映画ファイル   January - March 1999

加藤弘一
1998年12月までの映画ファイル
1999年 4月からの映画ファイル

January 1999

*[01* 題 名<] 恋の秋
*[01* 原 題<] Conte d'automne
*[02* 製作年<] 1998
*[03*   国<] フランス
*[05* 監 督<] ロメール,エリック
*[08* 出 演<]ロマン,ベアトリス
*[09*    <]リヴィエール,マリー
*[10*    <]リボル,アラン
*[11*    <]サンドル,ディディエ
*[12*    <]ポルタル,アレクシア

 ロメールがオバサンを主人公にするなんて、どうなるんだろうと思ったが、立派にロメールの映画になっている。

 一方の主人公はアルジェ帰りのバツイチ女性で、葡萄を無農薬で育てるワイナリーを経営している。結婚適齢期の息子がいて、結婚はもうこりごりと言っているが、もう一人の主人公で、本屋を経営しているブルジョワの奥さんは、友人に結婚相手を世話しようと、新聞広告を出し、自分の眼鏡にかなった男性をパーティでそれとなく引きあわせる。

 はたして彼女は好意を持つが、彼が親友の本屋さんに報告しているところを偶然見てしまい、不倫の仲と誤解する。まったく少女マンガ的展開だが、臍を曲げるところなど、なんともほほえましい。

 エスプリの角がとれて、あたたかい笑いにあふれた傑作。息子の恋人という美人の女の子が出てくるが、オバサン二人組の前では生彩がない。ロメールは懐が深くなった。

amazon
*[01* 題 名<] スウィート・ヒアアフター
*[01* 原 題<] Sweet Hearafter
*[02* 製作年<] 1997
*[03*   国<] カナダ
*[05* 監 督<] エゴヤン,アトム
*[08* 出 演<]ホルム,イアン
*[09*    <]ポーリー,サラ

 カナダの山奥の村でスクールバスが氷結した川にはまりこんで、多くの児童が死ぬ事件が起こる。イアン・ホルム演ずる弁護士は、子供を亡くした親をたきつけ、自治体と自動車会社を訴えさせようと奔走する。その合間にも、麻薬中毒の娘からコレクト・コールで薬代をせびる電話がかかってくる。

 金目当ての親がいたり、ヒッピーくずれ、近親相姦、同級生の親との不倫等々、隠された面がチラチラでてくる。不倫しているやもめ男は、訴訟の妨害をはじめる。

 1997年の場面では、弁護士は娘が入院している山の中の病院に飛行機で向かっている。たまたま隣席に娘の幼なじみが乗り合わせ、娘が毒蜘蛛にかまれて、気管切開の用意にナイフを手に、車で病院に連れていった話をする。娘はエイズにかかっていて、助からないのだが。

 訴訟は公民館で供述調書をとるところまでいくが、ロックシンガーを夢見ながら、車椅子の生活になった娘(ポーリー)が、運転手のオバサンが111キロを出していたと嘘をいったために流れてしまう。彼女は裁判になって村の人々の秘密が暴かれるのを防いだのだ。

 冷え冷えとした映像美と思わせぶりなカットで引っ張っていくが、「ハメルンの笛吹き」にヒロインをなぞらえる趣向は計算倒れ。

amazon
*[01* 題 名<] のど自慢
*[02* 製作年<] 1999
*[03*   国<] 日本
*[05* 監 督<] 井筒和幸
*[08* 出 演<]室井滋
*[09*    <]大友康平
*[10*    <]尾藤イサオ
*[11*    <]竹中直人
*[12*    <]北村和夫

 評判どおりおもしろかった。脚本がうまく、役者たちの臭い芝居を完全燃焼させており、見終わった後の印象が爽やかだ。

 桐生にNHKののど自慢が来ることになって、町中、そわそわするという設定が楽しい。桐生出身の売れない演歌歌手がキャンペーンで来合わせていて、近所の女の子の代りに出場し、めでたく合格するというエピソードを軸に、いろいろな人間模様が組みあわされるが、なにをやっても失敗するが、決してめげない父親(大友康平)が、焼き鳥屋チェーンの試験を受ける話は光っている。

 ヒロインを室井滋にしたのは微妙なバランスで正解。渡辺えり子では重くなりすぎたと思う。

amazon
*[01* 題 名<] ルル・オン・ザ・ブリッジ
*[01* 原 題<] Lulu on the Bridge
*[02* 製作年<] 1998
*[03*   国<] 米国
*[05* 監 督<] オースター,ポール
*[08* 出 演<]カイテル,ハーヴェイ
*[09*    <]ソルヴィーノ,ミラ
*[10*    <]デフォー,ウィレム
*[11*    <]レッドグレイヴ,ヴァネッサ
*[12*    <]ガーション,ジーナ

 大人のお伽話。すべては死の間際の幻覚だったという落ちだが、最初から夢の中のような展開だし、最後のシーンも余韻が残り、破綻しているわけではない。

 マンハッタンのナイトクラブでジャズの演奏中、ぷっつん男がわけのわからないことを言いながら、ピストルをあちこちに撃つ。その一発がサックスのイジーの左胸に命中。一命を取りとめたものの、左肺を摘出し、左手の骨も砕けて、ミュージシャンはつづけられない。

 ある夜、路上で額を打ち抜かれた男の死体につまづき、思わず男の鞄を持ち帰ってしまう。中にはナプキンに書かれた電話番号とボール紙の箱にはいった小石がはいっている。消灯すると、意志は青白く光りだし、宙に浮ぶ。

 イジーはナプキンの電話番号にかけるが、出たのは駆けだし女優のセリアで、ちょうど彼のCDを聞いていたところだという。

 イジーはセリアの部屋にいき、石が発光して宙に浮ぶのを見せる。セリアは浮ぶ石を手のひらに包み、恍惚とする。イジーも石にふれると、たちまち二人は意気投合し、恋に落ちる。

 イジーはセリアがウエイトレスのアルバイトをやっている店でいっしょに働きはじめるが、彼女にちょっかいをだした客と喧嘩して、馘になってしまう。

 セリアは生活をどうするんだとなじるが、イジーの元妻の現在の夫がプロデューサーをつとめる『パンドラの箱』のルルにセリアを抜擢するという電話がはいる。

 セリアは撮影にダブリンにたち、イジーは後で追いかけることにするが、光る石をさがす謎の男たちに拉致監禁され、ヴァン・ホーン博士に尋問される。

 イジーはしらを切り通すが、ホーン博士たちはセリアが石を持っているとつきとめ、ダブリンに飛ぶ。撮影13日目の朝、彼女が宿を出るとホーン博士に呼びとめられ、イジーのところへ連れていくといわれるが、彼女は事情を察して逃げだす。しかし、橋の上に追いつめられてしまい、彼女は欄干を越えて川に飛びこむ。

 ニューヨークのにぎやかなシーンがつづいた後に、ダブリンの閑散とした街並みを彼女が逃げるシーンが来るのは印象的。

 イジーは監禁された倉庫を抜けだすが、セリアの行方はわからず、映画は中止になっている。プロデューサーからラフに編集したビデオをもらい、セイアの演技を見ているうちに涙がこみ上げてくる。

 場面は最初のナイトクラブにもどり、イジーは左胸を撃たれ、救急車にかつぎこまれる。搬送中、彼は死に、救急車はサイレンを止める。それを目撃したセリアは誰かが死んだのだと思い、十字を切る。

 ミラ・ソルヴィーノの恋するういういしい表情が絶品。結末の空虚感はオースターだ。

amazon
*[01* 題 名<] マイ・フレンド・メモリー
*[01* 原 題<] The mighty
*[02* 製作年<] 1998
*[03*   国<] 米国
*[05* 監 督<] チェルムソン,ピーター
*[05* 原 作<] フィルブリック,ロッドマン
*[08* 出 演<]ヘンソン,エルデン
*[09*    <]カルキン,キーラン
*[10*    <]ストーン,シャロン
*[11*    <]ローランズ,ジーナ
*[12*    <]スタントン,ハリー・ディーン

 難病もの、それも母親役がシャロン・ストーンというので敬遠していたが、評判があまりにもいいので見てみた。見てよかった。これは名作だ。

 父親が母親を射殺するところを目撃したマックスは、事件以来、心を閉ざし、シンシナチの貧しい地区(東洋人が多い)で、祖父母と暮らしている。学校ではいじめられっ子で知恵遅れあつかいされ、すでに二年落第していて、今度進級できなかったら養護学校に送られることになっている。

 隣家に難病(モルキオ症候群)の息子、ケビンをかかえた母親が越してくる。ケビンは背中が曲がっているが、利発な少年で、マックスと同じクラスになり、彼のチューターをつとめ、「アーサー王伝説」をいっしょに読む。

 ケビンはマックスに花火に連れていってくれと頼むが、夜の公園で不良グループに因縁をつけられたのを、ケビンの機転とマックスの腕力で乗り切ったことから親友になる。以後、マックスはバックバッグと杖を背負ったケビンを肩車して歩く。ケビンは「アーサー王伝説」になぞらえて、いろいろな冒険にマックスを引き回し、自ら"Freak the mighty"と名乗る(もともとの題名はこっちだったろう)。

 妻殺しで服役していたマックスの父親が仮釈放で出てきて、マックスを連れ去ったことから、二人は本当の意味のドラゴン退治の試練に直面する。

 ケビンがマックスに教える「アーサー王伝説」が不可欠の要素になっている。個人の頑張りもあるが、ケビンとマックスのかかえているハンディキャップは個人の力だけではどうしようもないくらい大きく、そこに神話の力が活きてくる。

 主演の二人の子役は本当にすばらしい。シャロン・ストーンはあざといという印象があったが、今回は抑えた芝居に撤し、おさえたことで大きな存在になっている。ジリアン・アンダーソンはマックスの父親の旧友で、最後にマックスを助けるケバい女の役で登場。もうけ役だ。

amazon

February 1999

*[01* 題 名<] ムトゥ 踊るマハラジャ
*[01* 原 題<]
*[02* 製作年<] 1995
*[03*   国<] インド
*[05* 監 督<] ラヴィクマール
*[08* 出 演<]ラジニカーント
*[09*    <]ミーナ
*[10*    <]サラットバーブ
*[11*    <]ラヴィ,ラーダー
*[12*    <]センディル

 ブームになっている映画だが、確かにおもしろい! ミュージカル・シーンの挿入は『ボンベイ』で経験していたが、インパクトのある短いカットでたたみかけてくるモンタージュのワザは、この作品ならではのものだ。

 若旦那様は芝居好きで、旅回りの一座の花形女優に恋してしまう。隣村の公演で、村の大金持ちに彼女がさらわれそうになると、若旦那様はムトゥに彼女を連れて脱出するように命じる。

 二人は馬車で逃げるが、隣のケララ州にはいってしまう。ムトゥは言葉がわからず、字も読めず、帰り道を聞く言い方をランガナーヤキに聞くが、彼女は「キスをしてくれ」という意味の言葉を教え、ひと騒動もちあがる。

 この逃避行の間に二人は意気投合するが、ランガナーヤキは邸で働くことになり、彼女にしたわれていると勘違いした若旦那がからんで『フィガロの結婚』ばりの展開になる。風に運ばれた手紙のいたずらで、一二人の男女が夜の噴水に集まって、行き違いをくりかえす場面は『フィガロ』を意識しているだろう。

 脳天気な映画かと思ったら、後半の展開はシビア。謎の聖者が村にあらわれ、大奥様は会いにいって、なぜかひれ伏す。

 結末の謎解きは目茶苦茶と言えば目茶苦茶なのだが、妙に説得力があって、映画を奥行きのあるものにしている。世俗の欲を捨てた聖者をあがめる土壌があるからだろうか。

amazon
*[01* 題 名<] おもちゃ
*[02* 製作年<] 1999
*[03*   国<] 日本
*[05* 監 督<] 新藤兼人
*[05* 原 作<] 深作欣二
*[08* 出 演<]宮本真希
*[09*    <]富司純子
*[10*    <]南果歩
*[11*    <]野川由美子
*[12*    <]津川雅彦

 タイトルバックのスチールを、水に映じた像のようにゆらゆらゆらす趣向はどうかと思ったが、売春防止法制定を求めるデモが花街を更新し、芸者たちをとりかこんで、スローガンを叫んでいる横を、主人公のチビちゃんが絣の着物で、小走りに走っていく最初のシーンで、これは傑作になると思った。

 彼女が下働きしている祇園の藤乃屋という置屋では、南果歩と魏京子が住みこみ、が外のアパートから通っているが、三人ともすごい姐さんたちで、客をとった、とられたでとっくみあいの喧嘩はするし、女将の富司純子もパトロンの吉川(津川)を手玉にとり、こういう中で揉まれたら海千山千になるのは間違いないが、主人公はあくまでひたむきで、悲しい時にもニッと微笑する。

 西陣の実家の貧しい暮らしをいれたのも、成功している。学校に行っている同級生と出くわした後で、妹が内職で学校にいけないともってくるあたり、あざといくらいうまい。

 女将がパトロンとわかれ、逼迫しているところに、主人公の舞子としてのお披露目の話が出る。大料亭の女将(岡田茉莉子)が後見してくれるというが、衣装に三百万円、お披露目に二百万円かかるので、北山の78歳のお大尽(加藤武)に水揚げしてもらうことに話が決まる。それでも、呉服屋に借金がかさんでいるので、百万円の現金を作るために、女将は高利貸し(三谷昇)に身をまかせなければならない。

 水揚げが決まってからの主人公はいじらしくて、けなげで、大阪に好意を持っている青年の職場をこっそり訪ね、声をかけずに帰ってくる場面とか、女将に覚悟を語る場面とか、泣かせる場面がたくさんある。宮本真希の純日本的な顔と体型がうまくあっている。

*[01* 題 名<] ワン・ナイト・スタンド
*[01* 原 題<] One Night Stand
*[02* 製作年<] 1997
*[03*   国<] 米国
*[05* 監 督<] フィギス,マイク
*[08* 出 演<]スナイプス,ウェズリー
*[09*    <]キンスキー,ナスターシャ
*[10*    <]ダウニーJr.,ロバート
*[11*    <]ウェン,ミンナ
*[12*    <]マクラクラン,カイル

 映画評はボロボロだったが、傑作ではないか。

 エイズで死にゆく振付師のチャーリー(ロバート・ダウニーJr.)を軸に、二組の夫婦の出会いを丁寧に描いていく。映画評が悪かったのは、マックス(スナイプス)とカレン(ナスターシャ・キンスキー)が一夜をすごすまでの経緯がまだるっこしいと思った人が多かったからだろうと思う。だが、あのまだるっこしさがいいのだ。

 スナイプスがユーロピアン・テイストの渋い芝居をしているが、悪くない。ずっと作品に恵まれなかったナスターシャ・キンスキーは美少女路線を清算し、年相応の役で成功している。出番はすくないが、チャーリーの死をみとるエレン・バースティンの母親は胸を打つ。

 一年後、チャーリーは最期をむかえ、マックスはチャーリーの兄のバーノン(マクラクラン)から妻を紹介されるが、それがカレンだった。

 二組の夫婦は社会的には成功者だが、マックスは黒人、妻のミミはチャイニーズ(ミンナ・ウェンが元気がよくてかわいい奥さんを好演!)、カレンはドイツからの留学生がそのまま住みつき、バーノンは明示されていないがユダヤ系という設定ではないかという気がする。まったく文化的背景の違う四人が、知性でうまくやっていっているという危うさがほの見えていて、最後の展開にリアリティがある。

 チャーリーの一周忌に二組の夫婦がまた食事をするが、どうなっているのだろうとうスリルがあって、ラストまで引っぱるまだるっこしさがまた絶妙である。

amazon
*[01* 題 名<] キャラクター 孤独な人の肖像
*[01* 原 題<] Karakter
*[02* 製作年<] 1996
*[03*   国<] オランダ
*[05* 監 督<] ファン・デム,マイケ
*[08* 出 演<]デクレール,ヤン
*[09*    <]ファン・フェット,フェジャ
*[10*    <]スヒュールマン,ベティ
*[11*    <]デン・トップ,タマル
*[12*    <]ケスディット,ハンス

 ロッテルダムの運河沿いに、煉瓦造りの倉庫が立ちならぶ。血相を変えたヤコブ・カタドロフという青年が路地の奥の高い建物にはいっていき、最上階の奥の机にすわるドレイブルハーブンの目の前にナイフを突きたてると、弁護士になったと言い捨てる。老いたドレイブルハーブンは「協力してやったんだ」と言うが、ヤコブはいきり立って罵り、部屋を出ていく。しかし、途中で引きかえし、ブレイブルハーブンに飛びかかる。血で汚れた顔で下宿に帰るヤコブ。深更、兵隊が一小隊、ヤコブの下宿になだれこんできて、彼を逮捕し、警察に連行する。ブレイブルハーブンの死で、彼は容疑者として取り調べられる。彼が語ったブレイブルハーブンとの因縁が本篇になる。

 さすがアカデミー賞外国映画賞だけあって、力強い映像でぐいぐい引きこみ、陰鬱な商人の街、ロッテルダムを活写していく。父子の葛藤の物語なのだが、実業の世界での星一徹と飛雄馬のような話になっていく。息子に金を貸して、破産の脅しをかけることで、がんばらせるということらしい。

amazon
*[01* 題 名<] レ・ミゼラブル
*[01* 原 題<] Les miserables
*[02* 製作年<] 1998
*[03*   国<] 米国
*[05* 監 督<] アウグスト,ビレ
*[05* 原 作<] ユゴー,ビクトル
*[08* 出 演<]ニーソン,リーアム
*[09*    <]ラッシュ,ジェフリー
*[10*    <]デーンズ,クレア
*[11*    <]サーマン,ユマ
*[12*    <]マセソン,ハンス

 長大な原作を138分にまとめている。前半はミュージカル版を意識したらしく、なかなかよくできている。パリにはいってからは(城壁を越える場面を中盤の見せ場にしている)、ガブロシュ以外のテナルディエ一家を省き、マリウスをバリケードのリーダーにするなど、極度に単純化している。マリウスがアンジョルラスを兼ねることになったので、恋に革命にジャン・バルジャンばりの活躍をするスーパーマンになってしまった。エポニーヌが出ない分(タイトルバックには一応はいっていたが)、コゼットが食われずにすんでいるが、清純=高慢なお嬢様にしか見えない。

amazon
*[01* 題 名<] りんご
*[01* 原 題<]
*[02* 製作年<] 1998
*[03*   国<] イラン
*[05* 監 督<] マフマルバフ,サミラ
*[08* 出 演<]ナデリー,マスラ
*[09*    <]ナデリー,ザーラ
*[10*    <]ナデリー,ゴルバナリ

 見終わった時は愛すべき小品という印象だったが、時間がたつにつれ、印象が深まってくる。ドキュメンタリーと紙一重の作り方とか、反復の趣向とか、イラン映画でおなじみの手法を使っているが、登場人物一人一人がほっとけない感じで、その後が気になるのだ。

 父親に生まれてから一二年間ずっと、家に閉じこめたままの双子の姉妹が福祉事務所に救いだされたという話なのだが、事件発覚の翌日から、サミラ嬢はビデオカメラをもって福祉事務所にいき、リアルタイムの映像を撮影する。被写体となった家族の信頼をえて、途中から映画に切り替えるのだが、父親は偏狭固陋と思いきや、愛敬のある65才の爺さんで、忙しい友達に代わって神に祈る代りに、お金を受けとっているというから、乞食なのだろう。イスラム社会の乞食は職業として認められているそうだから、家ももてるわけだ。

 65才で12才の娘がいて、ペルシャ語のできない盲目の妻がいるとは、どんな半生を送ってきたのだろうと思うが、カメラは一切詮索はせず、父親のぼやく姿をそのまま受けいれる。同情とか、告発といった暑苦しい思いいれがないのが気持ちいい。

 冒頭の署名のシーン(アラビア文字なので、右から左に書いている)、つづく鉄格子の上から鉢に如雨露で水をやるシーンのパステルカラーのコバルト色が、この映画の基調である。

 最初は歩き方がおかしく、顔も知恵遅れのようだった姉妹が、外の人々と接するにつれ、どんどん娘らしくなっていくのは救いだ。

amazon

March 1999

*[01* 題 名<] ジョー・ブラックをよろしく
*[01* 原 題<] Meet Joe Black
*[02* 製作年<] 1998
*[03*   国<] 米国
*[05* 監 督<] ブレスト,マーティン
*[08* 出 演<]ピット,ブラッド
*[09*    <]ホプキンス,アンソニー
*[10*    <]フォラーニ,クレア

 長すぎるとか、だれるとか、さんざんな評判で、敬遠していたが、一度ゆったりしたテンポをつかむと、今どきの映画とは思えない悠々たる流れと、こくのある表現にはまる。

 死神はメディア王の娘が一目ぼれした青年を事故に遭わせ、彼の肉体を借りてメディア王に近づき、休暇を楽しむという話。アンソニー・ホプキンスの悠々とした芝居も見せるが、ビラピの死神とクレア・フォラーニが視線をからめあわせる長いラブシーンがすばらしく、古きよきハリウッド映画を見ているよう。

 娘もいっしょにあの世に連れていくと言いだす死神を、ホプキンスが怒鳴りつけ、愛を説くシーンの緊迫感もすばらしい。死神は結局、肉体を借りた青年を甦えらせ、娘のもとにもどしてやる。ホプキンスまで助けなかったのは正解。

amazon
*[01* 題 名<] ガッジョ・ディーロ
*[01* 原 題<] Gadjo Dilo
*[02* 製作年<] 1997
*[03*   国<] ルーマニア
*[05* 監 督<] ガトリフ,トニー
*[08* 出 演<]デュリス,ロマン
*[09*    <]ハートナー,ローナ
*[10*    <]サーバン,イジドール

 ノラ・ルカというロマの歌手を探して、フランス青年のステファンがルーマニアの片田舎にやってくる。着いたのが深夜なので、どこも泊めてくれず、途方にくれていると、息子が警察に捕まったロマの老人のイジドール(イジドール・サーバン)と出会い、路上で酒をつきあう破目になる。その夜は老人の家に泊まるが、目が覚めると、よそ者がいるといので、ロマの村人が集まってきて、泥棒だ、出ていけとはやしたてる。泥棒扱いされているロマが、よそ者を泥棒扱いするという皮肉。村の長老でもあるイジドールは、あいつはロマ語と音楽を勉強に来たととりなしてくれて、老人の家に居つくことになる。

 ベルギー帰りの出戻り女のサビーナ(ローナ・ハートナーで、ルーマニア側では唯一のプロの女優)と懇ろになったり、金持の家の婚礼に呼ばれたイジドールの楽隊についていったり、音楽や口碑をDATに収録したり、ステファンの滞在は順調にいくが、イジドールの息子が保釈されてから、状況は一変する。

 イジドールの息子は町の酒場に復讐にいき、住民をはずみで殺したことから、ロマの村はルーマニア人に襲撃され、焼き払われる。イジドールの息子はリンチで殺される。

 ステファンはDATのテープを廃棄し、取材ノートを粉々に引き裂く。

 長老派でありながら女好きでだらしないイジドールや、目を細めた表情がぞくぞくする野生的なサビーナなど、おもしろいキャラクターが出てくるし、ジプシー音楽も魅力だが、ブカレストでも村の音楽家が歌っているのは興ざめ。低予算で作ったということか。

amazon
*[01* 題 名<] ダイヤルM
*[01* 原 題<] Murder for Dial M
*[02* 製作年<] 1998
*[03*   国<] 米国
*[05* 監 督<] デイビス,アンドリュー
*[08* 出 演<]パルトロウ,グゥイネス
*[09*    <]ダグラス,マイケル
*[10*    <]モーテンセン,ヴィゴ
*[11*    <]スーシェ,デイビッド
*[12*    <]チョウドリー,サリタ

 ヒッチコックの「ダイヤルMを廻せ!」(1954)のリメイクなので、二本立てのつけあわせぐらいに思っていたが、意外におもしろい。

 ヒロインのエミリーを国連アメリカ代表部のスタッフにしたり、愛人のデビッド・ショー(モーテンセン)をソーホーにスタジオを持つ元囚人の芸術家にしたのが成功していて、現代のニューヨークの話でおかしくない。夫のマイケル・ダグラスの悪役ぶりは堂にいっているし、愛人も根性が悪くて、これだけひどいと、ヒロインが現代的でちょうどいいのだ。

 犯罪の匂いを嗅ぎとる刑事がアラブ系で、ヒロインとアラビア語で話すとか、実行犯の部屋をさがすためにスラム街に行くが、スペイン語ができたので、見張り役のチンピラが「これから白人女がいくが、手を出すな」と言うとか、妙にリアリティがある。

amazon
*[01* 題 名<] スライディング・ドア
*[01* 原 題<] Sliding Door
*[02* 製作年<] 1997
*[03*   国<] 英国
*[05* 監 督<] ホーウィット,
*[08* 出 演<]パルトロウ,グゥイネス
*[09*    <]ハンナ,ジョン
*[10*    <]リンチ,ジョン
*[11*    <]トリプルホーン,ジーン

 期待はずれ。広告会社の役付きのキャリアウーマンのヘレンが、馘になり、地下鉄で帰ろうとする。ドアは閉まりかけていて、うまく乗れた場合と、乗れなかった場合で二つの人生が分岐する。

 彼女は小説家志望の恋人(ジョン・リンチ)を養っているが、うまく乗れた人生では、恋人が元妻(久々のジーン・トリプルホーンだが、無残に太り、老けた)を家に引っ張りこんでいるところに帰ってしまい、友人のところに逃げていく。地下鉄の中で出会った剽軽な男と再会し、恋するようになるが、彼には妻子があって、それを知ってテムズ川に飛びこみ、自殺。

 地下鉄に乗りそこねた方では、恋人の裏切りに気づかず、ウエートレスやサンドイッチの配達係のバイトを兼業してけなげに生活を支えるが、恋人の元妻にいじめられて、落ちこんでいき、自動車にはねられて即死。

 二つの人生を死で収束させるのは、あまりにも安易だ。ロンドンの淡彩の風景とパルトロゥの透明感のあるファッションが売りか。

amazon
*[01* 題 名<] バジル
*[01* 原 題<] Basil
*[02* 製作年<] 1997
*[03*   国<] 英国
*[05* 監 督<] バラドワジ,ラダ
*[05* 原 作<] コリンズ,ウィルキー
*[08* 出 演<]レト,ジャレッド
*[09*    <]スレーター,クリスチャン
*[10*    <]フォラーニ,クレア
*[11*    <]ジャコビ,デレク
*[12*    <]ピックアップ,レイチェル

 原作はウィルキー・コリンズの初期の問題作だそうで、謎あり、陰謀あり、復讐ありの大ロマンである。

 勘当されて、惨めに死んだ大富豪の息子の忘れ形見が、父親の実家に復讐するという話なのだが、大富豪の温室育ちの次男の視点から描いているので、全貌が明らかになっていく過程のサスペンスがたっぷり味わえる。

 復讐の道具にされるジュリアという娘を「ジョー・ブラックによろしく」のクレア・フォラーニが演じている。熱帯植物が繁り、孔雀が羽を広げる温室でバジルと出会うのだが、青い衣装で身を包んだ美しさに嘆息。久しぶりにファム・ファタールの似合う女優に出会った。

amazon
*[01* 題 名<] 地球は女で回ってる
*[01* 原 題<] Deconstructing Harry
*[02* 製作年<] 1997
*[03*   国<] 米国
*[05* 監 督<] アレン,ウッディ
*[08* 出 演<]アレン,ウッディ
*[09*    <]クリスタル,ビリー
*[10*    <]ムーア,デミ
*[11*    <]エアロン,キャロリン
*[12*    <]アレン,カーティス

 いかにも模範的なアメリカ市民が庭の緑の芝生でバーベキュー・パーティーを開いている。居間でテレビを見ているというその家の主人を隣家の主婦がむかえにいくが、二人は不倫関係で、たちまち組んずほぐれつ。

 実は主人公の小説家のハリーの作品の中の話で、前妻の妹が秘密を作中で暴露したと怒鳴りこんでくる。ハリーの小説は私小説みたいなもので、隣家の主婦が彼女で、不倫相手はハリーであることが姉と夫にばれてしまったというわけ。

 この後も、ハリーの目茶苦茶な生活と作品が入り乱れて展開する。作中に出てくる狂信的ユダヤ教徒の女精神分析医(ムーア)は前妻で、ユダヤ教狂いの部分は姉から借りているという具合。

 前妻との離婚の原因になった教え子は、冒険家の友人(クリスタル)と結婚することになり、ハリーは女々しいごたくをならべる。

 彼は教え子の結婚式の当日、教壇から追われた母校から表彰されることになるが、誰も祝ってくれる人がいず、前夜、たまたま呼んだ黒人の娼婦に割増料金を払い、表彰式についてきてもらうことにする。

 前作から較べると暗く、地味だが、アレンのぼやき節のおもしろさは今回の方がよく出ている。目茶苦茶な展開の果てに、予定調和的な結末がくるのは前作と同じ。

 実の息子の誘拐と拳銃不法所持で表彰式直前に逮捕されるが、結婚式を終えたばかりの教え子と友人が保釈金を払ってくれて、めでたしめでたし。

 うっかりしていたが、原題はDeconstructing Harryで、「ハリーを脱構築する」?! 確かに、そういう映画ではある。

*[01* 題 名<] ワイルド・マン・ブルース
*[01* 原 題<] Wild man blues
*[02* 製作年<] 1997
*[03*   国<] 米国
*[05* 監 督<] コップル,バーバラ
*[08* 出 演<]アレン,ウッディ
*[09*    <]ニューオーリンズ・ジャズ・バンド

 アレンのジャズ・バンドのヨーロッパ公演の記録フィルム。下積み時代、アレンはジャズの前座にボードビリアンとして出演していたが、その頃、クラリネット奏者になろうと真剣に練習したという。

 当時の仲間のバンジョー奏者をリーダーにニューオーリンズ・ジャズのバンドを組み、演奏したところ、急にヨーロッパ公演の話がもちあがり、専用ジェット機で一日一都市をめぐる強行軍をこなすことになる。

 アレンの妹がマネージャー格で、愛人説もある養女のベトナム娘がそばにくっついている(ブスだが、喋り方は魅力的)。「リーダーにしか話しかけないのはいけない、メンバーみんなによかったと言うべきだ」と彼に説教している。

 最後に95歳の実の母親が顔を出すが、目鼻立ちはアレンそっくり。

Copyright 1999 Kato Koiti
This page was created on Feb07 1999; Updated on Apr10 1999.
映画
ほら貝目次