エディトリアル   Apr - Dec 2002

加藤弘一
Nov 2001までのエディトリアル
Mar 2003からのエディトリアル
Apr05

 二ヶ月ぶりの更新です。また文字コードの本を書いていて、更新しない状態がつづきました。
 24時間かかりきりになっているわけではないし、映画も見れば芝居にもいって、文字コードに関係のない本も読んでいるのですが、文字コードというテーマは精神衛生上よくなくて、更新する気力が失せていました。
 この二ヶ月間にR.A.ラファティが亡くなり、早稲田松竹が休館し、情報処理学会の標準化セッションにパネラーとして出席するというように、材料はたくさんあったのですが、文字コードにかかわっていると気分がふさいできて、ページの更新にまでエネルギーがまわせませんでした。
 悪い話ばかりではなく、来月、安部公房の『幽霊はここにいる』が上演されますし、『燃えつきた地図』の映画化が本決まりだそうです(監督はこのページの中にいます)。安部公房関係はこれから目が離せなくなります。

Jun22

 『図解雑学 文字コード』という本を準備していたのですが、ようやく再校が終り、八月上旬に刊行の運びとなりました。読書ファイル、映画ファイル、演劇ファイルの更新がとどこおっていましたが、これから追々更新していきます。
 『電脳社会の日本語』をベースにすれば簡単にできるだろうと思っていたのは大間違いで、いざ執筆にとりかかってみると、あれもいれたい、これもいれたいと欲が出てきて、半分以上の項目は前著にない内容になりました。
 新著は全項目に図版をつけるという体裁なのですが、図版はおそろしく手間がかかりました。文字コードなら、いくらでも図版の種はあるだろうと軽く考えていたのですが、かわりばえのしないコード表ばかり載せてもしょうがないですから、あれこれ知恵をしぼって、いろいろな図版を考えました。製作を担当していただいた編集プロダクションの方にも、本当にお世話になりました。
 幸い、担当したイラストレーターの方が原稿を深く読みこんで、こちらの考えた図柄をふくらませてくれたので、図版だけながめても、おもしろい本にしあがっていると思います。
 新著のためにおもしろい材料が集まったので、長らく更新しなかった「文字コード問題を考える」に八月末まで、新しいページを追加していくことにしました。もちろん、宣伝もかねています。
 追加第一号は昨年、「ABD」という英文雑誌に寄稿した「アジアの多言語処理」のオリジナル日本語版です。インタビューも四本ほどたまっているので、順次公開してきます。

Jul10

 昨日の午後6時10分頃、トップページのアクセス数が20万を突破したようです。20万人目の方には近刊の『図解雑学 文字コード』を差し上げると掲示しておいたのですが、まだ申し出はありません。
 ログを調べたところ、二人候補がいて、一人は文藝ネットのリンク集から来訪して、作家事典を中心に閲覧した方、もう一人はGoogleから「数字 記号 信号」という検索語で「文字コード問題早わかり1」にアクセスしてから、トップページに回られた方です。プロバイダとアクセスポイントもわかっていますが、それは伏せておきましょう。該当した方は今からでもご一報ください。
 もちろん、トップページのアクセス数にどれだけ意味があるのかという問題もあります。当サイトの場合、安部公房や文字コード、演劇、文藝ホットリストも正式の入口にしてあって、その分を含めると50万アクセスくらいでしょう。昨今話題のディープリンクやサーチエンジン来訪分をいれると100万近いかもしれません。
 といったところで、実際に中味を読んでいる方は、多く見積もっても1割か2割にすぎません。WWWのアクセス数はそんなものです。  この半年ほど、更新を怠ってきましたが、どういうわけかアクセス数はほとんど変わりませんでした。更新していれば、本当はあがったという可能性はなくはないですが、落ちなかったのは意外でした。文字コードの更新をやめたので、リピータがもともと減っていたということかもしれません。
 住基ネットがひょっとしたら凍結されるかもしれません。毎日新聞によると、亀井静香氏ら自民党の議員6名は「国民共通番号制に反対する会」(桜井よしこ代表)がまとめた住基ネットの稼働を3年間延期する改正住民基本台帳法の再改正案(凍結法案)に署名したということで、凍結方案の上程はほぼ確実ですが、可決されるかどうかは微妙のようです。
 住基ネットはメリットとして、住民票の広域公布を前面に出していますが、本当の狙いは本人確認機能にあります。住基ネットが本格的に動きだしたら、役人は誰のデータでも一瞬ですべて呼びだすことができるようになり、日本は北朝鮮をもしのぐ監視社会になるでしょう。

Sep15

 やはりというか、ついにというか、「動物占い」のブレイクに一役買った週刊プレイボーイが「住基ネット占い」なるものを発表しました。
 住民票コードは11桁の数字ですから、いくらでも占いをでっちあげることができます。週刊プレイボーイのものはゲマトリア風のオーソドックスな占いでした。

 あまりに運勢が悪かった人に朗報!!
 住基ナンバーは何度でも変えることができるので、いい数字が出るまでガンガン挑戦しようゼ!!

 住民票コードは11桁で、日本の総人口に対して80倍の余裕があるように見えますが、番号を連続して使うと、誤記入しただけで他人の番号になってしまうので、クレジットカードの番号同様、実際は飛び飛びに使っています(チェック・デジットは「平成14年総務省告示第436号」として告示されているそうです)。したがって、余裕はかなりすくないようです。
 クレジットカードだって16桁を使っているのに、日本人全員を対象にして、たった11桁とはあまりに余裕がありません。セキュリティ的にどうかと思いますし、この占いがブレイクし、変更する人があいつぐようなことがあったら、パンクしてしまうでしょう(基本設計が古いのです)。
 住基ネット占いはいずれオンライン版が出てきそうです。他の占いと組み合わせて、名前と生年月日も入力するように誘導すれば、今の若い人は簡単にだまされますから、けっこうな小遣い稼ぎになるでしょう。

 幕張でやっている「世界最大の恐竜博」を見てきました。
 全長37mのサイスモサウルスの復元模型が呼び物ですが、鳥=恐龍説を決定的にした、中国出土の羽毛のはえた恐龍の化石を年代順にそろえた展示もよかったです。実物は写真から想像していたよりも小さく、ニワトリくらいしかありませんでした。
 セキセイインコのように彩色した復元模型もありましたが、なんでも「カワイイ」で片づける女子高生も、鳥ともトカゲともつかない中途半端な姿にはたじろいでいました。分類できないものが穢れになるというメアリー・ダグラスの説そのままです。

Nov23

 連日、北朝鮮関係の報道がつづいています。遅ればせながら、トップページにブルー・リボンを貼りつけました。拉致被害者とご家族の一日も早い解放を祈ります。

 北朝鮮についてはひどい話が次から次へと出てきますが、どこかマンガじみているのはオウム真理教と似ています。白馬にまたがった肥満体の「将軍様」が疾駆する映像など、白いキャデラックに乗った麻原彰晃を思わせますが、カルト集団としての同質性の一方、規模はまったく違います。オウムはせいぜい二千人の集団でしたが、北朝鮮は人口二千万人をかかえる独立国家ですから、オウムの一万倍始末が悪いことになるでしょう。

 先月の「月刊ほら貝」の記事ですが、北朝鮮の文字コードについての文章をここにも載せておきましょう。

 拉致被害者の帰国をめぐる連日の報道で北朝鮮の異様さがあらためて浮き彫りになっているが、北朝鮮の国家文字コード、KPS 9566も社会主義国らしい滑稽な代物である。

 KPS 9566はISO 2022に準拠した2バイト・コードで、8259字をおさめる。12区まで数字、アルファベット、キリル文字、ハングル字母、日本のカナ、記号類、16区から44区までハングル完成形、45区から漢字dで、JIS基本漢字(JIS X 0208)と同様の構造をとっているが、韓国のKS基本漢字ハングル(KS X 1001)とは収録しているハングル完成形と漢字に相違があり、互換性はない。

 KPS 9566はISOに登録されているので、情報規格調査会のサイトで閲覧することができる。URLは下記のとおりである。

 上記ページを開いて4区を見てほしい。4区は65位までハングル字母がならぶが、空白をはさんで72位から77位まで、ハングル完成形6文字が飛地のようにマッピングされている。ハングル完成形は16区からなのに、なぜ6字だけここにあるのか。しかも、4区72位と4区75位は同じ字である。

 ハングルの読める人なら、ここで笑いだすところだが、実はこの6つの符号、先代の将軍様、キム・イル・ソンと現将軍様、キム・ジョン・イルのお名前に使う専用符号なのである。

 4区72位と4区75位が同じ字なのはどちらも「キム」だからだ。「キム」というハングル完成形は17区14位にもあり、KPS 9566には3種類の「キム」が重複登録されていることになる。

 この3文字、字形も発音もまったく同じであるが、4区72位は金日成閣下専用、4区75位は金正日閣下専用で、下々の金さんは17区14位の方を使わなくてはならない。要するに、中国皇帝に対しておこなわれた欠画のようなものと考えればいいだろう。将軍様の「金」をうっかり17区14位で表記したなら、社会主義国の常として、収容所行きはまぬがれないのではないか。

 北朝鮮の教科書では、金日成、金正日両将軍様のお名前は一回り大きい太字で印刷されているそうだから、特別な符号を割りあてるのは合理的といえないこともない。将軍様のお名前だけ金文字で表示するようなソフトウェアを作るには便利だろう。

 もちろん、どんな文字コードを国家規格にするかはその国の主権に属することであり、外からどうこういうことはできないが、ISOの場に持ちこまれるとなると、そうも言っていられない。

 北朝鮮はISOに加盟し、ISO 10646(≒ユニコード)の開発にも参加するようになった。1999年、北朝鮮代表団は300字余の文字追加を申請したが、その中にはキム・イル・ソンとキム・ジョン・イルという将軍様専用ハングルも含まれていた(!)。

 困ったのは漢字連絡会(IRG)とユニコード・コンソーシアムである。

 ISO 10646(≒ユニコード)はISO参加国の公的文字コードと相互変換できることを大前提としている。重複登録されているアルファベットや記号類は結構あるし、いわゆる「統合漢字」でも「互換漢字」というカテゴリーを設け、統合すべき範囲の漢字であっても、原規格で別字として独立の符号をあたえられている漢字には別符号をあたえている。

 KPS 9566に6文字が存在する以上、北朝鮮があくまで収録を求めるなら、「互換ハングル」というようなカテゴリーを設けて、いれざるをえないだろう。

 6字以外の追加候補にも問題があった。例えば「全」である。

 メールマガジンの制約上、「全」という字を使っているのではない。「全」の異体字ではなく、北朝鮮は「全」という字形そのものを追加申請してきたのだ。

 なぜ北朝鮮が「全」の追加を求めたのかというと、ISO 10646(≒ユニコード)の「全」(5168)が「入」の部に分類されているかららしい。「全」は人民に属するという社会主義イデオロギーの立場からすれば、「全」は「人」の部に分類されてしかるべきだというわけだ。

 韓国がいくら反対しても、「互換漢字」というカテゴリーができた直接の原因が韓国にある以上、説得力はない。日本もJIS拡張漢字(JIS X 0213)で「互換漢字」追加に道を開いたという前科があり、反対するわけにはいかない。台湾は「互換漢字」大幅拡充をかねてから求めており、反対するつもりはないだろう。中国は裏ではともかく、表立って北朝鮮を批判する立場にはない。

 かくして漢字連絡会(IRG)とユニコードの関係者は頭をかかえていたのであるが、2000年になって、北朝鮮は社会主義的追加要求をあっさり引っこめてしまったという。

 今にして思えば、北朝鮮の「柔軟路線」転換はこの頃からきざしていたわけであるが、野次馬としてはちょっと残念な気もする。

 社会主義丸出しというか、マルクス主義者はどこまでも笑わせてくれます。

追記:上記引用の「もちろん、どんな文字コードを国家規格にするかは……」以降の部分は本エディトリアルでは削除していましたが、バグダッドが陥落し、バース党社会主義政権が崩壊したのを祝って、オリジナル通りに復活させることにしました。フセインの銅像が倒される映像が流れていますが、次に倒されるのは……。(Apr10 2003)

Nov26

 二週間ばかり遅れましたが、7周年記念ということで、「映画」内に「DVDファイル」を開設しました。DVDがいつの間にか30枚以上たまったので、順次、感想をアップしていく予定です。

 ジャケット写真を合法的にいれたかったので、amazon.comのアソシエイトに加入しました。クリック数はあまり期待していませんが、DVD購入費を必要経費とする根拠になればという思惑もあります。

 「映画ファイル」、「演劇ファイル」、「読書ファイル」をずっと更新していないのに、新しいコーナーをはじめるとはなにごとかという批判もあるかもしれませんが、サイト運営に飽きてきていて、なにかで目先を変えないと更新する意欲が起こらなくなっているのが実情です。

 DVDは画質のいいビデオくらいに思っていましたが、実際に動かしてみるとメイキングや未公開映像、監督や出演者の音声解説などがあって、実におもしろいです。サラウンドもドルビーとDTSではずいぶん違い、1本の映画が5回も6回も楽しめます。

 というわけで、当分は「DVDファイル」に力をいれていくつもりです。

Dec01

 昨日、日本ラカン協会の第二回シンポジュウムをのぞいてきました。昨年はラカン派プローパーの濃い話題ばかりでしたが、今年はオイディプス・コンプレックスというテーマで、広い視点からラカンを考えようという趣旨のようでした。

 まず、若森栄樹氏がソフォクレスの「オイディプス王」と精神分析の誕生について、精神分析→オイディプス論ではなく、オイディプス論→精神分析ではないかという、従来のとらえ方を逆転するような仮説を緻密に展開し、聞きごたえがありました。

 次の妙木裕之氏の報告はフロイト門下から離れていったフェレンツィを軸に、文化人類学と精神分析のからみあいから、対象関係論が確立される経緯に話を進めるもので、非常に刺激的で、勉強になりました。『オイディプス論争』と重なるところの多い内容でしたが、本よりも見通しがよく、発展していきそうな論点を多く含んでいました。『オイディプス論争』の続編を書いてもらえたらと思います。

 最後の報告者は女性で、フェミニズムとラカンを話すということでしたが、「現代思想」用語をちりばめただけの中味のない話で、会場はしらけきりました。準備不足と言い訳たらたらでしたが、それ以前に理解が不足しているようです。さっさと切りあげればいいものを、利口ぶろうとして余計馬鹿をさらし、本人にとっても聴衆にとっても最悪の結果になりました。

 質疑は妙木氏の提題に集中しましたが、精神科医の藤田と名乗った方(藤田博史氏?)の後期ラカンとからめた質問はきわめて示唆的で、この応酬を聞くことができたことだけでも、出かけた甲斐がありました。

 鶴瓶のトーク番組に元公安調査庁の海坊主氏(名前は失念)が登場し、ベルリンの壁ができた直後のドイツの情報機関で三年間、スパイの研修を受けた頃のことを話していました。アウトバーンをアメリカの戦車の大軍が行進するとか、生々しい話の連続で、「トンネル」というドイツ映画を思いだしました。

 東京オリンピックは実はスパイの祭典で、役員や射撃、乗馬の選手(もともと軍人が多い)として多数の社会主義陣営のスパイが入国したというのも、なるほどと思いました。シベリア抑留者の中には「誓約者」といって、社会主義に洗脳されたり、将来の情報提供の約束と引き換えに特別待遇を受けたりした人がいて、それなりの地位につくようになったオリンピックの時点で、ソ連のスパイが一斉に接触したそうです。

 北朝鮮が13才の横田めぐみさんを拉致したのは、金賢姫のように、テロ要員にするためだったのではないかという説には驚きました。大韓航空機爆破は、たまたま金賢姫が死にそこなったから、北朝鮮の犯行であることがはっきりしたわけですが(それでも、韓国謀略説をとなえる左巻き文化人が多数いました)、「蜂谷真由美」というパスポートを残して自殺に成功していたら、日韓関係はどうなっていたでしょう。もう一歩進めて、万が一、本物の日本人がやっていたとなると……。

 もちろん、13才の白紙の状態の少女を拉致し、洗脳づけにしてテロ要員に育てようとしたというのはまだ仮説にすぎませんが、あながち否定しきれないでしょう。子供に銃を持たせたポルポト派にしても、中学・高校生を紅衛兵にした毛沢東にしても(先日見た「活きる」にそんなシーンがありました)、孤児院の子供を選抜して親衛隊をつくったチャウシェスクにしても、資本主義に染まっていない純真な子供を純粋培養して、ロボット兵士に仕立てあげるというのは社会主義者の十八番ですから。

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This page was created on Apr05 2002.
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