映画ファイル   April - June 1999

加藤弘一
1999年 3月までの映画ファイル
1999年 7月からの映画ファイル

April 1999

*[01* 題 名<] フリー・マネー
*[01* 原 題<] Free Money
*[02* 製作年<] 1998
*[03*   国<] 米国
*[05* 監 督<] シモノー,イヴ
*[08* 出 演<]ソルヴィーノ,ミラ
*[09*    <]ブランド,マーロン
*[10*    <]シーン,チャーリー
*[11*    <]チャーチ,トーマス・ハーデン
*[12*    <]サザーランド,ドナルド

 宣伝ではミラ・ソルヴィーノ主演のアクションものということになっていたが、パロディ風の作りで、出演者が大物ぞろい。頭の弱そうな双子姉妹の父親で、独裁権をふるう州刑務所の所長がマーロン・ブランド、その娘を結婚させられる整備工がチャーリー・シーン、刑務所長の子分のアル中判事がドナルド・サザーランド。最後のシーンでは、新しい刑務所長役でマーティン・シーンが顔を出している。全盛期をすぎたとはいえ、こういうC級映画に、なぜビッグ・ネームがそろったのか。

 舞台はカナダ国境に近いノース・ダコタだが、リンチをやりかねない地元権力にFBIが干渉するという設定は「ツィン・ピークス」に似ている。いろいろな面で中途半端な映画だが、カルトムービーとして残るのだろうか。

*[01* 題 名<] ブギーナイツ
*[01* 原 題<] Boogie Nights
*[02* 製作年<] 1997
*[03*   国<] 米国
*[05* 監 督<] アンダーソン,ポール・トーマス
*[08* 出 演<]ウォルバーグ,マーク
*[09*    <]レイノルズ,バート
*[10*    <]グラハム,へザー
*[11*    <]ムーア,ジュリアン

 70年代のポルノ映画界の盛衰をノスタルジーたっぷりに描く。監督は20代だが、舞台になった土地で生まれ育ったというから、雰囲気がわかるのだろう。

 高校生の時にデビューした伝説的な巨根男優(ウォルバーグ)が主人公だが、家父長的な監督(バート・レイノルズ)、ゴッドマザー的な女優(ムーア)、いつもローラースケートをはいているローラーガール(グラハム)、オーディオマニアの黒人男優、浮気妻に頭の上がらない助監督、「大佐」と呼ばれる幼児趣味の怪しげなスポンサー等々がいりまじる群衆劇である。

 ポルノ業界が舞台といっても、コメディ仕立てなのでエロスを期待してはいけない。ヒロイン格のヘザー・グラハムは可愛いヌードを披露するが、まったく色気がない。

 最初のうちは誰が誰だかわからないし、ディティールにこだわりすぎて平板になった感がある。人物をしぼった方がよかったと思う。ビデオの登場で落ち目になっていく部分はいい味を出している。演出は荒削りだが、力はある。

 主人公の最終オーディションにディカプリオが残っていたというが、本当だろうか。

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*[01* 題 名<] バグズ・ライフ
*[01* 原 題<] Bugs Life
*[02* 製作年<] 1999
*[03*   国<] 米国
*[05* 監 督<] ラセター,ジョン
*[08* 出 演<]フォーリー,
*[09*    <]スペイシー,ケビン
*[10*    <]ルイス=ドレイファス,ジュリア
*[11*    <]パネティエーリ,ヘンデン
*[12*    <]ディラー,フィリス

 「アンツ」と競作になった作品。はぐれアリが王女アリに好意を持たれて頑張るという大枠は同じだが、こちらは昆虫版「七人の侍」だった。バッタの群れが野伏りで、アリが百姓。落ちこぼれの主人公が土屋嘉男で、バッタと戦ってくれる戦士を街にさがしにいくが、戦士と思ったのはサーカス団を馘になった芸人虫だったという展開で、後半は駄目チーム奮闘ものになる。

 料金分だけ楽しめたというところか。

 最初の部分で、多層レンズのゴーストが映ったり、ピントが中景に映ると、前景がぼやけるというフィルムごっこをしていたが、終わりではNGカットをサービスした。マジメなシーンで笑いだしたり、怖い悪役バッタが小心で神経質そうだったり、芸が細かい。

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*[01* 題 名<] フェアリーテイル
*[01* 原 題<] Fairy Tale
*[02* 製作年<] 1997
*[03*   国<] 英国
*[05* 監 督<] スターリッジ,チャールズ
*[08* 出 演<]ハース,フロレンス
*[09*    <]アール,エリザベス
*[10*    <]オトゥール,ピーター
*[11*    <]カイテル,ハーヴェイ
*[12*    <]ニコルズ,フィービー

 コティングリー妖精事件をテーマとしたファンタジー映画だが、事件の背景となった不安に満ちた世相をしっかり描いており、歴史映画の風格がある。

 時は第一次大戦末期の1917年。ロンドンではビルから吊るされた状況から縄抜けをするフーディニーや、芝居「ピーターパン」(フライングをすでにやっている)が人気を博す一方、街角には傷病兵があふれ、神智学協会の集会には戦争未亡人がつめかけていた。アーサー・マッケンの小説そのままだ。

 妖精事件の起こったヨークシャーにも戦争の影はしのびよっていて、妖精を見る8歳のフランシスの父親は戦場で行方不明になっていた。妖精写真に人びとが夢中になったのがよくわかる。

 妖精を見る二人の少女が愛らしい。老境の孤独をにじませるドイルのピーター・オトゥール、皮肉っぽさと子供好きの人のよさをかねそなえたフーディニーのハーヴェイ・カイテルが作品に厚みをあたえている。

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*[01* 題 名<] シンレッドライン
*[01* 原 題<] The thin red line
*[02* 製作年<] 1998
*[03*   国<] 米国
*[05* 監 督<] マリック,テレンス
*[05* 原 作<] ジョーンズ,ジェイムズ
*[08* 出 演<]カヴィーゼル,ジム
*[09*    <]ペン,ショーン
*[10*    <]ノルティ,ニック
*[11*    <]キューザック,ジョン
*[12*    <]チャップリン,ベン

 第二次大戦で最初の激戦地となったガダルカナルを描き、「プライベート・ライアン」とアカデミー賞を争ったというので身構えて見たら、ジャングルの瞑想的な映像につづいて、ニューギニア原住民の暮らしがゆったりと描かれ、拍子抜けした。脱走した米兵二人が原住民と暮らしているが、アメリカ軍の船に見つかって、部隊にもどされる。

 主人公の部隊が上陸するが、最初こそものものしいものの、あっさり上陸してしまって、拍子抜けする。ジャングルと草原の行軍があって、高地の斜面に達し、ここでいよいよ日本軍の抵抗を受ける。殺され方があっけないが、実際はこうだったのか。

 機関銃を撃ってくる日本軍の堡塁をつぶす場面が最初の山になるが、いったん接近を許すと、日本兵はあっけなくやられてしまう。つづいて、ジャングルの中の日本軍の司令部を強襲するが、ここでも日本兵は逃げまどうばかりで、タコ壷の中に手榴弾を投げこまれて殺されていく。部隊としてまとまっている日本兵がこんなに弱かったはずはないのだが。

 ラスト、主人公はジャングルを流れる川に沿って、仲間二人と斥候に出るが、装備のきちんとした日本兵の小隊に発見され、追われる。主人公は負傷した仲間を救うために、囮になって逃げ、殺される。

 多分、この映画は戦争映画として見てはいけないのだろう。先入見を棄てて、もう一回見ようと思う。

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May 1999

*[01* 題 名<] 視線のエロス
*[01* 原 題<] la femme défendue
*[02* 製作年<] 1997
*[03*   国<] フランス
*[05* 監 督<] アルレ,フィリップ
*[08* 出 演<]カレ,イザベル
*[09*    <]アルレ,フィリップ

 39才の不動産業のフランソワと22才の売り子のミュリエルの不倫を、はじまりから終わりまで、全編男の視線から描いた作品。

 ヒロインに焦点を合わせっぱなしの映画だから、女優が好みからはずれると辛いのだが、台詞がいいのでおもしろく見ることができた。ロメール映画の女の子のように才気煥発ではないが、したたかな部分が徐々に出てきて、その描き方がリアルだった。この監督は相当女で苦労しているのだろう。

 ヒロインのイザベル・カレは20代の設定なのに、体の線が硬いと思ったら、実年齢は15才だそうだ。表情ではちゃんとややこしい心の動きを表現しているから、フランス娘の早熟ぶりは痛ましくもある。

 付きあいはじめたばかりの恋人がいながら、中年男と不倫の関係になり、エイズ検査でからかって中年男になぐられると、恋人にすべてを打ち明ける。その後も二股をつづけるが、耐えられなくなった恋人が男の妻に会いにいき、すべてを話してしまう。男は離婚する気はなく、不倫は終わるが、未練たらしく一年後に手紙を出すところで終わる。

*[01* 題 名<] エバー・アフター
*[01* 原 題<] Ever After
*[02* 製作年<] 1998
*[03*   国<] 米国
*[05* 監 督<] テナント,アンディ
*[08* 出 演<]バリモア,ドリュー
*[09*    <]ヒューストン,アンジェリカ
*[10*    <]スコット,ダグレイ
*[11*    <]モロー,ジャンヌ
*[12*    <]ゴッドフリー,パトリック

 「シンデレラ」の新解釈だが、現代風の読みかえとしても、映画としても、よくできている。グリム兄弟にジャンヌ・モローの貴婦人が本当のシンデレラ物語を語り聞かせるという額縁がついている。

 妻を早くなくした農場主が、二人の連れ子のいる男爵夫人と再婚するが、夫人を田舎の邸に連れてきた翌日、急死してしまう。彼はいまわの際に、先妻の残したお転婆娘のダニエルの名を呼びながら息を引きとる。不本意に農場で暮らすことになり、頼みの夫にも先立たれた男爵夫人がダニエルをいじめだすのは時間の問題だった。

 十年後、召使のように使われているダニエルは、スペイン王女との政略結婚を嫌がって城を逃げだしたヘンリー皇太子を馬泥棒と間違え、リンゴをぶつけるが、王子は馬の代金に金貨をおいていく。彼女は税金の代わりに国に売られた召使を、その金貨で買いもどすために、貴族の扮装をして城に出かけ、王子と再会する。王子は「ユートピア」を引用する彼女を、リンゴをぶつけたお転婆とは気づかずに恋してしまうことから、いよいよシンデレラ物語が動きだす。

 フランス王に招聘されたレオナルド・ダ・ビンチが魔法使い役でからむとか、二人の連れ子の妹の方(「乙女の祈り」のブスをやったメラニー・リンスキー)がダニエルに憧れているとか、よく考えてある。

 アンリ二世時代の話にしてあるので、悲恋に終わるのではないかと最後まではらはらした。こういう趣向はずるいが、おもしろかったから許そう。ドリュー・バリモアは溌剌とした魅力ではちきれそうだが、妙な自己主張がないのがいい。

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*[01* 題 名<] アンジャリ
*[01* 原 題<] Anjali
*[02* 製作年<] 1990
*[03*   国<] インド
*[05* 監 督<] マニラトナム
*[08* 出 演<]ラグヴァラン
*[09*    <]レーヴァティ
*[10*    <]ブラブ

 雨の夜、二人の幼い子供がタクシーを止めようとする。父親は警官だと嘘をついて、やっと止めたタクシーで産気づいた母親を病院にかつぎこむが、父親は医者にいわくありげに呼ばれる。翌日、若い建築家の父親は子供は死産したと告げる。

 その二年後、一家は立派な分譲式の鉄筋アパート(日本でいうマンションか)に移る。インテリが多いらしく、自治会がしっかりしていて、子供たちの団結も強い。一家の二人の子供は、最初はいじめられるが、機転をきかして警官を追い払ったことで、受けいれられる。

 ロミオとジュリエット風のロマンスをのぞき見したり、知恵遅れの大人をからかったり(精神病院に強制入院される)、主人公の一家の父親が浮気をしている疑惑があったりといった日常を、裕福な子供たちのアメリカナイズされた視点からコメディ風に描いているが(ここはかなり退屈)、半分を過ぎて、突然、障害児ものになる。死産したことになっていたアンジャリは生きていて、施設で育てられていたのだ。母親はアンジャリを自分で育てると言いだし、にわかにシビアな展開になる。

 障害児を引きとったことで、隣人から排斥されるようになり、二人の子供は「こんな子は妹なんかじゃない」と言いだし、早く死ぬように祈るしまつ。アンジャリは同じマンションの子供たちに、缶を服にくくりつけられる。大人の知恵遅れの男の時には笑ったが、いたいけなアンジャリが同じ目に遭うのは目が背けたくなる光景だ。兄の方はアンジャリをからかった悪がきに喧嘩をいどむが、これでいよいよ一家の孤立が深まる。

 アンジャリは母親になつこうとせず、同じマンションに住む前科者の男になつく。母親はいよいよむきになるが、確かにこれでは子供は逃げるだろう。

 とうとう自治会に呼びだされ、マンションを出ていくように勧告されるが、前科者の男が熱弁をふるってかばってくれて、からくも助かる。

 ここで終わっていれば後味がよかったのだが、変てこなクライマックスがつく。アンジャリの容態が急変し、入院する騒ぎになるが、ちょうどその時、父親が殺人の現場を目撃した犯人が警察を保釈され、口封じのために兄を誘拐する。

 前科者の男が体を張って兄を助けるが、犯人を殺してしまい、逮捕される。次の朝、アンジャリは眠るように息を引きとっている。冷たくあたっていた姉が「死」ということをわからず、懸命に目を覚まさせようとする場面は痛々しいが、前科者と障害児を体よく厄介払いした感がある。

 アンジャリとは合掌のことだそうだ。父親のラグヴァランは「ムトゥ」の旦那様の自殺した父親をやった役者だが、「ボンベイ」の主人公と似たもっさりした感じである。

 「スターウォーズ」と「ET」もどきの場面(似ているだけに、よけいチャチ)と前半の子供たちの群舞、とってつけたようなクライマックスがなければ傑作になっていたが、それではインド映画ではなくなっていたかもしれない。

*[01* 題 名<] 恋におちたシェイクスピア
*[01* 原 題<] Shakespeare in Love
*[02* 製作年<] 1998
*[03*   国<] 米国
*[05* 監 督<] マッデン,ジョン
*[08* 出 演<]パルトロウ,グゥイネス
*[09*    <]ファインズ,ジョセフ
*[10*    <]デンチ,ジュディ
*[11*    <]ウィルキンソン,トム
*[12*    <]スタントン,イメルダ

 十年に一度の傑作! どのシーンをとっても、生気にあふれ、こころよい緊張感がみなぎっている。トム・ストッパードのオリジナル脚本だけあって、しゃくにさわるくらい、よくできている。「ロミオと海賊の娘エセル」が「ロミオとジュリエット」になるまでの裏話のとりながら、当時の演劇界と宮廷のすったもんだをおもしろおかしく描いている。どこかで聞いた台詞があちこちにちりばめられているのは、スノッブ心を刺激して楽しい。

 ゴシップのレベルにとどまっていて、作家論に昇華していない点、「アマデウス」に一歩を譲るが、男が女を演じるという当時の習慣の逆手をとって、パルトロウに娘と少年の二役を演じさせた趣向は最高に美味しかった。パルトロウのジュリエットの台詞はイマイチだが、ヴァイオラのモデルの役は彼女の代表作として記憶されると思う。

 ジュディ・デンチのエリザベス女王はおみごと。ラストの危機に、客席から水戸黄門よろしく登場し、八方丸くおさめる。王権と演劇性を絵にしたら、こうなるという見本。

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*[01* 題 名<] ニノの空
*[01* 原 題<] Western
*[02* 製作年<] 1997
*[03*   国<] フランス
*[05* 監 督<] ポワリエ,マニュエル
*[08* 出 演<]ロペス,セルジ
*[09*    <]ブルド,サッシャ
*[10*    <]ヴィタリ,エリザベート
*[11*    <]マテロン,マリー

 「パリ空港の人々」を思わせる社会の吹きだまりでひっそり生きる人々の話で、ギスギスしたイメージのあるフランスにもこういう連中がいたのかと思う。ブルターニュという土地柄もあるのかもしれない。

 ヒッチハイカーのニノを乗せてやったパコという靴のセールスマンが、商品もろとも、車を乗り逃げされる。田舎道で途方にくれていると、エンジントラブルでマリネットという年上の女性の車が停車する。彼女に警察まで連れていってもらうが、他人を同乗させるのは会社の規則違反なので、うかつに被害届を出せない。警察の前でパコが行きつもどりつしていると、マリネットの車がまた止まり、自宅に招いてくれる。パコは会社に報告するが、上司がいないので、マリネットの電話番号を告げ、その間に警察に被害届を出しにいく。ヒッチハイカーを乗せたことは伏せ、車を降りた隙に盗まれたことにする。上司からかかってきた電話で警察に届けたとおりを説明するが、馘を言いわたされる。

 パコはマリネットの好意で泊めてもらうが、翌日、靴の見本を下げたニノを見かけ、追いかけてボコボコにする。パコはカタロニア人だけあって、血の気が多い。

 商品はとりかえすが、警察に届けるわけにはいかず、怪我をしたニノを費用自分持ちで入院させる。その晩、パコはマリネットと結ばれ、ロシア系イタリア人を自称するニノとも意気投合する。

 独身でちょうど同棲中の恋人と別れたばかりのパコはマリネットにプロポーズするが、出会った時、妻とわかれるかどうか考えるために、二ヶ月間会わないことにしていると嘘をついたことを持ちだされ、二ヶ月、間を置こうと提案される。

 二ヶ月という時間をつぶすために、パコはニノのヒッチハイクにつきあうことにする。ブルターニュなのだが、殺風景でとりとめがなく、まるで北関東という感じ。

 ニノのようなヒッチハイカーというより、若い路上生活者はかなりいて、大きな町には収用センターがあり、無料で泊めてくれる。セールスマン時代、バリッと決めていたパコはだんだん路上生活者地味てきて、実家に帰りたいが帰れないという青年の伝言を頼まれたりする。

 パコはナタリーという寂しそうな女性と知りあい、ニノと一緒に食事に呼ばれる。たくさん子供がいて、姉の子を預かっているというが、実は彼女が生んだ子供だとわかる。最初の子供の父親は去っていった恋人だが、その後の子供はすべて行きずりの男が父親だという。無茶苦茶な話だが、ニノはそんな彼女を受けいれ、同棲をはじめる。

 二ヶ月目になり、パコはニノの運転する車でマリネットの家にもどる。再会を前に緊張し、ニノに様子を見にいってもらうが、彼女は別の男が出来たとにべもない。

 人情があるようでいて、実は冷たいあたり、やはりフランスだなぁと思う。

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*[01* 題 名<] フィオナの海
*[01* 原 題<] The Secret of Roan Inish
*[02* 製作年<] 1994
*[03*   国<] 米国
*[05* 監 督<] セイルズ,ジョン
*[05* 原 作<] フライ,ロザリー
*[08* 出 演<]コートニー,ジェニ
*[09*    <]コルガン,アイリーン
*[10*    <]ラリー,ミック
*[11*    <]シェリダン,リチャード

 父親と一緒に都会に出たフィオナという少女が、祖父母のいる港町に一人でもどるところからはじまる。船べりに立つ彼女を、一頭のアザラシが出かえでもするかのように見つめる。

 コネリー一族の本当の故郷は祖父母の家から見えるローン・イニッシュ島という小島で、初代のショーン以来、一族で代々住んできたが、三年前に引きはらったので、今は無人島である。

 島を引きはらう時、フィオナの弟が、木靴のような形の揺りかごにはいったまま、波にさらわれ、行方不明になっている。無人島のはずのローン・イニッシュ島に、夜、灯火が見えたことから、フィオナは弟が島に帰っているのではないかと空想をはじめる。

 コネリー一族はアザラシ版羽衣伝説(!)を代々伝えていて、セルキーという海の妖精の血がはいったせいで、一世代に一人、黒髪で黒い目の男の子が生まれるといわれている。フィオナの弟は黒髪で黒い目だから、アザラシの皮をかむったセルキーが守って育ててくれているのではないかというのが彼女の考えだ。

 年の離れていない叔父と島にわたり、弟のために家を修繕するが、嵐の夜、まさかという結末になる。現実的のように見えた祖母が、一番、伝説を信じていたりするのは、やはりアイルランド人だからだろう。

 こんなのありかという話だが、アイルランドが舞台だと、妙にリアリティがある。

*[01* 題 名<] Uボート
*[01* 原 題<] Das Boot
*[02* 製作年<] 1981,1997
*[03*   国<] ペーターゼン,ヴォルフガング
*[05* 原 作<] ブーフハイム,ロータル=ギュンター
*[08* 出 演<]プロホノフ,ユルゲン
*[09*    <]グレーネマイヤ,ヘルベルト
*[10*    <]ヴェンネマン,クラウス
*[11*    <]レダー,アーウィン

 オリジナルの16年後に再編集したディレクターズ・カット版で209分ある。オリジナルは公開時と名画座で見たが、潜水や浮上のたびに、狭い船内を水兵たちが前や後に走っていくというか、くぐっていくシーンや、海底に着床して浮上できなくなるクライマックス、そして皮肉なラストは強く脳裏に焼きついている。

 タイタニックとは違って、潜水艦は軍艦であるから、ゴツイというか、鉄の塊で、魚雷の表面にグリースを塗りつけたりする場面はいかにもドイツなのだが、潜水して爆雷に耐える場面では、外壁一枚外は水深二百メートルの深海という閉塞感は生理的に迫ってきて、見ているだけで心臓に悪い。

 90分くらい長くなっているはずで、出向前の馬鹿騒ぎや船内の窮屈な生活、北大西洋の嵐の中を延々と航海するうんざりするような日々の描写、気どっていた若い士官が水兵といっしょに毛じらみの治療の列にならぶところ、浮上までの気の遠くなるような作業などは、今回追加されたものだろう。

 長くするとだいたい悪くなるものだが、これが本来の形ではないかと思えるほど完璧な出来である(ただしラストの空襲だけはオリジナルの方がよかった)。メリハリは弱まっているかもしれないが、潜水艦生活の重苦しさは今回の版でなければ十分伝わってこない。Uボートはぱっとしないが、ドイツ人にとってのテルモピレーなのだと思う。

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*[01* 題 名<] 恋の秋
*[01* 原 題<] Conte d'automne
*[02* 製作年<] 1998
*[03*   国<] フランス
*[05* 監 督<] ロメール,エリック
*[08* 出 演<]ロマン,ベアトリス
*[09*    <]リヴィエール,マリー
*[10*    <]リボル,アラン
*[11*    <]サンドル,ディディエ
*[12*    <]ポルタル,アレクシア

 二度目だが、いよいよおもしろい。

 前回はワインオバサンのマガリが前面に見えたが、今回はイザベルの方に目が行った。新聞広告で見つけた男はタイプでないといいながら、彼がマガリに魅かれはじめると、注意を引きつけようと大袈裟に抱きついて、マガリの誤解のもとになる。もちろん、無意識でやっているのだが、マリー・リヴィエールの繊細な演技は絶品。

 息子の恋人と年上の哲学教師の駆け引きもおもしろい。終わったと言いながら、男の気を引かずにはおれない無意識の傲慢さがほほえましい。

 描きようによっては、どちらも嫌な女なのだが、ふうわり、ほほえましく描くところに、ロメールの円熟がある。

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June 1999

*[01* 題 名<] 私の愛情の対象
*[01* 原 題<] The Object of my Affection
*[02* 製作年<] 1998
*[03*   国<] 米国
*[05* 監 督<] ハイトナー,ニコラス
*[05* 原 作<] マコーリ,スティーブン
*[08* 出 演<]アニストン,ジェニファー
*[09*    <]ラッド,ポール
*[10*    <]アルダ,アラン
*[11*    <]ホーソン,ナイジェル

 私立小学校の教師でゲイのジョージと、人権派弁護士とつきあっているソシアル・ワーカーのニーナが同居をはじめ、愛しあうようになる。ニーナは妊娠し、弁護士と同居するが、鬱陶しくなってジョージのもとへもどる。ジョージは子供を育てると誓う。

 ここで終わればオナベのメルヘンなのだが、ジョージは復縁をもちかけた昔の恋人と出かけたバーナード・ショーの学会で、老教授の囲い者の役者志願の若者に一目ぼれし、ゲイの本性に目覚める。ゲイであっても、男は男だという見本。ニーナはとりのこされ、老教授(ナイジェル・ホーソン)も哀れ。

 出産後、二人はわかれるが、六年後、ニーナの娘はジョージの私立学校に入学し、またもや学芸会。ここで登場人物が再会し、娘を祝福して、めでたし、めでたし。こういうハッピーエンドもあったのか。

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*[01* 題 名<] ライフ・イズ・ビューティフル
*[01* 原 題<] La vita è bella
*[02* 製作年<] 1998
*[03*   国<] イタリア
*[05* 監 督<] ベニーニ,ロベルト
*[08* 出 演<]ベニーニ,ロベルト
*[09*    <]ブラスキ,ニコレッタ
*[10*    <]カンタリーニ,ジョルジオ
*[11*    <]ブッフホルツ,ホルスト
*[12*    <]ドゥラーノ,ジュスティーノ

 アカデミー賞主演男優賞をとったというので期待したが、がっかり。ユダヤ人ものなので、贔屓されたということではないか。

 前半はホテルの給仕をしている陽気なユダヤ青年が、教師をしているブルジョワ娘と結婚するまで。ハイテンションのギャグの連発で疲れた。後半は幼い息子と一緒に強制収容所に送られるが、息子にすべてはごっこ遊びだと思わせるために、大奮闘。

 発想はおもしろいのだが、「アンダーグラウンド」のようなリアリティがない。ハイテンションで疲れただけ。

 プログラムで越智道雄氏はベニーニをウッディ・アレンと同じユダヤ道化(シュレミール)につらなるものと書いているが、コロンビーナに恋するアルレッキーノに近いという気がする。

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*[01* 題 名<] マイスウイート・シェフィールド
*[01* 原 題<] Among Giants
*[02* 製作年<] 
*[03*   国<] 英国
*[05* 監 督<] ミラー,サム
*[08* 出 演<]ポスルスウェイト,ピート
*[09*    <]グリフィス,レイチェル
*[10*    <]ソーントン,ジェイムズ
*[11*    <]ジャーヴィス,ロブ

 フリークライミングの場面ではじまる。オヤジ(ポスルスウェイト)と若者の二人組が崖に挑んでいるところに、ナップザックを背負ったオーストラリア娘が通りかかる。

 崖に挑んでいた二人は失業中で、オヤジの方は電気会社の友人から、闇で鉄塔の塗り直しを請け負う。三ヶ月の期間内に終わらなければ、金は払わないという。オヤジが集めた面々の面魂は英国プロレタリアートそのもので、日本でビルの窓拭きの仕事をしながら、登山をつづける人たちのフリーター感覚とは違うようだ。

 鉄塔の上からながめると、ヨークシャーの原野に鉄塔の列が延々とつづく景観はまさに原題のAmong Giantsである。この風景が勝つと単なる記録映画になってしまうが、オヤジをめぐる人間模様は巨人以上に濃い。

 パブで再会したオーストラリア娘が旅費稼ぎにペンキ塗りに加わるが、若い方とロマンスがはじまるのかと思ったら、オヤジの方とくっついてしまう。別居中の妻には買ってやったこともないダイヤの指輪を贈ったり、ポスルスウェイトのオヤジぶりはなんともいじらしく、別居中の妻が怒るのも無理はない。

 結局、彼女は専業主婦には甘んじられず、去っていくが、温かく見送るポスルスウェイトの姿は人生を感じさせる。

*[01* 題 名<] 猫が行方不明
*[01* 原 題<] Chacun cherche son chat
*[02* 製作年<] 1996
*[03*   国<] フランス
*[05* 監 督<] クラピッシュ,セドリック
*[08* 出 演<]クラベル,ギャランス
*[09*    <]ル・カルム,ルネ
*[10*    <]スアレム,ジアディアーヌ 
*[11*    <]デュリス,ロマン

 クラピッシュ監督の映画は何本か見たが、うまさばかりが目につき、なぜ評価されるのかわからなかった。だが、これを見て納得した。いろいろな幸運が重なってできた傑作で、こういう作品を最初に作ってしまうと、映画監督をつづけていくのは辛いだろう。

 メーキャップ・アーチストのクロエが三年ぶりにバカンスをとることになる。猫のグリグリ(gris grisだが、黒猫)を可愛がっているが、同居人のゲイは面倒を見てくれないので、預け先を探さなくてはならない。やっと見つかったのはルネ夫人という干からびた婆さん。この婆さんがおもしろい。80才にして映画初出演の素人だそうだが、彼女を見つけたことが第一の幸運だ。ほかの出演者も素人か無名の俳優だ。

 帰ってみると、猫は窓から逃げたらしいという。ルネ夫人は猫好きの暇な婆さんたちのネットワークを動員して探してくれる。婆さんネットワークの雑用係をしている知恵遅れの青年も猫探しに参加するが、クロエに気があるのか、ボディガードを名目に彼女にまとわりつく。

 パリ11区の変わりゆく下町風景に出会ったのがもう一つの幸運で、いたるところで工事がおこなわれ、長く住んでいた人間が追いだされたりしている。下町の気どらない人間模様に、クロエの仕事先のスタジオ点描や夜の盛場風景がはさまり、1990年代半ばのパリを活写している。

 クロエは緊張気味の陰気な美人で、「男なんて最低」と言い、いつもスラックスで出歩いているが、寂しくなってスカートでバーに繰りだすと、たちまち男が寄ってきて、帰りには拉致されそうになる。女バーテンダーが助けてくれるが、レズでキスを迫ってくる。アパルトマンでは同居人が無口な男を連れこんでいる。クロエが肩ひじ張って、気を使いながら生きている生活感覚が愛しくなる。

 片思いする知恵遅れの青年を尻目に、クロエは「太鼓たたき」の男(ロマン・デュリス)と寝るが、遊ばれたと傷つく。最後に郊外に引っ越していく画家への思いを自覚し、めでたしめでたし。

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*[01* 題 名<] ハムナプトラ
*[01* 原 題<] The mummy
*[02* 製作年<] 1999
*[03*   国<] 米国
*[05* 監 督<] ソマーズ,スティーブン
*[08* 出 演<]フレイザー,ブレンダン
*[09*    <]ワイズ,レイチェル
*[10*    <]ボスルー,アーノルド
*[11*    <]ハナ,ジョン
*[12*    <]オコナー,ケビン

 予告編では「インディー・ジョーンズ」風のエジプトものを強調していたが、原題はThe mummy。ミイラ男ものだった。冒頭の古代篇で王の愛人と通じた神官が生きながらミイラにされ、復活を暗示し、本篇につながる。「テラコッタ・ウォリアー」そのままの展開だが、共通のお手本があるらしい。最新テクノロジーを動員して、どうしてこんなに退屈なのか。

 悪役風で登場したエジプトの衛兵の末裔(顔にアラビア文字を刺青している)が善玉とわかるとか、ストーリーは工夫しているが、演出がとろい。

 唯一のとりえは、ヒロインの女性考古学者の可愛いこと。登場した時のメガネ顔から、輝きっぱなし。どこかで見た顔だと思ったら、レイチェル・ワイズではないか。肉体派だと思っていたが、コミカルで可愛い系の役がこんなにはまるとは。

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*[01* 題 名<] 25年目のキス
*[01* 原 題<] never been kissed
*[02* 製作年<] 1999
*[03*   国<] 米国
*[05* 監 督<] ゴズネル,ラジャ
*[08* 出 演<]バリモア,ドリュー
*[09*    <]アークエット,デイビッド
*[10*    <]バルタン,ミシェル
*[11*    <]ライリー,ジョン
*[12*    <]マーシャル,ゲーリー

 一度のキスをしたことのない25才の優等生新聞記者が、17才に化けて高校に潜入取材する。最初は浮いていて、地味な生徒の集まる数学クラブくらいしか友達ができなかったが、大学から編入してきた弟が野球のヒーローになって助けてくれたおかげで、学園の人気者になり、ついにはプロムの女王になる。だが、親切にしてくれた数学クラブの友達が、「キャリー」のような目に遭わされそうになるのを止めるために、正体をあきらかにする。

 彼女に好意をもってくれた英語の教師は騙されたと思い、去っていく。彼女は悲惨だったかつての高校生活から、英語教師への思いまでを告白した記事を書き、野球の試合の前にマウンドに五分間立つから、会いに来てくれるように教師に呼びかける。結末は予想どおりのハッピーエンド。

 設定は悪くないのだが、演出がもたついていて、かなりだれる。しかし、オバサンっぽい優等生記者から、元気いっぱいの高校生に変身するドリュー・バリモアの魅力で、最後まで見せてしまう。ドリュー・バリモアというと、一時、荒れた生活が話題になったし、不良少女の役が多かったが、この映画では地味な模範生役がぴったりはまっている。退屈してくると、彼女の笑顔のパワーで画面に引きもどされる。

 天真爛漫な笑顔なのだが、一度、危ないところをくぐってきただけに、無邪気なだけの笑顔とはパワーが違う。このあたり、一時期の小泉今日子に通じるものがある。

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*[01* 題 名<] ウェディングシンガー
*[01* 原 題<] The wedding Singer
*[02* 製作年<] 1998
*[03*   国<] 米国
*[05* 監 督<] コラチ,フランク
*[08* 出 演<]バリモア,ドリュー
*[09*    <]サンドラー,アダム
*[10*    <]テイラー,クリスティーン
*[11*    <]ダウ,エレン・アルバーテイィニ
*[12*    <]コバート,アレン

 紆余曲折のあるロマコメだが、奇跡的によくできている。「25年目のキス」よりも段違いにおもしろい。脚本、演出ともうまくて、ドリュー・バリモアの魅力を最大限引きだしている。

 ロック歌手をあきらめて、ウェディングシンガー(結婚式の余興専門の宴会歌手)をやっているロビーと、結婚式場の配膳係のジュリアが知りあい、ゴールインする話。

 ロビーは長く同棲していた恋人と結婚式をあげようとするが、当日、花嫁に逃げられ、がっくり落ちこむ。ジュリアには証券マンの婚約者がいて、ラスベガスで形だけの式を挙げようというのを説得して、盛大な結婚式にしようとロビーの協力で準備するが、その間に引かれあうようになる。ロビーはジュリアの婚約者のプレイボーイぶりに怒るが、経済的に安定せず、将来性もないので、愛を告白するのをためらう。ジュリアはロビーのところにもどってきた恋人を見て、ロビーの気持ちが自分にないと勘違いし、結婚式をキャンセルし、ラスベガスの式でいいと言いだす。ロビーは二人の後を追うが、ファーストクラスの席をとったのが幸いし、同じ飛行機のエコノミー席に乗りあわせていたジュリアを、同情したファースト・クラスの乗客の協力で、婚約者から奪いかえす。ビリー・アイドルが実名で出演。

 最初の結婚式で、新郎の旧悪を暴露して式のぶち壊しをはかる兄役のブシェーミが、ラストの結婚式で歌手として登場し、存在感をアピールしている。

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Copyright 1999 Kato Koiti
This page was created on May11 1999; Updated on Aug10 1999.
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