ヘンリー・ジェイムズの中編、『ワシントン・スクエア』の二度目の映画化である。最初の映画化はウィリアム・ワイラー監督の『女相続人』(1949年)だが未見。
原作のヘンリー・ジェイムズ、監督のアニエスカ・ホランド、主演のジェニファー・ジェイソン・リー、名脇役として定評のあるマギー・スミス、アルバート・フィニー(『エリン・ブロコビッチ』の老獪弁護士)と、マニア受けのする名前が並んでいるのに、日本では公開されずビデオすら出ていない。
なぜだろうという興味もあって見てみたが、予想以上によくできていた。しかし、日本未公開の理由も推測できた。ヘンリー・ジェイムズといえば華麗なコスチューム・プレイだが、この映画は野暮ったいのだ。
19世紀のニューヨークはスティーグリッツの写真のように泥道ばかりの荒くれたど田舎だった。原作は40年前のメロドラマを回想する形式で書かれているので、野暮ったく作るのが正しいが、『鳩の翼』や『金色の嘘』のような絢爛豪華な画像を期待した観客は落胆するだろう。
話が暗いということもある。持参金だけが取柄の不器量な娘が伊達男に裏切られ、性格がねじけていく話をじっくり正攻法で作っているのだ。ホランドはずいぶん救おうとしているが、なまじ出来がいいだけに後半は見ているのがつらくなる。
最初の映画化でキャサリンを演じたオリヴィア・デ・ハヴィランドはアカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞、NY批評家協会賞とアメリカの三大映画賞を総なめにしている。こういう役をやるのは負担が大きいだろうが、ジェニファー・ジェイソン・リーはよくやっている。ただ、色気を封じられブスに徹しているので、ファンとしてはフラストレーションが残る。お節介叔母さんのマギー・スミスは適材適所だが、十年若かったらと思わないでもない。厳格な父親のアンソニー・フィニーは安定している。
画質・音質とも並み。特典はない。