エディトリアル   September 2003

加藤弘一 Aug 2003までのエディトリアル
Oct 2003からのエディトリアル
Sep01

 日中韓三ヶ国はオープンソースOSをベースに共同でOSの開発にとりくむことになった。9月3日にプノンペンで開かれる日中韓経済貿易相会合で平沼赳夫経済産業大臣が提案して合意をえた後、ただちにソウルで局長級の会議を開いて枠組を決める。年内に連絡機関・関連団体を立ちあげ、数年後の実用化を目指すというタイムスケジュールである(日経asahi.com)。

 IT系ニュース・サイトはアメリカ中心になりがちなので、こうしたアジアの動向には対応が鈍いが、CNETが比較的よくフォローしていて、「アジア向けLinuxの開発でワーキンググループ発足」と、「アジアでのLinux開発、各国で温度差」は7月に結成された CE Linux Forumを紹介し、「日本政府は最近、2005年に予定されるITシステムの更新の際に、Linuxへの移行を検討していると発表した」と伝えている。「「情報家電にはWindowsよりLinux」と経済産業省」で紹介されている「e-Life戦略研究会」もこの流れか。

 オープンソース化といっているが、実質的には脱MSが狙いで、サーバーだけでなく、組みこみ系や携帯電話系もLinuxに切替ていこうということだろう。

追記:CNETの「NEC、2004年にLinuxベースの携帯電話を販売へ」によると、Linuxを搭載した携帯電話はすでにモトローラが台湾で販売をはじめているが、NECはモトローラ同様、MontaVista SoftwareのCE用Linuxを採用し、同社と協力しながらカーネルの改良を進めており、現在、Linuxベースのソフトウェアプラットフォームの試作段階にあるという。ライセンスについては、ソースコードをGPLの下で公開するだけでなく、NECが開発したプラットフォームのAPIも公開するとのこと。(Sep19 2003)

 OSをMSというかアメリカに握られていると、安全保障上の懸念がある上に、電機産業・コンピュータ産業の将来をアメリカの意向に左右されかねないからだ。WTOに加入して、海賊版撲滅に乗りださなければならなくなった中国にとっては、ライセンス料という差し迫った問題がある。「外国産ソフトウェアを締め出す中国政府」では、中国政府は次期更新の際は政府機関に国産ソフトウェアの使用を義務づけ、数年以内にMS Officeを一掃すると伝えている。「上海市の学校からマイクロソフトオフィスが消える」は、上海市の公立学校では9月1日にMS Officeから中国のソフトハウス、Kingsoft製のWPS Office 2003に切替えると伝える一方、MS Officeはあまりにも普及しているために、「WPSなどの国産ソフトウェアへの移行は段階的になるだろう」というIDC Chinaのコメントを紹介している。

 MS支配が揺らぐのは結構なことだが、昨年だったか、文字コード関係者から紅旗Linuxは表示関係で勝手な改変をおこなっているので、Linux普及の旗振りをしている事務機械会社が頭をかかえているという話を聞いたことがある。紅旗Linuxがその後どうなったかは知らないが、ペンギンが赤旗を振っているところを見ると、解決したのかもしれない。ただ、今回の話のように、東アジア版Linuxを作るとなると、本家Linuxとの関係が問題になる局面が出てこないとはいえないだろう。

 経済産業省のプロジェクトとは別に、総務省(旧自治省系ではなく旧郵政省系だとか)「セキュアOSに関する調査研究会」を立ちあげている。

 第一回会合の議事要旨を見ると、オープンソースにはライセンス上の問題があるので、飛びつかない方がいいという話が主で、Linuxとは別の非Windows系OSを普及させようという方向がうかがえる。

Sep02

 TVのニュースではとりあげていないようだが、Mainichi INTERACTIVEに「中国:北朝鮮国境の警備強化 正規軍10万人以上 」という記事が載っている。

追記:3日夜、東亜日報日本版に「中国軍15万人を北朝鮮国境に極秘投入」、朝鮮日報日本版に「中国、中朝国境に15万兵力を緊急配備」という記事が出た。

 内容はいずれも香港の有力紙「星島日報」の9月3日付の記事の紹介という形をとっており、独自のコメントはない。両紙の要約をみた限りでは「星島日報」の記事は毎日新聞とほぼ同一内容のようである。(Sep04 2003)

 これまで中国は中朝国境を特別あつかいし、軍隊ではなく武装警察に警備させていたが、6者協議直前の8月下旬から野戦軍3個軍団(10〜15万人)を配備したというのだ。野戦軍といえば戦車や砲兵部隊を擁した実戦部隊である。脱北者の取締には向いていない。軍事的威嚇ととるのが普通だろう。

 記事はアメリカが万一北朝鮮を攻撃した場合、国境を封鎖して難民をいれないためという見方を紹介しているが、不可侵宣言を出してもいいと表明しているアメリカが近い将来、6者協議を打ち切り、軍事オプションに走るとは考えにくい。そこで、6者協議に向けて北朝鮮を牽制しようとしたのではないかという見方が出てくる。

 韓国政府関係者は「中国は、核問題の平和解決に失敗したら、援軍を送るのではなく、国境を封鎖するという構えを北朝鮮に見せようとしているのではないか。そうすることで、北朝鮮から前向きの対応を引き出そうとしているようだ」という見方を示した。

 だが、牽制説は、野戦軍を国境地帯に待機させるなどという物騒なことをする理由としては、弱すぎるような気がする。

 と思っていたところ、軍事評論家の神浦元彰氏が、SARS再流行とからめて、意外な謎解きをしていた。9月2日の項から引く。

 もし中国のSARSが北朝鮮に入って感染が広がり、それが中朝国境を通じて大量難民で逆流すれば、中国は未曾有の大打撃を受けることになる。北朝鮮の情報閉鎖社会、体力の衰えた国民、壊滅的な医療施設、絶対的に不足している医薬品、これで北朝鮮はSRASの感染拡大を防止することはできない。この冬にも再び中国でSRASが発生することが予測されている。胡錦濤主席の対朝鮮政策転換はSRASによって一気に早まった。

 中国は今春のSARS流行で、経済的にも、威信的にも大きな打撃を受けた。人民网によると、北京に600〜800床の伝染病専門病院を急遽建設することにしたそうで、相当神経質になっていると思われる。

 SARSが北朝鮮にはいったら大流行するのは確実で、中国が国境を封鎖するのは確実だろう。金正日政権が崩壊するかもしれず、中国軍が北朝鮮領内にはいって治安占領するかもしれない。

 一時、態度軟化かとみられていた北朝鮮はここに来てまた攻撃的なプロパガンダを再開している。日本は核武装の口実がほしいので、解決済みの拉致を持ちだして6者協議を妨害したのだそうだが(苦笑)、断末魔の叫びとしか思えない。実際、内部では鉄の規律の崩壊がはじまっているらしい。

 朝鮮日報日本版の「北で韓米の映画が大人気」によると、「『タイタニック』や『マトリックス』などのハリウッド映画や、『秋の童話』、『冬の恋歌』など韓国の人気テレビドラマが時期は遅れているものの、北朝鮮でも同じように流行っている」が、それはビデオデッキの普及率があがっているためだという。

 志操堅固な核心階層ですら白米は一日一回しか食べられなくなっていると伝えられているのに、ビデオが普及しつつあるとは意外だが、昨年7月の経済改革で新しい状況が生まれているというのだ。記事から引く。

 食糧難以降、商売が一般化したことから巨額を手にする人が増えた上、DVDプレーヤーの登場で人気の落ちたVTRが比較的安値で北朝鮮に搬入されていることから、中流家庭にも普及されるようになったのだ。……中略……

 ビデオテープはこれといった文化生活のない北朝鮮住民らにとって、外部世界の情報と密かな楽しみを与えているため、需要は爆発的に増えているという。そのため、商人たちは相当のリスクを甘受してでも、高い収益が保障されるビデオテープ商売に関わっているという。

 ビデオテープの人気が高まると、新義州(シンイジュ)、C津(チョンジン)、咸興(ハムフン)、元山(ウォンサン)など大都市では、民間人が一般家庭を改造し、信頼できる人だけを集めてビデオテープを上映する商売行為まで横行していると、人民保安省(警察)出身の某脱北者は伝えた。

 この報道は二つの点で興味深い。第一は経済改革によって貧富の格差が著しく拡大し、ビデオを楽しめるような勝ち組が生まれていること。第二に、これまで将軍様と側近だけが触れることのできた、堕落した資本主義文化に、勝ち組新富裕層が接しはじめたこと。ビデオ上映会が商売になっているとすると、裾野は新興富裕層以外にも広がっているだろう。

 日本政府は米ではなく、ビデオデッキとアダルト・ビデオを援助物資として送ったらいい。東欧社会主義はTVによってつぶれたといわれているが、北朝鮮はビデオによってつぶれることになるかもしれない。

Sep03

 MSBlastの亜種を作った学生が相次いで逮捕されている(ZDnetの「「MSBlast亜種作成」で18歳少年逮捕」、ZDnetの「「MSBlast.F」作成でルーマニアの大学生逮捕」)。

 二人ともソースに自分のニックネームとメッセージ(Bのパーソンズ被告はビル・ゲイツの悪口、Fのチオバヌ容疑者は教師の悪口)を残していたことが、身元を特定する手がかりとなった。

 わざわざ手がかりを残すくらいだから、二人ともコンピュータにたいして詳しいわけではなく、何らかの形でMSBlastのソースを入手し、若干の改変をくわえてネットに流したと見られている。オリジナルを作った犯人はもっと利口で、まだつかまっていない。

 パーソンズ被告は体重145キロの肥満体だったために、アメリカのメディアではデブでネクラのオタクと攻撃されたようである。「MSBlast.Bの少年、「見せしめ」逮捕と「孤独なオタク」報道に反発」によると、被告はNBCのニュース番組のインタビューに顔を出さない条件で応じ、「一連の事件の犯人として、とにかく誰かを逮捕する必要があったのだと思う。僕はその対象としてふさわしくないのに」と不満を語ったという。

 「僕についての描写には傷付いた。僕は暗くないし、自分の体重を気にしているわけでもない。社会に順応できない人間じゃない」とも訴えたそうだが、馬鹿としか言いようがない。こんなチンピラでも全世界で何十万台も感染させたワーム騒動の片棒を担げたわけである。有罪が確定した場合、最長10年の禁固刑と25万ドルの罰金が課せられるというが、当然であろう。

 イラク戦争で捕虜になり、「奇跡の救出劇」で病院から救出されたジェシカ・リンチ嬢が契約金100万ドルで自伝を出すことになったという(ZAKZAK)。

 19歳の美人の上に、銃撃戦で負傷し、イラク当局によって拷問されたと報道されたことで全米の同情を集め、救出劇直後、ブッシュ大統領の支持率が10ポイントも上昇するというジェシカ効果を生んだ。その後、負傷はアメリカ軍の車両どうしの衝突によるもので、イラク軍に捕虜になってからは病院で手厚く看護されていたことがわかるなど、アメリカ軍の情報操作が問題になった。救出後の記者会見では「記憶喪失」で逃げたが、自伝ではそれではすまないだろう。

 情報操作の関連で、jessicalynch.comというドメイン名が捕虜になる前の3月7日時点で取得されていたという誤報が流れ、これこそヤラセの証拠と話題になったことがある。

 その後、このドメインはアトランタ在住のピーター・リンチ氏が、2000年4月28日に、妻のジェシカさんのメールアドレス用に取得したものとわかった。techlawadvisor.comによると、ピーター・リンチ氏のもとには6千通もの嫌がらせメールと、ドメインを買いたいというメールが殺到したそうだ。「阪神優勝」の商標登録の場合と違って、予想もしない同姓同名の悲劇だから、ちょっと気の毒である。

Sep04

 9月9日の建国式典を前に、万景峰号が来航した(Mainichi INTERACTIVE)。TVで映していたが、甲板にBOSEのスピーカーとドラムセットを設置して、着飾ったバンドが拉致被害者家族会&救う会の声をかき消す大音量で北朝鮮の曲を演奏していた。どこまでも厚かましい国である。

 「諸君」10月号が「拉致は続いている」として、北朝鮮問題を特集している。記事も座談会もいい加減マンネリになってきたが、それでも何本かは新しい切口から切りこんでいて、この問題の根深さを教えてくれる。

 一番おもしろかったのは小倉紀藏&関川夏央の対談「「理」と「気」の怒りで、金日正に百叩きを」で、朱子学という解読格子によって北朝鮮独特の思考法と、韓国が北朝鮮に対して示す熱狂と無関心のメカニズムを手品のように解きあかしている。小倉氏は『韓国は一個の哲学である』(必読!)で韓国が今もって朱子学に雁字搦めになった国であることを鮮かに分析してみせたが、北朝鮮は韓国以上に朱子学が貫徹していて、スターリン型の独裁体制とは別物らしいのだ。

 「西尾幹二のインターネット日録」の8月12日の項に、熊本でおこなわれた『「親日派」のための弁明』の著者、金完燮氏との鼎談「日韓歴史大討論」が掲載されているが、金氏の次の発言は主体思想=朱子学という観点から見ると重要である。

金完燮:北はフセインの独裁体制とは違う。むかしの李朝においても国王にできることは少なく、国王は必ずしも独裁者ではなかった。同様に金正日も自分にできることは少ない。金は合理的な人で、自分勝手に人を殺す独裁者ではない。北は討論している国、話し合いをしている国である。言論の自由がないのでテーマは限られているが、軍などの内部で話し合いは行われている。脱北者の共通点は、韓国人よりも弁が立つことだ。多くの人のいる前で、論理的に正しく話すのがうまい。権力上層部も討論がなされることを好んでいる。北の政治は日本人が今思っているような非理性的なイメージとは違う。

 これに触発された「北の狼」氏は、掲示板で李朝最後の国王高宗と金正日を比較し、両者が「徹底的に討論・議論をさせるという手法」で共通していると指摘して、北の粘り腰の秘密を次のように分析している(「日録」の8月12日の項から孫引する)。

先の日本海沖の「不審船」の自爆、かつての潜水艇で韓国に潜入した連中の闘いぶり等をみると、北朝鮮軍人の忠誠心はかなり高いといっていいでしょう。これは独裁政治や恐怖政治といった外的圧力のみでは到底説明がつくものではなく、精神的要素が強いであろうと思ってはいましたが、議論や討論を極めるという手法が忠誠心涵養の大きなファクターとなっているのかもしれません。

 この発言は前から気なっていたのであるが、小倉氏の指摘とあわせると、俄然深い意味をもってくる。

 こうなると、いよいよ注目すべきは主体思想=北朝鮮流朱子学を作りあげた黄長燁氏の発言である。Jun20で黄氏の武力を使わずに金正日体制を崩壊させる方法を紹介したが、北をつぶすには核問題ではなく道徳問題を攻めろという黄氏の提案は小倉氏も評価している。

 「カルトウォッチャープロ2ちゃんねらー」と名乗る中宮崇氏の「天晴れ!? 筑紫哲也「反日親朝」報道全記録」もおもしろい。ネットの評判を織りまぜながら、News23の嘘を軽いフットワークでいなしている。最近、「諸君」はオヤジ雑誌とは思えないくらい正確なネット情報を載せているが、この人か、この人の周辺が情報源なのだろうか。

 特集からはずれるが、西岡力氏の「覆面をとった「T・K生」恥知らずの良心」もお勧めである。池明観氏が「T・K生」だと名乗り出てから、「T・K生」の活動が再評価されるような妙なことになっているが、実際はトンデモ本にすぎなかったことを論証している。このくらいの知識は韓国・北朝鮮問題を考える上での基礎知識として知っておきたい。

Sep05

 朝鮮日報日本版に北朝鮮の耀徳政治犯収容所の衛星写真が掲載されている(ここの完全統制区域には金賢姫の家族がいれられているらしい)。この写真は6日に東京で開かれる「北朝鮮の民主化と政治犯収容所の解体を促す韓日連帯会議」で米国人権委員会が公開するということなので、これからTVで流れるだろう。

追記:6日付asahi.comに「連帯会議」の記事が載った。「北朝鮮の政治犯収容所の解体訴え 亡命脱北者ら20人」では「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」の招きで韓国のNGO「北韓民主化のための政治犯収容所解体運動本部」のメンバー20名が来日したことを、「「鉄条網に高圧電流」 脱北者ら収容所の過酷さ訴える」では収容所を経験した姜哲煥らの証言の概略を伝えている。収容者には「身に覚えのないスパイ罪を着せられた在日の人が多かった」そうである。

 asahi.comには「北朝鮮科学者、駆け込み亡命に失敗 中国・広州」という記事も出ている。この科学者は生物兵器の研究・開発に従事していて、「北朝鮮の生物化学兵器について大量の証拠を持っており、米国で証言する意思があった」という。 『私が見た北朝鮮核工場の真実』の著者の金大虎氏は核施設で働いていたといっても、研究者ではなく、兵士あがりの作業員にすぎなかったが、今回は正真正銘の科学者のようである。こういう立場のエリートまで、亡命を図るようになってしまったのである。(Sep06 2003)

 収容所で警備隊員をしていた安明哲氏が『北朝鮮絶望収容所』とそのイラスト版『図説 北朝鮮絶望収容所』を出していて、どちらも邦訳されている。詳しくは読書ファイルに書くが、収容者を生かしておいて、できるだけ生き地獄を味あわせることを目的にシステムが作られているだけに、殺すことを目的にしたナチスの収容所よりもおぞましい。

 生きて出られない完全統制区域には失脚した党幹部や政府高官の家族が収容されることが多く、育ちのいい美人がすくなくないという。韓国は美女応援団で浮かれていたが、彼女たちだって、なにか失敗をしたり、本人でなくても父親が失脚したら、収容所にいれられ、警備隊員の慰み者にされるだろう。美女応援団は単なる横断幕を見咎め、将軍様の御真影が雨ざらしになっていると泣き叫んでいたが、必死にならざるをえない理由があるのだ。

 神浦元彰氏のJ-r.comによると、9月9日の北朝鮮建国55周年記念式典には久々に軍事パレードがおこなわれる可能性があるという。東亜日報日本版の「長引く雨で明暗の分かれる業界」によると、今年は朝鮮半島も冷夏にみまわれ、6月から8月までの92日間にソウルで雨の降った日は50日、日照量は146%減だそうである。北朝鮮も不作は間違いなく、軍事パレードどころではないだろう。これでSARSが襲ったら、どうなるのか。

 どうでもいいが、「偉大なる白頭山光明星金正日将軍様度チェック」というテストを見つけた。高い点数が出ても、喜ぶ人はあまりいないだろうが。

Sep06

 音楽を1曲99セントでダウンロードできるAppleのiTunesが好調で、音楽のオンライン販売に参入しようという企業があいついでいる。「オンライン配信の台頭で、 音楽CDは消滅の運命をたどる?」というような強気の観測まであらわれていが、そう簡単にはいかないかもしれない。

 飽きたり、好みにあわなかったりで、聞かなくなったCDは誰しももっているだろう。これまでは死蔵することが多かったが、中古CD店やオークション・サイトが一般化したおかげで、転売する人が増えている。

 正規に料金を払ってダウンロードした曲も、聞かなくなったら転売したいと思う人が出てきても不思議はない。ところが、現在のアメリカの著作権法ではそれができないのだそうである。

 ZDnetの「ダウンロード購入した音楽の転売は“アリ”か?」によると、ちゃんとお金を払って買ったのに、転売できないのはおかしいと考えたWeb開発者ホテリング氏が、9月2日にiTunesで購入した曲をeBayに出品したという。

 iTunesは1曲99セントだが、ホテリング氏は問題提起が目的なので、差額は電子フロンティア財団に寄付すると表明していた。ホテリング氏の問題提起は関心を集め、1万5千ドルを超える値段がついた。

 ところが、eBay側は4日に規約に違反しているとして、一方的にオークションを打ちきってしまった(ZDnetの「ダウンロード音楽のオークションが中止に」とCNETの「「ちょっと待った」:米イーベイ、「中古」音楽ファイルのオークションを取り消し」)。eBayは手続論で著作権問題を逃げたにひとしく、ホテリング氏はオークションの再開を望んでいるという。

 もし転売ができないとすると、電子データの所有権は財物の所有権とはべつものということになる。CNETの次の指摘は意味深長である。

 今年4月のiTunes Store立ち上げの際、Appleの最高経営責任者(CEO)Steve Jobsは、顧客は音楽をレンタルするよりも所有することを望んでいると宣言した。しかし、再販制限が強制力を持つようになった場合には、iTunes Storeによる音楽の販売が所有モデルよりもレンタルモデルに近づくことを意味する。
 Appleはこの問題に関するコメントを控えている。

 これは電子データを所有するとはどういうことかという根本問題にかかわるのはもちろん、電子書籍や映画の転売という実際問題にも波及するので、今後、本格的な論議となるだろう。

追記:AppleはiTuneで販売した曲の転売は技術的に不可能としてきたが、ZDNetの「ダウンロード楽曲の転売、ついに成功」によると、上記のホテリング氏は転売に成功したと発表したいう。

 「普通のユーザーにはこのプロセスは極めて難しい」そうだが、転売希望者が増えれば、簡単にできるようなツールが開発されるのが世の常である。(Oct11 2003)

 北野武監督の『座頭市』がヴェネツィア映画祭で「オープン2003年特別賞」につづき、監督賞にあたる銀獅子賞を受賞した(Mainichi INTERACTIVE)。日本では今日公開だが、深夜まで満席の盛況だという。めでたいことだ。

Sep07

 黄長燁氏にようやく韓国政府の出国許可がおりた。10月下旬にも訪米が実現するらしいが、朝鮮日報日本版に黄氏のインタビューが載っている。

 内容的には新味はないが、どんな本を読んでいるかという質問に「昔話」と答えているのが目を引いた。

「韓国の伝来童話(昔話)を読んでいる。新しい童話は面白みがなくて読めない。(1997年2月12日の亡命直後に)北京の韓国領事館にいた頃、15冊の韓国の伝来童話集を貰ったことがあるが、今でもよく読み返している。“孝”と“忠誠”に関するものが主な内容だ」

小倉紀藏氏の指摘するように、この人は良くも悪くも儒者なのである。

 Sep02で紹介したスクープにつづいて、Mainichi INTERACTIVEにまた驚くべき記事が載った。ロシアは沿海地方のバラバシュ地区で、北朝鮮難民が大量に流入した場合を想定した演習をやっていたというのだ(「ロシア軍:北朝鮮難民脱出想定の訓練実施」)。

 ロシアは自国内に逃げこんでくる難民を10〜20万と想定し、演習では「放射線の被ばく検査や細菌などの被害を予想した訓練」までおこなっていた。米軍の攻撃で、核施設や生物兵器の保管庫が破壊された場合を想定しているのだろうか。なんともきな臭い話である。

 常識的に考えれば、ロシアは先日の6者協議に向けて、金正日に脅しをかけたと受けとるところだが、軍事評論家の神浦元彰氏はSARSとの関連で、次のように読みといている(9月7日の項)。

 この写真を公開したのは、ロシアが北朝鮮に圧力をかけるためと、もうひとつの目的が隠されている。それはロシアが中国と同様に、北朝鮮のSARS感染者が難民としてロシアに流入してくることへの警戒準備である。核兵器や生物・化学兵器の汚染ではない。あくまでもっとも警戒しているのは、北朝鮮からのSARS感染者の流入である。

 SARS再流行は時間の問題とされている以上、神浦説はきわめて説得力がある。むしろ、神浦氏以外の識者やマスコミが北朝鮮にSARSがはいる可能性に触れないことの方が不思議である。

 北朝鮮は1996〜1998の3年間に300万人以上の餓死者を出したといわれている。今年はSep05でふれたように、朝鮮半島も冷夏に見舞われており、深刻な食糧難が懸念されている。そこにSARSが襲ったらどういうことになるのか。SARSは年齢の高い患者ほど死亡率が高くなるが(65歳以上では50%!)、慢性的な栄養失調に悩まされている北朝鮮国民は、実際の年齢よりも体力が落ちていると考えられる。医療システムは崩壊しており、医薬品はおろか、感染を防ぐマスクすら十分にはないだろう。短期間に100万人単位の死者が出たとしてもおかしくないし、そうなれば、軍や党幹部がまっさきに逃げだし、金正日体制は崩壊する。

Sep08

 NHK特集「バーミアン 大仏はなぜ破壊されたのか」を再放送で見た。

 大仏破壊で、タリバンは狂信者の集まりのようなイメージが出来上がってしまったが、実際はタリバン内部でも反対があった。番組では破壊阻止に動いたホタキ元情報文化省次官の証言を軸に、タリバン政権がビンラディンの影響で変質していき、大仏破壊に突っ走るまでの権力闘争をホタキ元次官の視点から描いていた。

 大仏破壊を主張したのは1996年に設立された勧善懲悪省だった。すごい名称だが、タリバンの蛮行とされる施策の多くはここのしわざである。1997年、勧善懲悪省に近い人間がバーミヤンの現地司令官になり、国土浄化(!)のために大仏に大砲を撃ちこんで、下腹部に穴をあけるという挙におよんだ。

 ホタキ元次官は、オマル師側近で国際派のムタワキル氏にオマル師に直訴してもらい、この時は大仏を保護せよという命令が出て難をのがれた。

 ところが、この頃からビンラディン氏がしだいに影響力を強めはじめる。

 タリバンのメンバーは田舎出の純朴な青年ばかりだったので、イエメンを追われ、アフガニスタンに保護を求めてきたビンラディン氏が国際的に有名なテロリストであることを知らず、当初は誰も敬意をはらっていなかったという。タリバンと接触していた国連の日本人職員の証言だから確かだと思うが、ビンラディン氏は1980年代にソ連に対するジハードで、アフガニスタンで勇名をはせたはずなのに、タリバンは知らなかったことになる。タリバンは南のカンダハルが本拠だから、そういうこともあるのかもしれないが、だとしたら、相当な無知である。

 ともかく、ビンラディン氏は日本製の四輪駆動車を何十台も寄付したり、オマル師に高価な品物をプレゼントしたりして、政権内部に食いいっていった(パキスタンの元内相は、清貧だったオマル師はどんどん贅沢になっていったと語っている)。ビンラディン氏はオマル師の保護のもと、アルカイダのキャンプを作り、イスラム圏諸国から若者を集めて軍事訓練をほどこして、自前の兵力を育てていく。自前の兵力ができれば、当然、発言力が大きくなる。

 ビンラディン氏はアメリカを標的にしたテロを計画する一方、勧善懲悪省と連携し、タリバンをイスラム原理主義に染めていく。一方、国際派のムタワキル氏は外相に抜擢され、カブールに移る。表面的には昇進だが、カンダハルで政務をとるオマル師の身辺から引きはなされたわけで、事実上の左遷である。

 この頃、ホタキ元次官はタリバン高官をアメリカに招くアメリカ政府のプロジェクトで渡米し、博物館を見学してまわる。帰国したホタキ元次官は勧善懲悪省の反対を押し切って、カブール美術館で仏像展を開く。開会式には各地のタリバン幹部を招いたところ、幹部の多くははじめて見る仏像に感激したという。

 仏像展がなまじ成功したために、勧善懲悪省はバーミヤンの大仏破壊を蒸し返す。世界に対するメッセージに使えるとみたビンラディン氏は大仏破壊を支持し、オマル氏は破壊の命令書を出してしまう。

 外相となったムタワキル氏は、大仏破壊を阻止するために、イスラム圏諸国からイスラム法の権威を招き、偶像破壊の解釈をめぐってタリバンのイスラム法学者と論争させた。田舎者で学問レベルの低いタリバンの法学者は完全に論破されるが、この頃にはオマル師の身辺はアルカイダ兵が固めており、アフガニスタン人しか出席できないはずの最高評議会にビンラディン氏が出席するようなありさまで、大仏破壊の決定をくつがえすことはできなかった。

 大仏破壊の論争で決定的だったのは、「先進国はアフガニスタン人が飢えても無視したが、たかが石の固まりを壊すといっただけで大騒ぎをはじめた」という勧善懲悪省の主張だったという。

 ホタキ元次官は大仏破壊の責任の半分は西側先進国にあると言い切った。西側先進国はソ連軍が駐留している間は援助したが、撤退した後は無視した。そこに手をさしのべたのがアルカイダだった。もし、西側先進国が引きつづき援助していれば、タリバン内部で国際派の発言力が大きくなり、大仏破壊を阻止できたろうというのだ。

 無知で純朴な田舎者集団が海千山千の国際テロリストに騙され、やむなく蛮行に加担してしまった……ということをホタキ元次官は言いたいわけだが、確かに援助をつづけていれば、アルカイダに牛耳られるようなことはなかったかもしれないし、戦争でつぶすよりは犠牲がすくなかったろう。しかし、諸悪の根源である勧善懲悪省はタリバンのアイデンティティに結びついており、国際派の影響力が大きくなればなったで、過激な行動に走ったのではないか。援助で解決できるような単純な問題ではなかったと思うのだ。

 人民网日本版に「618メートルの仏画を展示 拉薩」という記事が載った。ギネス公認の仏画を作って、チベット人を懐柔しようということだろう。

 「erⅧ」でマーク・グリーンが逝った。前回、ハワイからFAXでERスタッフにお別れメッセージが届き、各人各様の反応を描いたが、今回は亡くなる場面である。発作を一回起こしただけで安らかに旅立ったが、あれほど延命拒否問題でつっぱっておきながら、自分が死ぬとなると延命どころか治療まで拒否するのだから、医者は勝手である。

 今回のシリーズではベントンとクレオも去ってしまった。マイケル・クライトンの分身という位置づけのカーターは別格として、残っているのはケリーとロマノくらいか。憎まれっ子世にはばかるというやつだろう。

Sep09

 レニ・リーフェンシュタールが亡くなった(Mainichi INTERACTIVE)。101歳だった。このくらいの年齢だと、まだ生きていたのかと思うところだが、彼女の場合は昨年、「ワンダー・アンダー・ウォーター 原色の海」を公開したばかりで(シネセゾン渋谷で上映中)、まだまだ活躍できたのにという思いが残る。

 1991年に文化村でリーフェンシュタール展があり、アフリカと海中という異世界をとらえた色彩の渦に圧倒された。あわせてル・シネマで特集上映がおこなわれ、「青の光」のような劇映画も見ることができたが、作り物は不得意らしく、退屈だった。この人は本質的にドキュメンタリー作家だったのだと思う。

 ナチス党大会とベルリン・オリンピックを記録した映画があまりにもすばらしかったために、ナチスに加担したと批判され、ヒトラーの愛人という噂までたち、戦後は不遇だった。活動の場を奪われただけでなく、訴訟を次々と起こされ、裁判に時間をとられたのだ。101歳まで旺盛な活動が持続できたのは、働き盛りに仕事ができなかったという挫折感が発条になっていたかもしれない。

 リーフェンシュタール展のすこし前だったか、ポーランドが製作した「金日成のパレード」が公開され、話題になった。北朝鮮全盛期の軍事パレードとマスゲームを記録したドキュメンタリー映画で、物量と人を投入した行事がこれでもか、これでもかと映しだされていた。「意志の勝利」と比較する人もいたけれども、悪い冗談である。リーフェンシュタールの荘厳な映像美は圧倒的で、ナチスに批判的な人間ですらくらくらしてしまうが、「金日成のパレード」はむしろ金日成神格化をからかっているような印象があった。

 当時、ポーランドは北朝鮮の友好国だったが、パロディ的な視点から撮ったのだろうと思った。だが、資料によると、実は撮影には北朝鮮当局者がつきっきりで立ちあい、カメラアングルまで細かく指定するなど、北朝鮮の意向通りに撮影したということだった。あの映像は外部の人間からみるとパロディだったが、北朝鮮当局者にとっては大真面目だったのである。

 「金日成のパレード」はビデオ化されているが、ずっと品切らしい。「意志の勝利」もビデオはなく、「レニ」というDVDに一部がはいっているだけらしい。圧力でもあるのだろうか。

追記:「意志の勝利」のビデオについては北米版が入手可能なことがわかった。Sep10参照。

 北朝鮮では今日、建国55周年記念式典がおこなわれ、TVで映像が流れた。兵隊の行進はおこなわれたものの、戦車やミサイルは登場せず、一部で噂されていた新型ミサイルのお披露目も核保有宣言もなかった。もうあの国には「金日成のパレード」のような大掛かりな式典を開催する力はないのだ。

 マスコミはTVも新聞も、不発に終わった北朝鮮建国式典よりも、野中元幹事長の引退宣言を大きくとりあげた。「政界引退:野中氏、反小泉が「最後の狙撃」に 」というような大見出しがついているが、統一候補はおろか橋本派すらまとめられなかった負け犬ではないか。こんなに騒ぐ必要があるのだろうか。

 小泉首相が党の意向を無視していることに対して、議院内閣制に反するとか独裁者だとか言っているが、党が政府を支配するのは社会主義であって、議院内閣制ではない。自民党はいい加減社会主義を捨てるべきだ。

Sep10

 永田町では野中元幹事長の引退宣言の余震がつづいているそうだが、なぜ大騒ぎするのか、ZAKZAKの「引退・野中「醜聞ブチまけ」青木と刺し違え」でわかった。醜聞暴露を恐れているのだ。「野中氏は周辺に「もろもろブチまけてやる!」と怒声を張り上げた」そうだが、利権のドンだけに、このタンカは凄みがある。せっかくだから、この際、自民党から社民党まで、脛に傷もつ議員をまるごと道ずれにしてほしい。

追記:有田芳生氏が「酔醒漫録漫録」9月10日の項で野中元幹事長との個人的な思い出について書いている。野中氏は1983年の衆院補選で国政デビューをはたしたが、この選挙で、共産党候補として、最後の最後まで競り合ったのが有田氏の御父君だったのだ(NHKがフライングで有田当確を出したほどだったという)。

 平壌コネクションで顰蹙をかっている田中均外務審議官の自宅に爆発物がしかけられているのが発見された(ZAKZAK)。「ケンコクギユウグン」を名乗る男の電話で発覚したことから、朝鮮総連関連施設で起きた一連の爆発物放置事件(一度も爆発していない)と同一犯人だろうと見られている。テロを決意するほどの犯人が、爆弾をしかけましたよとわざわざ報道機関に電話してくるのは不思議な気がする。

 東京都はこれまで免税あつかいだった朝鮮総連施設を課税対象としたが、同様の動きは全国に拡がっている。東京では税金未納を理由に総連本部などが差し押さえられたが、茨城県北支部では日立市に納税したという(ZAKZAK)。もはや一枚岩ではないということか。

 北朝鮮の建国55周年軍事パレードが予想外に貧弱だったことについて、「アメリカを刺激しないため」とか「北朝鮮の柔軟姿勢のあらわれ」という解釈がほとんどだが、神浦元彰氏は9月10日の項で「軍事常識では、軍事パレードに車両部隊や航空機が登場しても軍事的な刺激にはならない」と指摘し、「この軍事パレードに車両や航空機が登場しなかったのは、あくまでも燃料や部品が不足し、参加させたくとも出来なかったと分析するのが筋である」と、北朝鮮軟化説を一刀両断にしている。同感である。

 元は日経だが、東亜日報日本版に「北朝鮮、ロシアに6者国協議開催を要請していた」という興味深い記事が載っている。北朝鮮は6者協議の一ヶ月前、ロシアで開催してくれるよう頼みこんだが、プーチン大統領は「中国が平和的な解決に向けて努力しているだけに、協議は北京で開かれて当然だ。ロシアが協議を開催して、中国との関係を傷つけることはできない」と拒否したというのだ。後でこの事実を知った中国が激怒したのは言うまでもない。

 北京の外交筋は、北朝鮮がロシアに同協議への参加と開催を提案したのは、米国をけん制しようとする意図のほかにも、中国が多国協議を通じて北朝鮮を包囲し、核放棄への圧力を加える米国の戦略に同調していることに対して、反発の意思を示したものと分析している。

 北朝鮮と中国の関係はきわどいところにきているのだ。Sep02でとりあげた中国正規軍の中朝国境への展開は、これが一因だったかもしれない。

 昨日、「意志の勝利」はビデオが出ていないと書いたところ、読者の方から、北米版の「Triumph of the Will」が日本のAmazonから入手可能との情報をいただいた(→ DVDファイル)。

Sep11

 電子書籍ビジネスコンソーシアムが10月1日に発足することになり、昨日、記者会見が大々的におこなわれた(Mainichi INTERACTIVE)。代表発起人が東芝、松下、イーブックジャパン・イニシアティブ、勁草書房(!)、発起人が19社、会員には出版社、印刷会社、大手書店など百社以上が参加する見こみという。

 バスに乗り遅れまいと必死になっているようだが、発端となった松下のΣbookの詳細がCNETの「「書店でしか販売しない」、松下電器の電子書籍」に載っている。

 ハード、コンテンツとも書店ルート以外には流さないと明言しているのも驚きだが、もっと驚いたのは、Σbook版電子書籍はテキストではなく画像データで提供されるということだ。

 世界中の文字を表示可能にするために、ΣBookの画面の表示にはフォントを使わず、全てイメージを利用する。文字検索ができないというデメリットがあるが、早川氏は「我々は本を開発した。本に検索機能はない。だから、ΣBookにも検索機能はつかない」と意に介さない。「機能はいくらでもつけることができるが、その分操作は難しくなる。松下ではノンPCで世界を作ろうという考え方があり、マニュアルなしで誰でも使えるものを作っていく」(早川氏)と、松下電器の伝統を受け継いだ製品であることも強調した。

 これはテキスト処理機能そのものをもっていないということなのだろうか?

 電子手帳機能を一つの売りにするということだから、常識的に考えれば、テキスト処理機能はつくはずだが、以前、イーブックジャパン・イニシアティブの鈴木雄介氏にインタビューした際、キーボードや手書認識はオジサンには使いこなせないので、メモを画像として保存しておき、単純な操作で呼びだせるようにするという話が出た。Σbookは鈴木構想にきわめて近いから、テキスト処理機能がまったくないということもありそうだ。「松下電器の伝統を受け継いだ製品」というのは、松下幸之助の鶴の一声で、松下がパソコンから撤退したことを指しているのだろう。そのうち、インタビューをお願いしてみようか。

 ASCII24には立花隆氏のコメントが載っている。

 イメージベースで管理するこの電子書籍は、既存の書籍製造過程を変化させることなく、また既存の本も1回スキャンするだけで取り込めるため、過去の資産を有効に受け継ぐことができる。もともとは、中国が学校で配布する教科書を電子化しようとしたのが始まりで、マーケットはとてつもなく広い。

 そうだろうか? デジタル・デバイドに悩むオヤジが支持すれば、ヒットする可能性もないわけではないが、ただのオヤジが4万円払うだろうか。

 むしろ画像方式をとる本当の狙いは、漫画市場を意識してのことではないかと思う(これも鈴木構想の一部)。漫画市場を念頭におくと、以下の条は別の読み方ができる。

 「ΣBookは誰もが買う商品だとは思っていない。週に本を3〜4冊も買うようなヘビーユーザーがターゲットだ」(早川氏)。

 「ヘビーユーザー」の中核として皮算用されているのは、マンダラケで絶版漫画を買いあさるような人ではないのか。そういう人でなければ4万円もするハードは買わないだろう。

 書店ルート限定という戦略が成功するかどうかはわからないが(かなり懐疑的)、アメリカの大手書店、バーンズ&ノーブルは鳴り物入りではじめた電子書籍のネット販売を打ち切るという(CNET)。

 売上は「非常に少なかった」そうで、ディレクター兼シニアアナリストのリーザン氏は「電子書籍は長年、一気に普及すると言われてきた。しかし実は、技術がそこまで出来上がっていなかった」と語っている。

 書店つながりだが、デジタル万引に解決法が見つかりそうだ。CNETの「「プライバシーゾーン」でケータイのカメラ機能をブロックする」によると、発振機の電波の届く範囲内で、携帯電話内蔵カメラを自動的にオフにするシステムが開発されたという。携帯電話側に特別な改造は必要なく、アプレットをダウンロードするだけでいいそうだから、現実的な解決といえる。映画館や劇場で着信音を鳴らなくしたり、教室でメール機能が使えなくするような機能制限もできるというから、これからの携帯電話には標準装備を義務づけてほしい(制限を解除するアングラソフトがすぐに出てくるだろうが)。

Sep12

 なにかとお騒がせの北朝鮮関連で、またまた唖然とするニュースがはいってきた。金正日将軍様が来年2月16日の62歳の誕生日に引退し、三男の金正雲氏(母親は高英姫夫人)を三代目にすえるというのだ。政府・軍の高官は早くも「明星大将」様とお呼びしているそうな(ZAKZAK)。

 高英姫夫人が偶像化されはじめたことから、次男の金正哲氏が後継者になるのではといわれていたが、将軍様専属料理人だった藤本健二氏は「あれは女の子みたいでダメだ」と将軍様が言っていた、三男の方じゃないかと語っていた。代替わりが事実なら、藤本証言の正しさがあらためて裏づけられることになろう。

 金正雲氏は藤本氏によると先代将軍様に生き写しだそうだが、まだ十代らしいので、跡目を継いでも現将軍様が院政をしくと見られている(今は21世紀のはずだが……)。

 asahi.comに「「中国、北朝鮮に送油を停止し影響力行使」米国務次官補」という記事が載った。3月にパイプラインが「故障」して、北朝鮮への石油供給をストップした件に関し、中国には「北朝鮮に圧力をかける意図があった」ことをケリー次官補が公式に認めたというもの。この時期に蒸し返すのはなぜだろう。

 フジテレビで『完全再現!北朝鮮拉致…25年目の真実 消えた大スクープの謎!!』というドキュメンタリー・ドラマが放映された(産経Webに紹介記事)。

 拉致問題を世に知らせ、政府を動かすまでに世論を盛りあげたのは報道の力だが、このドラマは黙殺と圧力を受けながら、拉致を追いつづけた三人のジャーナリストを描いていて、事実の重さに圧倒された。

 拉致問題を最初に活字にしたのは産経新聞の阿部雅美記者の記事だった。

 地村さんの事件の直後、高岡市で拉致未遂事件が起こった。カップルが猿轡をかまされ、腕を縛られて袋づめにされるが、たまたま犬が激しく吠えたので、間一髪、拉致をまぬがれた。ゴム製の猿轡や人間一人がちょうどはいる袋、腕を縛るのに使われた縄など、遺留品が多数あり、被害者は「静カニシナサイ」という日本人にしては不自然な日本語を聞いていた上、事件直前に工作員とおぼしい男たちを目撃した人までいたにもかかわらず、なぜか捜査はおこなわれなかった。

 阿部記者の記事が出たのは事件の翌年の1979年のことで、遺留品のゴム製猿轡の生々しい写真が載っていた(粗悪な原料、雑な作りで、日本製ではありえないと業界関係者が証言)。正真正銘のスクープだったが、当時は虚報あつかいされ、産経新聞もそれ以上追求しなかった。

  最初はフジ産経グループの自画自賛ドラマかと疑っていたが、なぜあの時もっと追求しなかったのかという阿部記者と産経新聞社会部の苦い思いを出発点としており、自画自賛などではなかった。

 一度は埋もれたスクープだが、8年後の1986年、大韓航空機爆破事件で逮捕された金賢姫が日本から拉致されてきた「李恩惠」と呼ばれる女性から日本語を学んだと証言したことで注目されることになる。

 この時、日本共産党の議員秘書だった兵本達吉氏が動く(天敵関係の共産党議員秘書から電話を受けた阿部記者が眼を白黒させる場面は笑える)。兵本氏は爆弾質問の仕掛人として政界で知られた人だそうで、この時も被害者家族を訪ね歩いて北朝鮮の拉致という確証をつかむと、梶山静六国家公安委員長から「北朝鮮の拉致」という言葉を引きだした橋本敦参院議員の歴史的な質問の草稿をまとめた。

 兵本氏はその後も拉致問題を追いつづけるが、警察庁や天敵の産経の記者と頻繁に接触したことからスパイと疑われ、共産党を除名されることになる(黒坂真氏の「日本人拉致問題と日本共産党の見解の変遷」によると、北朝鮮を問題にすることに対する党上層部の反対もあったらしい)。

 阿部記者は韓国で死刑判決をくだされた辛光洙工作員の日本での活動をスクープするが、この記事をきっかけに第三の立て役者、朝日放送の石高健次氏が戦線に参加する。石高氏は韓国筋から13歳の拉致被害者がいるという情報をえて雑誌に記事を書くが、それが横田めぐみさんと判明し、拉致問題が世の注目を集めるようになる。家族会結成もこの三人の力が大きかったという。実名を出すと口封じに殺されるのではないかとしぶる家族を説得して歩く兵本氏の姿は感動的だ。

 今でこそ、拉致問題は国民的な関心を集めているが、ここまで来るには阿部氏、兵本氏、石高氏らの人生を賭けた戦いがあったのだ。言論の力がどんなに大切か、再認識した。「殿下の御館」の9月12日の項も参照されたい。

追記:勝谷誠彦氏の日記の9月13日の項はこの番組ふれた好文章で、以下の指摘がある。

 象徴的なのは3人が所属していたところが新聞、政党、テレビというこの国の談合組織のエッセンスのような場所であることだ。しかし更に面白いのはその中にあってもサンケイ新聞共産党そして地方局である朝日放送といういわば「マイナー」な組織であったことだ。そのことが辛うじてこの一騎駆けの義士たちに活動の余地を与えたのではないか。彼らの動きを黙殺し抹殺していくものの姿は明らかには描かれていない。それだけに迫力がある。

まったくその通りだと思う。

 有田芳生氏の「醒醒漫録」9月12日の項には次の評がある。

 事実に基づくすぐれた内容。取材者としての心意気とは人間としての義憤が根底にあること、その情念こそが身体を動かすのだという大切なことを教えてくれた。北朝鮮の拉致問題とは、実は2001年のアメリカでのテロや、かつてのスターリン主義や毛沢東主義の暴虐にもつながる思想的課題なのである。近代を超えるとは観念的な理性主義をヘーゲル的な意味で止揚することにほかならない。こうした番組が現実的な「力」となるのであって、あれこれの保留を付けては何事をも為さないことこそ欺瞞であり知的怠慢なのである。

 兵本氏と同じく共産党を除名された経験をもつ有田氏には別のコメントを期待したのだが。(Sep13 2003)

Sep13

 RIAA(全米レコード工業会)が音楽の違法交換ユーザーを一挙に216名も訴えたことで、アメリカでは大騒動がおこっている。最高15万ドルという賠償額もさることながら、警告なしにいきなり請求書を送りつけるやり方には反発が集まっている。「濡れ衣」と反論する被告もいるが、裁判になればRIAA側が勝つだろうという(ZDnetの「怒り、反発、不安……学生社会に波紋呼ぶファイル交換訴訟」と「「濡れ衣」訴える被告も――RIAAの個人追及法に批判」)。

 Hotwiredの「RIAAに訴えられた違法ファイル交換ユーザー、それぞれの言い分」によると、訴えられた人の境遇はさまざまで、シカゴに住む無職の女性もいれば、マンハッタンのシングルマザー、テキサス在住の孫を持つ71歳男性、イェール大学の写真学教授もいる。ファイル交換ソフトKazaaを使用するために29.5ドルを払ったので、合法的な交換をおこなっていると思いこんでいた人もすくなくないらしい。

 RIAA側はファイル交換が違法であることはマスメディアで周知徹底させてきたといっているが、ネットワーク上の著作権という聞きなれない問題がどこまで理解されていただろうか。

 ZDnetの「RIAA、大規模ファイル交換訴訟で初の和解成立」によると、和解第一号はニューヨーク在住の12歳の少女、ラハラさんの母親で、2000ドルという低目の金額で話がついた。これには後日譚があって、ラハラさん一家が公営住宅に住む貧しい家庭だったことから、P2P Unitedという業界団体が和解金の肩がわりを申しでている(ZDnet)。P2P United側は肩がわりの意図を次のように説明している。

「著作権侵害を許容するわけではないが、今回の気の毒なエピソードで示されたように、大きな資金力・政治力を持った国際的な組織が、公営住宅に住む12歳の少女とその家族に力を振るうようなやり方を許している体制を浮き彫りにするため、誰かが線引きをしなくてはならない」

1万5千ドルを請求された学生のために義援金を集める動きもある。

 被告にこうした援助の手が差しのべられているのは、今回の訴訟が明らかに「見せしめ」を意図したものだということもあるだろう。CNETの「ファイル交換の「文化」を変えようとするRIAA」は、ファイル交換の利用者は全米で6千万人にのぼることから、RIAAの本当の目的は音楽は無料でダウンロードできて当たり前という「文化」を変えることにあると見ている。実際、Kazaaで交換されるファイル数は目に見えて減少し、注目の的となった12歳のラハラさんは自分のしたことを「非常に申し訳なく思っている」と声明したわけで、RIAAの狙いはある程度達成されたといえよう。

 日本でも曲の違法交換はおこなわれているが、JASRACはどういう手を考えているのだろうか。

 「<地震予知>16日前後に南関東で発生? 研究者が討論会」というニュースが流れている。FM放送の受信状態の変化で地震が予知できると考えている人が、16から17日にかけて南関東でM7.2の大地震が起こる可能性があるといっているそうだ。眉唾情報ではあるが、この機会にバックアップをとっておくといい。

Sep14

 国立博物館で『アレクサンドロス大王と東西文明の交流展』を見た。出品が充実している上に、ギリシアの神々がイラン、ガンダーラ、中国をへて、日本でおなじみの神仏になっていく道筋を跡づけようという企画がおもしろく、時間を忘れて見いった。1時間では足りない。2時間のつもりで出かけた方がいい。

 最近はこことか、そことかで、美術品の画像を手軽に見ることができるようになったが、実物はまったく違う。ギリシア陶器の描線の細さ、鋭さ、金細工の蔦や葡萄の繊細さ。これは実物を見るしかない。意外だったのはコインで、摩滅の跡のまったくない良好な状態ものが多く、鋳造されたばかりのよに微細な浮彫の線がくっきりしていて、まばゆい輝きを放っていた。図録の写真とは似ても似つかない。

 彫像では両性具有のヘルマアフロディット像が来ている。右半身を床につけてうつ伏せに寝て、肉感的な背中とお尻を見せているが、裏に回りこむと、ゆたかな乳房と陽根がはみだしていて、びっくりという趣向である。

 展示にはなかったが、図録の木村重信氏の文章によると、古代オリエントの女神像には陰毛がゆたかに造形されていたのに、ギリシアの影響で無毛になったという。陰毛を剃るギリシア人の風習を反映したものだが、成熟した女性の徴である陰毛を嫌ったのは、ギリシアは母系社会からいち早く父系社会に変わり、処女を好むようになったことが背景にあるという。陰毛を消したのは、、大地母神の生命力を抑圧するためだったわけだ。陰毛表現の変遷という展覧会をやったらおもしろいだろう。

 展覧会の母胎となったNHKスペシャル『文明の道』では第五集「シルクロードの謎 隊商の民ソグド」が放映された。

 ソグド人はタジキスタンのあたりにあったソグディアナを本拠にしたペルシャ系の民族で、700年にわたってシルクロード交易を支配し、中国各地にコミュニティを作っていた。「胡人」と呼ばれるのはほとんどがソグド人だったという。

 玄宗皇帝の時に反乱を起こした安禄山もソグド系で、ソグド人コミュニティの経済力を背景に勢力を広げたが、鎮圧された後、組織的に胡人の虐殺がおこなわれ、ソグド社会は大打撃を受けた。ちょうどその頃、西側ではイスラム帝国が勃興したため、繁栄を誇ったソグド人は周辺の民族に呑みこまれてしまった。

 中国の史書に記録された赤ん坊の口に蜜をふくませ、掌に膠を塗る風習が旧ソグディアナの村にほぼそのままの形で残っていたのは感動的だった(現在は膠ではなく、コインを握らせる)。蜜をふくませるのは蜜のように甘い言葉で商談をすすめられるように、掌に膠を塗るのは一度摑んだお金は絶対に手放さないようにという商業民族ならではの教えだそうである。

Sep15

 住基ネットのアクセスログが11月から本人に開示されることになった(Mainichi INTERACTIVE)。窓口となるのは都道府県で、毎月、Lasdecからログを都道府県にメディアで送るという。ただし、ログをとりはじめるのは10月1日からなので、それ以前の記録は請求できない。

 また、総務省は今月中に「住基ネットセキュリティー基準」を改正し、情報漏洩が起こった際、自治体が。「国の機関等、区域内の市町村の執行機関等および都道府県知事」に対して調査をもとめることができるようにするという。

 Mainichi INTERACTIVEの「安全性確保にはなお懸念も 住基カードの仕組み」には住基カードの仕組が解説されている。

 住基カードのICチップには以下の三つのアプリケーションが組みこまれるという。

 一つ目は、パスポート発給などの際の本人確認のアプリケーションである「住基アプリ」。二つ目は、公的個人認証のアプリケーション。時期は未定だが、来年春ごろから全国で利用が開始される。まず2月ごろに、名古屋国税局管内の確定申告の際に使われる予定だ。三つ目が、市町村の条例で利用目的を定めたアプリケーション。

 第三のアプリケーションは図書館の本の貸し出しカードとか、商店街のポイントといった独自サービスで、市町村によって異なるが、第一の本人確認の「住基アプリ」はすべての住基カードに搭載され、4桁のパスワードによって守られる。

 第二の公的個人認証はインターネット経由の電子申請に用いられるもので、住基ネットの最大の売りである。電子申請をおこないたい人はあらかじめ自治体窓口の鍵ペア生成装置で鍵を作成して、チップに記録しておく。電子申請をおこなう際は、パソコンにつないだカードリーダーに自分の住基カードをいれて、4桁のパスワードを入力すると、申請文書が暗号化され、電子署名ができあがる。申請先の役所には申請文書と電子署名、公開鍵つきの電子証明書の三つを送信する。役所側では都道府県の認証局で電子証明書が有効かどうかを確認し、公開鍵で電子署名を解読して、申請書と同一かどうかを確かめるという仕組だ。

 こういう操作はパソコン中級者でなければ無理だし、日常的に申請をおこなっている人でなければ必要がない。住基ネットは電子申請をおこないたい人だけが参加すればいいものであって、全国民を強制的に参加させる必然性などはない。国会議員は無知なので、総務省の社会主義者にだまされているのだろう。

 「erⅧ」が終わった。最終回では次のシリーズに興味をつなぐために大事件が起こるものだが、今回は天然痘騒でER全体が隔離された。アメリカでは2002年5月16日の放映だから、2001年10月に起きた炭疽菌事件の記憶がまだ生々しかったはずだ。

 今回のシリーズではベントンとクレオが去り、マーク・グリーンが逝ったから、これぐらいの騒動を起こす必要があったのだろう。

 天然痘の膿疱が一面にできた顔は不気味である。あれで瘢痕が残ったら、現代人にはショックだ。一命をとりとめても、自殺する人だって出てくるかもしれない。

Sep16

 万景峰号がまた来ているが、名古屋のたてこもり男自爆事件で吹き飛んでしまい、わずかに定員超過問題(Mainichi INTERACTIVE)がとりあげられたくらいか。前回、あれだけ仰々しく検査をおこないながら、定員超過を見逃していたとは。

 名古屋のたてこもり男は、最近増えているわけのわからない犯罪の一つかと思ったが、その後の報道で被害を受けた会社側にも問題があったことが明らかになってきた。Mainihci INTERACTIVEの「軽トラ運送:目立つ契約トラブル 02年度の相談637件も」によると、軽トラック運送業界は「月収30万円」と広告して人を集め、委託契約を結ぶにあたり、専用軽トラックの購入費や代理店契約の契約金などで200万円前後を払いこませているが、それに見合う仕事を回さず、トラブルが多いという。同記事から国民生活センターのコメントを引く。

 同センターは「契約後に実際には仕事がないことが分かり、トラブルになるケースがほとんど。軽自動車の販売やリース代目当てとしか思えないような運送会社もある。『急募』という求人広告をみて、トラックさえ買えば仕事はいくらでもあると思い込み、被害に遭う人が多い。契約時に仕事内容や仕事量を十分確認してほしい」と注意を促している。

 別府容疑者は3ヶ月分の支払金、25万円を振りむように要求したが、振込が完了して、人質にとっていたうち、支店長を除く7人の男性社員を解放した直後、爆発が起こっている。故意に引火したのかどうか、自殺する意志があったのかどうかはまだわからないが、仮に自殺するつもりがなかったとしても、これだけの騒動を起こしながら振込にこだわったのは不可解である。深読みかもしれないが、別府容疑者は求人広告は嘘で、3ヶ月で25万円にしかならないことを世に知らせたかったのではないか。

追記:大谷明宏氏の「野放しの中高年転職ビジネス」に事件の背景がのっている。「軽急便」はやはり問題のある会社だった。

 地元、名古屋のある弁護士事務所の話では、ここ2年で委託宅配に転職してみたものの結局は自己破産したケースが6件にも上るという。何よりもこのシステムがいけないのは、他の同業者は地域ごとに委託契約者の数をしぼって競合しないように配慮している。なのにこの会社は契約者を次々に増やして行く。そうなれば1人あたりのパイがどんどん小さくなって行くのは当たり前じゃないかというのである。

その結果、「求人広告にあった「月収30万円から50万円」の収入を得られるのは、まれなケース」だそうである。

 アマチュア地震予知サイトの掲示板という思いがけない場所でも、「軽急便」告発の文章を見つけた。

追記、本日、名古屋市で発生した立てこもり爆発死傷事件の舞台となった「軽急便」は、知る人ぞ知る詐欺会社。実は筆者も軽急便に所属していた役員が独立分離したシステムナインという会社で詐欺被害にあった。入会金の30万円を騙し取られたのだ。軽急便関係者の常套手段は、元々ろくな仕事もないのに、「軽貨を購入し、入会金30万円を支払えば毎月50万円の売り上げの仕事を回す」と宣伝し、リストラなどで再就職の困難な中高年からカネを騙し取るのだ。軽トラックも会社のリベートを含む高額で買わせ、入会金と共に二重の詐欺を働くのである。入会後1〜2ヶ月は、まともな仕事をよこすが、3ヶ月もするとほとんど仕事はなくなる。これで会員が諦めて辞めてゆくのを待つシステムである。

会社側の弁解を鵜呑みにしたTV局は怠慢というしかない。(Sep27 2003)

 北朝鮮関連では、有田芳生氏の「醒醒漫録」16日の項に、先日、「T・K生」だったと告白した池明観氏が北朝鮮の現実を目のあたりにしたショックが紹介されている。

 平安北道出身の池さんにとっては「祖国訪問」でもあった。ところが監視された会議のなかでは本音など語れるはずがない。しかしハプニングがあり、予定外の道路を車で走ったとき、その農村の飢餓民を目の当たりにする。「子どもは、頭ばかり大きくて、背が伸びていない。うつろな顔なのですよ」。「もう北には行かない。故郷にも行けなくていい」と覚悟した池さんはこう語った。

 率直に言いますとね、北の体制を国際的に保証することで、朝鮮半島に幸せがもたらされるとは考えられないのです。……いくら(核施設や権力中枢への)限定的な攻撃でも犠牲は伴う。犠牲が多く出るのは、私自身、堪え難い。ただ、今の北の現状からすれば、強硬策もやむをえない。……こんなジレンマに陥ったのは、初めてです。

筋金入りの北朝鮮擁護派と見られてきた池氏がこんなことを言うようになったのである。

 上の発言のオリジナルは東京新聞だというが、ネットには掲載されていない。その代わり、「『北朝鮮ウオッチャー』の本音をウオッチ」という記事を見つけた。

 吉田康彦氏の言い訳を無批判に紹介するなど、一般論めかして北朝鮮を擁護する色彩が強いが、北朝鮮の日用品コレクションで有名な宮塚利雄氏のコメントは笑った。

「北朝鮮の食糧難をテレビで語った時に、私のような風ぼうの人間が『話すのは不謹慎だ』と批判された。やせた人しかダメなのか」と不満を口にする。

 こういう苦情を言ってくるのは左翼ゴロだろう。出版界の裏側にはいまだに左翼ゴロがうじゃうじゃ蠢いているが、昨年の9月17日、金正日が拉致を認めてしまったので、なにも言えなくなった上、次から次へと北朝鮮のひどい話が明るみに出てきて、「北朝鮮バッシング」というぼかした形でしか鬱憤を晴らせなくなっている。

Sep17

 小泉訪朝の一周年にぶつけて、NTVが「奪還〜日本人拉致25年目の真相」を放映した。未遂をふくめた一連の拉致事件を再現ドラマに仕立てていて、矢追純一氏のUFO番組かと見まがうくらいセンセーショナルな作りだった。フジTV系は阿部雅美記者、朝日系は石高健次プロデューサーという拉致問題に長年とりくんできた社員がいるが、NTV系はそうした人材がいないので、苦肉の策だったのかもしれない。

 最初はなんだかなぁと思ったが、再現ドラマはよくできていて、短波放送オタクの証言がおもしろかった。毎夜流されていた暗号放送の録音だけでも生々しいが、ベリカード(受信証)をもらうために平壌に受信レポートを出すと、折り返しに家族構成や職業など個人情報を書きこませるアンケートが送られてきたそうだ。返事を出すと正体不明の人物が身辺に出没するようになった例もあるというから、拉致候補にされたということか。

 1975年以前の暗号放送はは5桁の数字を一気に読みあげていたが、1975年以降は1桁づつ読むように変わったそうだ。朝鮮語に不慣れな受信者のためではないかと推測していたが、実際、この頃から在日の協力者が工作にかかわる例が増えたらしい。

 再現ドラマでは、宇出津事件と辛光洙事件で大きな役割を果たした「土台人」と呼ばれる在日協力者が描かれていた。供述調書や裁判記録にもとづくものだと思うが、どちらも北に帰った親族の写真と手紙を工作員から見せられ、脅迫同然で協力させられていた。在日朝鮮人も被害者なのである。

 再現ドラマという形式には批判もあるだろうが、一連の事件がここまでわかりやすく国民に知らされたのは、社会主義に未練を残すマスコミ人にとっては脅威だと思う。

 「原敕晁」という文字を確認するために検索したら、HANBoardという在日の人たちが集まる掲示板の「日本政府による朝鮮中傷情勢(拉致問題)」という書きこみがひっかかった。お読みになればわかるが、「朝鮮民主主義人民共和国を中傷する者はいつかその代価を支払わなければならなくなるでしょう」と大見えを切っている。タイムスタンプは「1999年05月01日 01時58分33秒」となっているが、一年前まではこういう暴論がまかり通っていたのである。この点だけでも、昨年の小泉訪朝は歴史的意義があったと考える。

 中朝国境地帯に中国正規軍が配備されたという報道の続報がはいっている。asahi.comの「北朝鮮国境に2万人規模の解放軍展開 中国」は、「関係筋」が正規軍の規模は15万人ではなく2万人という数字をあげ、「朝鮮が核開発を材料に、今後さらに対外的な緊張を高めた場合の混乱に備えた動き」だとする見方があるとしている。朝鮮日報日本版では、中国外務省の孔泉報道局長が記者会見で正規軍の投入を認めたが、規模については言明を避けたという。

 Mainichi INTERACTIVEの「中朝国境:北朝鮮警備隊員が越境し犯罪 中国系香港紙報道」は、中国政府の意向を代弁してきた「大公報」という香港紙が、越境してきた北朝鮮の国境警備隊員が相次いで凶悪犯罪を犯していると伝えたことを紹介し、「友好国の北朝鮮を刺激しかねない内容を中国系紙が報じるのは異例」とコメントしている。

 あつかいの大きさも異例だという。

 重要ニュースのページのほぼ1面を使った現地ルポによると、吉林省延辺朝鮮族自治州で今年1月、地元の警察当局が北朝鮮の国境警備隊員1人を拘束した。この4日前には、付近で警備隊員が銃で住民を負傷させたとみられる事件が起きていた。同紙は北朝鮮の警備隊員や押収した自動小銃の写真も掲載した。また一昨年以降、北朝鮮越境者によるとみられる強盗や殺人事件が多くなり、州内の治安に重大な影響を及ぼしているとも報じている。

 北朝鮮の国境警備隊員は脱北者や密貿易業者から賄賂や物品を巻きあげ、多額の裏収入をえているといわれている。わざわざ自分で越境して強盗をする必要があるのだろうか。単なる武装越境者ではなく、その辺の事情はわからないが、わざわざ国境警備員の犯罪と断定するあたり、中国の姿勢の変化がうかがえる。

 「大公報」も15万人説を否定し、「北朝鮮の難民が中国側に押し寄せるなどの事態は起きていない点を強調した」そうだが、こうなるといよいよ怪しい。今は押し寄せていなくても、これから押し寄せるということではないのか。

追記:朝鮮日報日本版18日付の「中朝の「血盟関係」に異常徴候?」は「北京の外交街では、北朝鮮との国境地域への軍配置を、脱北者らの単純な犯罪取締り用とみなすには無理があるとの見方が優勢だ」として、次のように推測している。

 中国政府は脱北者問題よりも北朝鮮核問題を最も急を要する事案と見ている。このため、早晩呉邦国・全国人民代表大会常務委員長(国会議長)が北朝鮮を訪問し、6カ国協議再開の圧力を加えるだろうという噂も流れている。

 神浦元彰氏のJ-r.comの9月18日の項は、中国No.2の早晩呉氏訪朝を北朝鮮に対する圧力とし、こう論評している。

 6カ国協議を嫌がる金正日に、呉邦国氏が説得にあたれば文句はいえない。金正日が拒否をすれば、即、中国は北朝鮮に大打撃を与える制裁を行う。そのあたりの外交交渉術は中国がもっとも得意とする伝統芸である。この6カ国協議の経緯を見ていると、中国の強引さが凄まじい。

 中国の本気は間違いなく、北朝鮮には暴発という選択肢はもはやなくなったといっていいだろう。日本はこの機に乗じて、金正日をさらに追いつめるべきだ。(Sep19 2003)

 朝鮮日報日本版には「平壌でけん銃銀行強盗事件発生」という記事が載っている。

 今回の事件は北朝鮮史上、前代未聞の銀行強盗事件で、事件発生直後、金正日(キム・ジョンイル)総書記が「何が何でも犯人を逮捕せよ」と命令したと、最近中国に渡った北朝鮮政権機関の某幹部が伝えた。

将軍様の愛情あふれるお膝元でこんな事件まで起こるようになったのである。

 朝鮮日報日本版には「北、支援食糧は即時軍部隊行きに」という記事も載っている。

 昨年6月に亡命した「元山港に到着した支援食糧の配給と引き受け作業の指揮を取った「第1地区司令部」作戦部副部長の運転兵」が「「国際社会の監視の目を避けるため、食糧輸送に動員された軍用車両のナンバープレートを民間車両のプレートに偽装し、食糧輸送に当たった兵士たちには私服を着させた」と証言した。援助物資はすべて軍にわたり、国民の口にはいるのは軍が自由市場に売った分だけだそうである。

 やはり、支配層にしかいかない米の支援はやめるべきだ。米を出さなければ支配層が飢え、金正日体制の崩壊が早まるはずである。

Sep18

 民主党の選挙公約、マニフェストの第一次草案が発表された。

 草案は長文の上、数字が多いので、asahi.comSankei Webの記事であらましをつかんでから、読んだ方がいい。asahi.comは肯定的、Sankei Webは批判的なあつかいである。

 川辺川ダム、吉野川可動堰など批判の多い公共事業の中止と、補助金・特殊法人支出の削減で1兆4千億円を捻出し、それを財源に1千万haの植林(10年計画)、風力、太陽、バイオマス、波力・海洋エネルギー、電気自動車など新エネルギーの普及、保育園と幼稚園の一本化とNPO助成による保育の充実化などをおこなうとしている。

 数値目標の現実性は専門家のコメントを待つしかないが、大筋のところは悪くないと思う。

 衆議院定数の80削減、官僚の天下り規制を特殊法人に拡大、地方への補助金を紐付きでない一括補助金にする……。このあたりは大いに結構だが、3年以内に高速道路を原則的に無料にするというのはいただけない。無料にすると膨大の債務を高速道路を利用しない国民までがかぶることになる。高速道路計画を白紙にもどされた地方や、工事を中断された地方が納得するだろうか。あくまで受益者負担をつらぬくべきだ。

追記:9月22日付asahi.comの「高速道債務を60年で返済 民主マニフェスト案」で無料化計画のあらましがわかった。道路予算のうちの国直轄事業半減、地方への補助金を1割削減などで1兆5千億円を確保し、60年で償還するというもの。

 妖精現実のトップページにアフガニスタンの絨毯の写真が載っている。なんと手榴弾柄(!)である。「国のデザイナーが自然と雪の結晶やつららを意匠化するように、かわいい爆弾模様なのです」だそうだが、なんというか……。

 同サイトの「蚊の妖精学」という記事はおもしろい。あくまでトールキン的世界観の応用で、この通りのことが実際にあったとは思わないが。

Sep19

 自民党総裁選を前に、News23に野中広務元幹事長が出演したが、筑紫哲也氏は「最後のハト派」などと持ちあげてばかりいた。小渕内閣の経済政策をつづけていれば不況にならなかったといっていたが、土建屋政治がつづけられたとでも思っているのだろうか。

 ZAKZAKの「野中「スキャンダル満載暴露本」年内にも出版」によると、野中氏は『私は闘うパートⅡ』を文藝春秋社から出すようである。

 パートⅠにあたる『私は闘う』は小沢一郎氏、河野洋平氏、公明党関係者などを実名で個人攻撃しているそうで、政治家の本としては異例のロングセラーとなっている。パートⅡの原稿はすでに出来上がっていたが、引退表明後、大幅に加筆をおこなっているそうだ。永田町は早くも戦々恐々で、「野中氏にもはや失うものはない。『政界の狙撃手』といわれてきただけに、政権を揺るがす一撃必殺の仰天スキャンダルが盛り込まれている可能性が高い」とのこと。

 野中氏関連では夥しい記事が書かれているが、ネットで読めるものでは東京新聞の「あす総裁選 野中氏もう過去の人?」がおもしろい。地元のコメントを中心にまとめているが、野中氏は共産党の金城湯池といわれた京都府政を力まかせに奪いとった実績がある。野中氏から煮湯を呑まされてきたであろう共産党関係者の反応は当然のことながら冷ややかで、ある町会議員は「東京の方では、もっぱらそんな(平和主義への)評価もあるようだが、私に言わせたら、言葉だけ。実際には、ちゃんと党の思惑通り、戦争の問題でも賛成している。そうした主張を最大限利用しているだけ」と切って捨てている。

 同記事には『月刊現代』で「野中広務研究」を連載している魚住昭氏のコメントもある。

 自民党的なるもの、つまり田中角栄(元首相)的なるものは、利権の側面が強調されるが、富の再分配というプラスの面があり、野中氏にもそういう側面がある。野中氏は弱者に政治の気遣いをし、弱肉強食へのアンチテーゼを徹底してやってきた。そうした政治行動は評価するし、「日本は危険な方向に向かいつつあり、その警鐘のために辞めた」というのは本音であり、正しいと思う。

 土木工事のばらまき以外に富の再配分方式を育てず、地方を土木依存にとどめてきたのが橋本派であり、野中氏だった。野中氏擁護は、覚醒剤中毒になる人がいるのだから、覚醒剤の密輸は弱者保護のために必要だと言っているようなものだ。

Sep20

 16日前後に大地震という情報が流れていたので、昼の震度4の地震は肝を冷やした。M7.2という予想だったが、M5.5とエネルギー的には数桁小さく、当たったうちにははいらないだろう。

 予想を出した串田氏はFM放送のノイズの変化から地震が予知できるという説だそうだが、地震直前予知システムというサイトのリンク集にはナマズ、カラス、耳鳴、雲、地磁気、地熱、大気イオン等々を手がかりにした予知サイトがならんでいる。ネットによって、アマチュアでも全国各地の前兆情報を瞬時に入手できるようになったおかげだろう。

 東海アマチュア無線地震予知研究会の「一番新しい地震前兆観測・予知情報」の9月19日の項にはこうある。

★ 2003年09月19日金曜日、関東全域・東北の広い範囲に強い赤焼けが発生している。昨日、仙台前兆観測ネット中津氏の情報で、仙台市内、渡辺電機のケヤキ・地電流測定値に50ミリレンジ振り切れが発生しており、通常20〜24日頃までに、東関東〜北海道の範囲で推定M5〜6程度の該当地震が発生することになる。これが赤焼けと関係した震源であろう。

これが本当に9月19日に書きこまれたものなら、トンデモあつかいしてはいられない。

 人民网日本版に「出版物の発行販売権を初めて民間企業に認可」という記事が載った。

 中国に限らず、社会主義国では意見の発表手段を全人民に平等に保証するという名目(笑)のもとに、厳しい出版統制がおこなわてていた。中国でも出版物の発行・一次販売を行う「総発行権」は国家が独占していたが、9月1日に施行された「出版物市場管理規定」で民間に解放され、第一号として文徳広運発行集団が設立されたというもの。もうというべきか、ようやくというべきか。

 人民网日本版には「テレビ普及率85.88% 視聴人口10億7千万人」という記事もある。これももうというべきか、ようやくというべきか。

 韓国では来年1月1日から日本の大衆文化が全面開放されることになった(朝鮮日報日本版)。こちらはもうはなく、ようやくという感想だけである。

 風通しがよくなると困る人も出てくるらしい。中央日報日本版の「イ・ヒョリのアルバム写真はひょう窃?、安室奈美恵の衣装と同じ」によると、韓国のネットではイ・ヒョリという歌手の剽窃疑惑が話題になっているとのこと。衣装が同じブランドという点は差し引かなくてはならないが、目を伏せた表情が酷似していて、偶然の一致と考えるのは難しい。この手の「酷似」現象は、アメリカ情報がはいりにくかった頃は、日本でもたくさんあった。

Sep21

 「世界うるるん滞在記」の再会スペシャルを見た。今回は西シベリアのトナカイ遊牧民、ネネツ族と、揚州のチャーハン、東ちづるのドイツ国際平和村再訪の三本。

 最初のネネツ族訪問は今年の2月に撮影され、3月21日に「氷点下30度!トナカイの遊牧民に…中武佳奈子が出会った」として放映されている。紀元前二千年紀にさかのぼるトナカイ遊牧をつづけているネネツ族は『モンゴロイドの地球4』でもとりあげられていて、大いに興味があったのだが、見逃してしまった。今回の再訪篇では最初に前回の訪問がダイジェストされていて、厳冬のシベリアの生活の一端をのぞくことができた。トナカイ120頭分の毛皮をはりめぐらしたテントが結構あたたかそうだったが、マリタ遺跡の先史人もあのようにして暮らしていたのだろうか。

 ネネツ族はトナカイの毛皮交易のおかげで経済力をたくわえ、独自文化を維持することができたと本にあったが、名前はマリア、アナスタシアとロシア化していて、言葉もロシア語だった。旧ソ連の同化政策で、子供を寄宿学校にいれなければならなくなったからだろう。

 夏のツンドラは一面の草地だったが、ちょっと掘れば永久凍土が出てくるはずである。人類学の本に出てくるような場所に若いタレントを放りこんでしまうのだから、すごい番組である。

 揚州のチャーハン・シェフは日本に呼ばれ、色物のあつかいでちょっとかわいそうだった。

 東ちづるのドイツ国際平和村再訪は恒例となった観があるが(国際平和村をご存知ない方は、公式サイトの「こんな活動をしています」をお読みいただきたい)、今回はアフガニスタンからの新たな子供の受け入れと、治療の終わった子供の帰国にあわせておこなわれた。

 前回訪問時は、アフガニスタンから来た子供は、男の子はコラという白い帽子、女の子はスカーフをかぶっていたが、本国でタリバン政権が倒れたので、今回は帽子もスカーフもかぶっていない。かぶりたくないというのが本音だったのだろう。

 番組では帰国することになったイブラヒムという男の子に焦点をあわせていた。イブラヒムは上半身に重度の火傷を負い、二年半にわたって皮膚移植をくりかえしたが、移植する皮膚がなくなり、とうとう頭皮を顎に移植するにいたった。小学生なのに、頭頂部が禿げて、立派な顎髭をたくわえているように見える。

 今回、90数人の子供が帰国した。事前にラジオで帰国する子供の名前を流したので、二日目までには親がむかえにきたが、ただ一人、イブラヒムだけはむかえがこなかった。二年半の間に両親が亡くなり、祖父母が600km離れた村に残っているが、祖父母は帰国を知らない可能性があるという(ラジオをもっていないかもしれないのだ)。イブラヒムはカブールの孤児院でむかえを待つことになったそうだが、むかえはくるのだろうか。

 親がむかえにきた子供だとて、前途は明るくない。平和村では一年分の薬をいれた大きな鞄をもたせて送りだしているが、ドイツの恵まれた暮らしを一度知ってしまっただけに、つらいだろう。

 Sankei Webの「アフリカのエイズ、感染拡大の歯止め困難に」によると、国連エイズ計画は2015年までに感染に歯止めをかける計画をすすめていたが、資金難で難しくなったという。全世界のエイズ感染者は昨年末時点で4200万人だが、そのうちの3000万人はサハラ以南に集中しており、サハラ以南の対策が要となるが、この地域の対策に必要な資金は半分も集まっていない。

 朝鮮日報日本版には「「韓国型エイズ」が拡大」という記事が載っている。

 韓国ではエイズはもっぱら異性間の接触で感染していると見られているが(儒教の影響?)、ウィルスの塩基配列を調べたところ、SubtypeBという型が73.3%を占めていた。国立保健院によると、1988〜9年の調査ではSubtypeBは35.3%にとどまっていたそうで、韓国では同性愛がすくないので、異性愛者を通じてはいった型だけが広まったものと考えられている。

 先日、日本でも北海道でスクレイピーにかかった羊が見つかったが(Sankei Web)、Mainichi INTERACTIVEの「羊:5万7000頭が猛暑のアラビア海をさまよう 」によると、オーストラリアからサウジアラビアに輸出された羊5万7千頭が、スクレイピーの疑いがあると受け入れを拒否され、洋上待機を余儀なくされている。

 通常は食肉に加工してから輸出するが、イスラム圏ではハラルという儀式をほどこしてから屠殺しなければならないので、羊を生きたまま輸出する必要がある。アラブ首長国連邦やパキスタンに無料でいいから引きとってくれともちかけたが、断られたそうで、暑さで大量死する前に処分しなければならないところまで追いこまれている。

Sep22

 第二次小泉内閣が発足し、小泉首相は記者会見で10月解散を示唆した(Mainichi INTERACTIVE)。昨日の安倍晋三氏の幹事長抜擢につづき、道路公団の天敵の石原伸晃氏を国土交通相にすえるなど、小泉流人事はマスコミ予想をことごとく裏切った。はずれまくりの大新聞の解説よりも、ZAKZAKの「小泉、青木裏切り…竹中兼務留任、慎太郎封じも」がおもしろい。

 中央日報日本版は韓国政府の反応を伝えているが、北朝鮮強硬派の安倍氏、「新しい歴史教科書をつくる会」と関係の深い中川昭一氏、「創氏改名は朝鮮人が望んで始まった」と発言した麻生太郎氏、「強い日本」を提唱してきた石破茂氏らが要職についたことで、「在任期間中に自衛隊を軍隊とし、集団的自衛権を保有する方向に改憲する作業が本格化する可能性もある」と早くも警戒しているようである。

 歴史教科書関連では、朝鮮日報日本版に「中国教科書も歴史わい曲」という記事が載っている。

 中国の中学・高校用の歴史教科書29冊を調べた結果、

 中国教科書の殆どが、「日本植民地支配下の独立運動は金日成(キム・イルソン)の主導で行われたもので、韓国戦争は米国の武装侵略によるもの」とするなど、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に偏った記述をしていると分析された。

確かに、このあたりは歪曲をとおりこして捏造だと思うが、

 中国学校の70〜80%が採択している人民教育出版社の「世界歴史」は、ハングル制定について「15世紀、朝鮮は中国語と結合させて28文字の子母音を制定した」とし、ハングルの独創性を否定した。他の歴史教科書も「漢字の音韻を参考に表音文字であるハングルを作った」とその価値を格下げした。

この条は中国側が正しい(世宗の命令でハングルをつくった申叔舟ら、集賢殿の少壮学者は中国の学者の教えを受けながら、朝鮮語の音韻を整理したと河野六郎氏の『文字論』にある)。

 韓国側は渤海を唐の地方政権としたことが気にいらないそうだが、抗議したところで、中国は頭から無視するだろうし、うっかりこの問題をつつくと、韓国にとって藪蛇になりかねない情況も生まれつつある。

 神浦元彰氏のJ-r.comの9月19日の項によると、中国政府は北朝鮮に接する延辺朝鮮族自治区で、昨年から朝鮮族に中国への帰属意識を植えつける思想教育をはじめている。もちろん、南北朝鮮統一をにらんでのことだ。次のコメントは重要である。

 南北朝鮮が統一し、朝鮮民族の統一意識が芽生えたら、延辺自治州の中で統一朝鮮に帰属すべきという動きが出るかもしれない。そこで中国は元々朝鮮族は、中国にあった古代の高句麗国家の末裔で、それは中国でひとつの辺境国家であったと定義づけたいのだろう。しかしそれを行えば、今の韓国ももとは高句麗国家の末裔で、もともとは中国の一部になってしまう。これは中国の朝鮮半島併合への論理となりかわる危険がある。

 黄文雄氏の『日本が作った韓国』あたりを見ればわかるが、李朝朝鮮は清の属国だった。日清戦争後の1897年、大韓帝国が「独立」するが、どこから「独立」したかといえば清から独立したのである。チベットが中国固有の領土だという暴論がとおるなら、朝鮮半島だって中国領になりかねない。

 今後、極東では動乱が予想される。川口順子外相ではあまりにも頼りないが、彼女の留任は人身御供要員確保のためということもありえないことではない。

 ブッシュ大統領の来日で、日本は自衛隊を早期に派遣せざるをえなくなるが、そうなると十中八九犠牲者が出て、外相が辞任しなければおさまりがつかなくなるだろう。深読みかもしれないが、就任半年かそこらで辞任させると政治家に傷がつくので、議席をもたない川口氏を残したということではないだろうか。

Sep23

 インターネットのドメイン名では、国名は2文字のアルファベットであらわされている。日本はjp、台湾はtw、韓国はkr、フランスはfrで、日本の首相官邸のURLはwww.kantei.jpとなる。これが国名コードで、表からは隠されているが、コンピュータの世界ではさまざまな場面で使われている。全世界共通でなければ意味がないので、ISO 3166という国際規格で規定されており、日本では JIS X 0304として国内規格化されている。

 あきれたことに、ISOはこれを有料化しようとしている(ZDNetの「ISO、コード課金を提案へ」とCNETの「ISOによる標準使用料の徴収案が浮上?」)。国名コードだけでなく、通貨コードの ISO 4217、言語コードの ISO 639なども、課金が検討されているという。

 ISOが料金を徴収する根拠は規格の著作権である。CNETから引く。

 コードを巡るISOの権利主張は、標準を記述した文書類に対して同機構が所有する著作権に起因する。ISOが標準を無償公開するようなことは一般的にはなく、同機構ではこれらを販売し、自らの運営費に充てている。この提案に反対する人々によると、これらの著作権がコード自体にも適用されるかどうかについては、まだ判断しかねるという。

 国名コードはJapanがjp、Taiwanがtw、Koreaがkrのように、単に国名の綴りを短縮しただけであって、開発費などゼロに等しい。しかも、あともどり不可能なまでに普及してから課金しようというのは、Unisysの悪名高いGIF特許と同じで、反発が起きて当然である。ZDNetによると、W3Cは「これは法的な問題というより、むしろ標準化政策の問題だ。利用に際して金を取るようになれば、人々はその標準を使わなくなる。そして世界は無秩序へと向かう」と批判している。

追記:ZDNetの「ISO、コード利用有料化案を否定」によると、ISOは「今後も引き続き、国名/通貨/言語コードの無償利用を認めるという確立された慣行を継続する」という声明を発表した。ISO側は「誤解」があったとしているが、どういう誤解かは明らかにしていないとのこと。(Oct01 2003)

 公的規格に著作権があるというと、意外に思う人がいるかもしれない。日本では、ほとんどのJIS規格が実質的に国費で開発されてきたということもあって、規格本文は法律の条文などと同じように著作権保護の例外(著作権法13条)とされてきたからだ。

 『図解雑学 文字コード』に書いたことだが、欧米先進国では規格制定と普及は民間が自主的におこなうべきだという考え方が伝統的にあり、各国の標準化団体はアメリカのANSIをはじめとして、ほとんどがNGO(民間団体)であり、ISOも例外ではない。日本も最初はそうだったのだが、昭和10年代に国家社会主義が台頭すると軍需品を中心に官制規格が夥しく作られ、敗戦後も官主導による工業標準化が強力に進められた。国家による標準化は後進国や社会主義国なみだという批判があったが、工業立国の土台となったことは否定できない。

 しかし、規制撤廃の流れの中で、工業標準化を民主導にもどすべきだという意見が強くなり、民間の開発した規格を積極的にJISにとりこもうということになった。JIS化によって、多額の費用をつぎこんで開発した規格の著作権を失ってしまうのでは、JIS化を見合わせようとか、規格開発をやめようということになりかねないので、JISを審議する日本工業標準調査会は「21世紀における標準化課題検討特別委員会報告」で次のように提言している。

 今後JIS原案作成における民間の役割を更に強化し、標準化活動の全般を活性化するためには、引き続き「民間におけるJIS原案作成を支援」していく一方、「民間提案(工業標準化法第12条による提案)に係るJIS原案作成者に著作権を残す」等、JIS原案作成に係るインセンティブを高める方策を探る。

 これを受けて日本工業標準調査会標準部会がまとめた「日本工業規格等に関する著作権の取扱方針について」では、JIS原案作成者は規格をJIS化するにあたり、著作権を自分が保持しつづけるか、国に譲渡するかを明確に意志表示しなければならないとしている。つまり、原案作成者は規格をJIS化しても、著作権をもちつづけることができるようになったのである。

 さて、国名コードにもどると、もうひとつ問題がある。ZDNetの「商用ソフトに広く影響? 物議を醸すISOの有料化案」によると、ISOは消滅したチェコスロバキアに割り当てられていたcsをセルビア−ヘルツェゴビナに転用する決定をくだしたというのだ。

 文字コード問題をちょっとでもかじった人なら、これがどんなにまずいことか、おわかりだろう。Unicodeコンソーシアムは決定取消をもとめているそうだが、この場合はUnicode側が全面的に正しい。ISOがいくら巨大組織だからと言って、過去の失敗から学べないのは嘆かわしいことだ。

Sep24

 Mainichi INTERACTIVEに「流行以前の血清からSARSウイルス 中国」という記事が載っている。広東、山西、河北など17省で、SARS流行以前に採取・冷凍保存していた1621人の血清を調べたところ、1%にあたる16人のサンプルにSARSウィルスの抗体反応があったというのだ。

 長崎大熱帯医学研究所の永武毅所長のコメントを引く。

 最初の患者が確認された昨年11月より以前にも、SARSは中国国内で小流行を繰り返していたと見られていたが、それを証明する重要なデータだと思う。また、SARS患者のほとんどいなかった子供もウイルスに感染していたことが明確になり、SARSが再発した場合、子供を媒介にした感染拡大を警戒する必要があるのではないか。

 他の国がSARS流行をすみやかに終息させたのに対し、中国・台湾では6月まで感染がつづき、中国人の生活習慣に問題があるとまでいわれたが、流行前からウィルスが広がっていたのだとしたら、おさえこめるわけがない。今冬、必ずSARSは再流行する。

 朝鮮日報日本版の「北、住民の思想取り締まりを強化」によると、北朝鮮当局は思想統制を一段と厳しくしているという。昨年7月の経済改革で貧富の差が拡大し、貧しい層の不満が高まる一方、富裕層に密輸ビデオが広まるなど、外部の情報が流入しはじめているためだろう。

 引き締め政策の一環だと思うが、中央日報日本版の「北朝鮮、上陸艦など数十隻を元山基地に前進配置」によると、海軍支援艦艇数十隻が咸境北道から元山に前進配備された。「北朝鮮海軍が支援艦艇を前進配置したのは異例」の上に、陸海軍は昨年の倍近い演習をおこなっている。将軍様の軍隊視察も増えていて、対外活動に占める軍関連活動の割合は昨年が23%だったのに対し、今年は51%と倍増しているとのこと。

 冷戦時代の南北朝鮮の暗部にかかわる話題が二つはいってきている。

 一つは韓国から北朝鮮に送りこまれた秘密工作員の話題である(「北派工作員1万3000人余を養成」)。韓国政府は朝鮮戦争から1970年代末までの約30年間に、延べ1万3千人の工作員を養成し、そのうちの7800人が死亡または行方不明になっていることを公式に認めた。生存している元工作員を礼遇するための特別法が国会に上程されているそうだが、死亡率の高さからすると潜入は大部分失敗したということだろう。

 もう一つは1983年にラングーン爆弾テロ事件を起こした北朝鮮工作員の話題である(「ラングーン爆弾テロ工作員「北に騙された」」)。ご存知のように、この事件はミャンマーを公式訪問した全斗煥大統領一行をねらったもので、副首相以下17名が死亡し、ミャンマーは北朝鮮と断交した。

 事件をおこした3人の犯人のうち、1人は射殺され、1人は死刑になったが、終身刑に減刑されたカン・ミンチョル受刑者が現在もミャンマーで服役中だそうである。

 ミャンマーでは無期囚は13年6月以上服役すれば、釈放される可能性がある。カン受刑者は模範囚で、20年以上収監されているので、いつ釈放されてもおかしくないが、本人は「北朝鮮に騙された。釈放されれば第3国ではなく、韓国に行って暮らしたい」と意向を漏らしているという。

 最後に、日本のお粗末な話。今年3月28日、日本は初の情報収集衛星の打ちあげに成功したが、秘密のはずの軌道をフィンランドの天文ファンのカンカロ氏が割りだし、夜空を横切る光跡の撮影に成功した(「秘密扱いのはずが…情報収集衛星の軌道が丸見え」)。サンスポから引く。

 カンカロさんやカナダのテッド・モルツァンさん(50)の観測によると、2基の情報収集衛星はほぼ同じコースを飛行。毎日午前11時20分−午後1時20分ごろと、午後10時半−午前零時半ごろの2回、平壌を見下ろせる上空を通過している。この時間帯に北朝鮮が屋外の活動を控えれば、日本に探知されるのを防げるという。モルツァンさんらは観測した各国の衛星の軌道を計算、インターネットで公表している。
 アマチュアらが軌道を公表していることに、衛星を運用する内閣衛星情報センターの担当者は「日本の利益に反する」と渋い顔。公表された軌道が正しいかどうか「コメントしない」という。

 平和ボケというかなんというか……。

Sep25

 マイクロソフトがT-Engineフォーラムに参加するという。T-Engineは坂村健氏の提唱するITRONを発展させたものだけに、一般紙も含めて、ニュースサイトはこのニュースでもちきりである。わたしが見た範囲では、ZDNetの「TRONの坂村氏とMS古川氏が手を組んだ「T-Engine+CE .NET」 」がよくまとまっていた。マイクロソフトの公式サイトには「ユビキタス機器、ネットワーク情報家電のプラットフォームの実現に向けてT-Engineフォーラムとマイクロソフトが協力」が掲出されている。

 はじめてこのニュースを知った時、自民党打倒のために合併した民主党と自由党を連想した(自民党にあたるのはLinuxである)。坂村氏のことだから、MSが我がTRONの軍門にくだったぐらいの気炎をあげるかなと思ったが、NHKの10時のニュースで流れた記者会見を見ると、勝者の余裕を見せたのはMSの古川氏で、坂村氏の方は生彩を欠き、中間管理職のような喋り方だった。

 川口外相は国連総会でおこなった24日の演説で、はじめて北朝鮮の拉致問題に言及したが、北朝鮮は25日、一般演説終了直前に演説内容に反論する「答弁権」を行使し、日本を激しく非難した(Mainichi INTERACTIVE)。

 北朝鮮は拉致問題は解決済みとしただけでなく、40年間にわたる日本統治下で840万人の朝鮮人が犠牲となったとか、200万人が強制連行されたとか、例によって根拠のない数字をならべていた。

 Sankei Webの「同盟関係からすでに脱却 中国共産党副部長」によると、中国共産党対外連絡部の蔡武副部長は朝鮮労働党との「血で固めた友誼」という運命共同体的同盟関が過去のものになったと記者会見で明言したという。

 その関連だが、神浦元彰氏のJ-r.comの9月25日の項には産経本紙に掲載された「中朝条約軍事同盟部分削除を 中国研究機関核放棄に圧力」という記事が紹介されている(Sankei Webには未掲載)。自動参戦条項がなくなれば、アメリカは北朝鮮核施設を攻撃しやすくなる。

 Sankei Webの「中国呉氏の訪朝、無期延期 6カ国協議メド立たず」によると、今月末に予定されていた中国No.2の呉邦国中国全国人民代表大会常務委員長の訪朝が無期延期になったそうである。同記事から引く。

 中国は六カ国協議の早期開催に向け、米日など関係国と協調、今月初旬、日韓を訪問した呉邦国委員長も両国首脳との会談で、早期開催の必要を説いていた。呉氏は、訪朝時に北指導部に対し早期開催受諾を説得すると伝えられたが、北側がこれを嫌い、受け入れを拒否した可能性がある。

 この調子だと、中国から北朝鮮へ向かうパイプラインがまた「故障」するのだろうか。

追記:26日未明に北海道・釧路沖を震源とするM8.0の地震が発生した(Mainichi INTERACTIVE)。

 東海アマチュア無線地震予知研究会地震予知情報の9月23日の項にこうある。

 本日、午前6時段階の中村区では極めて危険な宏観。東方の広い範囲で強い赤焼けが発生し、雲底も高い。高層雲に、東関東〜北海道の流れが見える。数日中に、東北太平洋岸〜北海道でM5〜7の発生を予想する。下記、仙台前兆ネットの地電流に対応した地震は、今のところ千葉沖M5.5だが、このレベルよりはるかに強い地震になりそうだ。明日から26日くらいまで。

 9月24日夜の時点で読んだが、この通りの記述だったと記憶している(保存しておけばよかった)。予知は当たったといっていいのではないだろうか。

Sep26

 安部公房の没後10年にあたる今年、京王線芦花公園の世田谷文学館で、「安部公房展」が開かれる(9月27日〜11月3日)。内覧会で一足早く展示を見ることができたが、せたがや文化財団の設立記念ということもあって、これまでの展覧会をしのぐ内容で、時を忘れて見いった。

展示風景

佐伯彰一館長
佐伯彰一館長
サイデンステッカー氏
サイデンステッカー氏

 開会レセプションではまず、安部公房と親しかった世田谷文学館館長の佐伯彰一氏が、最近では廃れてしまった「世界文学」概念の復興という視点から安部公房再評価の必要性を訴えた。安部公房の後輩にあたる辻井喬氏は乾杯にあたり、公私にわたる思い出を語り、感慨深そうだった。

コリーヌ・ブレ氏
コリーヌ・ブレ氏

 サイデンステッカー氏は安部公房=カフカという視点はつまらない、ルイス・キャロルとの比較で新しい面が見えてくると指摘し、コリーヌ・ブレ氏はモロッコで育ち、戦争を経験した生いたちが安部公房と重なり、安部先生と話していると深く癒されたと語った。

 今回の展覧会では図録が準備されているが、編集作業の遅れから初日には間に合わなかった。

 外国の寄稿者の原稿を中心に、一部を読ませていただいたが、これまでの安部公房研究史を書き換えるような充実した内容に目を見張った。

 世田谷文学館ではミュージアムショップで図録の通販をおこなっているので、東京にくる機会のない方はぜひ入手されることをお勧めする。

 佐伯館長は文化大革命がはじまった直後の1967年、安部公房が三島由紀夫と語らい、それぞれの師にあたる石川淳川端康成と連名で「中国文化大革命に関し、学問芸術の自律性を擁護するアピール」を出したことを回顧し、今でこそ、文化大革命は世紀の愚行と評価が定まっているが、当時はまだ左巻き全盛時代で、文革を神聖視する言論人・文壇人が圧倒的に多く、アピールに対する風当たりがすごかったと語ったが、中国の文化破壊体質は今も変わらないらしい。

 Sankei Webの「技術的変更だとか…中国版元がヒラリー夫人の著書改ざん」によると、ヒラリー夫人のベストセラー『リビング・ヒストリー』の中国語版が刊行されたが、1989年に学生運動が軍に蹴散らされた天安門事件に関する部分は削除、アメリカに亡命した中呉弘達氏を「中国で19年間投獄された人権活動家」と紹介した部分はただの「スパイ容疑者」と書き換えるなど、政治的な改竄をおこなっているという。

 版元のサイモン・アンド・シュスター社の抗議に対し、中国側は「より多くの中国人読者を獲得するための技術的変更」で作品の価値を損ねていないと反論したとか。

 asahi.comの「中国共産党、政治改革めぐる意見発表禁止を指示」によると、中国共産党は大学や研究所、メディアなどに対し、政治改革に関する論文や意見を勝手に国内外で発表しないように指示し、さらに一党独裁、社会主義など触れてはならない項目を指定したという。

 ネット関係でも、北京の情報当局は政治改革などについての記事を掲載した四つのサイトを閉鎖したそうである。中国は経済が資本主義化したといっても、政治的には依然として一党独裁の社会主義国であることを忘れないようにしよう。

Sep27

 「トルコ三大文明展」を見てきた。混んでいたが、おそろしく見ごたえがあった。

 小アジアははじめて鉄器をつくったヒッタイト文明発祥の地で、以後、世界史の中心でありつづけたが、この展覧会は小アジアに本拠をおいた三つの帝国、ヒッタイト、ビザンツ、オスマン・トルコにスポットライトをあてている。

 ヒッタイトとビザンツも独立の展覧会ができるくらいのものが並んでいたが、なんといっても最後のオスマン・トルコ時代の展示品がすごかった。大粒の宝石をちりばめた絢爛たる武具がずらりと並び、妖気すらただよっている。宝石に興味などなかったのだが、周囲に影響されたのか、見ているうちにどんどんハイな気分になっていき、動悸まで打ってきた。宝石が人を狂わせるというのは本当である。

 最近、イスタンブールを舞台にしたピエール・ロチの『アジヤデ』を読んだのだが、こういう世界を描きたかったのかと納得した。

 この展覧会は文字フリークにとっても見のがせない。ヒッタイトの部屋には粘土板文書が多数展示されていた。楔形文字の実物をはじめて見たが、5mm角か、それ以下で、こんなに小さいとは思わなかった。しかも、びっしり刻みつけられている。楔形文字を刻みつける金属篦も展示されていたが、こんな文字を読み書きするのでは書記は大変である。

 オスマン・トルコの部屋では皇帝の花押入り文書が照明を落としたコーナーに展示してあったが、ただただ嘆息するしかない「工芸品」である。火炎のようなアラビア文字の曲線は、ヒッタイト時代の儀式用土器の曲線に似ている。

 このコーナーはすいていたのでじっくり見ることができたが、真ん中に巨大な花押が鎮座ましまして、下の方にアラビア文字が唐草模様と見まごうような装飾的な書体で書かれている。土地を下賜するといった現実的な文面なのだが、美の力によって圧伏しようという意志があからさまだ。日本の女房奉書と比較したらおもしろいかもしれない。。

Sep28

 CNETに「感情表現にお国柄?-アジア携帯メール事情」という記事が載っている。

 昨年12月、ドイツのジーメンス社がインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、インドに住む1400人を対象に実施したSMS(ショートメッセージサービス)に関するアンケートの結果を紹介したもので、「I love you」というテキスト・メッセージを一番よく送るのはフィリピン人で、次がインドネシア人、逆に控えめなのはインド人とシンガポール人だそうである。フィリピンでは別れるためにも、SMSが使われるという。。

 どうも内気なアジア人がメールでどう変わるかという趣旨のアンケートのようである(オリエンタリズムまるだし)。「東南アジアの若者は読書よりもSMSのやりとりを好み、特に15歳から19歳の若者層にはこの傾向が顕著に見られる」としているが、こういうことは東南アジアに限られたことではなく、全世界的な傾向ではないか。

 次の一節は気になった。

 SMSのユーザーは、感情を表す絵文字を使うことに魅力を感じており、また絵文字の利用は、アジア人の元来内気な性格に合っているようだ。

 絵文字の流行は日本だけではないのだ。当然、システム外字として実装されていると思うが、各国ではどういう絵文字が使われているのだろうか。絵文字は文化依存性が高く、流行に左右されやすいが、今のうちに整理しておかないと大変なことになるだろう。

 週末のニュース番組は軒並み慈恵医大青戸病院の素人内視鏡手術を特集していたが、手術に手術器具の業者を立ちあわせ、「この道具はどう使うの?」と聞きながら執刀したというのだから、唖然茫然である。ネット上の記事では東京新聞の「青戸病院事件 血液不足は執刀医判断」がいい。

 すこし前、看護婦が手術台の患者に「先生は一度も手術の経験はないけれど、教科書でちゃんと勉強したから大丈夫ですよ」と話しかけるCMがあったが、ああいうことが実際にあったわけである。

 リーダーの執刀医は内視鏡手術は二例、助手として立ちあったことがあるだけだそうだ。38歳になるのに2例しか経験していなかったので焦っていたということらしい。日本の医学界の場合、大学ごとに手術の段取から用語まで夥しいローカル・ルールがあって、他の大学の先生のテクニックを学ぼうにも学べないという話を聞いたことがあるが、このあたりはどうなのだろう。

Sep29

 電子書店パピレスは10月2日から携帯電話用電子書籍のダウンロード・サービスを開始し、3000点の作品のうち著作権の切れた1000点については無料で公開するという(Mainichi INTERACTIVE)。

 携帯電話用書籍は新潮ケータイ文庫などがすでに人気を博しており、小さな端末で読むことを前提に書かれた豆短編編というジャンルが生まれつつあるが、ライフメディアの開発したフォーマットでデータを圧縮するので、文庫本一冊が200kバイト程度におさまり、携帯電話本体だけでも数冊分が保存できるとのこと。専用読書ビューアー「携帯書房」で読むことになるが、縦書表示もできるようである。当面はKDDIのauだけだが、近い将来、J-フォンにも拡大の予定。

 技術の進歩で、携帯電話でも既存の作品が読めるようになるのは悪いことではないが、わざわざ携帯の画面で長編小説を読もうという人がどれだけいるだろうか。Σbookと同じで、前提から間違っているような気がする。

 また万景峰号が来るが、韓国のシンクタンク、統一研究院は「兵役義務に対する懐疑により、北朝鮮軍兵士の逸脱が深化しており、2001年から2002年の間、食糧難による兵士の逃走が約1万5000人余発生したと推定される」と発表した(朝鮮日報日本版asahi.com)。

 2年で1万5000人という数字は素人目にも多いと思うが、神浦元彰氏は「異常」な数としている(J-r.com9月27日の項)。

 「先軍政治」といえども、下層兵士には食料は回ってこないらしい。朝鮮日報日本版から引く。

 また、最近は食糧や各種に必需品の補給が遅れていることから、北朝鮮軍兵士たちが軍部隊周辺の住宅やチャンマダン(農民市場)で食べ物を盗んだり、故障した兵器を再度組み立て、中国に密輸していると伝えられた。

 北朝鮮兵士が中国側に越境し、犯罪を犯しているという報道があったが、食いつめた下層兵士なのだろう。

 北朝鮮の最高人民会議が3月に「軍事服務法」を採択し、国民皆兵に踏み切ったのも、脱走兵増加による兵力減少を防ぐためと見られている。崩壊前のソ連でもこういうことはなかったと思う。

 その一方、平壌では1980年代以前に建設された目抜き通りの建物を大々的に改修、補修していて、1階にショーウインドーを作るように行政指導しているという(「平壌市内の建物にショーウインドーを設置」)。

 将軍様のロシア・中国訪問には都市設計専門家が同行し、都市開発計画と建築技術を学んできたそうだが、いくら見てくれをきれいにしても、李佑泓の『暗愚の共和国』にあるように、一枚めくれば欠陥建築だらけだろう。無駄なことをするものだ。

Sep30

 ZAKZAKの「拉致家族帰国日まで記した仰天“政局カレンダー”」によると、総選挙の投票日と目されている11月9日までの政治日程を「予言」したカレンダーが永田町にでまわり、話題になっているという。

 「予言」が大真面目に受けとめられているのは、かつて政局を左右した「竹下カレンダー」という前例があり、出所が総裁選で独特の動きをした「小泉純一郎首相に近い自民党の大物幹部」だからだそうである(森前首相あたりか?)。

 これからの主な「予定」を抜きだしてみる。

 このカレンダーで一番目を引くのは、ブッシュ訪日をはさんだ自衛隊の年内イラク派遣表明と、拉致被害者家族の帰国である。ブッシュ大統には年内派遣というお土産をもたせて帰す必要があるが、そんなことをしたら自民党の負けは必至なので、拉致被害者家族の帰国という大きな花火を打ちあげようというわけだろう。

 夕刊フジ編集部の取材に対し、北朝鮮担当の公安幹部はこう答えたという。

「確かにそういう情報は入手しているが、官邸主導なので、我々は裏付けは取れない。拉致問題で福田康夫官房長官と意見の違いがあったタカ派の安倍氏が幹事長として閣外に出たことで、ハト派の福田長官−田中均外務審議官のラインが水面下で激しく動いているのかもしれない」

 どこまで信憑性があるかわからないけれども、被害者家族が帰国できること自体は結構なことだが、北朝鮮のことだから、ただでは帰さないだろう(政局カレンダーの示唆するように、小泉政権は足元を見られている)。平壌放送は、今日になって、今月起きた新潟の女子中学生連れ去り事件を報道したが、これがまた妙な歪曲をほどこしているという。日本の警察は当初、事件を隠そうとしたが、拉致された女子中学生が自殺したために、事件の存在を認めなければならなくなり、日本が拉致を常習とする国家だということを暴露したとかなんとか……。

 「殿下の御館」の9月30日の項によると、拉致問題をめぐって、朝鮮総聯が韓国系の民団を攻撃しているという。民団の「緊張感高める北韓核開発…日本人拉致は犯罪行為」の「3、日本人拉致問題に対する本団の見解」に「貴団体は抗議の中で日本人拉致問題に言及し、「840万人の朝鮮人拉致、強制連行、従軍慰安婦」云々と問題の本質をすり替えるだけでなく、根拠の乏しい数字を持ち出し自らの言動の正当性を主張しようとしているが、本団は貴団体の率直な反省の一言半句もないことに、改めて失望せざるを得ない。」と、朝鮮総聯を批判した点に噛みついたということのようだ。分断国家の悲劇である。

 分断国家といえば、東西統一から13年たったドイツで、東ドイツの暗殺部隊に属していた元殺し屋が逮捕されたという(asahi.com)。

 元殺し屋は湖畔の町ラインスベルクで、貸しボート屋の管理人としてひっそり暮らしていたが、旧東独時代、シュタージの秘密殺人部隊の一員として、25名の殺害に関与したとみられている。ナチスの戦犯追求を思いださせるニュースだが、社会主義者の末路は大体こんなものである。

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