新年おめでとうございます。みなさんの幸あらんことを。
エディトリアルがまるまる2ヶ月分たまってしまったので、新年を機に horagai.comの方は仕切り直しをして、実際の日付にあわせることにした。11月、12月の2ヶ月分はほら貝blog の方でおいおい公開していく予定である。
昨年中に公開する予定だったコンテンツの公開や、かねて懸案の「演劇ファイル」と「映画ファイル」の復活も予定している。エディトリアルに載せた演劇評と映画評は「演劇ファイル」と「映画ファイル」に移動させることになるだろう。
ということで、本年もご愛読のほどを。
新年早々きなくさいニュースが流れている。民主党が有害サイトの削除をプロバイダに義務づける法案を準備しているというのだ(日経)。記事から引く。
検討中の法案では、サイト開設者やプロバイダーは違法情報を発見し次第、削除しなくてはならないと規定。違法かどうか明確でなくとも、有害な恐れがある場合は児童が閲覧できなくなるような措置を講じるよう義務付ける。罰則を設けることも視野に入れる。
若者保護を前面に押し立て、自殺勧誘、出会い系、児童ポルノとならべているが、「違法かどうか明確でなくとも、有害な恐れがある場合」も規制対象とするという。こういう曖昧な規制は役人に悪用されかねないし、すくなくともプロバイダの過剰な自己規制をまねく。
近年、マイノリティ利権の一部が明るみに出て、都市伝説あつかいされていた在日利権が事実だったことがわかった。やっとおかしいことをおかしいと言えるようになったのに、こんな法律ができたら、プロバイダの過剰な自己規制によって普通の掲示板やblogで議論できなくなり、批判が封殺されてしまうだろう。この法案は人権「擁護」法と同様の危険性をもつ。
いくら国内のプロバイダを規制しても、犯罪者は商売だから外国のサーバーに逃げるに決まっている。無菌思想は犯罪の撲滅ではなく、言論の封殺をまねく。ネット犯罪を防ぐには遠回りなようでも子供に情報の裏読みを教え、すれっからしにしていくしかない。民主党と民主党に肩入れする左翼マスコミは、国民が情報の裏読み能力を持つことを怖れているのだろうか。
民主党は与党と共同提案を考慮しているというから、最悪の場合、今の国会で通る可能性が高い。早急に声を上げる必要がある。
「日高義樹ワシントン・リポート」で新春恒例の「キッシンジャー博士の十の予測」をやっていた。例年たいしたことは言わないが、今年は中国関係の楽観的な見通しが目についた。北京五輪後のバブル崩壊はなく、民族主義の暴発もないと断言したのである。
ロシアに対しても好意的な見方をしていた。プーチンは新たなナショナル・アイデンティティをロシア国民にあたえようとしているだけで、第二の冷戦をはじめるつもりはない。ロシアは石油を武器に使っているが、それは産油国ならどこでもやっていることだ。石油はいつかは売らなければならないし、買い手に信頼されるためには安定供給をせざるをえないというわけだ。
ロシア擁護論には一応説得力があるが、中国楽観論の方は眉に唾をつけて聞いておいた方がいい。不動産バブルが膨らむところまで膨らんでいるし、サブプライム・ローン問題が長引いて国際金融が不安定になっている。地域格差や都市部の貧富の差が危機的なところまで広がっている。
年末にNHKの「激流中国」をまとめて見たが、中国の庶民は無理をしてでも子供を大学にいかせれば、将来、必ず豊かになれるという幻想で耐えているようである。しかし大学出はもうだぶついているし、条件のいい仕事は共産党幹部の子弟でなければつくことができない。無理をして大学にいっても豊かになれないとわかったら、庶民の間にたまりにたまった不満はどうなるのか。もし景気が失速して失業者が街にあふれたら、キッシンジャーの楽観論とは裏腹に、中国は大変なことになるだろう。
イラクについても楽観的な見方をしていた。ちょっと驚いたのはキッシンジャーも日高氏も昨年春の米軍増派が成功したという前提で話していることだった。日本のマスコミは自爆テロの激化ばかりを伝え、サイゴン陥落前夜のベトナムのような印象を作りあげているが、米軍増派で掃討が進みイラク軍に引き継ぐ体制が整いつつあるらしい。自爆テロが増えたのは自爆テロ以外の攻撃が出来なくなったからなのかもしれない。
楽観論がつづく中、北朝鮮についてだけは厳しい見方をしていた。一応、北朝鮮が核兵器と核物質と核拡散をすべて申告し、破棄をはじめればライス訪朝もありうると語ったが、北朝鮮は今のところ約束を何も果たしていないし、またぞろ引き伸ばしをはかっている疑いがあると懸念を述べた。ブッシュ親書についても北朝鮮が約束を守るなら賢明な方策だったと言えるが、北朝鮮が親書の文言に安心し、自己正当化をするなら賢明ではなかったと突きはなしている。
日高氏がキッシンジャーがかつて金正日の退陣以外に北朝鮮問題の解決はないと語った点をとりあげ、今も同じ考えかと訊いたところ、北朝鮮が核兵器を破棄したら金正日体制はもちこたえられない、アメリカが転覆させるまでもないと切って捨てていた。
北朝鮮が韓国に侵攻する可能性については否定はしなかった。国家体制が崩壊しているので1950年のようなことはできないが、一週間かそこらローカルな騒動を起こすことはできるというわけだ。
キッシンジャーは今年は大統領選挙があるので現状維持だと締めくくっていたが、北東アジアはあぶないかもしれない。
NHKは昨日と今日、二夜連続で新型インフルエンザの
政府には新型インフルエンザを想定した行動計画があったが、権限問題で小田原評定をつづけ、やっと村を封鎖したものの、時すでに遅く、産廃の不法投棄で村に来た青年が東京にもどってしまう。青年はワーキングプアで、健康保険がないために医者にかかれないままどんどん感染を広げていく。そして、首都圏で感染爆発がはじまる。
感染が拡大しているのに、役人は小田原評定をつづけるだけに何もしない。WHOが最悪のフェイズ6を勧告し、首相が非常事態宣言をしてようやく動きだすが、もう手のほどこしようがない。物流が止まり、病院から医師が逃げだし、社会基盤が崩壊していく。
低予算のドラマで迫力は今ひとつだったが、どれもありそうなことで見終わった後に不安がじわじわつのってくる。
第二夜の「調査報告 新型インフルエンザの恐怖」はドキュメンタリで、こちらはドラマよりもはるかに怖かった。
まず、インドネシアで起こった人=人感染の例を紹介したが、驚いたのは感染の疑いのある人間が二人も行方不明になっていたことだ。一人は感染者の家族で、民間療法家のところに逃げこんでいたのを発見されるが、病院に搬送中に新型インフルエンザで死亡する。もう一人は治療にあたった看護士で、こちらは従来型のインフルエンザだったが、もし新型インフルエンザに感染していたら、体内で従来型インフルエンザと遺伝子組み換えが起こり、より感染力の強い新型インフルエンザが誕生していた可能性があるという。
死亡率60%で一般人がパニくるのはしょうがないが、医学知識を持っているはずの看護士が病院を逃げだすとはどういうことだろうか。途上国で新型インフルエンザが発生したら、衛生状態だけでなく社会的な要因によっても封じこめは無理だろう。
次にアメリカの対策が紹介されたが、これは第一夜のドラマで描かれた無能な日本政府のすべて逆と言っていい。日本は二千万人分のワクチンを作る準備しかしていないが、アメリカは全国民のワクチンを新型ウィルス出現後半年以内に作る手配を終えている。ワクチンを射つ優先順位の議論も進んでいて、当初、連邦政府は高齢者を優先するとしていたが、国民からの声によって子供優先に転換したという。
ドラマでは医師が専門外を理由にインフルエンザ患者の治療を拒否したり、病院から逃亡するエピソードが出てきたが、アメリカでは最悪1/3の医師が倒れることを想定して、歯科医師まで動員する体制が作られている。
タミフルは新型インフルエンザに効くかどうかわからないし、効いたとしてもすぐに耐性ウィルスが出てくるだろう。最後は人工呼吸器で延命し、免疫が対応できるようになるのを待つしかない。
新型インフルエンザでは人工呼吸器が生死を決めるのに、日本には日常業務に必要な数の人工呼吸器しかないそうである。ドラマでは人工呼吸器が足りなくなり、三浦友和演ずる熱血医師が妊婦を救うために末期ガン患者から呼吸器をはずす場面が出てきたが、実際にはそんなことはできないだろう。
一方アメリカでは人工呼吸器の備蓄を進めており、さらに足りなくなった場合にそなえ、延命の望みのなくなった患者から人工呼吸器をはずし、生存の可能性のある患者にまわすことを定めた法律が作られている。戦争なれしていると言うか、効くかどうかわからないタミフルの備蓄だけで終わっている平和ボケ日本とは大変な違いだ。
H5N1インフルエンザは以前は鳥の体温である41度でなければ増殖しなかったが、最近は人間の喉の温度である33度で増殖する株が発見されている。ウィルス側は着々と人類攻略の準備を進めているのである。暮には中国で人=人感染する鳥インフルエンザが発見されたという。
15日と16日の深夜に再放送があるから、見ていない人は見ることをお勧めする。
日本ペンクラブ電子文藝館委員会で国会図書館に行ってきた。電子文藝館では国会図書館のPORTAに参加することを検討していて、その説明を受けがてら電子資料室を見学させていただき、電子図書館の現状についてお話をうかがったのだ。
今日は休館日にあたっていたが、ロビーに人がいないのは妙な感じである。検索用のパソコンにすべて電源がはいっていて、映画の一場面にはいりこんだような妙な感じだった。
DVDやCD-ROMの付属する書籍はすべて電子資料室で閲覧するが、ビューアーをインストールする必要のあるディスクではそのつど係員がパソコンにインストールするそうである。30分くらいかかることがけっこうあって、時にはインストールできないこともあるそうだ。日経新聞のデータベースも毎回ビューアーをインストールしなければならない。サーバーに保存できないのか聞いたところ、毎回CD-ROMを読みこませる形なら納本書籍として無料で利用できるが、サーバーに保存すると別契約になり利用料金がかかるということだった。利用頻度が高いものはできるだけサーバーに蓄積する方向で考えているが、予算の関係でなかなか増やせないらしい。
国会図書館は資料の永久保存を任務の一つとしているが、CDの劣化にどう対処しているのか聞いてみた。CDはOSの違いなどで読めなくなったものはあるが、ディスクの劣化で読めなくなったものはまだないので、緊急の課題とは考えていない。現在はフロッピーの劣化について研究をはじめたところで、CDやDVDの劣化対策は将来の課題になるということだった。
ちなみに、今、電子資料室で一番閲覧が多いのはこの本だそうである。わざわざ国会図書館まで来てモニターをにらみながらマッサージをはじめるオバサンがいるというが、買った方が早いだろうに。
電子図書館の現状についての話も興味深かった。電子図書館については1998年に田屋裕之氏にインタビューさせていただいたが、あれからもう十年たってしまったわけだ。
話題は多岐にわたったが、この1月7日に日経夕刊の一面に大きく載った「国会図書館の本、全国で閲覧可能に・3000万冊をデジタル化」という記事についても聞いてみた。
3000万冊といえば国会図書館の全蔵書である。それが「インターネットを通じて自宅やオフィスで簡単に読める」ようにするというのだから、事実だとすれば大スクープだが、他のメディアの後追い記事はない。そもそも量的に不可能だし、3000万冊の7割は著作権が活きているはずである。著作権を全否定しかねない事業に国会図書館が本当に乗りだしたのだろうか。
案の定、そんな計画はないということだった。いかにも飛ばしくさい記事ではあったが、日経の夕刊一面に載ったので国会図書館には各方面から問い合わせがあり、当惑しているとのことであった。
書籍デジタル化の現状はどうだろうか? 国会図書館は明治・大正期の14万3千冊を「近代デジタルライブラリー」として公開しているが、ライブラリーの対象となる蔵書は880万冊あり、わずか1.6%が完了したにすぎない。平成19年度は8100万円の予算で1万冊をデジタル化したが、20年度には1.3億円に増額し1万5千冊程度がデジタル化されるようだ。書籍のデジタル化には追い風が吹いていて予算がとりやすいそうだが、10倍20倍になるわけではない。仮に年3万冊になったとしても、近代デジタルライブラリー880万冊のデジタル化が完了するには280年かかる。3000万冊だと1000年である。万一予算が10倍に増えたとしても100年かかる計算だ。
デジタル化に手間がかかるのはスキャンをいまだに手作業でやっていることも影響しているようだ。国会図書館には資料の永久保存という任務があるので、Googleが使っているような自動スキャン機は使えないということである。それなら本を傷めない自動スキャン機を日本の技術で独自開発すればいいと思うのだが。
全文テキスト化についてはOCRが古い活字に対応しておらず、明治期の文献ではヒット率が90%まで落ちるということだった。そういえば、SATの『大正大蔵経』電子化では康煕字典体の活字を読むために台湾製のOCRを使っているということだった(「電子テキストの海へ」)。中国の『四庫全書』デジタル化プロジェクトでは手書きの楷書を処理できるOCRを独自開発したということだし(「「アジアの漢字と文献処理」レポート」)、韓国の『高麗大蔵経』電子化プロジェクトではサムスンの研究所が全面的にバックアップしたという。日本のIT企業は何をしているのか。
デジタル化以上に大変なのは著作権の処理である。近代デジタルライブラリー事業を進めるにあたり、明治期の著者7万2730人を調査したところ、70%にあたる5万1千人余が生年月日不詳で著作権保護期間が終わっているかどうか確認できなかった。
保護期間完了 | 20,141名 | 27.69% |
保護期間中 | 777名 | 1.07% |
生年月日不詳 | 51,712名 | 71.10% |
処理未完了 | 100名 | 0.14% |
生年月日不詳の場合、著者が日本人であれば文化庁長官の裁定により補償金を供託することで印刷制限つきのネット公開ができるようになる。補償額は一件あたり51円、利用期間は5年間である。著者が生年月日不詳の外国人の場合は文化庁長官裁定の対象外である。裁定で公開できたのは生年月日不詳者の75%である。
文藝家協会で著作権問題を担当する三田誠広氏によれば裁定条件は緩和の方向で検討が進んでいるということだが、裁定という回り道をとおらなければならない点は変わらない。著作権保護期間の書籍のネット公開にいたっては、Googleでさえ難渋しているくらいで、どだい無理な話である。
IT関係に飛ばし記事はつきものだが、日経は今回もまたやってくれたわけである。
北朝鮮有事の際、中国が北朝鮮に軍の派遣を検討していることが中国人民解放軍内部で検討されているという記事が読売に出た。
中国軍の北朝鮮進駐の可能性は本欄でたびたび指摘してきたし、最近も米国戦略問題研究所(CSIS)と平和研究所(USIP)が共同で同趣旨の報告書を発表したことが報じられたが(朝鮮日報)、人民解放軍内部の話となると穏やかではない。北京オリンピック後を見すえた動きが表面化しつつあるのかもしれない。
興味深いのは中国軍の越境は「国連安全保障理事会の承認が原則的には前提になるとしているが、難民流入が一刻の猶予も許さない場合は、中国が独自判断で派遣する」としている点だ。中国は旧ソ連のアフガン侵攻と違って、国際社会、特にアメリカが北朝鮮進駐を容認すると踏んでいるのだ。
金正日が本当に核を放棄するとは思えない。北朝鮮の核問題を抜本的に解決するには韓国が北朝鮮を吸収するか、中国が保護国にするかのどちらかしかない。北朝鮮はすでに人民元経済圏にとりこまれており、中国軍がはいって核の後始末をし、親中政権を作るぐらいは朝飯前だ。その先にあるのは北朝鮮のチベット化である。北朝鮮復興には莫大な資金がかかるといわれているが、それは自国民と同じようにあつかう場合だ。保護国なら本当に復興させる必要はなく、朝鮮人人口が減っていくのを待てばいい。
韓国の最大の貿易相手国は中国になっている。北朝鮮に中国軍がはいっても韓国には何もできないだろう。中国化した北朝鮮と統一することによって、朝鮮半島は再び中国に呑みこまれていくしかない。
十数年後の日本は台湾的な立場に追いこまれているかもしれない。