エディトリアル   October 2003

加藤弘一 Sep 2003までのエディトリアル
Nov 2003からのエディトリアル
Oct01

 西尾幹二日録の9月18日〜28日の10日間にわたって、9月9日に判決の出た船橋焚書事件裁判が詳細に報告されている。新聞では「著書廃棄は市の裁量」とか「「つくる会」が全面敗訴」という見出しが躍り、原告敗訴の印象をもった人が多かったろうが、西尾氏の日録に掲載されている判決文を読むと、事実認定では原告の主張をことごとく認めており、実質的には勝訴といっていい内容だった。著者ではなく、船橋市民が原告となっていれば、全面勝訴となった可能性が高い。

 船橋焚書事件をご存知ない方もおられると思うので、簡単に紹介すると、歴史教科書問題が論議を呼んだ2001年8月、船橋市立西図書館で西尾幹二氏、渡部昇一氏ら、「新しい歴史教科書をつくる会」会員を中心に右派と目される著者の著書107冊が、市の基準からいえば廃棄する必要がないにもかかわらず、密かに廃棄処分にされたというもの(購入して半年足らずの本も廃棄された)。2002年4月、産経新聞が報道し、現代の「焚書」事件として問題になった。

 事件が表に出た直後は、「産経「船橋の図書館で焚書?」報道に抗議して図書館関係者が集会5/18 」などという動きもあったが、真相があきらかになるにつれ、図書館諸団体は船橋市を批判する声明を出した(社団法人日本図書館協会の「船橋市西図書館の蔵書廃棄問題について」、図書館問題研究会の「常任委員会見解」)。船橋市は「臨時記者発表」で経緯を説明している。船橋市議会の議事録にも答弁がある。

 「新しい歴史教科書をつくる会」と焚書にあった著者のうち八名は、船橋市と「焚書」を指示した土橋悦子司書を相手どり、言論の自由を奪われただけでなく、名誉を傷つけられたとして告訴していた。

 土橋被告はベテラン司書で、館長も遠慮するほどの力を西図書館内でもっていたといわれているが、廃棄については自分の指示だとは明確に認めず、思想的意図も頑強に否認しつづけた。だが、裁判所は土橋被告が同僚に「こんな本は図書館に置いておくべきではない」、「西部、福田の本が偏っているので抜こうと思っている」、「こっち(右とか左の意味。)の本を多くしなくちゃいけないね」、「何で右の本が多いのか。左からの反対の声も上がるのではないか。したがって、選書のあり方も問題だろう」と語ったと認定し、次のように判断をくだしている(日録9月22日の項)。

(2)上記認定事実によれば、被告土橋は、本件除籍等の対象となった西部邁氏らの著書について批判的な態度を示していたほか、日頃から西図書館における購入図書の選択(選書)に偏りがあると主張していたことが窺われるのであって、原告つくる会及びその賛同者に対して否定的評価を抱いていたことや、他の職員に対して原告らの著書を書棚から抜いてくるように指示して手元に集めた上、自分でこれらの書籍を除籍したこと、また、被告船橋市による事情聴取に対して本件除籍等を行ったことを自認して、その旨の上申書を提出していることなどが認められる他、被告土橋に対して本件除籍等を行うように指示した職員は見あたらないなどの事実に照らし考えれば、本件除籍等は、原告つくる会らを嫌悪していた被告土橋が単独で行ったものと認めるのが相当である。

(3)もっとも、本件訴訟において、被告土橋は、自分が本件除籍等をしたのか否か記憶がないと主張して、実質的にこれを争う姿勢を示している。しかし、上記認定のところからも明らかなように、本件除籍等の対象となった書籍は1冊や2冊ではなく、合計107冊にも上るものであるほか、被告土橋自身で1冊1冊その内容を確認し、自分の独断で内容的に不適切と考えたものだけを除籍の対象としたと推認されること、しかも、別の図書館の共同書庫に保管されていたものをわざわざ取り寄せ、数日にわたってパソコンを操作して蔵書リストから当該書籍を除籍した上で廃棄処分にしていることなどの事実にかんがみれば、本件除籍等は、決して一時の偶発的な行為ではなく、周到な準備をした上で計画的に実行された行為であることが明らかであり、単にパソコンの操作ミスなどで誤って除籍されたようなものではないのであるから、自分が本件除籍等をしたか否か記憶がないなどという被告土橋の弁解は、到底採用することができない。

 きわめつけは、以下の条である(日録9月23日の項)。

(6)これまでに認定し、説示したところを総合すれば、本件における被告土橋には、公務員として当然に有すべき中立公正な不偏不党の精神が欠如していたことは明らかであるといわざるをえない。また、被告船橋市は、本件除籍等がなされた書籍を図書館に寄付させて事態の収束を図ろうとしたり、本件訴訟においても、被告土橋による本件除籍等の経緯について関係者から事情を聴取して把握しているにもかかわらず、その内容を明らかにしようとせず、結果的に責任の所在を曖昧にしたまま幕を引こうとしており、このような被告船橋市の姿勢に原告らが強く反発するのも理解し得ないではない。

 日録9月27日の項には判決を伝えた各紙の見出しが列挙されているが、事件をスクープした産経新聞以外は「原告全面敗訴」という印象を作りあげるものばかりである。裁判所の判断にしつこく食いさがるニュース・ステーションやNews23がとりあげたことも多分なかったと思う(毎日見ているわけではないので、見逃しているかもしれないが)。マスコミの世界では全共闘世代がまだ枢要な地位にいるので左翼が強いが、世代交代が進めば状況は改善されていくだろう。

Oct02

 和製サーチエンジン、gooがGoogleと提携することになった(CNETの「国産エンジンはあきらめた? gooがGoogleと提携」とZDNetの「Googleデータベースをgooの日本語技術で検索可能に」)。

 提携といっても、データベース部分は全面的にGoogleに依存し、検索部分でgoo独自の味つけをくわえる程度だから、実質的にはGoogleの軍門にくだったに等しい。

 goo独自の味つけとはどのようなものか? CNETから引く。

 現在日本語検索全般において、検索結果が日本語特有の問題を含んでいる割合は全体の12%にものぼるのだという。その問題とは、カタカナ表記などのゆれ、漢字の送り仮名、誤表記、表現の多様性、略語など。たとえば「ドラえもん」と検索するとドラえもんの公式ページが検索されるが、「ドラエモン」で検索すると公式ページが見つからないといった現象が起こるのだという。このような問題を解決すべく、日本語処理技術を充実させ、「従来のキーワード検索を越えるサービスの実現に取り組む」と中嶋氏。

偉そうなことをいっているが、これくらいは誰でも思いつくことだし、Googleはいずれこうしたノウハウを吸収して、最強の日本語サーチエンジンになるだろう。gooの末路は見えている。

 gooが降伏に等しい提携に踏み切ったのは、サーチエンジン業界が、どれだけのWWWページを収集したかという体力勝負になっているからだと思われる。CNETの「検索エンジンのインデックス拡大競争が進行中 規模の大きさが重要ではないと言ったのは誰だ?」によると、今年8月28日時点で、Googleの収集したページは33億ページに達し、2位のOvertureと熾烈なデッドヒートを演じている。これでは和製サーチエンジンの出る幕はない。

 サーチエンジン業界が熱くなっているのは、サーチエンジンが結果的にWWWサイトの格付をしているからだ。これだけサイトが多くなってくると、数千のページがヒットし、上位にランクされないと閲覧してもらえなくなる。

 Googleは独自のランク付アルゴリズムで、的確なページが最初に来るように工夫して利用者の支持を集めたが、ベイズ理論にもとづいているという以外、アルゴリズムの詳細は公開されていないので、特定企業やGoogleに広告を発注している企業のページに高いランクをあたえているのではないかという疑惑が前々からささやかれている。

 そこで、Nutchという検索アルゴリズムをすべて公開した、オープンソースのサーチエンジンを構築しようという動きが出てきた(CNETZDNet)。

 企業側の動きも急で、マイクロソフトやYahooは独自のサーチエンジンを構築しつつあるらしい(ZDNet)。

 注目すべきはAmazonで、独自のサーチエンジンを開発するために、A9という子会社を設立したという(ZDNetCNET)。

 Amazonが狙っているのは通販ショップに特化したサーチエンジンで、価格.comのような価格比較サイトに決済機能をもたせたものになるようだ。客を誘導するとともに、決済を代行することで収益をえようというわけだろう。

 Amazonのシステムが実現すれば、オークション・サイトとは別の形で、個人が簡単にオンライン・ショップを開けるようになるかもしれない。物書きにとっても気になるところだ。

Oct03

 1996年から話題のWWWページを、月曜から金曜まで毎日紹介してきたURL TODAYが9月30日をもって幕を閉じた。7年間で3万ページを紹介したというから、初期WWWの資料としても貴重である。

 興味の方向が違いすぎるので、以前はめったにのぞかなかったが、エディトリアルを毎日更新するようになってからは、週に一度、チェックするようにしていた。一日あたり20、週にして100のページが掲載されるので、すべてを見ることはできなかったし、拙サイトでとりあげたくなるようなページはなかなかなかったが、説明文をながめるだけでも、WWWの広さと流行を実感することができた。

 URL TODAYのサイトはまだ生きていて、「最終回スペシャル」として初代編集長のメッセージ、コラム担当者の自己紹介、1999年8月2日以来のバックナンバーを閲覧することができる。

 初代編集長のメッセージにこういう一節がある。

 そこそこの量ならガイドや検索によって「選択」することもできたけれど、果てしなくあるものは、選んだり捨てたりする術がありません。URL TODAYのスタートの頃は、新しいサイトができたことがニュースになった時代です。それから7年、Webサイトは加速度的に増え続け、見るべきサイト、要チェックサイトも毎日無数に登場しています。私の「処理能力」をとっくに超えていますから、すべてはゴミ箱行きです。もはや「選択」するというより「出会い」を楽しむ時代になっているのかもしれません。

もはや「選択」するというより「出会い」を楽しむ時代になっている」という指摘は言い得て妙である。

 WWWページが爆発的に増殖していることは、ZDNetの「ネット上のポルノ、2億6000万ページに」という記事からもうかがえる。この数字を発表したのはフィルタリング・ソフトを開発しているN2H2という会社だそうである。フィルタリング・ソフトは不適切サイトのデータベースが命だから、信憑性は高いと思う。

 Internet Filter Reviewは、ポルノ・サイトは全WWWサイトの12%にあたる4200万サイト存在するとしている。

 もし、この両方の数字が正しいなら、一つのポルノ・サイは平均6のページで構成されていることになる。妥当な線である。

 Internet Filter Reviewはさらに毎日の検索エンジンのリクエスト総数の4分の1に当たる6800万件がポルノコンテンツで、全世界で年間7200万人が訪問していると推計している。インターネット・ビジネスで動く570億ドルのうち、250億ドルまでがインターネットポルノの売上だという数字もある。

 これではspamはなくならないわけだ。

Oct04

 北朝鮮があのイラクを相手に取りこみ詐欺を働いていたらしい(Mainichi INTERACTIVEの「北朝鮮:イラクから1000万ドル受け取り、契約履行せず 」)。ミサイルを餌に、海千山千のフセインを手玉にとったのだから、将軍様はたいしたものである。

 外交では辣腕をふるう将軍様だが、足下はかなり怪しくなっている。asahi.comの「北朝鮮で6月に爆発、通行人など5、6人死亡情報」によると、北朝鮮北東部の咸鏡北道茂山の国家安全保衛部の建物のすぐそばで爆発事件が起き、死者が出たという。asahi.comから引く。

 保衛部に勤務する母親に荷物を届けるよう、何者かに頼まれた子供が、荷物をいったん保衛部の建物内に運び込んだ。しかし、母親が不在だったため、外に出て荷物をいじっていたところ、突然爆発したらしい。

これはれっきとしたテロ事件ではないのか。

 万景峰号は年内にあと5回来るというが、日本側の監視強化の影響が早くも出てきている。朝鮮総連が北朝鮮本国の指令で動いていることは今や周知の事実となったが、Sankei Webの「北、特定幹部のみ“呼び出し指導” 朝鮮総連に亀裂」によると、9月まで7ヶ月間、万景峰号が運航を休止し、再開後も「船内指導」ができなくなったため、許宗万責任副議長を北京に呼び、「現地指導」する方式に切り替えた。

 「船内指導」には複数の朝鮮総連幹部が呼ばれたので、将軍様の指示は複数ルートで組織に伝えられ、朝鮮総連側の報告も複数の幹部の口から伝えられていた。だが、「許氏を単独で北京に呼び出す方法では、指示内容や情報が独占されて許氏自身に都合の悪い話などは絶対に伝えられず、秘密主義が進行。その結果亀裂が生じている」そうな。

 同じくSankei Webの「「学生の訪韓阻止を」 総書記の側近が指導 総連離れに危機感」によると、在日朝鮮人の朝鮮総連離れに危機感をいだいた北朝鮮は「朝鮮大学校を含む日本国内の朝鮮学校の学生、生徒を、修学旅行などの名目であっても韓国に行かせてはならない」と指示したという。

 おもしろいのは「すでに多数の在日朝鮮人が「故郷訪問」などで訪韓しており」という条である。

 在日朝鮮人の「故郷」がなぜ韓国なのだと不思議に思う人がいるかもしれないが、実は在日朝鮮人の大部分は、日本と地理的に近い朝鮮半島南部(現在の韓国)の出身なのだそうである。

 敗戦時、日本本土には200万人の朝鮮半島出身者がいたが、150万人が帰国し、50万人が残留した。冷戦のはじまりとともに朝鮮半島が南北に分断され、韓国(大韓民国)と北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が成立するが、その際、朝鮮半島出身者は出身地に関係なく、どちらの国籍でも選ぶことができた。この時、北朝鮮国籍を選んだ人たちとその子孫が、現在の在日朝鮮人ということになる。

 なぜ、そんなに多くの人たちが、故郷ではない北側の国籍を選んだのかはうかつには立ちいれない問題だが、社会主義幻想と金日成神話(先代将軍様(本名金成桂)は何人もいた「金日成」の一人)が影響したのは確かだろう。いわゆる「帰国事業」は、北朝鮮と縁もゆかりもなかった在日朝鮮人を北朝鮮に骨がらみにしばりつけるためにおこなわれたという説がある。その真偽はともかく、「帰国事業」がなかったら、朝鮮総連はとっくに崩壊していただろう。

Oct05

 今日は13歳で北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの39歳の誕生日だ。めぐみさんと1979年頃から2年ほど、同じ招待所で暮らしたことのある曽我ひとみさんがめぐみさんのご両親に書いた手紙が新聞に紹介されている。ご両親宅では小学校時代の担任らをまじえて誕生会が開かれた。東京新聞によると、拉致問題を担当する中山恭子内閣官房参与は4日、福井県勝山市内で講演し、「今後の北朝鮮の動きはつかみにくいが、突如として動く可能性もある」と述べたという。例のカレンダー関連か。

 YOMIURI ON-LINEの「北朝鮮特集」には、先月連載された「奪われた時間」という拉致問題のルポルタージュが掲載されている。第1回は家族連絡会でマスコミの対応に追われ、48歳で職を失った石岡章さんの話(1980年にヨーロッパで拉致された石岡亨さんの兄)。これはきつい。

 第3回では、24時間警察の監視下で暮らしている蓮池薫さん夫妻の生活が紹介されている。警備に気兼ねするだけでなく、マスコミや世間の目も気にしなくてはならず、パチンコにでもいってみたらと勧められても「写真に撮られたりしたら何と言われるか」と家にこもる日がつづいているという。これもきつい。

 帰国した拉致被害者の方々は地元自治体が嘱託や臨時職員としてむかえているが、一年契約であって、世論がさめたらどうなるかわからない。北朝鮮では将軍様のスパイごっこの片棒を担がせられていたわけで、はっきりいってキャリアになるような経験ではない。なんの番組だったか、拉致される前の地村保志さんといっしょに大工修行をしていた仲間が、自分で手がけた家の写真を集めたアルバムを地村さんに見せたところ、どんどん暗い顔になっていったと語っていた。

 第2回は在日朝鮮人の側の話。将軍様が拉致を認めて以降、国籍を朝鮮籍から韓国籍に変える人が急増し、ある県では朝鮮籍・韓国籍がほぼ同数だったのに、2/3が韓国籍になった。朝鮮学校の生徒も激減し、これまで数ページおきに将軍様父子の御真影を掲載していた教科書を全面見直しすることになったとか。いまだにそんな教科書を使っていたなんて、オウムと同じ洗脳教育ではないか。

 「ユウコの憂国日記」の10月1日、2日の項に、テレビ朝日の「ワイドスクランブル」で放映された在日朝鮮人と日本人の拉致をめぐる討論会の模様が紹介されているが、洗脳教育の影響はかなり深刻なようである。

 ここからリンクされている「拉致連絡板」の4297番のレスにはもっと詳しい紹介があるが、これがおもしろい。実際に討論会に出た人の書きこみもあるが、北朝鮮の主張をあからさまに代弁するような発言は放映ではカットされていたらしい。4058番のレスによると「拉致問題に関係して在日朝鮮人や北朝鮮の報道に関して非常に肩身が狭い思いをしている。北朝鮮を非難するだけするメディアを見て、こういう報道になったことに関して、拉致被害者に対して恨みの感情を持ちます」という発言をした者までいたという。

 親族が「帰国」したために、朝鮮籍を変えることができないという人もいるだろうが、そうでなければ韓国籍に変えることは可能であり、また多くの在日朝鮮人が変えているという現実がある以上、朝鮮籍を持ちつづけること=政治的立場の表明と見なくてはならない。「拉致被害者に対して恨みの感情を持ちます」というあたりが、在日朝鮮人の本音なのだろうか。

Oct06

 またまた北朝鮮ネタだが、Sankei Webに「金総書記夫人が重体 先月下旬、交通事故で頭部強打」という記事が載っている。国母として個人崇拝の対象になりつつある高英姫夫人が乗車中に事故にあい、重体だが、事故原因など詳しい状況は不明とのこと。

 北朝鮮はもともと自動車がすくなく、ガソリン不足が伝えられる上に、将軍様の奥方となれば、何重にも護衛されているはずである。それでも事故が起こったのだとしたら、規律の頽廃が中枢部にまで広がっているのだろう。

追記:ZAKZAKの7日付「金正日・後継者の実母、交通事故で重体」は「高夫人自身の偶像化も進む最中のナゾの事故」、「背景にあるのは、将軍様の後継者選び」と、事故が暗殺未遂であることを臭わせている。書きぶりからすると、新たな情報にもとづいたものではなく、状況証拠による推測と思われる。

 韓国紙では中央日報日本版に「金総書記の夫人高英姫さん、先月「交通事故」」、東亞日報日本版に「金正日総書記夫人の高氏が重態」という記事が出たが、どちらも産経の記事の引用にとどまる。(Oct07 2003)

 北京の韓国大使館は脱北者の亡命申請急増でパンク状態になり、7日から業務を停止するそうである。韓国大使館には脱北者が常時百人は待機していて、難民収容所化しているという。

 なぜ脱北者が簡単に韓国大使館にはいれるかというと、中国政府の方針らしいのである。日本TVの「THE・サンデー」だったと思うが、脱北者の相次ぐ海外公館へのかけこみで国のイメージが傷つくことを怖れた中国政府は、北京の韓国大使館に限り、派手なかけこみをしなければ、脱北者の亡命を黙認するようになったと伝えていた。韓国大使館がパンクするのを見て、中国当局者は意地悪な笑みを浮かべていることだろう。

 韓国大使館の中にはいるためには門で偽造パスポートを提示し、韓国人旅行者になりすます必要がある。偽造パスポートと韓国人風の服装を用意してくれる脱北ブローカーの手を借りなければならないが、費用は亡命後に韓国政府が支給する定着準備金で払うことになっている。中国の朝鮮族は比較的自由に北朝鮮を往来できるので、すでに韓国に亡命した脱北者に頼まれて、家族を脱北させるケースが増えているそうである。

追記:朝鮮日報日本版に「駐中韓国大使館領事部の業務中断までのあらすじ」という詳報が載っている。韓国側は「これ以上耐えられない。中国政府が脱北者の第3国出国の手続きを迅速に進めてくれなければ、領事業務を中断せざるを得ない」という「要請兼警告」を中国側に何度も伝え、中国側も手続を迅速化して、一時は百人を切るところまで減ったが、ここにきて脱北者が急増し、今回の事態にいたったとのこと。「北核の陰で忘れられた脱北者たち」という社説には「業務が麻痺する程、韓国領事部の建物が脱北者で溢れ返る姿は、ドイツ統一前、東ヨーロッパに散在する西ドイツ大使館が東ドイツから脱走した人たちで満員になった光景を彷彿とさせる」とある。(Oct07 2003)

 Sep25でふれた中朝条約改定を提言した沈驥如氏の「北東アジア安全維持の当面の急務」(中国社会科学院の学術誌「世界経済と政治」最新号に掲載)の詳しい紹介がSankei Webに載っている。

 次の条は注目である。

 中朝友好協力相互援助条約につき、軍事支援条項の削除を公然と朝鮮政府に求める。軍事同盟の性格をもつ条約は、核問題がなくとも改正すべきである。朝鮮の核開発を支持しないと声明した以上、核問題で米朝が戦争状態となっても中国が出兵することはあり得ない。

 また、公然と交渉を要求するのは各国に中国の立場を知らしめるためだ。仮に条約改正で一致できなくとも、条約があれば中国に参戦義務があるといった、旧条約の維持による誤ったシグナルを朝鮮当局に与えることは避けられる。

 ここまではっきり書くのもすごいが、結びの部分では「人民の友好は永遠でも、党・政府には変化があり得るのであり、区別を要する」と追いうちをかける。水に落ちた犬を棒でたたく国だけのことはある。

Oct07

 このところ北朝鮮関係ばかりで飽きてきているのだが、ニュース・ステーションで密貿易の中心となっている恵山の公認市場の隠し撮り映像を流していた。撮影は先日、闇市で売られている横流し援助物資をスクープしたRENK。

 恵山は鴨緑江上流の国境の町で、このあたりは河幅が数十メートルしかないので、中国から密輸入された物資はここから北朝鮮全土に流れていくという。密輸業者のおこぼれで、今や平壌よりも生活レベルが高くなっているとアジア・プレスの石丸氏が語っていたが、映しだされた光景は映画に出てくる日本の戦後の闇市そっくりで、貧しいとしか見えない。スタジオでも同様の疑問が出ていたが、北朝鮮の基準では、あれでも飛び抜けて裕福なのだそうである。

 見た目は貧しくとも、ものすごいエネルギーが渦まいているのは十分わかる。怪気炎をあげていた人民軍兵士あがりの密輸業者を資本家の卵と持ちあげていたが、単に貧富の格差が広がっただけで、資本主義の萌芽でもなんでもない(マックス・ウェーバーを読め > 久米宏)。

 北朝鮮は昨年7月、経済改革をおこない、公定価格を闇市の水準まで引きあげる代わりに給料もそれに見合うだけ増額し、配給制度を事実上廃止した。公定価格が闇市価格と同じになれば、物資の横流しがなくなり、正規の流通ルートに商品がもどると妄想したわけだ。

 常識で考えればわかることだが、商品が増えないのに給料だけ増えれば、価格が上昇し、インフレになる。果たして、その通りの結果になった。闇市価格が暴騰し、公定価格と闇市の価格の比率は元にもどってしまった。配給をやめたので、闇市なしでは生活がたちゆかなくなり、今年4月、公認せざるをえなくなった。国民支配の一つの柱である食料配給制度を、金正日政権は自ら放棄したのだ。マルクス主義で頭脳が破壊されていると、ここまでバカなことをやってしまうのだろうか。

 物と一緒に、情報も流入しているという。北朝鮮でビデオがブームになっていることはSep02の項で紹介したが、前述の密輸業者氏も韓国映画やTVドラマのファンだそうで、「韓国の進んだ生活を見るのは楽しいね」と語っていた。

 7日、北朝鮮は6者協議から日本を排除すると声明したそうである(中央日報日本版)。「日本は朝米間の核問題平和的解決に負担だけを与える障害になっており、信頼できる対話相手としての資格を自らそう失した」というのだが、いつまで頑張れることやら。

追記:殿下の御館」11月8日の項は、朝鮮中央通信が日本排除声明と同日、逆に平壌宣言を履行せよ国交正常化交渉を懇願する声明を掲載していると指摘している。殿下氏の要約を引く。

そう思って二本目の記事を読んだわたしは目が点。いったいどっちやねん(爆笑)。この記事では、逆に平壌宣言を履行せよ国交正常化交渉をせよといっているんである。対話の資格なし、共和国軍も怒ってるんじゃなかったのか。記事は、川口外相の国連演説をとらえて『日本は日朝平壌宣言の履行と国交正常化に難癖をつけて、日本の中心課題である過去の悪行の清算を棚上げしている』と、こんどは日朝共同宣言の履行と国交正常化の交渉の促進を求めるのだ(→http://www.kcna.co.jp/item/2003/200310/news10/08.htm#8)。せめて、ふたつの記事は別々の日に掲載せんか(爆笑)。

しかも、近時の北朝鮮の新珍説『拉致問題は日朝平壌宣言で(あるいは小泉首相訪朝で)解決済み』という主張はたびたび紹介してきたところだが、二つ目の記事では『核問題、ミサイル問題も平壌宣言で解決済み』との新々珍説。なんと、いつの間にか『日朝平壌宣言による解決済みリスト』の項目が増えちまっているんである(笑)。いったい対話の相手としての資格がないのはどっちかね。

 将軍様はいっぱいいっぱいなのだろう。(Oct09 2003)

 東海アマチュア無線地震予知研究会が10日前後に、中国・山陰地方でM5〜7級の地震が起こる可能性があると警告している。念のため。

Oct08

 住基ネット関連のニュースがあいついでいる。まずは軽く、総務省の嫌がらせから。

 住基ネット接続拒否で話題になった矢祭町の根本良一町長が、全国町村会から「市町村長総務大臣表彰」の推薦を受けたにもかかわらず、表彰から外されたという(Mainich INTERACTIVE)。今回、同様に推薦された町村長25人のうちで、拒否されたのは根本町長だけ。総務省の役人はこういうことをやる人種だということを憶えておこう。

 根本町長は「住民のための町長であって、総務大臣表彰などそもそも眼中にない」と語ったそうである。

 長野県は先月24日から住基ネットの侵入実験をおこなっていたが、2日に侵入可能なことが確認されたという第一報が流れた。続報を待っていたが、7日になって「住基ネット、長野の侵入実験結果公表に苦慮 田中知事」という記事がMainichi INTERACTIVEに出た。

 はっきり発表できないのは、住基ネットのセキュリティが予想を超えて深刻な状態にあるからである。これまで情報漏洩ばかりに目がいっていたが、なんと「情報が変質してしまう」という。これは住民票を書き換えることができるということだろう。

追記:長野県が結果の発表に慎重にならざるをえない理由がまだあった。秘密にすべき実験場所が一部で報道されてしまったからだ。ここに穴がありますよと知らせてしまったマスコミの無知にはあきれるが、その事実を指摘し、批判した日経BP社のIT Proの記事のタイトルは「長野県が阿智村などで住基ネットへの侵入実験を開始,実施方法に課題残る」となっている。こちらは故意か。(Oct11 2003)

 侵入可能と判明したのは長野県のシステムだけだが、他の都道府県も似たようなものだろう(長野県は実験をやるくらいだから、セキュリティ意識は比較的高いはずで、他はもっとひどいと思う)。現在の状態のまま、侵入可能と発表したら、全世界のクラッカーが住基ネットに殺到しかねない。

 総務省側は2日の時点で「住基ネット本体に不正アクセスはない」と反論しているが、LASDECのログに侵入の痕跡がないというだけであって、住基ネットの全体を把握しているわけではないことを自ら白状したに等しい。総務省はあれで反論になっていると本気で考えているのだろうか。そうだとしたら、恐ろしいことである。

 住基ネットに流れるのは基本4情報だけで、漏洩してもたいして意味がないと主張している人がいるが、それはおかしい。引っ越しの場合などでは、本籍を含む11情報が住基ネットに流れるからである。

 また、4情報だけだとしても、十分意味のある業界もある。

 先日、千葉市若葉区の墓地駐車場で16歳の少女が戸籍上の夫と四人の少年に殺害され、ライター用オイル缶十数本分をかけて焼かれるという事件があった。一人の女の子に、大の男が五人がかりで襲いかかり、ハンマーで殴打した上に、何十キロもある石材を落として頭をつぶしたというのだからあきれる。

 主犯と見られる石橋容疑者の石橋という姓は被害者のもので、もとは天野姓だった。石橋容疑者は多重債務で消費者金融のブラックリストに載ったために、結婚と離婚をくりかえしては姓を変え、借金を重ねてきたという。被害者の16歳の少女には入籍料として10万円を払っていたが、その入籍料を返せ、返さないでもめて、犯行にいたったらしい。

 この事件の場合は被害者了解の上の偽装結婚だったようだが、一面識もない他人と養子縁組をしたり、結婚届けを出したりして、相手の知らないうちに戸籍にはいりこみ、借金を重ねる事件が頻発している。消費者金融のブラックリストに載っても、本籍や姓を変えればわからなくなるからだ。

 これを防ぐには住民票コードのような一意的な番号で国民を管理するのが手っとり早い。住民票コードさえ押さえれば、いくら本籍や姓を変えても、簡単に名寄せできるし、住基ネットには便利な検索機能があるので、どこまでも追いかけていける。信販業界や金融業界にとっては、基本4情報だけでも十分すぎるくらい意味があるのである。

 現状では民間業者の方から顧客に住民票コードを訊ねることは禁止されているが、顧客が「自発的」に明らかにした場合、その番号を記録することまでは禁じていないようである。その道のプロなら、顧客が「自発的」に住民票コードを書くような状況を作りだすことぐらい、難しくはないだろう。

 Web現代の「個人情報“保護”は大ウソ 住基ネットはヤミ金の温床だ!」によると、昨年11月の北海道新聞に『「住基番号知ってるぞ」電話の金融業者は、11けたをピタリ言い当てた』という記事が掲載されたという。Web現代から孫引きする。

 苫小牧に住むその被害者に、9月上旬ごろ金融業者を名乗る電話がいきなりかかってきたのです。『俺たちから逃げられると思うなよ。みんな知ってるんだぞ』という証拠として、11桁の番号を正確に言われ、銀行口座、家族構成、勤務先などを列挙されたそうです。さらに『いまから50万円振り込むから10日ごとに利息2万円を払え』と脅してきたわけです。完全な押し貸しですよ。

 北海道新聞の記者が問題の金融業者に確認したところ、住民票番号で脅したことは言下に否定したそうで、真偽のほどはわからないが、この種の行為がたいして難しくないことは確かである。

 Web現代の記事には興味深い指摘が多く、ぜひ全文を読んでいただきたいが、ここでは片山虎之助前総務相に住民票コード売買の調査を質問した民主党の五十嵐文彦衆院議員のコメントを引く。

「(住民票コードを)脅しに使うなんて使い方は我々の想像を超えています。そこで住基ネットは早く止めなければいけないと思い、質問したのです。住基ネットは職員の中に一人でも不心得な人がいたり、脅されたりする弱い人がいればそこから全部漏れるんです。日本の公務員法は守秘義務が厳しいので大丈夫だ、というのはまったくフィクションです。それなのに片山さんは取り上げなくてもいいと言ったわけです」

 住基ネットのセキュリティというと、インターネットから侵入してくるクラッカーばかりが話題になるが、可能性としては公務員や下請作業員から漏洩する方がはるかに大きい。現在、住基ネットはパスポートの発給、食料販売業、出版権、たばこ特定販売業者等の登録や公営住宅入居者資格の確認、自動車の登録等246件で利用することができ、総務省はさらに利用範囲を拡大しようとしている。端末を触れる人間なら、特別なクラッキングの知識がなくても、個人情報を引きだすことができる。借金のある公務員が金融業者に住民の住民票コードを漏らす怖れは否定できないのである。

Oct09

 asahi.comに「「,」か「.」か、小数点記号論争にピリオド?」という記事が載っている。

 うっかりしていたが、小数点にピリオドを使うのは英米流で、世界の大勢はコンマを使っているというのだ。2001年にISOとIEC(万国電気工芸委員会)が発表した「専門業務用指針」でも、「ISOとIECの規格では、記述言語によらず、小数点にコンマを使う」と定めているそうである。

 フランスやスペインで小数点にコンマを使っているのは知っていたが、ラテン諸国限定のローカル・ルールだと思いこんでいた。ピリオドの英米流の方が少数派だったのだ。

 「1,234」が「千二百三十四」か「一・二三四」かは大変な違いである。グローバル化の時代に、言語によって数値の表記体系が変わってしまうのは甚だよろしくない。17日から開かれる国際度量衡総会ではコンマ・ピリオド問題の国際投票がおこなわれるが、コンマに決まったとしても、アメリカがしたがうとは思えない。日本だって、今さら無理である。

追記:asahi.comによると、パリで開かれた国際度量衡総会で、17日、「小数点はピリオドかコンマのどちらかである」との決議が全会一致で採択された。これまで通り、どちらでもよいわけである。コンマで統一しようというISO主流派を英語圏のピリオド派が押さえたということのようだ(Oct24 2003)

 コンピュータの場合、ロケールによってピリオド←→コンマを切り替えることができるが、一度発表したデータの表記体系を変えることはできない。HTMLの言語指定タグを見て、ブラウザ側でピリオド←→コンマ変換をするのは簡単だが、さまざまなケースがあるので、かえって混乱をまねくだろう。

 ZDNetの「「HDD容量が広告の表記より少ない」と集団訴訟」は別の単位問題をとりあげている。

 世の中は10進法だが、コンピュータの世界は2進法で動いている。2の4乗の16か、8乗の256が基本単位になるが、メモリ関係では1000に近い1024(2の10乗)を単位にしている。256KBのメモリは256000バイトではなく、262144バイト(=256x1024)である。10進法のキロと区別するために大文字の「K」を使い、以前は「ケー・バイト」と読む人もいた(MBを「エム・バイト」と読む人にはお目にかかったことがないが)。

 すべて1024で統一すればいいのに、なぜかハードディスクやCD-R、DVD-RAMなどでは1000換算が使われている(容量を多く見せかけるためらしい)。10進法と2進法のずれのために、150Gのハードディスクには実際には140Gしか記録できないが、こうしたズレはパソコン歴の長い人の間では「常識」となっている。

 ところが、この「常識」に異論が出た。表記容量と実際に使える容量のズレは「詐欺的」であるとして、ロスアンジェルス在住の4人のユーザーがApple Computer、Dell、Gateway、Hewlett-Packard、IBM、シャープ、ソニー、東芝という世界的メーカーを訴えたのだ。

 「無知」を笑うのは簡単だが、伊勢雅英氏は「1,000換算と1,024換算が混在するコンピュータの世界」で、容量が巨大化していくにつれ、10進法とのズレが拡大していくと指摘している。1000換算との誤差を示した伊勢氏の表を若干アレンジして引かせていただく。

単位 読み 倍数 誤差
K キロ 210 = 1,024 2.4%
M メガ 220 = 1,048,576 4.9%
G ギガ 230 = 1,073,741,824 7.4%
T テラ 240 = 1,099,511,627,776 10.0%
P ペタ 250 = 1,125,899,906,842,620 12.6%

 ズレが5%程度だったら「業界の常識」で通っても、10%以上も違うとなると説得力はなくなる。もともと2進法の世界に10進法をもちこんだのがおかしいのだ。この訴訟を機に1024単位換算に改めるべきだと思う。

 なお、伊勢氏によると、IECは1998年に1024を「Kibi」、1048576を「Mibi」、1073741824を「Gibi」と呼ぶと決議したそうだ。これからはKBは「キビ・バイト」、MBは「ミビ・バイト」と読むことにしよう。

Oct10

 衆議院が解散したが、今は北朝鮮ネタの方がおもしろい。Oct06の項でふれた高英姫夫人交通事故の「噂」に、中山恭子内閣官房参与が講演で言及したという。日本政府はなにか材料をもっているのだろうか。

 Sankei Webの「重体・金正日総書記夫人に暗殺説 露紙」によると、8日付のロシアの有力日刊紙コメルサントは、後継者レースに敗れたとされている金正男氏が刺客を放ったと伝えているそうだ。金正男氏は、ディズニーランドにいこうとして成田で追いかえされて以来、将軍様の不興をかい、ヨーロッパやロシアを転々としているといわれている。夫人は「後継者をめぐる権力闘争の最初の犠牲になった」とまで書いてあるそうで、まるでスパイ映画のようだが、あの国はスパイ映画もどきのことをさんざんやってきたので、一概に否定はできない。情報をもっているはずの韓国の三大紙が産経の報道の後追い以外、沈黙しているのが気になる。

 「神経とがらせる「北」政権中枢 脱北・亡命「米が誘導」 きょう創党記念日」では、将軍様の動静が一ヶ月以上不明なことと、夫人事故説を結びつける見方があることを紹介している。一ヶ月間、動静不明になったことは、この6年間に3度あったが、今回は将軍様自身が招待したロシア沿海州のダリキン知事に会わなかったばかりか、先月予定されていた中国No.2の呉邦国全人代常務委員長の訪朝を2日前にキャンセルしている。

 この記事によると、北朝鮮はエリート亡命者の増加に特に神経をとがらせていて、「クズを集めて『人権』や『難民』などというのは共和国のイメージを曇らせる謀略」と声明したとのこと。

 そうした焦りを見透かしてか、おなじみのフォラツェン氏は脱北者らによる北朝鮮臨時政府の設立を計画しているという(Sankei Web)。実現したら、象徴的な意味でのインパクトはあるだろう。

 Mainich INTERACTIVEによると、北朝鮮の国連代表部は次回の6者協議の「12月開催を望む」と述べたという。この数週間、北朝鮮は6者協議を非難し、打ち切りをほのめかしてきたが、ここにきて12月開催をいいだしたのは興味深い。強硬姿勢は単なる時間稼ぎだったかもしれないのだ。そういえば、無期限延期とされていた呉邦国中国全人代常務委員長の訪朝も12月に決まったようである。

 やはり、将軍様の身辺になにか異変があったのだろうか。

追記:Yahoo!に「金総書記夫人に重病説=今春欧州で手術−がんで容体深刻の観測も・米韓情報当局」という記事が出ていた。米韓両国の情報当局筋から出た話らしいが、術後の経過が思わしくなく、ヨーロッパと北朝鮮の間を往復しているというもの。

 北朝鮮の労働新聞は、朝鮮労働党創立60周年にあたる2005年に将軍様の後継者を発表することを示唆する社説を掲載したという(東亞日報日本版)。Sep12の三男後継説はフライングだったか。(Oct11 2003)

Oct11

 音楽CDの新しいコピーガードを簡単に破る方法をプリンストン大院生のホルダーマン氏が論文として発表したところ、コピーガード開発元のSunnComm社が名誉毀損と違法コピー用ツールの配布を禁じたデジタルミレニアム著作権法(DMCA)違反で、民事・刑事の両方で提訴するというニュースが流れた(CNETの「「指一本」で裁判沙汰?−コピーガードをはずした学生に訴訟の可能性」)。

 ホルダーマン氏が公表した方法は、シフトキーを押しながらCDをドライブに挿入するだけ。特別なソフトをインストールしたり、設定を変えたりするわけではなく、「違法コピー用ツールの配布」とはとてもいえない。SunnComm社は「イメージダウンになった」ことを提訴の理由にしているそうだが、バカがバカにされと騒いでいるようなものだ。バカをバカと言えなくなったら、社会主義になってしまう。

 果たして、今日になって「CDコピー防止技術回避の学生提訴は取りやめ」という続報が出た。ZDNetによると、SunnCommのバカCEO、ジェイコブズ氏は提訴をやめた理由を明らかにしなかったということだが、恥の上塗りになると周囲にいさめられたのだろう。企業イメージを傷つけたのは大した考えもなく騒いだジェイコブズ氏の方である。

 10月9日付の朝鮮新報日本版は、日本の昭文社が2002年1月に発行した「世界地図帳」に日本海の韓国名、「東海」が併記されていると報じた(「日本出版社、異例に「東海・日本海」併記」)。

 日本海呼称問題は外務省のページに詳しいが、まだ日本が鎖国をしていた18世紀末に、日本が頼んだわけでもないのに、ヨーロッパ諸国が勝手に「日本海」と呼びはじめたわけで、「『日本海』の名称が支配的になったのは20世紀前半の日本の帝国主義、植民地主義の結果」という韓国側の主張は無理である。

追記:朝鮮日報日本版に「西洋の古地図、東海表記が圧倒的に多い」という記事が載っている。18世紀半ばまでは「東海」表記が多いそうだが、あくまで日本が鎖国中の話であって、植民地支配とは関係ない。北朝鮮まで「韓半島の東方の海に付けられた『日本海』という名称は、徹底的に旧日本の強力な権力から生じた植民地の産物」、「植民地時代に不当に命名・誤記載された地名は、一日も早く訂正すべきだ」と主張しているそうだが、植民地支配以外に言うことはないのか。(Oct16 2003)

 産経新聞が朝鮮日報の報道を報じたが、昭文社側は「 10月9日付、当社出版物に関する一部報道について」で、「その後、弊社におきましても、国際会議の動向、表記上の慣行その他を総合的に判断し、2002年10月の時点で、今後、「日本海」については「東海(トンヘ)」との併記をとりやめる方針といたしました」と釈明している。

 あっさりひっこめたところを見ると、大した考えもなくやったことだろうが、「東海」をわざわざ併記した以上、日本海呼称が国際問題になっていることは知っていたはずである。地図作りは呼称だけでなく、国境など、微妙な問題をふくんでいるはずなのに、その自覚がないのは困ったことである。

追記:殿下の御館」の殿下氏が11日と12日の項で「売国地図屋膺懲」を呼びかけている。昭文社は単なるバカと考えていたが、根の深い問題だったようだ。認識の甘さを痛感した。(Oct12 2003)

Oct12

 NHKスペシャル「文明の道」第6集「バグダッッド・大いなる智慧の都」が放映された。

 戦乱で荒廃した現在のババグダッドと対比し、イスラム帝国の首都として繁栄をきわめた1100年前の偉容(『アラビアン・ナイト』!)を描いていたが、「平安の都マディーナ・アッサラーム」と呼ばれた直径2.3kmの円城都市をCGで再現したくだりは期待ほどではなかった。番組ではふれていなかったが、都市の膨張にともない、円形の都市プランはすぐに崩れてしまったそうである(「バクダットの連鎖都市」)。

 むしろおもしろかったのは、ワクフ(寄進財)で建設された公共施設を核に都市が形成されるプロセスを描いた部分である。病院、貧窮院、水飲み場、モスクなどが作られたが、いずれも建物を作っただけではすまず、ずっと維持費がかかる。漠然と信託財産で運営されていたのだろうと思いこんでいたが、実は建物を寄進する際に市場を併設し、その市場のあがりでまかなう仕組になっていた。イスラムは利子禁止だから、西欧的な信託財産はなりたたないのだ。

 公共施設には人が集まり、市場が賑わう。市場がにぎわえば賑わうほど、公共施設のサービスが充実し、さらに人が集まって、都市が発展するというプラスの循環がうまれる。さすがに商人の宗教といわれるイスラムだけのことはある。

 紙の重要性を指摘した条もおもしろかった。タラス河畔の戦いで唐の紙漉職人が捕虜になり、紙の製法が西に伝わったのはご存知の通りだが、中東には楮も三椏もないので、使い古した麻布を煮とかして紙を漉いたそうである。トルコ三大文明展」に出展されていた皇帝の花押入り文書は、見たことのないふうわりした質感だったが、あれも麻から作った紙だったのだろうか。

 紙はイスラム帝国の支配を土台から支える働きをした。それまで公文書は羊皮紙に書かれていたが、羊皮紙の文字は消すことができたので、公文書の偽造が頻発した。イスラム商人がはじめた手形による決済制度も、書き直すと痕跡の残る紙がなければ不可能だったろう。

 コーランの普及も紙のおかげである。コーラン全巻を書きうつすには子羊300頭分の羊皮紙が必要だったが、紙ならはるかに安価に写本が作れる。

 学問が栄えたのも紙ぬきでは考えられない。バグダッドには「智慧の館」という研究機関が作られ、ギリシア・ローマの文献が次々とアラビア語に翻訳された。現在のバグダッドではバース党社会主義政権時代に禁書とされていた本が一斉に出まわるようになり、出版が活気づいているそうだが、書店街は『アラビアン・ナイト』時代と同じ場所にあるという。

 『アラビアン・ナイト』は中学生の頃、集英社から出たバートン版の大宅壮一訳を夢中で読んだことがある。詩の訳がとてもよかったと記憶しているが、今読むとどうだろう。マドリュス版の佐藤正彰訳の評判がいいらしいので、そのうち読んでみよう。

Oct13

 『アラビアン・ナイト』の繁栄から千年、イラク情勢はいよいよ泥沼化し、第三国の外交官やイラク人警官までテロの標的にされるようになった。15日はフセイン元大統領が信任された国民投票から1年目にあたると同時に、占領半年目でもある。Mainichi INTERACTIVEによると、このところ頻発するテロは15日に向けてのものらしい。テロはゲリラ戦と違い、大衆の支持は必要ないので、一般住民の犠牲は増えていくだろう。

 復興費も先が見えない。2007年までに550億ドル(約6兆円)が必要というが、皮算用していた石油収入が設備の老朽化やテロで期待できなくなったので、アメリカとその同盟国でまかなわなければならない。アメリカが負担するとしているのは203億ドルにすぎず、開戦に反対していたEU諸国が出し渋るとなれば、ブッシュのATM(現金自動受払機)こと日本(苦笑)にツケが回ってくるだろう。

 神浦元彰氏のJ-r.comの10月13日日の項に、アメリカはシリアに戦火を拡大する可能性があるとの指摘。ベトナム戦争が泥沼化すると、アメリカはカンボジアがベトコンの出撃基地になっているとして全土に爆撃をくわえ、ついには国境を越えて侵攻したが、それと似たパターンになってきたというのだ。

 だが、シリアの場合はカンボジア侵攻以上の意味がある。J-r.comから引く。

 アメリカがシリアに襲い掛かれば簡単に倒れてしまう。CIAはシリアにクーデターを工作しているのか。それとも直接、米軍の軍事侵攻をやる気だろうか。もしシリアが親米国になると、アメリカは地中海に面したレバノンからシリア、それにイラクと、中東を真っ二つに分断することになる。(レバノンは実質的にシリアの支配下にある)。そしてレバノンの隣国は超親米のイスラエルである。

 アメリカ・ネオコン(新保守主義)の壮大な野望はこれではないのか。

 こういう見方はおもしろいが……。

 ネオコンの陰謀についてはかなり以前から田中宇氏がとりあげている。

 田中氏のサイトには兵站を民間会社にまかせたために、生活物資の供給すらままならなくなり、水不足で熱射病で死んだ兵士までいるという現状を指摘した「戦争民営化のなれの果て」など、マスコミ報道には出てこない情報が多い。

 どの記事もおもしろすぎるくらいにおもしろいが、「戦争のボリュームコントロール」や「イラクの治安を悪化させる特殊部隊」、「」「米軍の裏金と永遠のテロ戦争 」となると、事実の部分はその通りなのだろうが、陰謀史観の臭いがしないではない。

 飛行機56機、戦車32両が「行方不明」になっているのだろうし、テロ掃討と称して家宅捜査してタンス預金(イラクでは銀行が信用されていないので、タンス預金が多い)を発見すると、「テロ資金」の名目で没収する事件が相次いでいるのだろう。だが、「米軍がわざとイラク人を怒らせようとしている」とまでいうのはどうか。ネオコンはそんなに影響力があるのだろうか。

 ただ、意図してやっているのかどうかはともかく、第二次大戦後の歴史を俯瞰すると、アメリカが「低強度戦争」のおかげで経済を維持してきたように見えるのは確かである。歴史の狡知だろうか、それとも軍産複合体の陰謀だろうか。

Oct14

 北朝鮮の拉致被害者の方々が帰国されて一年になるので、記事や手記が出ている。

 まず、地村さん夫妻の手記(Sankei Webで全文が読める)。Mainichi INTERACTIVEには曽我ひとみさんの手記が掲載されている。新潟県庁では蓮池さんら帰国時の写真展がはじまったという。Sankei Webの蓮池透さんインタビューも読んでおきたい。各地で開かれるイベントについては「救う会」全国協議会のページに告知がある。

 特定失踪者問題調査会が北朝鮮による「拉致の可能性のある失踪者」のリストを公開しているが、ここにきて、脱北者の中から、新たな拉致被害者と見られる日本人を北朝鮮国内で目撃していたという証言が出てきている。

 地村富貴恵さんは拉致された直後の一年間、金賢姫に日本語を教えた田口八重子さんと同じ招待所で暮らしていたと明かした(Mainichi INTERACTIVE)。また、蓮池祐木子さんは78年8月に拉致された増元るみ子さんと「78年秋に一緒に誕生日を祝った」と語ったという。

 帰国した五人はスパイ教育にはかかわらなかったので帰国できたと見られているが、スパイ教育にかかわった拉致被害者との接触はあったのである。

追記:「ユウコの憂国日記」の10月14日の項に、金泳三元大統領に「ワイドスクランブル」の大和田漠氏がおこなったインタビューが抄録してあるが、実に興味深い。

「金正日はいつも不安定な人。朝まで酒を飲む。いろいろな人といっしょに。奥さんとか恋人は外国に行っている。夜、酒を飲みながら恋人などに電話をする。……これ言ったらだめなのに言ってしまったな(笑)」

「韓国に来た美女応援団が学生というのは嘘。金正日が遊ぶ女性達。そう、喜び組。北に帰る時、金正日の胸に帰るのが嬉しいと泣いた。どうして涙が出るのか。金正日一人を崇拝する国」

「拉致は全て金正日がやった。金日成政権の時も金正日がやった」

「金正日はでたらめで嘘ばかり言っている。ヘギョンさんの母、めぐみさんも生きていると思う」

重村智計(別録りVTRでコメント)
「拉致事件に関しては、ファンジャンヨブ氏が元大統領に言った(告白した)。めぐみさんだと特定して言ったかわからないが、政府が認定した拉致被害者は全員生きている、と。ファンジャンヨブ氏は工作活動に関しての情報には詳しかった」

「5人の家族は必ず帰ることができる。死亡したとされる人も嘘だと判明する。勇気を持って待っていてもいいんじゃないか、と」

やはり黄長燁氏は知っていたのである。(Oct15 2003)

 北朝鮮が五人を村越さん方式で「一時帰国」させたつもりだったことは間違いないと思う。五人を帰さなかった日本政府の判断は正しかった。今年の前半くらいまでは、五人を北朝鮮にもどすべきだという言論人が多かったが、連日の報道で北朝鮮の実態が明らかになった結果、さすがにゴリゴリの北朝鮮シンパ以外は、そういうことを言う人はいなくなった。

 この一年の変化は本当に大きかった。1989年のソ連崩壊の時は、数年たって左巻き文化人による巻き返しがあったが、今回の場合、金正日政権崩壊と、それにつづく秘密文書公開が予想されるので、巻き返しどころではないだろう。

 平壌の秘密文書館の扉が開かれたら、日本の戦後史の闇のかなりの部分が明らかになるのではないか。金丸事務所の無刻印の金の延棒の出所にはじまり、親北朝鮮国会議員やマスコミ人、言論人、学者、新聞社、出版社の正体が白日のもとにさらされるとおもしろい。今から楽しみである。

 闇といえば「藤井総裁が握る『闇』」も見のがせない。辞任を迫る石原伸晃国土交通相に対し、道路公団の藤井治芳総裁は複数の国会議員のイニシャルを口にし、自分が喋れば「死人が出る」と脅したという。5日の5時間におよぶ「協議」を終えた後、余裕綽々で出てきた藤井総裁に対し、石原国交相は顔が引きつっていたが、なるほど、そういうわけであったか。

 上記の東京新聞の記事には公団OBの次のような証言が載っている。

「藤井総裁は青木氏の地元・島根県の建設業者を使って青木氏との関係を独自に調べ上げる一方で、日野元長官の検察ルートを使って地検情報を、垣見氏を使って警察情報をあげて青木氏と地元ゼネコンとの癒着情報(金絡みの情報)を調べ上げた。そこで藤井総裁は表になってはマズイ情報を握って青木氏に脅しを掛けたといわれている」

道路公団とは要するにヤクザ集団だったのだ。

 藤井総裁は聴聞会を公開にせよと主張し、その方向に向かっているようだが、よくわからないのは、藤井氏の暴露で困るのは道路族だという点だ。小泉首相にとってはプラスになりこそすれ、マイナスになるとは考えにくいのだが。それとも、なにかあるのだろうか。

追記:ZAKZAKに「藤井総裁大逆襲…「石原発言はデタラメ」」という記事が出ている。明日発売の週刊文春に藤井総裁のロング・インタビューが載るのだそうだが、文春は野中氏だけでなく、藤井氏にまで賭けるつもりなのか。

Oct15

 中国初の有人ロケット、神舟五号の打ち上げが成功した。宇宙食には八宝菜など、中華料理のメニューがふくまれ、漢方薬をもっていったとか。宇宙との交信を「天地対話」と称しているそうだが、第一声が「気分は良好」では。

 下界ではニューヨーク・タイムスの「情報の謎:北朝鮮の爆弾」という記事をめぐって、米韓の当局者が否定に躍起になっている(東亞日報日本版)。

 ニューヨーク・タイムスの記事は、先月25日に国連総会出席のために訪米した韓国の尹永寛外交部長官が、パウエル国務長官に「米政府が、北朝鮮が要求する安保条約及び漸進的経済支援問題に譲歩しない限り、盧武鉉大統領はイラク派兵を考慮しない」とゴネたというもので、パウエル長官は「同盟国に対する態度ではない」と答えたとか。盧政権は第一次派兵をわざわざ666人にした前科があるが、ずいぶん舐めてかかったものである。

 米韓当局者の「否定」は微妙なので、同記事から引く。

 外交部は、記事がインターネット版に掲載された直後、緊急報道資料を出して内容を否定した。魏聖洛(ウィ・ソンラク)北米局長は同日夕方、「尹長官は、『韓半島の平和と安定に対する楽観的展望が、派兵問題を検討するうえで重要な要素だという点で、北朝鮮の核問題の進展が派兵問題を扱うのに役立つ』と言及した」とし、「タイムズ紙の報道は、この言葉を誇張し単純化したものだ」と説明した。

 外交部は、「タイムズ紙に訂正報道を要求する予定だ」と明らかにし、米国務省も14日(現地時間)午後、同紙の報道は事実と異なるとして否定した。国務省は、「その日の会談は硬直した雰囲気ではなかった」と話した。また「パウエル長官は、新聞に引用されたことを話しておらず、尹長官の言葉も正確に描写されていない」とし、「それは同盟国間の真剣な論議だった」とつけ加えた。

 火のないところに煙は立たないで、それらしいやりとりはあったようである。盧武鉉大統領は足下に火がついて、破れかぶれになっているのかもしれない。

 北朝鮮はアメリカとの二国間協議に固執し、アメリカから執拗に体制保証をとりつけようとしてきた。朝鮮戦争の相手国がアメリカだからと説明する人が多いが、なぜそこまでアメリカにこだわるのか、日本をはずそうとするのか、釈然としなかった。ZAKZAKの「金正日独裁保証、ブッシュが「文書化」検討」という記事を読み、ようやく得心がいった。

 記事は米国防当局者の話として、アメリカの保証に北朝鮮がこだわる事情を次のように説明する。

「北は食糧危機と経済改革の失敗に加え、『言論の自由』を封じた世襲体制を不満とする人民軍などの金正日暗殺未遂が再三起きている」

「金正日は『フセインの2の舞いは嫌』と、イラク戦争をみて超ハイテク装備の米軍に恐れをなした。攻撃されたら、ひとたまりもない。内憂外患のなか、『米帝』と敵対する米国から世襲を体制認知してもらい、国内を固めたいのだ」

 これならわかる。世界一の軍事大国、アメリカと一対一で交渉し、対等の不可侵条約をとりつけたなら、これ以上の外交的勝利はない。金王朝の世襲体制は磐石となるだろう。

 日本を6者協議からはずしたい理由も察しがつく。軽蔑すべき日本に「体制を保証してもらう」ようなことになったら、将軍様の威光は地に落ちてしまうからだ。

 記事はさらにつづける。

「米国が単独保証を避け、北の『親分』である中国と、『後ろ盾』のロシアを含めた米日韓中露の多国間での体制保証という形をとった場合、北はもう6カ国協議から逃げ出せなくなる」

 日本を含めた多国間の体制保証では、国内を引き締めることができない。将軍様は人民にカラオケを奨励することにしたらしいが、それどころではないだろう。

Oct16

 ZDNetによると、AOLは「Netscape」という名称で廉価版のダイアルアップサービスをはじめるそうである。一時はMSを脅かした栄光のブランドが、時代遅れのダイアルアップサービスの名前にされてしまうとは……。

追記:ZDNetに「Netscape“接続サービス”はAOLの救世主か、それとも……」という続報が出た。

 AOLの標準サービスは月額23ドル90セント(2800円)だが、数ドル上乗せするだけで7倍以上速くなるブロードバンドと、半額以下の格安ダイアルアップサービスに挟み撃ちにされ、会員が流出している。そこで機能を限定した月額9ドル95セント(1200円)のNetscapeという新サービスを設け、「流出する加入者をつなぎとめるための控えめな防御策」にしようというもの。

 格安ダイアルアップのライバル企業は「この(Netscape)ダイヤルアップサービスを強く推せば、AOLは自分の食い扶持を食べ尽くしてしまうことになる」と冷ややかに見ているとのこと。(Oct17 2003)

 そういえば、授業でNetscapeとマーク・アンドリーセンの名前を出したところ、誰も知らなかった。1993年にNCSAMosaicが誕生したのにひっかけてHALに話題をふったが、40人近くいる中で『2001年宇宙の旅』を見ている学生は一人だけだった。HALの代わりにMosaicが生まれたというのは60へぇ〜くらいいくと思ったのだが。

 へぇ〜とさえ言ってもらえない無駄知識はいよいよ虚しい。

 YOMIURI ON-LINEに北大西洋のアホウドリが絶滅したのは40万年前の温暖化が原因だという記事が出ている。アホウドリは18世紀に乱獲され、絶滅寸前までいったといわれているが、北大西洋にはそれ以前から生息していなかったことになる。

 ボードレールは上田敏が「信天翁をきのたいふ」と訳したL'albatrosという詩がある。

信天翁

波路遙けき徒然の慰草と船人は、
八重の潮路の海鳥の沖の太夫を生擒りぬ、
楫の枕のよき友よ心閑けき飛鳥かな、
沖津潮騒すべりゆく舷近くむれ集ふ。

たゞ甲板に据ゑぬればげにや笑止の極なる。
この青空の帝王も、足どりふらゝ、拙くも、
あはれ、眞白き双翼は、たゞ徒らに廣ごりて、
今は身の仇、益も無き二つの櫂と曳きぬらむ。

天飛ぶ鳥も、降りては、やつれ醜き痩姿、
昨日の羽根のたかぶりも、今はた鈍に痛はしく、
煙管に嘴をつゝかれて、心無には嘲れられ、
しどろの足を模ねされて、飛行の空に憧るゝ。

雲居の君のこのさまよ、世の歌人に似たらずや、
暴風雨を笑ひ、風凌ぎ獵男さつおの弓をあざみしも、
地の下界にやらはれて、勢子の叫に煩へば、
太しき双の羽根さへも起居妨ぐ足まとひ。

わかりやすい南堂久史氏の新訳はこちら

 この詩は放蕩三昧がたたって、義父に商船に乗せられ、アフリカに向かった時の船上での体験をもとにして書かれたといわれている。ヨーロッパの読者にはアホウドリは一角獣や火蜥蜴、ケルベロスのような神話的な生物だったのだろうか。

 「信天翁」と書いてアホウドリと読ませるについては、金川欣二氏の考証がおもしろい。軍艦鳥と混同され、「天から御馳走が落ちてくるのを待っている底抜けの楽観主義」と決めつけられていたそうだが、ボードレールがこれを知ったら、どんな悪態をついたか。

Oct17

 今日は日本道路公団の藤井治芳総裁の解任をめぐる聴聞会が延々9時間にわたっておこなわれ、マスコミは一日中この話題でもちきりだった。Mainichi INTERACTIVEの「藤井総裁聴聞:古巣との対決に「恨み節」 」がまとまっているが、ZAKZAKの「「伸晃にげるな!」藤井、余裕の大反論」もおもしろい。

 藤井氏は、政治家のイニシャルをあげて恫喝したという石原国交相の暴露を週刊文春で全否定したが、今日の会見では「マスコミの方々が、私からいろんなことが出るかと期待しているかもしれませんが、今日は言いません」と、思わせぶりな発言をしている。

追記:YOMIURI ON-LINEの10月18日付の記事によると、藤井総裁の代理人は「藤井総裁は『墓場まで持っていく』としてきたが、身を守るためなら、やむを得ないこともある」と述べ、藤井総裁が解任後に政治家との関係を公表する可能性を示唆したという。独演会でもなんでもいいから、どんどん喋ってほしい。(Oct18 2003)

 今回の騒動では石原ブランドが傷ついたが、道路行政の闇のの一端が白日のもとにされたわけで、藤井氏も、藤井氏の背後にいる道路族と国交省官僚団も大きな痛手をこうむった。石原新党という選択肢が難しくなったことも、守旧派にとってはマイナスだろう。

 まじでテロが心配である。始末される前に全部喋れよ。> 藤井氏

 ZAKZAKに「ナスカ平原にゴミ集積所、地上絵横切り収集車」という記事が出ている。クジラの地上絵から1.5kmのところにゴミ集積場を作り、収集車が1ヶ間、1日2回づつ走ったために、2つの地上絵が損傷したそうである。ナスカ市長は国立文化研究所(INC)に集積所設置の許可を求めたが受け入れられなかったので、「頭にきて」捨てはじめたたと話しているそうだ。

 ナスカの地上絵は世界遺産に指定されている文化財であり、ナスカ市にとっても重要な観光資源ではないのか。INCは市長らの刑事告訴を検討しているという。日本にも洋館の校舎を壊そうとしてリコールになった市長がいた。

Oct18

 asahi.comに「民間・地震予報の「確度」」という記事が出ている。FM波を利用した串田嘉男氏の予知が9月20日の地震で「当たった」ことを受けて、民間地震予知の周辺を紹介したもので、同地震を「予知」した人が串田氏以外にも複数いたことを明記するなど、肯定的な書き方である。

 記事によると気象や地象の予報業務を行うには気象庁長官の許可が必要だが、地震予報に法的規制はない。気象業務法に「地震及び火山現象を除く」と規定されているためだ。

 ここで問題なのが費用である。

 串田氏の場合、八ケ岳を中心に全国4カ所に設置したFM波の観測所で50台近い観測装置を稼働させており、年間5000万円必要だが、月5000円〜3万円を900人以上の参加者から「地震前兆検知公開実験への参加費」として拠出してもらい、どうにか収支を合わせているという。他の団体でお金をとっているところがあるが、どこも大赤字のようである。大地震はめったに起こらないので、地震予報はビジネスにはなじまないという見方もある。

 9月26日の地震を的中させた東海アマチュア無線地震予知研究会はまったくボランティア・ベースで運営しているという。

 サイト主宰者の岩瀬浩太氏のプロフィールによると、同会は地震余地に興味のある名古屋近辺のアマチュア無線家が情報交換をする場として発足したもので、規約も会費も会長もなく、あくまで「遊び」として地震予知をしているそうである。

 串田氏の団体のように特別な観測所を設けているわけではなく、全国の賛同者が気がついた徴候(雲、夕焼け、熱帯魚など動物の反応、アマチュア無線やFM放送の伝播状況、耳鳴りなどの身体反応)をメールや掲示板で持ちよって判断しているので、費用は比較的かからないらしい。

 岩瀬氏は最近、ブロードバンドの引けない山奥に移り、腎不全の身体をかかえながら、自給自足に近い暮らしをされているようである。ある意味で立派な人で、一種の「聖者」なのかもしれない。どういう暮らしをしようと本人の自由だが、一般論として、経済的余裕がないとバランスのとれた判断ができにくくなる傾向はあって、岩瀬氏の書きぶりを拝見していると首をかしげたくなる部分がすくなくない(たとえば、ウィルスつきメールが日に数十通来るので、「意図的な破壊工作」ではないかとするあたり。WWWページを公開していれば、数十通くらいは珍らしくない)。

 現役官僚氏の主宰するbewaad instituteの「膝蓋腱反射」に藤井総裁解任騒動の感想がある。官僚の面子をつぶすような大人げない悪手を打ったのだから、こじれるのは当たり前という趣旨で、石原国交相が恫喝されたとTVで暴露した件についても、こう突きはなす。

疑惑があったと世に知れてしまえば、藤井総裁が替わった後にその真相究明を迫られるのは石原自身であるにもかかわらず、そこまで頭が回ることなく、瞬間的に世に自分の立場を正当化するためだけに発言するなど不用意きわまりない。 一部では、疑惑の関係者は石原サイドの人間ではないことから狙って暴露したとの解説も語られているが、行改担当相時代の当事者能力のなさを見れば、それは過大評価であろう。

 現役官僚氏は「月旦評」で、騒動の背景と公団城の攻め方を分析しているが、さすが蛇の道はヘビで、石原氏はこういう人を軍師にすべきだった。

 石原氏は国民の支持があると思いこんで、ろくに敵情も知らずに力攻めしたわけだ。実際の戦争だったら、死屍累々だろう。若手政治家のホープともてはやされても、この程度だったのだ。

Oct19

 NTVの「THE・サンデー」にアジア・プレスの石丸次郎氏が出演し、情報の出入の視点から最新の北朝鮮事情を語っていた。

 携帯電話がはいりこんでいるという話は韓国紙のサイトで読んだことがあるが、石丸氏が朝鮮日報の記者を取材中に、平壌の情報提供者から携帯に電話がかかってきた場面には驚いた。その時もたらされたのはOct04でふれた茂山の爆弾テロに関する情報だった。

 Sep02でふれたビデオ・ブームはいよいよ本格化していて、韓国の映画やTVドラマが怒濤のように流入しているという。韓国の衛星放送は中国でも受信できるので、中国で海賊版が作られ、密輸されているらしい。今年脱北してきた人のほとんどは韓国のドラマを見たことがあるそうだから、ビデオをもっている人が上映会でもやっているのだろうか。

 石丸氏は一度はいった情報は消すことができないと語っていた。北朝鮮の学校では、韓国はアメリカに植民地化され、人民は食うや食わず生活をしていると教えているそうだが、TVドラマを見れば、それが嘘だということは一目瞭然である。東欧の社会主義はテレビで崩壊したといわれているが、北朝鮮はビデオで崩壊するかもしれない。

 情報がはいってくるようになったとはいっても、政権中枢部は依然として秘密のベールに包まれている。将軍様の奥方、高英姫夫人事故説が伝えられていたが(Oct06)、Sankei Webに夫人の乳がんが再発した可能性があるという記事が出ている。情報が錯綜していている。

追記:朝鮮日報日本版の「高英嬉氏治療のため西洋医療人が極秘訪朝」によると、韓国の丁世鉉統一部長官は、国会の質問に答える形で、高英姫夫人が「重い病気を患っていると聞いている」と明言した。複数のヨーロッパの医学者が朝鮮にはいっているというから、その線で確認したものか。(Oct20 2003)

 東京新聞に「米の北朝鮮侵攻シナリオ 平壌の西から上陸、首都占領」という物騒な記事が載っている。ソースは中国の軍事雑誌「艦船知識」10月号で、中国が参戦しないと判断した場合、アメリカは平壌に近い西海岸に上陸を敢行、平壌の早期占領を図るという内容とのこと。

 「艦船知識」は一般誌だそうだが、中国は政治的には社会主義だから、こういうきわどい記事は政府の許可なしには掲載できないはずである。北朝鮮に対する北京の恫喝だろう。

Oct20

 「群像」のバックナンバーで探し物をしていたら、よど号の子供たちの面倒をみて、ひどい目に遭った雨宮処凛かりんという女性の体験記に目がとまった。故菜摘ひかる女史や、まだ健在な佑天寺うらんちゃんに通ずる体当たり痛い系エッセイだが、風俗ネタではなく、政治ネタという点は目新しい。

 どんな人か検索したところ、公式ページが見つかった。「ミニスカ右翼」と称するパンクロッカーで、彼女を主人公にした「新しい神様」というドキュメンタリー映画が作られていた(DVD化されているが品切)。

 右翼なのによど号の子供たちの面倒をみるというのは不思議だったが、雨宮氏は自ら認めるようにすぐに洗脳される人だそうで、「新しい神様」撮影中に北朝鮮に旅行し、すっかり将軍様ファンになって帰ってきたらしい。

 よど号の子供たちの第一陣が「帰国」した2001年5月には北朝鮮にまでむかえにいき、「帰国」一年目には彼女の家でパーティをやったというから、かなりの肩入れぶりである。

 昨年9月、第二陣が「帰国」するが、一週間後、小泉訪朝があり、将軍様が拉致を認めるという歴史的事件が起こった。その日から彼女のもとにはマスコミの取材が殺到し、公式ページの掲示板にはよど号グループの支援をしていることを批判する書きこみと抗議メールが相次いだという。

 信頼していた元赤軍派議長の塩見孝也氏が、よど号グループから拉致にかかわったことを告白されていたと明かしたことで、雨宮氏はショックを受ける。ついに掲示板に北朝鮮とよど号グループを批判する内容を書くが、よど号の子供たちからすかさず「もう二度と会わない」という書きこみやメールがあった。ここから痛い記述がはじまる。

 そして一番恐ろしかったのは、敵と味方しかこの世に存在しない、北朝鮮を批判する者は今までどんな経緯があろうとも敵、という北朝鮮の考え方である。この思想への恐怖は未だに続いている。自分の存在が根本から否定されるようなこういう種類の体験を、私は初めて実際に経験した。

風俗か、北朝鮮かという違いはあるが、恐ろしくナイーブという点では菜摘ひかるさんやうらんちゃんと同じである。

 北朝鮮シンパが北朝鮮批判をすると、唯一の仲間だった北朝鮮関係者から手のひらを返され、といって、普通の人たちからはあいかわらず胡散臭く見られつづけ、孤独を余儀なくされることになる。北朝鮮シンパが突っ張りつづけるのは、案外、このあたりに理由があるのかもしれない。悔い改めた元北朝鮮シンパに温かい言葉をかけてやることも必要なのかもしれない。

 雨宮氏のエッセイは『「北」の国から』という題で今年の1月号から連載されている。第1回はガサ入れ初体験で、かなり笑える。第3回はよど号メンバーに対する塩見孝也氏のコメントの紹介が主だが、強制送還される前に「自主帰国」して、「北朝鮮で生きるためには仕方なかった」と率直に謝罪し、刑に服すべきだという提言はかつての仲間への思いやりにあふれている。塩見氏は社会主義カルトに引っかかって人生を棒にふったが、根はやさしい人なのだろう。

 連載は4回以降、イラク編になる。雨宮氏は人間の楯として米軍爆撃下のイラクにわたっている。イラク編もおもしろそうだ。単行本になったら読もう。

 北朝鮮は今日、日本海に向けて短距離ミサイルを発射したそうである(Mainichi INTERACTIVE)。安全保障文書で中国がアメリカに同調してしまったので、短距離ミサイルで駄々をこねるくらいしかできなくなったのだろう。北朝鮮の核施設は遠からず解体されるはずだ。

 やはり今日、韓国では五つの脱北者団体を糾合した脱北者団体連合会が、黄長燁元書記を常任代表として結成された。朝鮮日報日本版によると、韓国大学総学生会連合などの学生団体は反発を強めていて、「黄長燁訪米阻止決死隊」というグループは「黄長燁氏は97年以降、口さえ開けば、反北謀略と民族対決を煽り、米国と連携して韓半島に戦争の暗雲を広げている」として、「公開面談」の要求書と、黒いテープでXの印をつけたマスクを同封した小包を送りつけた上、示威行動を準備しているとか。

 黄氏はこうした学生の行動を憂えて、「民族のためだという一部若者たちの錯覚が、実際には北朝鮮の人民、さらには民族の背を切りつける行為だということに気付かなければならない」、「北朝鮮住民の実情に接することができないのであれば、気安く北朝鮮の現実を語ってはならない」と叱ったという。

 韓国のインテリは中国の属国だったという歴史のために常にアイデンティティ不安があり、金日成神話と主体思想にすがりたくなるのだろうが、主体思想を作った本人から叱られたのでは立つ瀬がない。

Oct21

 安否が心配されていた将軍様が41日ぶりにマスコミに登場された(東亞日報日本版)。めでたい限りだが、将軍様のあたたかい懐に抱かれた平壌では「資本主義の象徴であるハンバーガーショップ」がオープンしたそうである。

 ニュースソースは朝鮮総連の機関紙、朝鮮新報のサイトに掲載された「朝鮮大学校−学生座談会・修学旅行でみた祖国」という座談会で、8月に万景峰号で「祖国」訪問をした朝鮮大学校生が語りあっている中に出てくる。

゙ 面白かったのは、平壌体育館前にある24時間営業のハンバーガーショップに行ったこと。メニューはすべてセットで、内容はハンバーガー、フライドチキン、ポテトサラダ、ジュース、アイスクリームなど。パンは2段と3段とを選択できる。パンがとくにおいしかった。

値段がいくらかは書いていないが、国情からいって、外国人や一部特権階級向けではないかという気がする。

 すこし前になるが、東亞日報日本版に「「ビッグマック労働時間」ソウルは28分で38位」という記事が掲載されていた。

 英紙フィナンシャル・タイムズが、スイスの投資銀行USBが世界70都市を対象にした「物価と所得」の調査報告書をもとに、ビッグマック一個を買うのにどれだけの時間働かなければならないかを試算した結果を紹介したもの。労働時間に目をつけるとは、さすがにリカードを生んだ国である。

 ロサンゼルス、シカゴ、マイアミ、東京の4都市が最短の10分だそうで、アジアでは香港の13分、シンガポールの21分、ソウルの28分がつづく。香港は今、中国に生血を吸われつつあるから、遠からずシンガポールやソウルに逆転されるだろう。

 マニラ62分に対してキエフ84分というのは意外である。旧ソ連はそれだけ貧しかったのだ。カラチ132分はまだいいとして、ナイロビはなんと185時間働かないと、ビッグマックが買えない。ビッグマックは贅沢品なのだろう。

 日本経済は先の見えない状態がつづき、先月、「「貯蓄ない」全世帯の2割に」という調査結果が出たが、絶対評価では日本は依然として世界有数の豊かな国なのだということは押さえておきたい。

 Hotwiredの「「自分は世界で何番目に裕福か」がわかるウェブサイト」によると、年収9300ドル(約百万円)未満は米国勢調査局の基準では貧困層に分類されるが、世界全体の水準では上位12%にはいるという(あまり慰めにはならないが)。

 自分が世界で何番目にリッチか知りたい人はGlobal Rich Listで調べることができる。年収をドルかポンドに換算しなければならないが、興味のある方はどうぞ。

Oct22

 新文芸座岸惠子特集で「修善寺物語」(1955)と「敵は本能寺にあり」(1960)を見た。

 この特集は岸惠子の自伝的小説『風が見ていた』の刊行を記念しておこなわれるもので、18日から31間での14日間、日替わり二本立てで26本が上映される。「日本映画のヒロイン Vol.1」となっているところをみると、他の女優の特集も期待できるかもしれない。

 初日はイブ・シャンピ監督との出会いとなった「忘れえぬ慕情」(1956)と第二作「スパイ・ゾルゲ 真珠湾前夜」(1961)という珍らしい二本立てで、行こうと思ったが、出遅れて断念した。岸惠子の舞台挨拶があり、かなりの混雑が予想されたからだ(実際はどうだったのだろう)。今日は比較的マイナーな作品で、岸の役も大きな役ではなかったせいか、半分くらいしか客席が埋まっていなかった。

 「修善寺物語」は古典というほどではないが、かなりおもしろかった。「敵は本能寺にあり」は先代松本幸四郎(現幸四郎にそっくり!)主演で、今となっては退屈だったが、それでも日本映画全盛期の輝きは否定できない。個人の力ではどうにもならない、時代の平均水位というものがあるのである。

 岸惠子は美人女優の代表のようにいわれていて、リアルタイムで見た最初の作品「約束」(1972)では、中年になっていたのに、圧倒的なオーラが漂っていた(「約束」は傑作である)。全盛期はさぞと思っていたが、今回、はじめて若い頃の作品を見て、菊川怜の系統の顔だった。外国人に受けそうなはっきりした目鼻立ちだなぁとは思うが……(好みの問題ではあるけれども)。

 代表作を見てみないとわからないが、この人は年齢を重ねて磨かれた女性ではないかという気がする。

Oct23

 週刊新潮に先週と今週二週つづけて、オウムの犯行とされてきた国松孝次元警察庁長官狙撃事件の真犯人は、昨年、名古屋で現金輸送車を襲撃した中村泰被告(73歳!)だったという記事が載っている。中村被告は1995年7月に八王子で起きたスーパーのアルバイト女性三名殺害事件の犯人とも目されている。

 驚くべき内容なので後追い報道を待ったが、この一週間、他にとりあげたメディアはなかったようである。危険なネタは週刊新潮がまずとりあげ、他のメディアが後追いするというパターンが多いが、これだけのニュースなのに、まったく沈黙というのは解せない。

 中村容疑者は資産家の生まれで、1949年に東大に入学するが、日本共産党に入党したのをきっかけに裏街道の人生を歩みはじめ、銃器の研究と射撃訓練に打ちこむ。若い人は共産党と銃というと結びつかないと思うかもしれないが、宮本体制が確立する前の共産党は山奥にアジトを作って軍事訓練をしたり、銀行強盗や資産家誘拐で資金を稼いでいたりしていたのだ(このあたりのことは立花孝の最高傑作『日本共産党の研究』に詳しい。この本はとにかくおもしろい。読むべし)。

 中村被告は髙村薫の『リヴィエラを撃て』を思わせる禁欲的なテロリストである。こんな人間が本当にいたとはにわかに信じられない。事件の全貌が明らかになったら、どこかのTV局がビートたけし主演でドラマ化するのではないか。

 活動資金を調達するために金庫破りを繰りかえしていたが、1956年に逃走途中に警察官を射殺し、無期懲役で1976年まで服役している。仮釈放後、各地のアジトを転々とし、複数の凶悪事件を起こしたらしい。

 父親から数千万円の遺産を相続したというが、生活はきわめて質素で、金は銃器の購入と複数のアジトの維持に使うだけだったようだ。

 現金輸送車襲撃の手口があまりにもあざやかだったことから、余罪があると見た警察が中村容疑者の周辺を慎重に捜査したところ、八王子の事件に使われたと見られる拳銃(線条痕がほぼ一致)につづいて、国松元長官狙撃に使われたのと同じ特殊な銃弾(ナイロンコートのホローポイント弾)が発見され、さらに犯行をほのめかす日記が出てきた。

 日記はスペイン語と英語で書かれていたそうだが、散文詩風で、自己陶酔の塊のような代物である。週刊新潮から引く。

「95年3月、積年の思いがこもった銃弾が敵の体を貫いた。私は警察の総指揮官を銃撃し仕留めたのだ」

「疲れた体をつり革に任せ、周囲に目をやる。スーツにネクタイを付けた初老の男が、よもや長官を撃った人間とは誰も思うまい」

「なんと警察の情けないことか。公安は狙撃犯をオウムの平田信と思い込んでいる。そう思っているうちは事件の解決はありえない。平田を捕まえても、国松事件について供述しないだろう。なにしろ、撃ったのは俺なのだから」

 中村被告は射撃の腕も大変なもので、これまでの事件では、なんのためらいもなく顔面に撃ちこんでいる。顔に撃ちこむには心理的な壁を乗り越えなければならず、そんなことができる人間は限られるという。

 狙撃事件は3月31日に起きたが、この日を選んだのはかつて反戦フォークとして一世を風靡した新谷のり子の「フランシーヌの場合は」のためだというのだ。中村容疑者とオウムとの接点はないらしい。

 「フランシーヌの場合は」まで出てくるとは、まったく髙村薫の世界である。もちろん、髙村薫が小説を書きはじめる前から、中村被告はテロリストを気取っていたわけだが。

 ただ、自己陶酔の中で生きてきた爺さんだけに、国松事件の記述は妄想の産物という疑いがないわけではない。真相はどうなのか、続報が待たれるところ。

Oct24

 アメリカAmazonが「Search Inside the Book」というサービスをはじめた。アメリカAmazonで販売している書籍12万冊3300万ページの全文検索ができ、さらに無料のユーザー登録がしてあれば、その語句の出てくる頁の画像を閲覧できるというのだ。

 CNETZDNetに記事があるが、Amazonの扉ページに掲げられているジェフ・ベゾスのメッセージから引こう。

 本日からAmazon.comでは、著者名や題名だけではなく、本文中の語句でも書籍を検索できるようになりました。この新機能は「Search Inside the Book」といい、全12万冊3300万ページ以上のテキストから検索いたします。「Search Inside the Book」は従来の検索システムと一体化していますから、お客様はこれまで通り、検索ボックスに語句を入力されるだけで新機能をお使いになれます。

 たとえば「Resistojet」という語で検索すると、これまでは一冊も見つかりませんでしたが、新機能を使えば、この語が本文中に出てくる本を発見することができます。どうか「Search Inside the Book」をお試しください、新機能がどんなにパワフルか、実感できると思います。

 12万冊所蔵の電子図書館がネット上にできてしまったようなものだが、本を通して読めるわけではないので、一般読者にとっては本を買うかどうかを決める手がかりになるくらいだが、引用を確認するためだけに図書館にいったり、もっているとわかっているのに、見つからないので同じ本を買うことのすくなくない研究者や物書きにとっては大変な福音である。

 実際の本の画像を使っているところを見ると、国立情報学研究所NACSIS-ELSのように、本のスキャン画像の裏側にOCRで電子化した検索用テキストを貼りつけているのではないかと思う。OCRの吐きだすテキストは誤りが多く、閲覧に供するには人手で校正しなければならないが、検索に使う分には差し支えない。

 気になるのは日本Amazonの対応だが、日本語OCRの変換精度は英語よりも低くそうだし、それ以前に出版社の了解がえにくいだろう(アメリカAmazonは出版社190社の承諾をえたという)。一日も早く実現して欲しいとは思うが。

 日本の国会図書館は明治期に刊行された書籍4万7千冊をネット公開しているにすぎない。Amazonは120万冊で桁が二つ違う。こんなことを一企業が現実にやってしまったのだから、アメリカのネット企業の実力には脱帽する。かなりの投資をしたと思うのだが、ZDNetの「Amazon黒字、年末商戦は過去最高の業績期待」によると、今年の第3四半期(7〜9月期)は総売上11億3000万ドル(前年同期33%増)、純利益1600万ドルと、これまでで最高の業績をあげている。日本のネット企業のお粗末さを考えると、ため息が出てくる。

追記:Nov01に続報あり。(Nov01 2003)

Oct25

 NTVの視聴率操作事件が思いのほか話題になっている。調査世帯を買収するという話は松本清張が『』で書いているし、最近も『視聴率操作殺人事件』という作品が出ているようだ。

 NTVのサイトに出ている「日本テレビ社員の不祥事に関する記者会見要旨 」によると、工作は2002年7月と2003年1月の2回おこなわれた。興信所に視聴率調査会社の車を尾行させて調査世帯20軒をつきとめ、工作をもちかけたところ、それぞれ4軒づつが承知し、謝礼として5000円から1万円の商品券を郵送した。興信所には成功報酬で一軒につき10万円、間に立った元制作会社社長夫妻には1軒につき2万円をプロデューサーのポケットマネーから支払った。

 ZAKZAKの「日テレ視聴率“買収”、出世遅れ猛進男の素顔」によると、操作をおこなったプロデューサーは単発番組しかもったっことがなく、なんとかレギュラー番組を担当しようと焦っていたらしい。工作を承諾したのは4軒づづだが、調査世帯は600軒しかないので、わずか4軒でも11万世帯に相当し、視聴率を0.67%、CM売上を320万円押しあげることができる。工作には200万円以上かかったとみられているが、コンマ以下を争う厳しい視聴率戦争下では十分元がとれよう。

 もちろん、悪いのはNTVのプロデューサーだが、わずか600世帯というサンプル数にも問題がある。もし10倍の6000世帯だったら、ポケットマネーぐらいでは影響をあたえられないはずだ。

追記:ZAKZAKの「視聴率買収社員、日テレが横領で刑事告訴へ」によると、調査世帯をつきとめるために何台もの車やオートバイを動員しており、工作費は500万円にのぼることがわかった。工作資金に制作費が流用されていたとなると、横領になるだろう。(Nov01 2003)

 11月18日、日本テレビは調査委員会の報告書を公開し、工作は一昨年からおこなわれていたこと、1千万円以上にのぼる工作費は自己資金320万円と番組制作費などの水増し・架空請求によって調達していたことを明らかにした(Mainichi INTERACTIVE)。安藤プロデューサーは懲戒解雇され、被害額返済を求めるとのこと。日本テレビは「報告書を受けての日本テレビの処分と再発防止策」を発表するとともに、氏家会長以下に処分をくだした。(Nov18 2003)

 サンプル数がすくない以上、絶対値はあてにならないが、同一番組内の時間変動はかなり視聴者動向を反映しているようだ。有田芳生氏の「酔醒漫録」の10月24日の項から引く。

 わたしは出演者として毎日必ず視聴率グラフ(1分ごとの視聴率)と視聴率(その日全体の数字)を見るようにしている。なぜかといえば同時間帯の他番組との競争の結果を見ることは、番組内容とテーマに対する視聴者の関心が「見える」からだ。たとえばおおまかにいえば、最近は事件報道に視聴者はあまり関心を示さなくなっている。悲惨な事件など「もう見たくない」という気持ちもあるだろうし、犯罪事実への「慣れ」が生じているのかもしれない。そういった推測が読めるのだ。

 悲惨な事件が敬遠されているというのはやはりなと思った。陰惨な事件がこうたてつづけに起こっては、誰だってうんざりする。

 このところ、マスコミは贋有栖川宮の話題でもちきりだが、箸休めといったところか。ZAKZAKの「ニセ有栖川宮妃、厚化粧の裏の超タカビーぶり “金妻”に憧れ上京→バツ2で長男は21歳」あたりを見ると、主婦には受けるだろうなと思う。

 ロイヤルファミリー絡みの詐欺事件は昔からあって、十数年前だったか、エリザベス女王の従兄弟を名乗る爺さんが結婚詐欺でつかまったことがあった。なぜか日航機に機長の制服を着た写真が週刊誌に載ったが、どう見ても正真正銘の日本人である。あれでエリザベス女王の従兄弟と信じた女性がいたというのだから、世の中は広い。

Oct26

 CNETの「電子ID計画の実行を急ぐ欧州」によると、EUは2005年までにEU共通形式の新しいパスポートを導入する。パスポートには、偽造防止と顔認識技術を使った身元確認のために、所有者のデジタル画像と指紋情報を書きこんだRFIDが組みこまれる。

 また、2004年6月までに、EU共通の健康保険IDカードを導入し、EU加盟国の国民が他のEU加盟国で診療を受けた場合の事務作業の省力化をはかるという。

 やはりCNETの「台湾政府、JavaベースのIDカードの配布完了」によると、先月、台湾政府はJavaカード技術を使ったのヘルスカードの配布を完了した。台湾の人口は現在2200万人だから、ICカードとしてはアジア大規模である。チップにはアレルギー情報、緊急連絡用の電話番号、医薬品、個人保険などが書きこまれる。

 Javaを使うのは新しい機能を随時追加したり、更新できたりできる他、情報をカード上で処理できるので、中央のサーバーと個人データをやりとりする必要がなくなり、処理速度が向上するからだという。

 個別行政事務のこうした電子化は避けられないと思うが、日本の住基ネットのような共通番号方式はまずい。台湾では国民身分証のICカード化を2002年に断念していること、ドイツでは国勢調査を口実とした共通番号制の導入が憲法裁判所で違憲とされたことを忘れてはならない。

 10月23日、蒋介石未亡人の宋美齢女史がニューヨークで亡くなった(人民网日本版)。106歳だった。

 台湾に進駐した国民党政権を象徴する人物だっただけに、Mainichi INTERACTIVEは台湾での複雑な反響をこう伝えている。

 「永遠のファーストレディ」と呼ばれた美齢さんの死を知った台北市民は24日、次々と蒋元総統を記念する中正紀念堂を訪れた。涙を落とす老婦人もいる。その多くは国民党とともに、中国大陸から渡ってきた外省人やその子弟だった。

 一方、本省人(台湾出身者)は冷ややかに死を受け止めた。38年間という世界最長の戒厳令(1949〜87年)を敷き、独裁政権を維持した蒋介石氏と、それを支えた美齢さんへの複雑な感情は消えない。

 台湾独立を目指す「正名運動」の追い風になるという見方もあるが、若い世代は歴史上の人物ととらえているらしい。

 宋美齢女史は三姉妹で、長姉の宋靄齢女史は孔子の子孫で実業家の孔祥煕の夫人、次姉の宋慶齢女史は孫文の夫人で、「一人は金を愛し、一人は権力を愛し、一人は国を愛した」といわれた。三人の愛憎半ばする人生は『宋家の三姉妹』という映画になっている。最近、廉価版のDVDが出たが、美しい作品に仕上がっているので、ぜひご覧になられよ。

Oct27

 「ニュース23」で「世界初映像/潜入・北朝鮮収容所」と題して、北朝鮮の強制収容所の隠し撮り映像が放映された。収容所には死んでも出られない完全統制区域から、強制送還された脱北者を短期間収容する労働鍛錬隊まで四段階にわかれているというが、今回、撮影された中国国境に近い穏城オンソン労働鍛錬隊は一番軽い脱北者用の収容所である(追記参照)。

 一番軽いといっても、中国で暮らした人間は悪い思想に染まったので、暴力と重労働によって正しい北朝鮮人にもどそうという「再教育」の場であり、完全統制区域とは違う地獄模様がくりひろげられている。

 映像そのものはごく短く、収容者たちが建物の壁に手をついてかがまされ、背後から暴行される場面と、貨車を大人数で押していく場面の二つしかなかったが、とうとうこんなものまで出てくるようになったのである(筑紫哲也の番組までこのような映像を流すようになったという意味では、二重に「とうとう」だが)。

 穏城労働鍛錬隊の元収容者の証言にもとづく収容所生活の再現映像が一緒に公開されたが、これが凄まじい。

 はいったら出られない完全統制区域は、安明哲氏の『北朝鮮絶望収容所』とそのイラスト版『図説 北朝鮮絶望収容所』に描かれているように、収容者をなるべく長く生かして、屈辱と苦痛を長引かせることを目的としていたが、労働鍛錬隊は一年以内という短期間に精神と身体に国家への忠誠心を叩き込もうという「再教育」施設だけに、暴力が集中的かつ直接的である。

 収容棟では20坪のコンクリート剥きだしの室内に130人ほどが詰めこまれる。一人あたり80cm四方のスペースしかないので横になれず、坐ったまま寝るしかない。食事はトウモロコシの滓の粥が朝晩、一握りづつ出るだけ。早朝から夜まで炭鉱などで重労働を強いられるが、労働よりもつらいのは毎晩10時からはじまる「再教育」だという。一人づつ、その日の反省を発表させられてから、将軍様を褒めたたえる「掟」を大声で復唱させられる。その後、北朝鮮は世界最高のすばらしい国だという監視員の講話が延々とつづく。「掟」の文言をすこしでも間違えたり、居眠りしたりした者がいると、連帯責任で収容者全員がその場でウサギ跳びをさせられる。ぎゅう詰めの状態で飛びはねさせられるので、塵埃がもうもうと立ちこめ、当然、みんな咳きこむ。夜間は錠が下ろされ、大小便は扉近くにおかれた大きなバケツのような容器にしなければならないが、130人もいるのですぐにあふれだし、悪臭がこもる。

 顔を出して証言した元収容者がいたが、彼の妻は強制送還時、妊娠八ヶ月だった。一目で身重とわかるのに、他の収容者と同じ重労働や刑罰を課され、ある日、30kgのブロックを持って収容所の周りを走らせられ、腹痛で倒れるとトイレに行ってこいと言われる。力をいれたとたん赤ん坊を産み落とし、泣き声が聞こえたところで失神。病院で気がつくと子供は死んだと聞かされたという。

 多くの脱北者の証言によると、中国で受胎した子供は北朝鮮の人間ではないとして、妊娠している収容者は強制的に堕胎させるか、堕胎できない月数の場合は生まれてすぐに縊り殺すことになっている。父親が中国人や中国の朝鮮族ではないかという猜疑心のなせるわざだが、根には北朝鮮特有の強烈な純血意識があるようだ。

追記:朝鮮日報日本版の「北で脱北女性の中絶手術・嬰児虐殺が横行」によると、アメリカの北朝鮮人権委員会(HRNK)の報告書は「北朝鮮当局による嬰児虐殺は脱北女性が中国人男性と結婚したり、性交渉をもち、妊娠した場合に集中」していると指摘しているという。同記事から引く。

 新義州(シンイジュ)付近の脱北者収容所で、妊婦のための軍病院に勤めたというチェ・ヨンファさんの証言として、「ある女性は強制的に分娩促進剤を投与され、子供を出産した。その後、嬰児はチェさんが恐怖に震えながら見守る中、産婦の前で濡れたタオルで窒息死された」と伝えた。

 報告書は「半分が中国系である子供は容認できないというのが(嬰児虐殺に対する北朝鮮当局の)説明だった」とチェさんが明らかにしたと伝えた。

 中国人との混血児抹殺を国策としておこなっているのだろうか。あの国ならありえないことではないが。

 顔出しした脱北者の兄も脱北したが、強制送還後、スパイ容疑の取り調べで毎日17時間の正座を強制されている間に足から壊疽がはじまった。奇跡的に再度脱北し、韓国に亡命したが、危篤状態がつづき、病院から一歩も出ることなく亡くなった。まだ44歳だというが、どう見ても60代だった。拷問で廃人にされたのである。

追記:28日、TBSのスクープを朝鮮日報日本版が「北の「労働鍛錬隊」映像初公開」として伝えた。

 朝鮮日報はスクープであることは認めながらも、「ニュース23」とはかなり違うニュアンスで映像を解説している。これは現物を読んでいただくしかない(強調部分は引用者)。

 この映像にはトウモロコシ畑で、男女の収監者が貨物列車に積むコンテナを積み上げる姿などが収録され、宿所と思われる白い建物も映っている。

 軽犯罪者を収容するためか、比較的監視と統制は厳しくなく、一部女性は働く途中、笑顔も見せた。

 また、収監者の服装なども一般住民と同じで、住民の日常生活とそう変わりはなかった。

 これと関連し、脱北者たちは「労働鍛錬隊は北朝鮮の各郡・区域に1カ所ずつ設置されている。軽犯罪者を収容するため、人民保安省(警察)が管掌するが、責任者以外の管理、監督は軍特殊部隊を除隊した人や、金日成(キム・イルソン)社会主義青年同盟職員など、民間人が受け持っている」と話した。

 また、「面会と食べ物の搬入は可能だが、労働の強度は厳しい方」と説明した。

なんと、労働鍛錬隊は強制収容所などという大層なものではなく、郡に一つはある「軽犯罪者」向けの再教育施設にすぎないというのだ(!?)。

 だからといって、再現映像で描かれた地獄図が誇張やヤラセだということではないだろう。北朝鮮では、あの程度の地獄図は日常の一部にすぎないということだ。(Oct27 2003)

 北朝鮮は文書による不戦の保証というアメリカ提案を「一顧の価値もない笑止千万な主張」と罵倒していたが、25日になって「同時行動原則に基づく一括妥結案の実現に肯定的に作用するなら考慮する用意がある」と態度を軟化させた。いつものことである。

 APEC期間中のミサイル試射も、中距離の地対艦ミサイル三発にとどまった。将軍様はいよいよ追いつめられている。

Oct28

 衆院選挙の告示があったが、北朝鮮関連のニュースがたてつづけにはいってきた。北朝鮮の方がおもしろいので、選挙は後回しにしよう。

 まず、27日、黄長燁元書記が厳重な警備のもと、ワシントンに到着した。民間の人権団体「ディフェンス・フォーラム基金」の招きによる「プライベートな訪問(バウチャー米国務省報道官)という建前だが、下院政策委員会に出席するほか、上院外交委員会のメンバーやウォルフォウィッツ国防副長官、ボルトン国務次官、ケリー国務次官補ら米政府高官らと会談する予定らしいが、警備上の理由から下院以外の日程は非公開とされている。

 朝鮮日報日本版によると、ウォールストリート・ジャーナル紙は「米国と韓国の一部運動家たちは黄長燁氏に対し、訪米期間中に亡命政府の樹立を宣言するよう促している」と伝えたそうである。「元北朝鮮外交官で、現在ソウルに滞在しながら脱北者団体で活動している某関係者は、『北朝鮮のエリート層に黄長燁氏の弟子と追従者が多いため、黄長燁氏は完璧な指導者候補』と称えた」というのだ。

 これに対して黄氏自身は「私は学者であるだけだ」としながらも、「将来北朝鮮を導く人々を教育することに一定の役割を果たし、北朝鮮に変化の風が吹けば、案内者としてお手伝いができるだろう」と語ったそうである。

 こうした動きを警戒してだろうか、Sankei Webの「黄・元朝鮮労働党書記が訪米 北「長男事故」伝える」によると、これまで収容所で死んだとされてきた黄氏の43歳になる長男が「北朝鮮の最北部にある炭鉱、阿吾地アオジで「事故」に遭い足を骨折、平壌に運ばれた」というニュースが朝鮮半島関係筋から明らかにされた。同筋は「長男は訪米中の黄氏の口を封じるための人質であり、余分なことは話すな、という黄氏への脅迫であることは明白だ」としているという。Sankei Webから引く。

 北朝鮮は黄氏の訪米を極度に警戒、訪米阻止のため韓国政府にさまざまな方法で圧力をかけてきたとされる。

 黄氏は亡命者では最高位であることから、今年七月まで情報機関が身辺保護を行う「特別保護」の資格だった。現在は警察の管理下にある「一般保護」だが、二十四時間の保護態勢が続いている。

 こうした状況下でも北朝鮮はあらゆる方法で黄氏に接触を試みており、この六年間で数回、電話などで直接接触しているとみられている。

 和田春樹氏のような北朝鮮シンパは黄氏は古い情報しかもっておらず、政治的意味はないと印象づけようとしていたが、実際はまったく違ったわけである。

 族滅されたことになっていた黄氏の家族が生き返ったくらいだから、死亡とされた拉致被害者が生存している可能性はいよいよ高くなった。

 韓国では、北朝鮮の崩壊による大規模な難民流入に備えて、東海岸と西海岸に2づつ、休戦ラインぞいに6、合わせて10の臨時収容所を軍が設営していたことが明らかになった(朝鮮日報日本版Mainichi INTERACTIVE)。各施設はいずれも200人規模で、通常は小学校の体育館などに使われているが、有事の際には難民収容所に転換される。「脱北住民護送手続」も作成されていて、難民はこの臨時収容施設に一週間収容され、関係当局による合同尋問を受けた後、政府の収容施設に送られることになっている。現場の部隊は難民流入を想定した訓練をおこなっており、予想以上の規模の流入がはじまった場合には臨時収容施設を拡大するという。

 朝鮮日報によると「政府はこれまで北朝鮮を刺激することを懸念し、急変対策をひた隠しにしてきた」そうだが、なぜ、この時期に明らかにしたのだろう?

追記:朝鮮日報日本版の「黄長燁氏「北崩壊しても南北分界線維持すべき」」によると、訪米中の黄氏はVoice of Americaのインタビューで「現在、南北間の発展速度の格差が大きいため、まず両社会の同質化が必要」とし、「それ前までは北朝鮮住民が韓国に大挙移動する事態を防がねばならない」と語ったという。(Nov04 2003)

 北朝鮮を逃げだしたい人がいる一方、北朝鮮に亡命したい人もいるらしい。Sankei Webと東京新聞によると、北朝鮮の朝鮮中央通信は「日本人女性のキタガワ・カズミが最近、わが国(北朝鮮)に亡命申請した」と伝えた。北朝鮮当局はまた北京の大使館を通じて、日本政府に「北朝鮮に不法入国し、亡命申請した日本人女性がおり、調査中だ」と伝えたという。

 不可解なのは同一人物とみられる20代後半の女性が今年4月、瀋陽の日本総領事館を訪れ「北朝鮮への亡命を希望しているので相談したい」と言ってきたので、館員がやめるように説得したということ。日本を逃げだそうというのに、日本領事館に相談に行くとはこれいかに。

 鴨緑江の遊覧船から飛びこんで、北朝鮮側まで泳いだそうだが、なぜそんな目立つことをしたのだろう? 本当に亡命したいのなら、観光の名目で平壌にはいり、案内員に亡命希望と伝えれば大歓迎してもらえるではないか。どこやらの贋妃殿下のように病的に自己顕示欲の強い女性なのか、それとも正真正銘の気違いなのか……。

追記:「ユウコの憂国日記」の10月28〜30日の項に、お昼のワイドショーで伝えられた詳報が要約されている。亡命志願女性はなんと元オウム信者(!)だったそうである。この女性は昨年5月に北朝鮮を観光した際、亡命の意志を案内人に伝えたがとりあってもらえず、再入国禁止になり、今回の強行手段に出たとのこと。

 北朝鮮が持てあますくらいだから、家族の方も「いい大人が自分でやったことだからほっといて」と言っているらしい。厄介払いできてよかったということか。ユウコ氏いわく、「大きな存在(指導者)に導かれないと、一人では何もできない困ったチャン」。(Oct31 2003)

 「ワッツ!? ニッポン」によると、亡命志願の北川和美嬢は北朝鮮グッズ専門店の常連で、その筋では有名な女性だが、6〜7年前は「上祐ギャル」だったそうで、追っかけが高じてオウムに入信したらしい。

 北朝鮮に不法入国したのは8月で、この2ヶ月半の間に知人にたびたび手紙を寄こしているが、最初のうちは食べ物がおいしいとか、日本語の講師をやる予定と書いていたものの、最近は軟禁状態で自由がないとか、日本に帰りたいと書くようになっている。

 軟禁されているのは収容所ではなく、平壌の最高級ホテルらしいので、もし強制送還ということになれば、北朝鮮は日本に金銭的な要求をする可能性がある。

 猪瀬直樹氏は「ディズニーランドと間違えているんじゃないの」と言っていたが、そんなところだろう。こういう人はずっと北朝鮮で暮らしてくれた方がいい。(Nov01 2003)

 Sankei Webに「放置自転車盗み北朝鮮へ輸出? 広島で4人逮捕」という記事も出ている。中国製や韓国製の自転車にはライトがないので、電力事情の悪い北朝鮮では日本製自転車が人気で、中古が日本円にして一台5000円〜1万円で売られているというから(北朝鮮では年収に近い?)、こういう事件も起こるのだろう。

 Sankei Webの「「交流」裏側で北は外貨稼ぎ 「済州・民族平和祝祭」で見返り」というニュースも笑える。済州島で開かれた「済州・民族平和祝祭」に参加した北朝鮮の代表団が、韓国側から受け取ることになっていた“ギャラ”が足りないといって帰国を拒否し、空港で深夜まですわりこんでゴネたというのだ。

 美女軍団が直前になって参加を取りやめたので切符は売れず、TV局がスポンサーをおりたので赤字になり、北朝鮮に払うことになっていた220万ドル(2億4千万円)のギャラを半分にしようとしたところ、この騒動にいたったもの。

 220万ドルのギャラのうち、100万ドルは現金で支払うことになっていて、50万ドルは前払いされていた。残りの120万ドルはテレビや冷蔵庫などの「現物支給」の予定になっていたというから、ますますあきれる。電化製品は食べることができず、エリート層向けだろう。餓死者が出ると見られているのに、エリート層をつなぎとめることしか考えていないわけだ。

 韓国民の多くは南北交流を素朴に信じ、美女軍団に浮かれていたが、今回の騒動で北朝鮮の外貨稼ぎにすぎなかったという内幕がさらされたわけで、今後、ボディブロウのように効いてくるだろう。

追記:西日本新聞の「南北交流行事で“出演料”トラブル 批判の声、韓国内で広がる」はさらに突っこんだ背景を紹介している。

 南北交流に際しての、北側への「対価」支払いについては、これまでも北朝鮮を訪問する企業人らが一人数千万ウオン(数百万円)を払ったとの話があるほか、今年夏に韓国の放送局が平壌で開いた「のど自慢大会」でも、北朝鮮に十三億ウオン(約一億三千万円)が支払われたともされる。

 今回、北朝鮮の代表は「二度と(交流)行事はできないと思え」と捨てぜりふを吐いたと伝えられる。南北交流行事に対し、北朝鮮側が外貨稼ぎの実利目的をあらわにしたことへの失望感に加え、金をばらまいてきた韓国側関係者に反省を求める声も広がっている。

二度と(交流)行事はできないと思え」とまで言われたら、さすがに韓国国民も目が醒めるだろう。(Oct31 2003)

 asahi.comの「韓国統一相、北朝鮮への支払い問題でウソ答弁認める」によると、丁世鉉統一相は済州島で開かれた「民族平和祝典」で主催者が北朝鮮側に現金100万ドルを支払う計画があったのに、国会で否定する虚偽答弁をしたと謝罪したという。丁統一相は主催者側から「当面、外部に知られないようにしてほしい」と頼まれていたそうで、多くの韓国国民は南北交流の実態を本当に知らなかったのだろう。(Nov01 2003)

 最後になったが、昨日伝えた「強制収容所」の実態について意外な事実が明らかになった。追記を参照されたい。

Oct29

 10月17日、総務省は住基ネットの実験の結果、侵入に成功せず、「住基ネット自体の安全性は改めて確認された」と発表した。新聞各紙とTVは総務省の発表をそのまま報道したが(たとえばasahi.comの「住基ネット「侵入できず」 総務省、米社に委託実験」)、ここに来て総務省の発表に疑問を投げかける記事が出てきている。

 疑問点にふれる前に、どのような実験がおこなわれたか、ざっと紹介しておこう。

 侵入実験はアメリカの監査法人クロウ・シュゼック社によって、10月10日〜12日の3日間、東京都品川区の区庁舎でおこなわれた。実験内容は以下の通り。

  1. 住基ネット=CS(コミュニケーションサーバー)間のファイアーウォールに、CSと同セグメントから3時間
  2. CS=庁内LAN間のファイアーウォールに、庁内LANから6時間
  3. 庁内LAN上のCS端末に、庁内LANから6時間

 総務省が公開した「住基ネットに対するペネトレーションテスト結果報告」によると、「ファイアーウォール攻略とCS端末権限を奪うため、あらゆる攻撃を試みたが成功せず、弱点も見いだせなかった」とのことである。同報告のPDFから図を引用する。

住基ネット侵入実験

 この報告書を長野県の田中康夫知事は「単なる大本営発表」と斬って捨てている。日経IT Proニュースから引く。

 総務省のテストが,住基ネットの安全性を証明するものでないと田中知事が指摘した点は五つ。(1)品川区は全国に約3200ある自治体の一つであり,そこから住基ネットに侵入できなかったとしてもすべての自治体が安全だとは言えない,(2)インターネットからの侵入テストを実施していない,(3)侵入テストの実施時間が3〜6時間と短く不十分,(4)総務省がテストを依頼した監査会社の結果だけで,第三者の公平な評価やコメントがない,(5)住基ネットへの侵入の可否だけを問題にしている−−である。

 (2)の「インターネットからの侵入テスト」については、庁内LANからの侵入よりもさらに難しくなるので、批判として成立しないと思うが、他の点については十分説得力がある。

 ZDNetの「総務省による住基ネット侵入テスト結果に残る検討の余地」は「CSそのものへの攻撃テストが行われていないことは明らか」とテストの盲点を指摘し、さらにこうつづける。

 また、単なるツールを用いての侵入テストに終わっていたのならば、ヒアリングによって初めて明らかになるような運用上の問題点や手作業で確認できるアプリケーションレベルの問題点までが検証されたわけではない。さらに田中長野県知事が指摘するように、3時間、もしくは6時間といった時間が果たして十分なものかどうかについても議論が必要だ。

 セキュリティにかかわると称して、総務省が「都道府県、市区町村などに公表はしない」としているが、Mainichi INTERACTIVEはこう疑問を提起している。

 しかし、侵入実験は、テストの前提や方法などが異なれば、当然、結果も異なるため、詳細情報の公開がなければ、自治体はテスト結果の信頼性を自ら検討することはできない。住基ネットは、自治体が共同運用するネットワークとされているだけに、自治体への詳細情報の非公開には疑問の声も出そうだ。

 たとえ住基ネット接続部分が攻撃をはねかえせても、接続する手前の部分――庁内LAN――に侵入されてしまえばおしまいである。クロウ・シュゼック社はさすがにこの点に気がついていて、「庁内LANに対してもセキュリティー監査を行うべきだ。また庁内LAN上のデータ送信が盗聴される可能性があることから、方策を実施すべきだ」と指摘しているという。

 現実的に考えれば、ネットワーク犯罪者が外部から侵入してくる可能性よりも、職員や下請会社の作業員による漏洩の可能性の方がはるかに大きい。意図的な漏洩でないとしても、ソシアル・エンジニアリング(騙しのテクニック)によってパスワードを漏らしてしまい、結果的に情報漏洩の片棒をかつがされる危険性もある。

 攻撃側は一番弱い部分を狙ってくる。第二次大戦前、フランスはドイツ国境正面にマジノ線という大要塞群を配置し、鉄壁の守りを誇ったが、ヒトラーは東西から迂回して、電光石火でフランスを占領してしまった。ファイアーウォールがどうのこうのといっているうちに、思いがけない穴から侵入されているかもしれないのである。

Oct30

 日本規格協会情報バリアフリー委員会は24日、「高齢者・障害者等配慮設計指針 第三部:ウェブコンテンツ」というJIS素案を発表し、公開レビューを開始した(11月24日まで)。

 この規格は、高齢者や障害者、ケガなどで一時的に自由がきかなくなっている人がWWWコンテンツを円滑に利用できるようにするにはどのような点に配慮したらいいかという指針を、企画・設計・開発・制作・保守の面から示したもので、2001年にISOとIECが策定した「ガイド71」(JIS Z 8071:2003「高齢者及び障害のある人々のニーズに対応した規格作成配慮指針」としてJIS化)を具体化した個別規格という位置づけである。

 同じ狙いのガイドラインとしては、W3Cが公開しているWCAG1.0(WWWコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン1.0)がある。JIS素案は論理的マークアップの徹底と、スタイルシートによるレイアウト情報の分離というW3C勧告に沿ったもので、WCAGと重複する項目が多いが、WCAGがマークアップ限定なのに対し、JIS素案が「入力に時間制限は設けないことが望ましい。制限時間がある場合は事前に知らせなければならない」のように、マークアップ以外の領域にまで踏みこんでいる点は大いに評価したい。また、「読みの難しい言葉には,その読みが分かるように平仮名か片仮名を付けることが望ましい」のように、日本語コンテンツに即した規定を追加した点にも注目したい。

 視覚障碍者のための音声ブラウザに即した規定もある。「表現のために単語の途中にスペースや改行を入れてはならない」というのは、「荷風」の「荷」と「風」の間にスペース改行がはいると、音声ブラウザでは「ニ・カゼ」と読みあげられてしまい、永井荷風だとわからなくなるからである。また、健常者はタイトル(WWWブラウザでは最上部のバーに表示される)は通常見ていないので、「ページのタイトルには,利用者がページの内容を識別できる名称を付けなければならない」という規定は余計と感じるかもしれないが、音声ブラウザでは最初にタイトルが読みあげられるので、重要なポイントなのである。

 JIS素案は基本的には評価できるが、物足りない部分もある。マークアップ以外に踏みこむのであれば、盛りこむべき規定はもっとあると思うのだ。

 たとえば、URL変更によるリンク切れの問題である。健常者ならトップページにもどって目当てのコンテンツを探したり、Googleのキャッシュで読んだりが簡単にできるが、高齢者や障碍者には不可能ではないにしても、なかなかできることではない。URLを変更する場合は、新URLにリンクを張るか、自動的に飛ぶようにすべきだし、こうした配慮は健常者にとってもありがたい。

 その関連だが、政府関係サイトや公益団体のサイトでは個別ページへの直接リンクを禁止としているところがすくなくない。トップページから探せばいいというのは健常者本位の勝手な言い分であり、高齢者や障碍者にとっては大きなバリアとなっている。

 直接リンクを禁止する理由として、URL変更によるリンク切れの可能性をあげるサイトが多いが(たとえば「愛・地球博」。このサイトの管理者は小役人の典型であろう)、新URLへリンクを張るぐらい1〜2分でできるはずで、理由になどならない。

 また、JIS素案には「フォントを指定する場合には,サイズおよび書体を考慮し読みやすいフォントを使用することが望ましい」という規定があるが、それを言うのなら、PDFとHTMLの併用にも言及すべきだろう。

 官公庁や公益団体のサイトでは、PDFでしか公開していないコンテンツが異常に多い(PDFは小役人根性に訴えるものがあるらしい)。PDFは紙に打ちだすことを前提とした形式であり、「フォントを指定する場合には,サイズおよび書体を考慮し読みやすいフォントを使用することが望ましい」という規定にまっこうから反している。

 PDFは高齢者や障碍者だけでなく、健常者にとっても読みにくい。もちろん、音声ブラウザではお手上げである。

 PDFを禁止しろとまでは言わないが(本音としては禁止してほしい)、PDF版と同時にHTML版を公開すべしという規定は絶対に必要だと思う。HTML版からPDF版を作るのはきわめて簡単なので(30秒もあれば十分)、行革にも反しない。

 残念なことに、WWWコンテンツのアクセシビリティの指針を定めるはずの今回の公開レビューは、PDF版がメインで、肝心のJIS素案はtxt版とMS Word版も併載されているものの、HTML版(XML版)はない。JIS素案の内容は大部分がHTML(XML)のマークアップにかかわるものなのに、HTML版(XML版)がないのは不可解というしかないし、「情報バリアフリー」のための指針という規格の趣旨にも反するはずである。規格を作る前に、まず小役人根性克服のための指針を示すべきだろう。

Oct31

 Oct28でふれた元上祐ギャルの北朝鮮亡命も不可解だが、さらにわけのわからない事件が起きた。北朝鮮中央放送は30日、「日本エンタープライズ株式会社」の「サワダ・ヨシアキ」なる男が2週間前に麻薬密輸取引をくわだてた容疑で、北朝鮮当局の調査を受けていると報じたのだ。

 「日本エンタープライズ」という会社は6社、社名が酷似する会社が数社あるものの、そのいずれにも「サワダ・ヨシアキ」という人物は在籍していないという。ところが、広域暴力団の住吉会系加藤連合には同じ名前の組員がいて、10月10日に北京に出国し、まだ帰国していないことが判明した。組員は周囲に北朝鮮にはいるともらしていたことから、拘束されているのはその組員と見られている。

 北朝鮮が国策として阿片や覚醒剤を製造し、密輸していることは過去の摘発事件で明らかであり、一説によれば、国家予算の3倍にあたる600億円(5億ドル)を稼ぎ出しているといわれている。引きあげられた工作船の中からも、暴力団の番号を登録した携帯電話が発見されている。

 暴力団員が麻薬調達のために北朝鮮入りしたとしても不思議はないが、北朝鮮によると「サワダ・ヨシアキ」なる男は中国から麻薬を持ちこみ、万景峰で日本に送ろうとしたとしていたのだという。北朝鮮から密輸される麻薬は北朝鮮製ではないとでも言いたいのだろうか。

 ZAKZAKは日朝関係筋の次のようなコメントを紹介している。

「米日韓中露の思惑通りに事態が運んでいることに不快な北が、日本を叩く材料として、別件で拘束した男性に、普段なら見逃す麻薬取引の容疑を吹っかけ、対日交渉のカードにしようとしているのではないか」

 対日カードということになれば、元上祐ギャルの亡命騒動もマンガではすまなくなってくる。遊覧船から飛びこんで、北朝鮮に不法入国したのは8月半ばだそうだから、2ヶ月たっているわけだ。この時期に、元暴力団の男と前後して表に出してきたのは、窮地に追いこまれた北朝鮮が6者協議を対日カードで打開しようとしていると見た方がいいだろう。外交カードとしては筋が悪すぎるが、他にないということか。

 筋ワルの外交カードといえば、北朝鮮赤十字が「脱北者は日本が拉致」したとして、公式に説明求めたという記事もあった。ZAKZAKから引く。

 朝鮮中央通信によると、北朝鮮の朝鮮赤十字会中央委員会は20日、日本赤十字社に書簡を送り、北朝鮮を脱出、中国を経由し日本に移送された日本人妻と元在日朝鮮人は「日本の非政府組織(NGO)により誘拐、拉致された」と主張し、日本人妻らの所在地と事件の真相を詳しく知らせるよう求めた。

 麻薬事件もそうであるが、こんな出鱈目な言い分を誰が信じると思っているのか。イエスマンにばかり囲まれていると、聡明なる将軍様といえどもここまで痴呆化するのだろうか。

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