エディトリアル   Jan - Aug 1997

加藤弘一 Dec 1996までのエディトリアル
Jan05

 年が明けて、石川淳の読者の方、お二人からメールをいただきました。インターネットは双方向メディアといわれていますが、ほら貝の場合、メールの数はごくごくすくなく、石川淳ページにいたってはほとんど皆無の状態がつづいていました。いきおい更新がおろそかになり、「石川淳を読む」は昨年の 2月19日以来、ほったらかしにしていました。
 今までまったくなかった石川淳ページの反響がつづけてあったのは、メインのページを忘れるなというメッセージでしょう。来年は石川淳の生誕 100年ですから、今年はせっせと更新しなければと思っています。
 というわけで、今年もよろしくお願いします。


Jan24

 最近、日本文学を専攻するアメリカの学生二人から、ほら貝の内容に関する、まともな問い合わせのメールが来ました。
 これまでにも海外からのメールはよく届いていたのですが、大部分はレンタル・サーバーの勧誘などのゴミメールでした。サーチエンジンの上位にエントリーされる秘密のタグの書き方を教えるという怪しげなメールが来たこともありますし、日本に住んだことのある人から、日本を舞台にした小説を書いたから出版社を紹介してくれというメールが来たこともあります。尖閣諸島の騒ぎの時には、香港の市民団体から抗議メールが来ました(笑)。
 安部公房に関するメールが来たこともありますが、安部の小説は柔道の技にすると解けるという珍説で(「砂の女崩し」とか、「箱男固め」という技を考えたのだそうです)、げんなりしました。
 相変わらずゴミメールも来ますが、まともな反応があるのはうれしいものです。先日の石川淳愛読者の方からのメールといい、当初想定していた読者に、ほら貝の存在がようやく知られるようになったということでしょう。


Feb14

 このところ、文芸ホットリストを更新していませんが、新しいページ探しを休んでいるわけではないんです。すくなくとも、週に一、二回は文学系の新サイトをもとめて、WWW上を徘徊しています。
 これまでの経験からいうと、ゴールデンウィークやお盆休みといった長期の休暇の後には、新サイトがたくさんできていて、質的にも粒がそろっているようです。いろいろなツールが出て、簡単になったとはいっても、はじめてWWWページをつくるのはハードルが高いでしょうし、中味をそろえるにも時間がかかります。まとまった休みがないと難しいのではないかと思います。
 11月、12月と低調な印象があったので、正月明けに期待したのですが、残念ながら不発でした。今年にはいってからは、文学系に限らず、ページの新設そのものが以前よりすくなくなっているような気がします。
 インターネット関連の出版は、単行本も雑誌も、あいかわらず盛況のようですが、実売部数はどうなんでしょうね。


Feb21

 昨日は、朝、TVをつけたとたん、ケ小平氏逝去の報が流れ、びっくりしました(「ケ」という文字は、NECが勝手に入れた文字ですから、Windows以外では表示できないでしょう)。あわてて新聞を広げると、なんと埴谷雄高氏の訃報。二〇世紀はもうすぐ終わるのだなと感慨を深くしました。
 最近の読者の方は御存知ないかもしれませんが、第四章までで20年以上執筆が中断していた『死霊』の第五章が、1976年に「群像」に掲載された時は、文学的な事件でした。
 たまたま「群像」で最初に担当してくれた編集者の方は、埴谷宅に粘り強く通い、第五章の原稿を一枚、また一枚と受け取り、ついに発表までこぎつけたという人だったのですが、当時は「形而上小説」というキャッチフレーズに反発し、読まず嫌いを決めこんでいたので、詳しい話を聞きそこないました。
 その後、映画論を読んだのをきっかけに埴谷作品に親しむようになり、『死霊』も実際に読んでみると、スラップスティックの要素もあるおもしろい小説だとわかり、埴谷ファンになりました。「形而上小説」という面も確かにあるけれども、『死霊』という小説はもっと懐の深い作品ですから、まだ読まず嫌いをしている方がいたら、一度、読んでみることをお勧めします。


Mar14

 「文字コード問題早わかり」で、JIS X 0213や XKPについては、マスコミがどこも報じていないと書いたところ、どの雑誌の何年何月号に記事があったというメールを何通もいただきました。記事の筆者や担当編集者の方からのご教示もあって、汗顔のいたりです。
 不勉強の言い訳になってしまいますが、昨今のパソコン関係の雑誌の増殖ぶりはすさまじく、なかなかカバーできるものではありません。また、日経コンピュータや日経バイトのように、ひじょうに評価の高くても、1年以上の予約購読でしか入手できない雑誌では、載っていることがわかっても読めないという事情があります。
 図書館で閲覧できればいいのですが、そうもいきません。文字コード問題を調べてわかったのですが、コンピュータ関係の雑誌は図書館にはろくに置いていないのです。
 「インターフェース」というコンピュータ関係では老舗の、重要な雑誌がありますが、この雑誌は都立中央図書館にも、日比谷図書館にも、新宿中央図書館にも置いてありません。「インターフェース」が読める公立図書館は、国会図書館を除くと、都内では二つだけだそうでで、幸い、そのうちの一つの世田谷中央図書館では1989年以降のバックナンバーを保存しています。「SUPER ASCII」という、かなり評価の高い雑誌にいたっては、やはり二つの図書館で読めるものの、バックナンバーの保存は一年だけです。
 仕方がないので、書店で入手できるものは入手し、残りは悪夢の国会図書館で閲覧しました。国会図書館にはなるべく行かないようにしているのですが、今回もたっぷり不愉快な目にあいました。図書の保存のためには、出来るだけ利用者に嫌がらせをして、閲覧する気をなくさせた方がいいのでしょうが、それにしても最低最悪の図書館です。
 大書店のパソコン関連コーナーには、かならず雑誌のバックナンバーの棚がありますから、過去の記事の需要はあるはずです。パソコン関係の雑誌は重く、かさばりますから、個人で持ちつづけるのは文系の雑誌にもまして困難です。こういうものこそ、図書館で保存すべきだと思うんですが。


Mar27

 最後まで難航していたユニコード篇をやっと書きおえました。「文字コード問題早わかり」はこれで完結とします。「カタカナ篇」をアップロードしたのは昨年の10月31日でしたから、準備期間までふくめると、半年以上かかったことになります。これでようやく、ほら貝本来の活動にもどれます。
 当初はここまで長いものにするつもりはなく、「早わかり」という題名どおり、簡潔にまとめるはずだったのですが、文字コードの問題は実に奥が深く、その割りには通史的な文章がなかったので、この長さになってしまいました。
 掲載後、JCS委員会の芝野委員長をはじめとする多数の方から、細部にわたる懇切なご教示をいただき、多くの間違いを正すことができたのは幸いでした。まだ勘違いがあると思いますし、正直な話、よく理解できない点もいくつか残っていますが、だんだんに直していこうと思っています。
 「早わかり」の読者は意外な広範囲におよび、工業技術院の責任ある立場の方から「参考にしている」という連絡をいただいた時は驚きました。はげましの意味が大きいのだろうと受けとりましたが、インターネットの浸透力には恐るべきものがあります。
 なお、「カタカナ篇」、「漢字篇」、「続・漢字篇」は、2月末にかなり大幅な書き直しをおこなっています。それ以前にお読みになった方は、ごめんどうでも、再度目をとおされることをお勧めします。


Apr22

 よくディジタル・データは永遠に劣化しないといいますが、ことWWWに限っては、ひどく果敢ないようです。文芸ホットリストにリンクしてある中から、最近、「樋口一葉」ページと「南総里見八犬伝」ページがアクセス不能になりました。すこし前には、英語圏の文学系リンク集としてはもっとも選択眼のすぐれていた「Bohemian Link」が消えていました。
 「樋口一葉」と「南総里見八犬伝」は、URLを見ると、大学のサーバーの学生用エリアを使っているようでしたから、多分、卒業で消えてしまったのでしょう。どちらもすぐれたページだけに、残念なことです。
 そういえば、演劇系ページの総本山というべき西角ページは、東大生産工学研究所のサーバーから、RIMネットに移転していました。消えた二つのページも、どこかでつづいていてくれたらいいのですが。
 日本の場合、まだWWW文化ははじまったばかりなので、ページの移転や消滅はそれほど多くありませんが、アメリカの場合、ひじょうに多く、ディレクトリサービスやサーチエンジンから飛ぼうとしても、Not Foundになることがしょっちゅあります。リンク集も作りっぱなしでは駄目で、頻繁にメンテナンスをしないといけないんですね。
 ほら貝では、初期の頃、本文中にリンクをたくさん埋めこむようにしていました。リンクがたくさんはってあると楽しいからなのですが、WWWページが果敢ないものだと気がついてからは、公的機関など、永続性が期待できるページ以外のリンクは避けるようにしています。文芸ホットリストのメンテナンスだけでも手間なのに、本文に散在したリンクの確認まではできないからです。もし、飛ぼうとしたが、Not Foundになったということがあったら、ご一報()いただければ助かります。


Apr30

 Dos時代から愛用している VJEという日本語変換ソフトのバージョンアップの通知が来たのですが、中を見てびっくりしました。日本語変換ソフトのみが 4000円、VJE-Penというワープロソフトつきが 5500円という料金はいつも通りですが、今回は三省堂の「大辞林」CD-ROM版をつけるというのです。
 「大辞林」は「広辞苑」とならぶ代表的な国語辞典で、書籍版は 6400円します。枕のようにぶあつい辞書で、中辞典や小辞典とはわけがちがいます。それが、CD-ROM版とはいえ、4000円の日本語変換ソフト、もしくは 5500円のワープロソフトのおまけでついてくるのです。
 いい時代になったなと思う反面、大丈夫だろうかという不安も生まれます。二〜三年のスパンで見れば、買い得なことはいうまでもありません。しかし、辞書は常にアップデートをはからなければなりませんから、ソフトのおまけになってしまうと、10年後、20年後も現在のような日本を代表する辞書でありつづけることができるのかどうか。
 どういう契約になっているのかはわかりませんが、長年かけて築いてきた活字資産を食いつぶしているような印象がぬぐえません。社内にこんピュータの半可通がいて、時代を先取りするつもりだったのかなと思いましたが、もちろん、推測にすぎません。
 このような感想をもったのは、先日、CD-ROM版百科事典を出しているある会社から、改訂作業に参加しないかというお話をいただいた際、あまりにもお粗末な現状を見て、愕然としたことが影響しているかもしれません。その「百科事典」は、英語版の翻訳をもとに、日本独自の項目をプラスしたものなのですが、実務翻訳系の人たちが訳したらしく、上手い下手のムラはあるものの、総じて百科事典の文章になっていませんでした。「日本ではニシンではなくイワシと総称する」というようなユニークな内容(爆笑)はチェックすれば直せますが、訳文を改善するにはゼロからの作り直しが必要ですから、この種の出版物としては致命的でしょう。
 この話は条件も非常識なものだったので、お断わりしたのですが、コンテンツ・ビジネスとかはやしたてても、所詮、あの程度かとがっかりしました。
 辞書や百科事典は10年前後の準備期間をかけ、出版にこぎつけてからも、5〜6年は赤字というのが普通だといわれています。採算がとれずに終わる辞書・事典はすくなくなく、はっきり言うと文化事業や慈善事業に近いのですね。最初の年から採算がとれるような事典は、眉に唾をつけた方がいいでしょう。
 これまで出版社のディジタル対応の遅れを嘆くようなこと書いてきましたが、最近は、変にフライングするよりは、条件が整うまでなにもしないのが一番いいのではないかと考えています。理系と文系の断絶は思いのほか深刻で、コンピュータ関連会社には文化音痴しかいませんから、文系人間はあせる必要はすこしもないのです。


May31

 先日、友人から、「ほら貝のタイトル画像が変えられている」というメールをもらいました。「ほら貝」という文字が消えていて、代わりに「APPLE SAPORT」という出鱈目な綴りの文字がはいっているというのです。
 すわクラッキングかと確認したところ、タイトル画像は正常でしたし、画像ファイルのタイムスタンプを調べても侵入された形跡はありませんでしたから、逆に警告メールは本物だろうかと疑いました。問題のメールを読んだのは深夜だったので、こういう不審なメールが来たというメールを送りました。
 ところが、翌朝、その友人から電話があり、「問題のメールは確かに自分が送った。タイトル画像は改変されていたのではなく、Apple supportという小さなロゴにすり替えられていた」というのです。
 先週、ある放送局の画像がすり替えられていたという事件があったばかりですから、真似をした人間がいたのかと、もうパニック状態です。しかも、画像を元に戻し、新入の痕跡を消していくとは、かなりの手だれです。プロバイダに連絡して事情を説明しましたが、対応がのろのろ。これだから安かろう悪かろうのプロバイダは困ると、一時は本気でよそへ移ることを考えました。
 その夜、友人からまた連絡があり、また、画像が変えられているとのこと。これにはあわてました。
 間もなくわかったことですが、実はクラッキング騒動は幻でした。友人が大きめのキャッシュを設定していたことからおこったブラウザの異常動作にすぎなかったのですが、この二日間は本当に肝を冷やしました。
 もっとも、収穫もありました。わが安かろう悪かろうプロバイダは、入会当時から較べると格段にセキュリティが向上していて、今回、ばたばたしたおかげで、接続プロバイダとしては、ほぼ一般的な水準までセキュリティを改善していたことが確認できたことです。どこがどう改善されたのかは書けませんが。
 もっとも、わがプロバイダは、入会当時こそ、抜群の安さをほこっていましたが、今となっては安いわけではありません。OCN参入後、低料金プロバイダの相場は半分以下に下落しましたからね。その分、スタッフが経験を積み、料金分のサービスが受けられるようになったことは評価していいでしょう。


Jul08

 「人体の世界」展を見てきました。昨年の 10月に上野の科学博物館でやった時は、行こうか行くまいか迷ったのですが、これだけの展示はもう見られないのと、最近、養老孟司氏の本をまとめて読んだことから、思いきって見に行きました。
 見た方もいらっしゃると思いますが、「人体の世界」展は、プラスティネーションといって、人体にプラスチックを染みこませ、生きているままの形状で保存する技術で作られた医学標本を展示した催しで、会場には輪切りにスライスしたもの、縦方向、横方向にスライスしたもの、腹部を切り開き内臓を露出した全身標本、展開標本という分離中の合体ロボットを思わせるような標本、さらに各臓器の標本がずらりとならんでいました。喫煙者と非喫煙者の肺がならべてありましたが、喫煙者の肺はみごとに黒ずんでいました。肥大した心臓と健康な心臓の違いも一目瞭然でした。妊婦の標本も数体あって、子宮の中に胎児がおさまっていました。
 会場は満員の盛況で、学生とおぼしいグループがたくさん来ていて、キャッキャ言いながら見ていましたが、不謹慎という印象はありません。生々しすぎて、ふざけながらでないと見ていられないのだと思います。意外なことに、家族連れや老人のグループもかなりいました。
 標本になっている人たちは、すべて自発的な献体だそうです。入り口のところに、三通にわかれた献体の契約書が展示されていましたが、「未来永劫保存するとは限らないことを承知している」とか、「外国で一般人向けの展示に使用することを承諾する」、「将来、売却されてもかまわない」、「遺体の保存状態が悪く、標本化に適さない場合は、医学生の解剖に流用してもよい」などの文言がならんでいました。
 全身標本でも、顔の部分は皮膚がはぎとられているので、生前の容貌はわからないし、今回展示された分はすべて匿名ですが、中には実名・職歴・病歴を公開の上、展示することを希望する人もいるということです。
 プラスチネーション標本を作れるのは、ハイデルベルクのプラスチネーション研究所だけなので、献体者の多くはドイツ人らしいです。墓に埋められるよりも、標本になってたくさんの人に見てもらった方が、楽しいと考えたのでしょうか。一体どういう気持で標本化を承諾したのだろうという当惑がずっと残りました。


Jul16

 この10日ほど、英語の迷惑メールがどかどか届いて往生しています。いわゆるSPAMメールです。「Adult Web Masterに秘密のお知らせ! Adult CD-ROMを卸価格で提供!!」とか、「15万人分のメールアドレスを $199で売ります」、「サーチエンジンの上位をキープする極秘テクニックを $10で教えます」等々の怪しげな文面ばかり。
 しかも、「このメールは当方の資料請求リストにあなたが登録したから送りました。これからも定期的に送りますが、もし送付を希望しない場合は、removeと書いて返信してください」とあるので、読まずに消去するわけにはいきません。毎日、返信コマンドで remove、remove、remove……です。
 もちろんそんな資料請求リストに登録したおぼえはありません。ただ、このメール攻勢のはじまる前日、「検索サービスにまとめて登録! submit-itは信頼できません。当サイトに来れば、全米のすべての検索サービスに責任をもって無料で登録してさしあげます」という案内メールがとどき、軽い気持登録してしまったのです。
 submit-itはまともなサービスですが、こちらの方は怪しげな通販業者にメールアドレスを売る商売をしているようです。もしかしたら、$199で売っている 15万人分のメールアドレス・リストの方にも入ってしまったかもしれません。恐ろしい世界です。


Aug07

 リュック・ベッソンのページを見つけたのですが、なかなか力がはいっています。
 alt.cult-moviesrec.arts.movies.*での質問をもとにしたという FAQも力作ですが、世界各国で作られたベッソン映画のポスターのコレクションがすごくて、よく集めたなぁと半ば感心し、半ばあきれました。
 とりあえず『ニキータ』だけ見てみましたが、同じ映画でもお国ぶりが出ていて、飽きないですね。フランス版は、ベッソン自身の意向が働いているのか、シンボリックで格調高いですが、香港版はいかにも香港映画っぽく、題名も『堕落花』になっていました。韓国版は他の国が使っていないカットを使っていて、「恨」の国という言葉を思いだしました。この三国と、絵を使っているドイツとブルガリアをのぞくと、どの国も大体同じようなカット(厨房の床で銃を構えているところか、膝をかかえているところ)を使っているのですが、国によって微妙に表情が違います。イスラエル版やスペイン版は「これがアンヌ・パリロー?」と首をひねるようなカットを使っていて、ああいう顔立に見えると、親しみがわくのかなと思いました。
 日本のポスターも二枚ありましたが、一枚はビートたけしの推薦文つき、もう一枚はタイアップしたアイドル・グループの写真が大きくはいっているやつで、他の国と較べると品がなかったですね。公開時には、もうちょっとましなポスターもあったんですが、困ったものです。


Aug29

 10年近く加入していた日経MIXが、今日で正規業務を終了します。経過措置として、10月までボードが読みだしが可能で、メールは来年 9月まで、このまま使えるそうです。MIXのメールシステムになじんでいる身としては一時は困惑しましたが、あと一年間使いつづけることができるようになったので、当分、メールアドレスはこのままにしておこうと思っています。
 ボードには、この10年間、ほとんど書きこんだことはないですが、MIXにはパソコン関係のレベルの高い情報が蓄積されていたので、重宝していました。
 MIXのシステムに愛着をもっている会員はかなりいるらしく、MIXのシステムにつかわれている cosyを個人で買い取り、MIX人脈をフルに使って mix.ne.jpのドメイン名まで取得し、新MIXを立ちあげるという計画が進んでいるそうです。
 草の根ネットは昔からありましたが、WWWIVがほとんどで、お世辞にも使いやすいとはいえず、プロとの差は歴然でした。MIXのような本格的なシステムを、今や、個人の力で運営できるような時代になったんだなと感慨深いものがあります。使い勝手が同じなら、引っ越そうと考えています。
 今月は、MIXよりも古い歴史をもつアスキーネットが、やはり店じまいをしたそうです。アスキーネットには、以前、加入していたことがありますが、「バカをバカと言ってなにが悪い、このバカ!」という痛快なノリがありましたが、会費値上げのたびに、大物会員がどんどん辞めていき、昔日の輝きがなくなっていきました。
 メジャーなネットにも入っていたことはありますが、書きこみのレベルの低さには目を覆いたくなるものがあって、MIXとアスキーネットは掃きだめの鶴のような存在でした。
 逆にいうと、MIXもアスキーネットも、バカは来るなというような敷居の高い雰囲気があり、スケールメリットがものをいうパソコン通信ビジネスには、そぐわなかったのでしょう。


Sep11

 日曜日、メインに使っているマシンがまた吹っ飛んでしまいました。ブートが出来なくなったので、フロッピーで立ちあげたところ、Cドライブが存在しないことになっているのです。
 Norton Utilityで最悪の事態はまぬがれたものの、Windows95の再インストールからはじめなければなりませんでした。ここしばらく、レスキューディスクを更新していなかったのがたたったようで、アプリケーションも全部再インストールです。データはバックアップしてあったものの、アプリケーションの設定までは残していなかったので、記憶をたどりながら再設定です。まる二日つぶれました。
 どうせ再インストールなら、Netscapeの新版をひろってこようかと思いましたが、まだ安定していないようなので、雑誌のおまけCD-ROMにはいっていた Internet Explorer4をいれてみました。
 IE1がひどかったので、ずっとNetscapeを使ってきましたが、ビル・ゲイツが社運をかけて開発させたものだけに、IE4はかなり使えるブラウザなっていました。セキュリティ的には根本的に甘いようですが、オンラインショッピングとかしなければ、問題ないでしょう。
 戸惑ったのは、ページの見え方が Netscapeとかなり違うことです。デフォルトでは「中」サイズのフォントになっていたこともあって、毎日のぞくページが間延びした、見なれないデザインに変わっていました。「小」のフォントに切り替えると、おなじみのデザインに近づきましたが、印象はかなり違いますね。
 心配になって、自分のページをブラウズしたところ、目次ページのデザインが軒並みガタガタになっていて、目が点になりました。IEのユーザーはこういう間の抜けたレイアウトでほら貝を見ていたのかと思うと、がっくりきました。
 最近、海外のオンラインマガジンは、Acrobatに移行するところが相次いでいますが、ページ・デザインが、使用するブラウザでコロコロ変わる現状では、Acrobatしか解決法はないでしょう。
 現在の回線事情では Acrobatは苦しいですが、来年あたりは移行を考えることになるかもしれません。


島田雅彦氏
Sep14

 11月に出る文字コード問題の本のための鼎談に出てきました。文藝家協会電子メディア特別委員会委員長の島田雅彦さんを座長に、池澤夏樹さんとぼくの三人で文字コード問題と文筆家の役割を中心に、電子メディア全般について語りあったのですが、中味の濃い鼎談になりました。本になるのが楽しみです。
 実は、今日は、ほら貝に「文字コード問題特設ページ」を開設してからちょうど一年になります。偶然の一致といえばそれまでですが、一年の節目にあたる日に、パソコンやインターネットとは縁のうすい読者にむかってアピールすることになる、このような鼎談に出席できたことは意義深いことと受け取っています。
 一年前にはじめた時は、物書きとしての問題提起と簡単な解説、リンク集程度のこぢんまりしたページにするつもりだったのですが、思いがけず反響を呼び、多くの皆さんから間違いの指摘や情報提供をいただいて、「文字コード問題早わかり」だけでも原稿用紙二百枚以上の長編に育っていきました。インターネットの力によるところがもちろん大きいのですが、一年間をふりかえってみると、なにか大きな流れに背中を押されるまま、文字コード問題をやらされていたような気さえしてきます。 池澤夏樹氏

 池澤さんに『マシアス・ギリの失脚』という、ミクロネシアの小国の政変劇を魔術的リアリズムの手法で描いた傑作があります。近代的な意味ではゼロに等しい長老会議や大巫女が大きな役割をはたしますが、影の支配者といったパラノイア的な存在ではなく、個人知を越えた知恵の働きが使う道具として描かれていて、南島文化のふところの深さ(現代の日本にも底流しているはずです)を実感させてくれます。日本では、あいかわらず、陰謀史観が繁盛していて、先日のダイアナ妃のご不幸にも定番の暗殺説がささやかれています。個人が計算して出来ることなんてたかが知れていているのですが。


Sep15

 今、ほら貝で一番反響の大きいのは、文字コード関係のページです。リンク申し込みも、この頃は文字コード関係の方が文学関係より多いくらいですし、Mar27の項にも書きましたが、怪しい記述があると、専門の方からすかさず間違いを指摘したメールをいただきます。
 先日も、Unicodeにはいっているお天気記号について、気象学専攻の方からご教示いただきましたし、CJK統合漢字制定の背景事情について、情報処理学会の責任ある立場の方から懇切な説明をいただきました。すぐにUnicode篇の記述に反映させました。本当にありがたいことです。
 文字コード問題のページは、こうしたインターネット・コミュニティのみなさんのご教示に支えられているのですが、時に明らかに間違っているご教示もあって、困ってしまいます。
 このところ事態の進展が急なので、「四つの悪夢」というページを、普請中ながら、一部公開しているのですが、会計システムを専門にされている方から、フォント切り替えの技術的欠点は解決できるとメールをいただきました。
 その専門家氏の見解によれば、異体字も含めて、すべての文字の字形データに「グリフ指定コードポイント」という通し番号をふり、JISコード+「グリフ指定コードポイント」という形式で字形データを指定すれば技術的には問題はない、むしろ「グリフ指定コードポイント」という私製コードに依存する方が問題ではないかというのです。
 この指摘は完全な間違いです。会計システム専門家氏の主張する「グリフ指定コードポイント」というのは、実は JISとは異なる文字セット(JISの文字セット+異体字文字セット)を符号化した別の文字コードであって、フォント切り替え方式とはまったくの別物です。どうもこの方はフォントの概念というか、コンピュータの表示系の仕組がまったく理解できていなかったらしいのです。
 フォント切り替え方式の誤解という共通認識にたどりつくまでが大変でした。その方はずっと大型機で育ち、数年前からパソコンをいじりはじめたという人なので、用語が通じないのです。最初のうちは文化の違いかなと我慢してつきあっていたのですが、特殊な操作をすれば、Macintoshでも Windows95が動くとか、パソコンに関する出鱈目な知識を得々とレクチャーしてくれるんですね。最初、からかわれているのかと思いましたが、どうも本気でそう信じているらしい。初心者なら、そんなことはありえないと言えば終りですが、なまじ専門家だけに、自分は正しいと信じこんでいる。パソコンの場合、ハードウェアの知識がある程度ないと、わからない部分がすくなくないので、大型機のようにハードウェアをまったくのブラックボックスとする文化の中で育った人はかえって勘違いするもんだなと思いました。
 ぼくだって決してパソコンに詳しいとは言えませんが、それでも 8bit時代の終りからつきあってきたおかげで、フォントROMという言葉に出くわせば、マザーボードにぽつんとついていた第2水準漢字漢字ROMの空きソケットが脳裏に浮かんできますし、MS Officeなどの最近のスーツ製品と「統合ソフト」とがまったくの別物であることも「無駄な買い物をしたな」という後悔とともに記憶しているわけです。
 スペシャリストは、なまじ自負があるだけに、専門外の知識の間違いに気がつきにくい傾向があるようです。これから文字コード問題に注目が集まるにつれ、こうした専門外の「専門家」のトンデモ意見が増えるかもしれず、いささか憂鬱です。

Sep21

 昨日と今日、「安部公房短信」で紹介した「安部公房・演劇の仕事」というイベントに行ってきました。詳しくは「短信」に書きましたが、昨日のドナルド・キーン氏の講演と、今日の井川比佐志氏と田中邦衛氏の出席された座談会はすばらしく、会場でも大受けでした。昨日の清水邦夫氏と尾崎宏次氏の出られた座談会は、専門的な話題がつづいたので、受けという点では今一つでしたが、内容的にはひじょうに充実したものでした。 Neri & Yuri

 安部ねりさんと朝日新聞の由里幸子記者とお会いできたことも収穫でした。ねりさんにはインタビューをさせていただきましたし、その後も延べにして10時間くらいは電話でお話をうかがっているのですが、お会いしたのは今日がはじめてです。由里さんとも電話とメールだけのおつきあいでした。記念にツーショットの写真をとらせてもらいました(左がねりさん、右が由里さん)。
 最近はこういうことが多く、何年もおつきあいしていても、メールと宅急便だけで、声を聞いたことのない編集者の方もいます。ぼくは人と会うのが苦手なので、この方が楽で、いい時代になったとよろんでいるのですが、直にお目にかかるのもいいものです。

Oct12

 しばらくInternet Explorer4を使っていたのですが、PPP接続がおかしくなったのを機に、Netscape Communicater4に変えました。NC4は外観や操作風が IE4に近づきましたが、それでもはるかに使いやすいです。動作は前の版ほど安定していませんが、IE4よりはましです。
 IE4は、最初はなかなか使えると思ったのですが、一度読みこみはじめたページは、全部読みこむまで、操作を受けつけなくなります。ろくでもない巨大な絵や写真、どこかで見たような GIFアニメをはりこんだゴミページは、さっさと読みこみを中断して、別のページに飛びたいんですが、仕方がないので読みこみを中断させる操作(三回マウスを操作しないと中断できないのだから、腹が立ちます)をしてから、新しいページに飛ぶようにしましたが、この繰り返していると、動作がおかしくなり、ついにはフリーズしてしまいます。PPP接続ができなくなった原因も、IE4が怪しいんじゃないかとにらんでいます。IE4を入れて以降、インターネット関連以外でも、いろいろ妙な現象が起きています。
 NC4では、中断ボタンがなくなったり(ESCで中断できますが)、画像読みこみの可否の指定がめんどくさくなったり(二回の操作でよかったのが、三回の操作に変わりました)、IEの悪影響をうけたのかと疑わせるような変更がありますが、読みこみ中にリンクをクリックすれば、新しいページに飛べるので、不便はありません。
 あらかじめ指定したサイトでは、画像を読みこまないというような機能があると、広告に邪魔されずにブラウズできると思うんですが、誰か、そういうプラグインを作ってくれないでしょうか。
 IEの影響にもいいところはあって、ずっと8ポイント固定だったフォントが大中小と選べるようになったのはありがたいですね。IEのように何ポイントと細かく指定するような仕様より、大中小で決め打ちになっている方が使いやすいです。
 Netscape CreaterというHTMLエディタがついているので使ってみましたが、例によってタグを勝手に書き換えてしまうので、パスです。どういうわけだ、どこのHTMLエディタも、エディタでちょっとソースを直したいという時など、見にくい表記になるのです。
 JavaScriptの埋めこみとか、DynamicHTMLとか、HTMLの機能がどんどん高度化しています。高度な機能を盛りこんだページを作るには、HTMLエディタを使わざるをえないですが、果たして必要なのかという疑問があります。
 動きのあるページは一回目はおもしろくても、二度目はしらけます。読むためのページを作るには、派手な機能はさけて、charactersetや descriptionの指定くらいにとどめておいた方がいいと思います。

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