遅ればせながら『パール・ハーバー』を見た。3時間の大作だけに2枚組で、1枚目はルーズベルトの宣戦布告演説まで、2枚目はドゥーリトル隊の東京爆撃を描く。イラク戦争の後というタイミングで見たのは、かえってよかったかもしれない。
ロマンスの部分がひどいとは聞いていたが、確かにお粗末である。ヒロインのケイト・ベッキンセールは従軍看護婦の役なのだが、看護婦軍団は安キャバレーのホステスなみにけばい化粧で、真珠湾に着任するや、男女比が4000:1のパラダイスだとのたまわり、男漁りに精をだす。ケイト・ベッキンセールにはこういう映画には出てほしくなかった。
メイキングでは「史実」という言葉を連発しているが、史実がどんな風に歪められているかについては「エディトリアル」を見てほしい。
興行的に失敗したそうだが、客がはいらなかったのはロマンス部分のお粗末さだけが原因ではないだろう。お粗末というなら『アルマゲドン』あたりも似たようなものだし、そもそも観客がこの種の映画にロマンスを求めているとは思えない。
失敗の最大の原因は、アメリカ軍が東洋人に、飛行機という最新兵器でやっつけられているからではないか。真珠湾攻撃には1時間近くさかれているのだが、この間、アメリカ軍は一方的にやられっぱなしなのだ。
アメリカ軍の敗北はベトナム戦争ものの映画でも描かれてきたが、ジャングルのゲリラ戦の敗北と、最新兵器を投入した正規軍による敗北とでは、プライドの傷つき方が違う(今、この映画をアラブ圏で公開したら、大ヒットするはずだ)。
映画の後半は、アメリカの反撃のとっかかりとなったドゥーリトル隊の東京爆撃を描くが、軍需工場に何発か爆弾を落した程度にすぎず、カタルシスにはほどとおい。原爆のきのこ雲を最後に映したら、アメリカの観客は留飲を下げただろうが、いくらブラッカイマーでも、そこまで非常識なことはできなかったらしい。
イラク戦争については石油利権ねらいの疑いが濃くなってきているが、アメリカ国民が開戦を支持したのは9.11の報復という動機が一番大きかったのではないか。なにもないアフガニスタンにミサイルをぶちこんだだけではカタルシスにならなかったのだろう。この映画はエンターテイメントだけに、庶民感情というものが透けて見えてくるような気がする。
主演三人の演技については、あれこれいうまい。ジョン・ボイトのルーズベルトはよく似せている。キューバ・グッディングJr.が『ザ・ダイバー』と同じような役をやり、同じようなセリフを喋っているのがおかしかった。
画質・音質はとてもいいが、中味がともなわないので、よけい馬鹿らしい。特典のメイキングでは本物の零戦や97式艦爆、99式艦爆のCGなしの勇姿が拝める。