エディトリアル   March 2009

加藤弘一 Dec 2008までのエディトリアル
Apr 2009からのエディトリアル
最新へ
3月3日

「肉屋」

 渋谷のシネマヴェーラで「シャブロル三部作発売記念紀伊國屋レーベルを讃える」というシリーズがはじまった。紀伊國屋書店はミニシアターにかかるような渋い映画をこつこつとDVD化してくれているが、シャブロル三部作の発売を機にトリビュートしようということらしい。よくわからないが、映画館になかなかかからないマイナー作品を上映してくれるのは結構なことである。

 シャブロル三部作というのは1968年の女鹿」、「不貞の女」、1970年の「肉屋」だが、資料を見るかぎり、当時シャブロル夫人だったステファーヌ・オードランが主演していること以外共通点は見当たらない。現物を見れば、何かしかけがあるのかもしれないが。

 ステファーヌ・オードランって誰だろうと思ったら、「バベットの晩餐会」でバベットを演じた女優だった。「いとこ同志」にも出ていたようである。

 物語は南仏の山奥の村の結婚式からはじまる。新郎は村の小学校の教師で、新婦は村の娘。小学校の校長はエレーヌ(ステファーヌ・オードラン)という独身の女教師で、やたらに色っぽい。隣の席になった肉屋のポポーヌ(ジャン・ヤンヌ)は彼女に一目惚れしたらしく、早速言い寄りはじめる。

 エレーヌは小学校の二階に住んでいる。『グラン・モーヌ』や『ふたつの旗』には校舎の上が宿舎になっている田舎の小学校が出てくるが、1960年代のフランスにはそういう学校が残っていたのだ(今もある?)。

 ポポーヌはおいしい肉を手にいれたとか、壁を塗り直そうとかと言ってはエレーヌの宿舎を訪れるようになる。彼は今は父親の肉屋を継いでいるが、若い頃は父親に反発し、軍隊にはいってインドシナに駐留していた。インドシナでは残虐な光景を目撃していたらしい。

 エレーヌとポポーヌが親密になっていくおり、近くの森で少女が殺され、のどかだった村に警察がはいってくる。犯人は森に出没する放浪者だろうと見られていたが、捜査が進まないうちに第二の事件が起こる。エレーヌは生徒を連れて壁画のある洞窟に遠足にいったが、開けたところで弁当をひろげたところ、崖の上から血がしたたりおちてきたのだ。

 今度の被害者は同僚の教師の新妻だった。死体を見つけたエレーヌはポポーヌに贈ったライターと同じライターが落ちているのに気づくが、とっさに隠してしまう。ポポーヌは果して犯人か。

 全体にゆるい映画で、サスペンスっぽくなるのは最後の15分間だけだ。サスペンスよりも女校長のミスマッチな色気が売りだろう。はっきり言って凡作だが、プロジェクター上映のせいか映像もボケボケである。

Amazon

「メトロポリス」

 フリッツ・ラングの代表作で、映画史に残る傑作とされているが、3時間近い長尺だったために、封切直後から短縮版が複数作られ、オリジナルが残っていないといういわくつきの作品でもある。

 さまざまなバージョンが出まわっているが、紀伊國屋がDVD化したのはドイツのムルナウ財団がデジタル復元し、2001年のベルリン映画祭で公開したバージョンで、118分の長さがある。ワン・コインDVDのWHD版は119分で世界最長ということだが、1分の違いが何なのかは確認していない(実質的な違いはない可能性もある)。

 音楽は適当な曲がつけられてきたが、ムルナウ版はオリジナルのために作曲されたゴットフリート・フッペルツの曲を使っており、音楽の面でも最も忠実な版になっている。DVDには特典ディスクがつき、「メトロポリス」をめぐるドキュメンタリー映像が収められているということだが、それは上映されなかった。

 見て驚いたのは画質の素晴らしさである。公開時と見まごうほどで、デジタル修復の威力をまざまざと感じた。

Amazon
Oct 2008までのエディトリアル
Apr 2009からのエディトリアル
最上段へ
Copyright 2008 Kato Koiti
This page was created on Dec14 2008.
サロン ほら貝目次