずっと名画座のままでいてくれるかどうか心配になるほどでした。
 ミニシアター・ブームで、マイナーな映画がどんどん公開されるのはありがたいのですが、見逃す作品がすくなくありません。人跡未踏の田舎に住んでいるので、終映が11時をすぎるレイトショー作品は見にくいという事情もあります。映画はスクリーンで見ないと、本当のよさはわかりません。新文芸座には末長く名画座としてつづいてほしいものです。
Feb18

エンゼル
 四年と一ヶ月飼っていたエンゼルが昇天しました。三匹買ったうちの一匹が長生きしたのですが、最初、500円玉大だったのが、二年で12cmまで成長し、水槽の主として君臨してきました。三匹の中では一番気性が荒かったのですが、頭が良く、長期記憶力をそなえていました。

 なぜ、そう言えるかというと、エサをやる際、水槽の左側に立って、わざと右側にエサを落とすようにしていたのですが、他の二匹は左側に寄ってきたのに対し、このエンゼルだけは右側でエサを待ちかまえていたからです。

 エサをやる前に右手を水平に伸ばすようにしていると、やがて合図を見わけるようになり、単に水槽に近づいただけでは、すぐに関心をなくしましたが、右手を伸ばしたとたん、胸びれと広げ、体を左右にくねらし、エサをくれと愛敬をふりまきはじめます。オスカーのような大型の魚は頭がいいと聞いていましたが、エンゼルでも個体によっては高い知能をもっているようです。
エンゼル

 しかし、半年くらい前から頭の黄色が褪せてくるとともに、条件反射があやしくなりはじめました。一昨日、頭を上にして、垂直に水槽を漂っていました。胸びれを時々動かし、鰓蓋がかろうじて開閉していたので、生きていることがわかりましたが、昨日の朝、頭を上にしたまま、水槽の奥の壁にもたれかかり、こときれていました。エンゼルで四年は長く生きた方でしょう。
 ゴミに出すのはかわいそうなので、プランターの中に埋葬しました。
 

 「あるある大事典」で発熱をとりあげ、熱が上がるのは免疫力を高めるための生体防衛反応で、解熱剤を飲んだり、無理に汗をかいて体温を下げると治りが悪くなるという最新の見解を紹介していました。

 野口晴哉が80年前に提唱した「風邪の効用」そのままです。

 20年前、野口整体に出会い、熱を下げては駄目だという説を聞いた時の驚き、そして野口整体流の「風邪の経過」を実践しはじめた時の周囲の詰めたい反応を思うと、隔世の感があります。

 もっとも、野口晴哉の他の教えが世の中の常識になるには、もうちょっと時間が必要でしょう。

Mar07
 この四月から東海大文学部に文芸創作学科が発足することになり、非常勤の講師をおおせつかたので、泊まりがけで研修会にいってきました。専任・非常勤18名のうち、16名が参加するという盛況でした。
 事前には顔合わせの飲み会をやるという話だったのですが、本当に研修をやったので、面食らいましたが、中味が濃く、実に刺激的でした。学科設立に尽力された東海大総括主幹の蟹江秀明さん、教務委員会委員長の飯塚浩一さんの学部改革にかける情熱あふれるお話には圧倒されました。文芸創作科設置は学部改革の流れの中で実現したそうです。詳しい話は差し控えますが、旧態依然の部分がある一方、自己改革の動きも確かにあるわけで、国会よりもましです。
 辻原登さんからは、現在、日経新聞に連載中の小説の反応が良好という話をうかがいました。各紙とも新聞小説が勢いをとりもどしつつあるそうです。文芸誌の世界だけみて、小説の衰退をいうのは早計ではないかという指摘は新鮮です。
 『金色夜叉』の種本を発見された掘啓子さんの発掘の苦労話は感動的でした。百数十年前の大衆小説のコレクションがペンシルバニア大など、四つの大学に残っていて、六年間、毎年、夏休みになると、図書館にこもり、同工異曲の恋愛小説(ハーレクイン・ロマンスのようなものらしいです)を片っ端から読んでいったというのですから、なみたいていの苦労ではありません。
 山城むつみさんと文字の問題(文字コードではなく)について、話しあえたのも収穫です。長谷川三千子氏や岡田英弘氏の仕事に怪しげな魅力を感じ、気になってしょうがなかったのですが、山城さんが批判的な姿勢を堅持しながらも、その辺りをおさえていたのはさすがです。
 今、「新しい歴史教科書をつくる会」の歴史教科書の行方が話題になっていて、左翼人士は頭から軍国主義教育の復活と決めつけていますが、西尾幹二氏の『国民の歴史』には見るべきところもあると思います。全面肯定はできないにしても、西尾氏や長谷川氏、岡田氏の著作には、軍国主義というレッテル貼りだけでは片づけられない、思想的課題が提起されているのではないでしょうか。
 御本人たちは心外でしょうが、傍目八目でいわせてもらうと、『国民の歴史』と網野史観、長谷川氏の『からごころ』と柄谷氏の『日本精神分析』はよく似ています。マルクス主義のために隠されていたものが、ようやく浮かびあがってきたというべきでしょうが、両者の微細な違いをあぶりだすことで、なにかがつかめるのではないか、などということをずっと考えています。
 さて、石川淳生誕102周年を記念して、ちくま学芸文庫版『夷斎筆談』『夷斎俚諺』解説を掲載しました。102周年という半端な年になったのには、特別な意味はありません。
 1999年の石川淳生誕100周年はどこの雑誌も動かず、新しい研究書も出ず、寂しい限りでした。このまま忘れられるなどということはあってはならないので、情報の発信だけでもつづけるつもりです。
Mar25
 24日分のメールの一部をとりこぼしたようです。最近、平日の明け方や週末になると、プロバイダのメール・サーバーのレスポンスが悪くなり、リトライすることがあるのですが、昨日は操作をしくじったらしく、メーリングリストのメールの番号が飛んでいました。
 もし、24日にわたし宛にメールをくださった方がいらして、返事が届いていない用でしたら、申しわけありませんが、再送願えないでしょうか。よろしくお願いします。
 半年ほど前、同じような不具合が一ヶ月近くつづきました。ずっとレスポンスが悪いなら、会員増に回線速度がおいつかなかった1996年頃の状況の再来ということになるでしょうが、日によって、以前通りにアクセスできる日があり、また、午前6時から8時までの間に、レスポンスが嘘のように改善されるので、首をひねっていました。サポート係に何度か問い合わせたのですが、例によって「お客様の方に原因があるのではないですか」と、木で鼻をくくったような応対です。
 ところが、ついにメール・サーバーがダウンし、その直後から、レスポンスが旧に復しました。何があったのか、プロバイダのお知らせページを見たところ、メール・サーバーに過重な負担をかける会員がいて、事故が起こった云々というお詫びが掲げてありました。
 回線のすいている明け方とか週末に、メール・サーバーをへばるまで酷使するといったら、SPAMぐらいしか思いつきません。
 おそらく、会員にSPAM発送を代行する業者でもいて、回線の開いている隙に商売していたとか、ハックされてSPAMの中継に使われたというところでしょうか。「10万人分のメール・アドレス売ります」などというSPAMが時々舞いこむことから考えて、最近のSPAMは10万通単位で送るのだろうと思います。大手プロバイダなら、10万通ぐらいなんともないでしょうが、わが弱小プロバイダのようなところでは、たちまち回線がへばってしまい、ついにメール・サーバーをダウンさせるところまでいってしまった。そこで、プロバイダは重い腰をあげて、SPAM業者を退会させたか、セキュリティホールをふさいだ……ということではないかと、にらんでいます。
 今回の不具合も、新しいSPAM業者がわが弱小プロバイダに寄生をはじめたのでしょうか。あくまで推測ですが。
Apr10
 「文系人間のための 7tips」というページを掲載しました。こういう how to的な内容はうちの領分ではないのですが、先日の研修会で、まったく知られていないことがわかったので、作ってみました。余計なお節介であることはわかっていますが、そうも言っていられな状況があるからです。
 パソコンで文体が変わるなんていうことを、あいかわらず主張している人がいますが、視野反転眼鏡ですら一週間で適応できるくらいですから、人間の感覚はそんなにやわではありません。
 あの手の主張はまじめにとりあう必要はなく、むしろ、なぜ、あのような珍妙な論が一部の人に歓迎されるのか、を考えた方がいいでしょう。
 語句をカット&ペーストするのに、いちいちマウスでやっていたら、集中力が乱れて当然で、そのあたりから、パソコンでは文章が書けないなんていう奇説が出てくるのではないか、と考えています。
 近々、「文学系WWWのための 5tips」というページも公開します。こちらはUCS実体参照やルビ・タグの入れ方を載せます。要するに、「内田百うちだひゃっけん」とWWWで表示するための how toです。
 気がついた方もいらっしゃると思いますが、「ほら貝」では昨年11月から一部のページでこういう機能を使いはじめています。旧式ブラウザでは未対応なので、使うのを控えてきたのですが、11月にログを調べたところ、95%以上の方が大丈夫ということがわかったので、利用に踏みきりました。旧式ブラウザをお使いの方も、またっく読めなくなるわけではないので、ご了承ください。
 how toを載せたにはもう一つ理由があります。今秋から「パソコンと文学」という授業をもつことになったのですが、how to的なことはやりたくないので、「how toの知りたい人はうちのページを見てください」ですませるようとういうわけです。
 ついでといってはなんですが、「e文具」という言葉を思いついたので、コーナーの名称を「e文具案内」にあらためました。
 本当は「読書ファイル」も変えたいのですが、いい名前が思いつかず、思案しています。あのページは、当初「読書日記」といったのですが、「日記リンク」からリンクする人が出てきたので、とりあえず「読書ファイル」と改称しました。そのとりあえずが三年以上つづいています。なにかいい名称があったら、ご一報ください。
May16
 先日、「群像」新人賞の授賞式がありました。この数年、沈滞気味だったのですが、今年は受賞作が充実していたせいか、久しぶりに盛会でした。
よくできました  複数の方から、最近、「ほら貝」の表示がおかしいと指摘を受けました。InternetExplorer(以下、IE)で閲覧している方は背景色が薄くなったくらいにしか感じていないと思いますが、先月から一部のページでタグをHTML 4.01 Transitionalにできるだけあわせるようにしました。。「」と「映画」、「作家事典」では変更が終わっています。<LINK REV="MADE" HREF="mailto:〜"> をわざと入れないとか、メンテナンスしやすいように、アンカーを宙ぶらりんにするとか、わざと文法を無視している部分もありますが、Another HTML-lintの採点では及第点です。
 UTF-8への全面移行や、xhtmlへの移行も考えましたが、時期尚早のようなので、見送りました。
 今回の見直しには副作用もあります。古いブラウザで閲覧すると、JIS基本漢字にない文字は「?」になりますし、見出しや著作権表示の上下の空きがなくなったり、目次やトップページへのリンクが左寄せの状態でレイアウトされたりします。
 問題はNetscape4(以下、NN4)です。W3Cのカスケーディング・スタイルシート準拠をうたっているものの、実際はNetscape社独自のJavaスクリプト・スタイルシートを実装したといわれており、しかもバグが多く、困った代物です。pngの透過色も無視します(下図参照)。
 NN4が登場したのは、IEとのシェア逆転前夜でしたから、Netscape社としては独自仕様のスタイルシートを一気に広め、IEを振り切ろうとしたのでしょうが、墓穴を掘る結果に終わりました。NN6ではW3C尊重路線に転じています。NN4をお使いの方は、編集」→「設定」→「詳細」で「スタイルシートを有効にする」のチェックをはずした状態でご覧になった方がよいでしょう。
 昨年11月に調べたところ、Netscape利用者は12%程度まで落ちこみ、NN4とNN6がほぼ同比率でした。この程度なら、半年もすれば、ほとんどNN6に入れ換わるだろうと思い、今回のタグ変更に踏みきりました。
2001年5月のブラウザ分布  苦情が来た機会に、前回よりも詳しい統計をとってみました。期間は5月6日〜12日の一週間です。
 その結果が左のグラフです。Netscape利用者の比率は12%と変わらないのですが、NN6はわずか2%に落ちこみ、NN4が10%近くまで盛りかえしていました。NN6が気にいらなくて、NN4にもどした方が多かったのでしょう。NN6はW3Cに忠実と、その筋では評価が高いのですが、ここまで嫌われているとは思いませんでした。
 下の二つのグラフはNetscpe利用者とIE利用者のOS分布です。
Netscape利用者のOS分布
MSIE利用者のOS分布
 IEの利用者は、下右のグラフの全来訪者のOS分布とほぼ同じなのですが、NN利用者の場合、現在、主流のWindows98、WindowsMe、Windows2000がすくなく、それ以外のOS利用者の比率が増えています。Unix系はIEがないという条件もありますが、対照的です。
 ごく大雑把な集計をした結果、NN4利用者は会社や大学からアクセスする比率が高く、「文字コード問題を考える」のコーナーに偏っている傾向がありました。他方、IEでは自宅から来訪し、文学系のページを閲覧する方が多いようです。
 NN4は主義というか、趣味というべきか、コンピュータに対して独特の思いいれをもっている方が多いような気がします。初心者はIEを使っているはずです。
2001年5月のOS分布  集計してみると、いろいろ面白いです。マスコミで喧伝されているLinux利用者は1%でした。Unix系は全部合わせても2%で、Linux、SunOS、FreeBSDが5:4:1の割合です(NetBSDとIRIXはごく少数)。Linuxがすくないのはサイトの性格によるところが大きいでしょうが、個人用途では騒がれるほどには使われていないのかもしれません。
 まだプレビュー段階のIE6が、NN6の半分近くにまで迫っているのも驚きです。高速回線が普及した結果でしょう。ここまでNN6が不人気だと、Netscapeの将来はいよいよ暗いでしょう。
 最初の集計スクリプトで数字が合わないと思ったら、Windows Meは「Windows 98; Win 9x 4.90」のように記録されていて、Win98の方で二重にカウントしていました。Meは98のマイナーチェンジだと、マイクロソフト自身が公言しているわけです。
 Mac用ブラウザのiCabが「Lynx/2.8 (compatible; iCab 2.5:」と「Mozilla/4.5 (compatible; iCab 2.5;」という二つの名称で記録されているのも不可解です。Mac用のテキストブラウザなんて悪い冗談です。
 「Mozilla/2」という石器時代のブラウザが一勢力をつくっていたのですが、正体はBTRONブラウザのBBBでした。compatibleと断っていないために「Mozilla/2」としてカウントしていたわけです。
 正真正銘のMozilla/2やMozilla/3によるアクセスも、少数ですが、ありました。DreamPassport(ドリーム・キャストのブラウザ?)、AVE-Frontという添書からすると、セットトップ・ボックスやゲーム機の組みこみブラウザのようです。WebTVでも、MSIE2(!)を使っていました。組みこみではアップデートできませんから、石器時代のブラウザを使いつづけるしかないのでしょう。セットトップボックスを選んだのが間違いなのです。
 グラフにはあらわれていませんが、Windows3.1をお使いの方が数名おられたのも、意外でした。よく落ちるし、機能が貧弱だし、使いつづけるメリットはないと思うのですが。その一方、「Windows NT 6」の利用者がいました。噂のWindowsXPでしょうか。
 結果的には古いブラウザをお使いの読者を切り捨てることになりますが、NN4ユーザーは主義というか、趣味というのか、信念で使いつづけているのでしょうから、自業自得というものです。
Jun22
 今月にはいって体調がすぐれず、気分が滅入っいました。「ほら貝」の原稿は締切がないので、つい延ばし延ばしになってしまい、今日、四月分の映画ファイルを追加しました。
 ルーチンの更新が遅れているだけでなく、「ユニコード移行期をどう乗り切るか」というページも遅れています。先月中に出す予定だったのですが、いつになることやら。
 ADSLが回通して、ちょうど一ヶ月になるのですが、当初は感激したものの(映画の予告編が見られるようになりました)、もうこの速度が当たり前になってしまい、遅く感じるようになりました。ご多分に漏れず、MTUの調整をやったり……。馴れは怖いです。
 同じ時間帯でも、サイトによって速度がかなり違うところをみると、送り手側の限界が出はじめているようです。Yahoo BBの2000円台のDSLサービスは魅力的ですが、DSLが一気に普及すると、サーバー側の増強が必要になってくるでしょう。
ファイアーウォールの警告
 ファイアーウォールを建てたところ、二日に一度くらいの頻度でアタックがあります。侵入があると、右のような吹きだしがポップアップするのですが、最初は驚いたものの、今ではまたかという感じです。馴れてはいけないのですが。
 iモードのSPAMが話題になっていますが、なぜSPAMの依頼主と発送代行業者を告発しないのか、不思議です。パソコンのSPAMは精神的な苦痛だけですが、iモードの場合、1円でも2円でも、実質的な損害があるわけで、告発は可能だと思います。
 SPAM依頼主とSPAM代行業者を懲らしめるせっかくの機会なのだから、DoCoMoは弥縫策でお茶を濁さず、ユーザーの声をまとめて動くべきです。
 現行法でできることをしないと、「個人情報保護法」と称する情断法が説得力をもちかねません。情断法を廃案にするためにも、この機会にSPAM業者を告発した方がいいと思います。
Aug19
 このところ、更新がとどこおっていましたが、理由は簡単で、蔵書の整理というか、捨てる本の選りわけに忙しかったのと、某団体の電子ライブラリー・プロジェクトに関係したために、時間がなかったのです。
 本の整理の方は、捨てても、捨てても、SFが出てきた、気が狂いそうでした。20才までの読書がその人間の本質を決めるという説がありますが、それが正しければ、ぼくなど100%、SF漬けの人間です。
 「死んだらみんなゴミ、死んだらみんなゴミ……」と呪文を唱えながら、本を捨てていくのですが、ブラッドベリの『火星人記録』など、黄変した元々社SFシリーズまで出てきて、SFの半分は残してしまいました。もはや読みかえすことはないのですが、困ったものです。
 批評のまねごとを書いていたワセダ・ミステリ・クラブの「アステロイド」、「フェニックス」や、翻訳を載せていた「SF宝石」も大量に出てきたので、SFコーナーに載せるかもしれません。乞う、ご期待。
Aug31
 「作家事典」の尾崎翠の項に載せるために、関連ページを探したところ、『第七官界彷徨〜尾崎翠を探して』の上映会(8月26日〜9月1日)の案内にぶつかりました。
 この映画のことは1998年の公開時から気になっていたのですが、白石加代子主演なので、敬遠していました。白石加代子はすばらしい女優ですが、あの迫力ですから、一度見てしまったら、白石版尾崎翠から抜けられなくなると警戒したのです。
 一昨年、紀伊国屋で上映会があった時も、迷ったものの、やめました。しかし、今回を逃すと、スクリーンで見ることは難しいでしょうし、あいうえお順二巡目に来ている「作家事典」で、尾崎翠をとりあげた月に上映会があるというのは、見ておけよという映画の神様のお告げかもしれないので、見てきました。
 会場は表参道の国連大学の並びのビルの地下一階で、ウィメンズプラザといいます。果たして観客のほとんどはフェミニズム系の活動家らしく、その筋の会話が聞こえてきます。
 えらいところへ来なと思いましたが、映画そのものは若干の傷はあるものの、すばらしい出来でした(詳しくは「映画ファイル」に書きます)。「作家事典」に載せる前に、オザキではなく、オサキだとわかったのもラッキーでした。
 尾崎翠は「第七官界彷徨」で注目された直後、故郷に引っこみ、まったく忘れ去られますが、花田清輝が1960年に書いた安部公房論の中で言及したことが契機となり、『黒いユーモア』というアンソロジーに「第七官界彷徨」が収録され、再評価がはじまります。その意味で、安部公房とは因縁浅からぬ作家です。
 午後4時30分一回だけの上映ですが、明日までやっているので、東京近郊にお住まいの方は、この機会にご覧になるとよいでしょう。
Sep01
 昨日、加入しているプロバイダのメール・サーバーがトラブルを起こし、今日の午後、復旧するまで、30数時間にわたってメールが使えませんでした。
 問い合わせたところ、次のようなお詫びメールが届きました。

>8月31日(金)早朝から一部のユーザの方々にメールの受信障害が発生いた
>しました。この障害はメールサーバー上のプログラムの障害によるもので、
>9月1日(土)午後1時回復いたしましたが、メールが受信できなかったお客
>様におかれましては、大変ご迷惑をおかけいたしまして、申し訳ございま
>せんでした。
>
>万一引き続きメールの受信障害が生じている場合には、お手数ですが弊社
>までご連絡いただけますようお願い申し上げます。

 受信できればともかく、30数時間の間に届いたメールがすべて消えるという事故を起こしながら、このメール一本で済ませようというのですから、あきれます(注: メールは三日遅れですべて届いた。→ 9月5日)。
 この期間にメールをくださった方は、申しわけありませんが、もう一度お送りください。
 一つ気になるのは、これだけの事故を起こしながら、プロバイダのホームページに今もって告知がないことです。障害が起きたのが一部のユーザーに限られるというのも、ひっかかります。
 「月刊ほら貝」で盗聴法批判の記事を配信した直後だけに、盗聴プログラムをしかけようとしてトラブったのでは……という空想が一瞬浮かびましたが(費用はただ同然ですから、片っ端から予防盗聴をやるでしょう)、加入しているプロバイダは、技術力の不足を嘘をつくことでカバーした前科のある会社なので、例によって知らんぷりを決めこんでいるだけかもしれません。
Sep05
 昨日、8月31日〜9月1日の間に届いたメールが三日遅れで届きました。三日もかかっては、届いたことにはなりませんが、行方不明のままよりはましです。メールサーバーの障害についての詳しい説明もようやくありました。一応、一件落着ですが、プロバイダのホームページには今もって障害の告知はありません。障害の範囲が限られているので、頬かむりしようということでしょうか。あのプロバイダのやりそうなことですが。
 メールアドレスを移すことはずっと懸案なのですが、あちこちに移転通知を出したり、メーリングリストやメルマガの再登録の手間を考えると、二の足を踏みます。
 必要があって、Netscape6.1をダウンロードしました。さすがADSLで、五分足らずでおろせました。
 Netscape6.0は、バグの多さもさることながら、動作があまりにも重いので、いったん6.0をいれたものの、4.xにもどす人があいつぎ、四年も前のブラウザが現役をつづけるという異常事態をまねきました(→ 5月16日のグラフ)。
 Netscape6.1は動作に関する限り、6.0よりも重いです。新機能の追加は最小限におさえ、バグ退治とパフォーマンスの向上を目指したといわれていますが、これだけ重いと、なにをやっていたのかと疑りたくなります。
 フォント関係の指定をすると、そのセクションが無効になるというバグは治っていましたが、相変わらず指定したフォントは無視されます。不可解なのは、png画像の透過色に未だに未対応なことです。透過色に対応するくらい、簡単だと思うのですが、どうしてこういう手抜きをするのでしょうか。
 一時はマイクロソフトに代わって、コンピュータ業界を支配するといわれていたNetscape社ですが、Netscape4の延長で作っていたNetscape5を蜂起し、AOLに身売りし、有能な社員からどんどんやめていき、残ったのはカスばかりと言われていますが、Netscape6.1の出来を見ると、やはりそうだったのかなと思いました。
 マイクロソフト嫌いの人はあれこれ言うでしょうが、もうNetscapeはおしまいです。これからはNetscapeは完全に無視することにします。
Sep12
 今更ですが、昨夜のアメリカ同時多発テロには驚きました。時間がたつにつれ、素人カメラマンの撮影したいろいろなアングルからの映像が出てきて、世界貿易センタービルの壁面に、左にバンクした飛行機が旋回しながら激突し、機体の形の穴があき、炎と煙が噴きだすところまで、映しだされました。
 ベストアングルでないところに、映画にはない生々しさがあります。劇場犯罪の時代ですから、操縦席にTVカメラを据えつけ、ライブで中継しながら突っこむなんていうことをはじめるかもしれません。
 ニュースを知ったパレスチナの人々が歓声をあげるさまも、生々しかったです。漏れ聞くところによると、元左翼関係者が一様に留飲を下げているということですが(これで世界恐慌が起きれば、また出番がくるくらいは期待しているでしょう)、ニューヨークやペンタゴンがああいうことになって、内心ざまあみろと思っている人はすくなくないでしょう。
 極東でテロを起こすというガセネタが流れ、情報機関が振りまわされたらしいですが、それが事実なら、噂のエシュロンは裏をかかれた格好です。
 推測ですが、エシュロンで盗聴したものの、暗号を使っていたので解読が間にあわなかったということではないでしょうか。暗号はいつかは解読できますが、事件までに解読できなければ、解読できないのと同じです。「施行一年目の通信傍受法」に書きましたが、いくらメールを傍受しても、犯罪捜査には役に立たない可能性が高いのです(ただし、一般国民の監視には威力を発揮します)。
 物理的なテロは当分ないでしょうが、サイバーテロは増えそうな予感がします。インターネットは、ニューヨークの摩天楼同様、アメリカ一人勝ちの象徴だからです。
 靖国問題の前後、政府機関のWWWページが書きかえられるという事件が頻発しましたが、単なる書き換えなら、サイト管理者の面子がつぶれるだけですが、悪質なウィルスが蔓延したら、経済は大混乱するでしょう。
 テロとはいえませんが、中国のGB18030なども、反グローバリズムのあらわれといえるのではないでしょうか。
 中国がIRGで、とんでもない「通告」をしたという話は、昨年の暮に聞いていましたが(その時の「スーパーCJK」がGB18030だったわけです)、アメリカの「グローバルスタンダード」に対する中国の反感は文字コードだけではなく、Linuxにもおよんでいるというような話でした。
Sep16
 案の定というか、アメリカ政府は、同時多発テロを承知の上でやらせたのだという謀略説が一斉に出てきました。
 小ブッシュ大統領が事件時、ホワイトハウスを出て、フロリダにいたことが判明した時点で、おやと思った人はすくなくないと思いますが、「第二の真珠湾攻撃」という呼び方がアメリカで広まっていると報じられるにおよび、いろいろの方が謀略の可能性を指摘しています。
 まず、「勝谷誠彦の××な日々」は2001/09/13の項で「ブッシュに「未必の故意」はなかったか」と疑問を呈し、翌日の項では「犯行報告の電話は傍受できても阻止はできない不思議な情報機関」とからかっています。
 栗本慎一郎氏の「真珠湾を越える真珠湾」は、急落した株価から世界同時不況を心配する説を「生産基盤はそもそも全く壊れていない」と一刀両断し、

 復旧は、一方でIT関係の新規需要を生む。それ以上にブッシュ政権は、国民の結束を背景に前政権下で蓄えられ、福祉にだけ使えと言われていた金を減税なり公共投資なりに使えるようになった。アメリカ国民は支持基盤が本来は弱かったブッシュ政権のもとに結集し、個人消費も強めて、景気上昇に向かっていく可能性がある。

と断定します。栗本氏は1929年の世界大恐慌を本当に解決したのはニューディール政策ではなく、第二次大戦だったという最近の研究を紹介したことがありますから、当然、出てくる見方ですが、さらに「マークされていたはずのラディン系アラブ人たちがこれだけのテロを組織出来たのだろうか。これに大きな疑問符がつくのは当然だ」と論を進めます(現在の「生産基盤」は工場ではなく、今回破壊されたハイテク・オフィスですから、アメリカが打撃を受けなかったとはいえないでしょう)。
 その一方、宮崎学氏のように、アメリカの情報機関は言われているほどの能力はもっていないという見方も出てくるわけです。
 真珠湾のルーズベルト謀略説なんていうのもありましたが、今回の事件に関する限り、現時点では宮崎氏の喧嘩のプロとしての意見の方が説得力があるかなと感じています。
 法を決める権限をもつのは神だけだという立場から見れば、民主主義は神に対する冒瀆意外のなにものでもありません。その伝でいえば、インターネットの理想もアメリカの謀略になるわけで、サイバーテロでネットを機能不全に陥れようとしたとしても不思議はありません。
 閑話休題。ルビタグ簡単入力ツールRubyの作者の杉本さんが、UCS数値参照の文字を確認するための文字参照ツールを公開されました。シフトJIS文書中でユニコード漢字を使うために必須のツールが誕生したことをうれしく思います。。
 その関連というわけではありませんが、WWW表現のサンプルとして、上司小剣の「鱧の皮」を、「e文具案内」に掲載しました。
Sep30
 先日、日本ペンクラブの代表として、文字コード体系委員会に出ました。文字コードから離れて一年半たちますが、最近はどうなっているのだろうと、怖いもの見たさで出席したのですが、実際、恐ろしいことになっていました。
 『電脳社会の日本語』をお読みになった方なら、ユニコードが漢字統合を実質的に放棄したことはご存知と思いますが、ユニコードとISO 10646の統合の際に無理難題を通した某国が数万字の異体字追加要求をしているというのですね。しかも、その異体字のソースはきわめて問題がある上に、某国のナショナリズム(「文字コード問題を考える」に掲載した某団体とのインタビューにヒントがあります)に直結する代物なので、国際的には反対しにくい状況らしいです(すくなくとも、過去の経緯から、日本としては反対できません)。新字種はあらかた出つくした観がありますが、他の国も異体字追加には熱心なので、拡張Cは六万字を越える規模になるかもしれません。
 どういうわけか、ISO 10646とユニコードが漢字統合をやめた件は一般にはほとんど知られていません。今年の二月でしたか、坂村健氏が「諸君」にユニコード批判を発表したのですが、あいもかわらぬ漢字統合批判に終始していました(他に材料がないのでしょう)。坂村氏が文字コードの現状をご存知ないはずはないわけで、自分のプロジェクトを守らんがために、間違った情報を流しているということでしょうか。
 なぜ日本ペンクラブに入会したかというと、この秋、電子文藝館というディジタル・ライブラリを開設することになり、電子メディア研究委員会委員長の秦恒平氏から手伝わないかと声がかかったからでした。
 ペンクラブのホームページはアサヒネットに間借り状態だったので、当然、www.japanpen.or.jpと www.bungeikan.or,jpという二つの新サイトを立ちあがるのだろうと思っていたのですが、一体感を高めるために一つにした方がいいという事務局の強い要望が通り、www.japanpen.or.jpのトップページに「本館・文藝館」の選択ページを置き、本館と文藝館をkouhouとbungeikanというディレクトリに対等にならべるという形に決まりました。
 個人でもいくつもドメインをもっている時代に、ペンクラブのような団体がドメインを節約するというのは理解できないのですが、こういう形になってしまったわけです。
 文藝館の基本設計とテスト版の製作はわたしがやらせていただき、色決めのページなど一時的なものもふくめると、43のページを作りました。この二ヶ月、更新がままならなかったのは、文藝館にかかりきりになっていたからでした。
 予定では11月27日の「ペンの日」に新サイト www.japanpen.pen.or.jpを公開し、本館・文藝館を同時オープンするはずだったのですが、どういうわけか、現用のwww.mmjp.or.jp/japan-penclub/のトップページは早くも引越通知に切り替わり、新サイトが9月20日の時点で一般公開されていました。こういう形でオープンしていたなどとは、電子メディア委員会のメンバーは知らされていなかったのですが。
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