エディトリアル   Jul 2003

加藤弘一 Jun 2003までのエディトリアル
Aug 2003からのエディトリアル
Jul01

 7月からamazon.co.jpが家電製品の販売をはじめた。これにあわせて、アソシエイトに「グレードアッププラン」という制度が新設された。

 アソシエイトというのは、Amazonの商品に自分のページからリンクをはり、そのリンク経由で商品が売れると、紹介料がもらえるという制度である。紹介料は販売点数にかかわりなく一定だが、「グレードアッププラン」を選択すると、販売点数が多いほど紹介料率がよくなる。ただし、四半期(三ヶ月)あたりの販売点数が12件までは率が悪くなり、30件までは現状のまま、率が上がるのは31件以上のサイトだけである。

 おやと思ったのは、「各グレードには、メディア以外の商品(本、洋書、音楽、ビデオ、DVD以外の商品)の最低販売数が設定されています」という条項である。単に販売点数が多いだけでは駄目で、自分のサイト経由で家電製品が売れなければ、「グレードアッププラン」のメリットはない。要するに家電製品の販売促進策であり、拙サイトには縁のない話だった。

 もともと、拙サイトで発生する紹介料は多くはない。一ヶ月あたり千円前後、年にすると1万円をやや出る程度だが、金額的にはともかく、アソシエイトをやると、読者の関心を推測する手がかりが増えるというメリットがある。

 レポートセンターというページがあって、そこにアクセスすると、自分のサイト経由で売れた商品と数量だけでなく、空振りした商品(クリック・スルー)までわかるのである。買わないまでも、わざわざクリックしたわけであるから、単なるページ・ビューより関心の度合が高いはずである。

 たとえば、DVDのページでは『ジア 裸のスーパーモデル』のアクセス数が一番多いのだが、リンクをクリックする人はあまりいない。サーチ・エンジンからジア・キャランジのヌード写真目当てで来訪する人がほとんどだからだろう。

 安部公房関係と拙著を除いた4〜6月のクリック・スルーのベスト10は以下の通り(売上の方は数がすくなくて、ベスト10の体をなさない)。

  1. 韓国併合への道
  2. 浅間山荘事件の真実
  3. 恋は水色
  4. 戦場のピアニスト』原作
  5. 日韓大討論
  6. 『攻殻機動隊1.5』
  7. 連合赤軍「あさま山荘」事件
  8. 北朝鮮消滅
  9. フランドルの呪画のろいえ
  10. 北朝鮮本をどう読むか
  11. リリイ・シュシュのすべて

 政治がらみの本の関心が高いことがわかるが、販売点数はあまりない。政治は話題の一つで終わるということか。

 褒めるとクリック数が多くなるといわれているが、メリー・ホプキンよりも、ヴィッキーの『恋は水色』のクリック数が5倍以上あったり、徹底的にこきおろしている『北朝鮮本をどう読むか』のアクセス数が多いところをみると、別の要素がありそうだ。

 ということもあって、5月に模様替したエディトリアルについて、アンケートをとらせてもらうことにした。6月分を毎日採点していただくので、かなり手間のかかるアンケートだが、ご協力願えれば幸いである。

Jul02

 このところ高速ADSLの発表があいついでいる。わがNTT東日本も24Mbps超のサービスを今月末からはじめるとアナウンスしているし、赤装束集団は26Mbpsを謳っている。

 先月、1.5Mから12Mモアに乗り換えたばかりなのだが、モデムはレンタルなので、24Mコースに変更することは可能である。工事費はせいぜい数千円か。

 しかし、すぐに再手続という気にはなれない。24Mと称していても、どこまで速度が出るか、怪しいからだ。

 12Mモアにしてちょうど1ヶ月になるが、使用感的には不満はないものの、速度測定サイトで計測してみると、12M超どころか3Mbpsがやっとである。変更前は500kbps前後だったから、5〜6倍速くなっているのだが、公称の1/4も出ていない。24Mに乗り換えても、5〜6Mbps程度だろう。

 はじめてADSLにした時点では900Kbps前後出ていたはずなのだが、2年で速度が半減してしまった。安物のルーターをかませているせいで、速度があがらないのだろうか。

 近所に赤装束の会員がいると、電磁波の干渉で速度が出ないという噂があるが、どうなのだろうか。赤装束のモデムがアマチュア無線と干渉して、速度低下をまねくという報告がある。そのうち、電磁波干渉を防ぐお呪いシールをくばりだすかもしれない。

 もっとも、不満なのは数字だけで、使う上では満足しているから、光回線が安くなるまではこのままでいきそうである。

追記:ZDNetに「「20MbpsオーバーADSL」と書くのもはばかられる24M ADSL」という記事が載った。8万件以上の統計をとったそうだが、結果を抄出すると、

業者 最大 平均
NTT東 13.92Mbps 4.09Mbps
NTT西 15.75Mbps 4.84Mbps
Yahoo! BB 20.99Mbps 4.77Mbps

 実態はこんなものだったのだ。我が家の12Mコースで3Mbpsという数字はまあまあのようである。(Sep14 2003)

Jul03

 携帯電話に勝手に送りつけられる迷惑メールで、spam()はコンピュータに縁のなかった人にも知られるようになった。MessageLabsによると、英国で6月に往来したメールの55%がspamだった。spamがなくなれば、メールのトラフィックは半減するわけである。spamが個人にとって迷惑なだけでなく、インターネット全体の重荷になっていることは明らかである。

 spamが社会問題化したおかげで、spam業者のアドレスから来たメールを遮断するサービスが一般化したし、アメリカではspamに重い刑事罰を課する反spam法が検討されている。

 こうなると敵もさるもので、ブラックリストに載っていない他人のコンピュータに侵入し、spamを送信させるケースが増えてきた。ZDNetの「そのPCはスパム送信に使われている」によると、20万台のコンピュータが持主の知らない間にspamの片棒をかつがされているというし、MessageLabs社の「コンピュータ・ハイジャックがspam業者の新手口に」では、家庭の常時接続のコンピュータが狙われていると警鐘を鳴らしている。

 Palyh、Mankxといったウィルスが疑われているが、こうしたウィルスはデータを消すとか、クラッシュさせるといった目に見えた症状は起こさない代りに、感染したマシンにバックドアを作ったり、オープンプロクシーサーバーを密かに組みこんだりして、spamの発信元に仕立てるわけである。

 今、もっとも怪しいウィルスはSobigである。「スパム業者が仕掛ける? Sobigウイルス亜種」によると、このウィルスはパソコンを1時間あたり数百本のspamを転送する中継マシンに変えてしまう。

 このウィルスの蔓延にspam業者がかかわっていると疑われているのは、流行パターンが独特だからだ。「ウイルス作成が「ビジネス」になる……?」によると、一連のSobig系ウィルスは感染期間がわずか2〜3週間と限定されている代りに、次から次へと新しい亜種が投入されているという。

 それぞれの亜種は単一の設定された作業(例えば、400万件のメールアドレスにスパムを送信するなど)を行い、そして活動を停止する。私はちょうどこの点が気になっており、Sobigの作者に、新しい亜種をすぐに開発するよう何者かが資金提供をしているかもしれないと勘繰っている。これらのSobigの亜種はなぜ、発生してからすぐに拡散をやめ、次の亜種に置き換えられるというプロセスを繰り返しているのだろうか?

 時評子が指摘するように、これはどう考えても趣味のウィルスではない。ウィルス製作は愉快犯的な悪戯から営利事業に変る節目にさしかかっているのだろうか。

:spamはNew Oxford Dictionary of Englishに、1998年版から、「迷惑メール」という意味ではいっているそうだが、もともとはHomel Foods社の出している加工豚肉の缶詰の登録商標である。食べたことはないのだが、安いのが取柄のコンビーフ様の食品で、おいしくはないらしい。

 ZDNetの「スパム? SPAM? 迷惑メールめぐる「名前」騒動」によると、Homel Foods社は商標に悪いイメージがつくのを防ぐために、迷惑メールを指す場合はSPAMではなく、spamと綴ることをもとめ、迷惑メール対策ソフトに、SPAMを中傷するような名称をつけた企業に対しては訴訟を起しているという。(Jul05)

Jul04

 今週、7月6日にホームページ改竄を競う国際的なクラッキング・コンテストがおこなわれるというニュースがネットを駆けめぐった。たとえば、CNETの「週末、大規模なハッキングコンテスト開催か」、ZDNetの「Mac OS、AIX、HP-UXが狙われる――「国際ハッキングコンテスト」で被害のおそれ」など。

 警報を発したのはアメリカのセキュリティ専門会社、ISSで、同社はホームページ改竄を得意とするクラッカーたちが集まるwww.defacers-challenge.comというサイトで、コンテスト参加を呼びかけるメッセージを発見したという。

 ホームページ改竄はイラク戦争開戦前後に頻発した。F-SECUREのIraq war and Information Securityでは、改竄されたページの画面写真が展示されており、一見の価値がある。

 笑ったのはサーバーの種類によって得点が違うことだ。CNETによると、

 Windowsが稼動するウェブサーバは、これまでに最も頻繁に標的とされてきたが、比較的簡単にクラックできてしまうため、今回のコンテストでは与えられる得点が最も低く、大量の攻撃を免れる可能性が高い。

 マイクロソフトの担当者は、どんな顔をしてこのコメントを読むだろうか。

 一番早く6000点に達したクラッカーには、無料でサーバーを使える権利が授与されるというのだが、一方、この警告はフライングである疑いが出てきた。ZDNetの「「Webサイト改ざんコンテスト」は稚拙な冗談? 」という続報によると、ISSが発見したメッセージが出ていたブラジルのサイトはもともとレベルが低く、出来あいのクラッキング・ツールでクラックのまねごとをするチンピラ(スクリプトキディー)しか来訪していないという。ZDNetの取材に対し、ブラジルのアンダーグラウンド・サイトをよく知る元クラッカーは「私はブラジルの改ざん者たちと連絡を取っているが、彼らの話ではこのコンテストは冗談だ。(ISSのアドバイザリは)8歳のテロリストに対して警戒警報を発しているようなものだ」と語っている。

 問題はいくら冗談だったにしても、影響力のあるサイトで大々的に報じられたことでコンテストの知名度が上がり、寝た子を起す結果になりかねないことだ。

 6日に何が起こるのだろうか?

Jul05

 期末試験の季節だからか、人民网日文版に「大学で「カンニング道具展」を開催、反響を呼ぶ」という記事が載った。

 中国のカンニング道具というと、宮崎市定の『科挙』に写真が載っている、四書五経を微細な文字でびっしり書きこんだ襦袢を思いだす。あそこまでいくと文化財だが、科挙は本人のみならず、一族の命運がかかっているので、妄執というしかない道具まで作られたのである。

 現代の中国ではどんなカンニング道具が使われているのだろうと興味を引かれたが、こんなイベントをやると、カンニング法を広めることになり、けしからんという趣旨の記事なので、おもしろい話はなかった。

 ちょうど某所の期末レポートを読んでいるところなのだが、ネットで公開されているWWWページをコピー&ペーストして送ってくる学生がすくなからずいる。

 最近、デジタル万引が話題になっているが、これはさしづめデジタル・カンニングであろう。

 メール提出なので、コピー臭いなと思ったら、検索すれば、一発でコピー元がわかる。検索文字列を長めに選び、変えている可能性がある文末をはずすのがコツである。デジタル・カンニングは簡単だが、見破るのはもっとたやすい。

 本の一部を丸写しして送ってくる学生はインターネット以前からいたし、今でもいるが、手で書き写したり、打ちこんだりすれば、多少とも理解が深まるわけで、点数をあたえるのは仕方ないと思っている。

 WWWページのコピーの場合は一瞬でできてしまうが、コピーであっても、元の文章を上手に間引いてあれば、それなりの点数をつけることにしている。理解していなければ、的確な要約はできないからである。しかし、一字一句同じ場合は零点にする。

 理解できないのは、「ですます調」の文章と「である調」の文章を、文末すら変えずに、そのまま貼りつけて送ってくる学生である。

 今回、一人いたのであるが、三の段落からできていて、最初が「ですます調」、二番目と三番目が「である調」とちぐはぐである。二番目と三番目は文体と立場が違い、どちらも読んだ記憶があった。

 Googleで検索したところ、二番目と三番目はやはり読んだことのあるページで、対立する立場の人が書いていた。二つの文章が水と油だということすらわからずに切貼りしていたのである。

 こういう学生には単位を出したくないのだが、出席がいいし、発表もしているので、通さざるをえないだろう。

Jul06

 拉致被害者家族会と救う会は拉致問題を口実に、不明朗な街頭募金がおこなわれていると注意を呼びかけた。

 この問題については、6月21日()放映のNTV「報道特捜プロジェクト」がとりあげている。途中からしか見ておらず、番組ホームページの更新が5月で止まっているので、うろ憶えで書くが、こうした団体はいくつかあり、そのうちの一つで、新宿西口で活動している団体は三宅島島民の救済を口実にした募金活動もおこなっていた。どちらの募金も大部分が「経費」に使われ、実際に被害者に届けられたのはごく少額(確か数パーセント)だったという。「経費」の比率が異常に大きいことは、その団体の責任者も認めていた。

 この放映の10日ほど前、まさにこの団体に、新宿西口地下広場で署名し、募金したのだが、署名していると「千円以上でお願いします」と強引に金額を押しつけてきた。署名簿には寄付の金額を書く欄があり、みんな千円払っている。成りゆき上、払ったのだが、ボランティアというより、宗教団体臭いなという印象をもった。放映後、この団体は地下広場から消えていた。

 番組ではどこだかの難民救済を口実に「募金」をしている団体の実態も取材していた。政治とは無関係と称していたが、実は「緑の党」という政党の別動隊で、集めた金の「一部」は「緑の党」の名義で寄付されていた。

 この団体も「経費」の比率が大きく、大部分は募金活動をしている会員たちの生活費にあてていたらしい(彼らはほとんどタコ部屋状態で暮らしているのだが、なぜそんなことをしているのかまでは追及していなかった)。

 最近は見かけなくなったが、一時期、托鉢僧がやたらと目についた。本物の托鉢僧は僧衣が擦り切れていたりして、生活感がにじみ出ているものだが、彼らは借着のようなパリッとした僧衣に、顔が見えないような大きな編笠をかぶり、黙りこくって街頭に立っていた。あれもアルバイトにやらせているインチキ募金だったというドキュメント番組を見たような記憶がある(こっちも「報道特捜プロジェクト」だったと思うのだが、番組ホームページでは記録を見つけることができなかった。週刊誌か何かで読んだのだろうか)。

 拉致問題で積極的な発言をしている「殿下の御館」の7月6日の項で、ニセ募金をとりあげているが、マスコミの怠慢を批判した条は、こうした番組があるのだから、勇み足だろう。ただ、「報道特捜プロジェクト」はあまり視聴率の高そうな番組ではないし、番組ホームページの放映記録にも載っていないので、御存知ないのも無理はない。番組担当者は、放映記録は公共財だという自覚をもって、きちんと更新してほしい。

追記:勝谷誠彦氏の××な日々の7月7日の項からリンクされている「??署名・募金活動??」に「情報特捜プロジェクト」に関する紹介があった。画面キャプチャつきで、うろ憶えのわたしの要約よりも詳しいので、ぜひご覧いただきたい。

 放映日を当初、14日と書いたが、上記ページによると、21日だった。21日かなとも思ったのだが、放映記録によると他の月が15日前後だったので、14日にしてしまった。老化現象である。

Jul07

 Jul04の項で紹介したホームページ改竄コンテストは不発で終わるかに見えたが、CNETの「ハッキングコンテストの結果は霧の中」によると、改竄成功を報告するエストニアの中立サイト(Zone-H.org)がダウンしたそうである。

 コンテストの結果を知りたい野次馬が殺到したこともあるだろうが、ZDNetの「ネット戦線異状なし――サイト改ざんコンテストの被害最小」によると、クラッカーによる攻撃もあったらしい。プロレスではあるまいに、レフリーに襲いかかるとは。

 レフリーがダウンしてしまったので、改竄されたサイトの正確な数はわからないが、記録されたものが500サイト、未記録分をふくめても1000サイトにはとどかず、YahooやAmazonのような有名サイトは無事だった。この数字は普段の日曜日と変らないという。

 有名サイトが攻撃をはねかえし、一部に流れていた2〜3万サイトが被害にあうという予想がはずれたのはめでたいが、毎日曜日、4桁に達するサイトが改竄されているとなると、よろこんでばかりもいられない。

Jul08

 「金正日秘宝館」の掲示板で将軍様グッズが紹介されている(ごーるどふぃんがー氏の7月8日付書きこみ)。Tシャツは似ていないが、腕時計はいい線いっている。

 「金正日秘宝館」は一國堂氏の主宰する北朝鮮関係ポータルで、その方面では有名なサイトである。情報が豊富で早いので、毎日チェックさせてもらっていたが、アクセスすると、にこやかに微笑まれる将軍様の御真影が出迎えてくださり、慈愛あふれるご尊顔を拝見するのが楽しみになっていた。残念なことに、本館サイトは6月いっぱいで削除され、ルーマニア・ドメインの掲示板だけが残っている。

 ルーマニア・ドメインはxxx.roという形式をとる。韓国語ではroは「……へ」にあたる助詞なので、ルーマニア・ドメインをとるのが流行っているという。日本で「……と」にひっかけたトンガ・ドメイン(xxx.to)が人気なのと似ている。

 掲示板によると、一國堂氏は7月2日に韓国のレンタル・サーバーと契約して本館を再開したものの、将軍様のうるわしき御真影が韓国の法律に触れ、2時間で削除されてしまい、再開のめどは立っていないということである。「外患誘致扇動罪」というすごい名前の法律があるそうだが、それだろうか。

 なぜ韓国のサーバーにこだわるのだろうと思ったが、7月4日の書きこみで理由がわかった。ディスク容量300Mバイト、転送量1G/日で年額6,600円、ディスク容量200Mバイト、転送量1.5G/日で年額3,850円……日本やアメリカのサーバーよりも一桁安いのである。

 こんなに安いのなら、サーバーを韓国に移転しようかと一瞬思ったが、削除されかねない内容がこことか、そことかにあるので、やめにした。

 杞憂と思うかもしれないが、金完燮氏は『親日派のための弁明』を出版したために、閔妃の八等親(兄弟の曾孫くらいか?)が起こした死者に対する名誉棄損裁判で70万円相当の罰金刑を言いわたされている。

 曾祖父とか、曾々祖父あたりの名誉棄損を訴えることができるのだったら、近代史の研究など無理である。儒教の国、韓国でも、さすがにこんな判決は初めてだというが、こと日本がからむと、あの国はどうかしてしまうらしい。

 なにはともあれ、「金正日秘宝館」が一日も早く復活し、将軍様の御真影と再会する日が来ることを希望する。

追記:7月10日にhttp://nabi.woorihost.com/で「秘宝館」が再開した。削除を避けるために、「しばらくは将軍さま一切なしの無害コンテンツだけで運営します」よし。

Jul09

 長崎男児殺害の犯人が「補導」された。中学生らしいとはいわれていたが、12歳の1年生だった。3ヶ月前までは小学生だったわけで、数年前、「これから小学生の殺人事件が増える」と小室直樹氏が書いていたのを思いだした。新聞TVはこの話題でもちきりである。

 報道では「屋上から突き落とした」といわれているが、屋上には4歳の子供の身長より高い手すりがある。しかも、遺体が発見されたのは1.5mしか幅のない駐車場と塀の隙間である。「突き落とした」わけではないだろう(注)。

追記:11日付夕刊によると、高さ1.2mの手すりの上に男児の足跡が見つかったという。13日には、あらかじめハサミを購入し、生きているうちに陰嚢をちょん切ろうとした事実が明らかになった。犯行の模様をMainichi INTERACTIVEから引く。

 少年はあらかじめはさみを用意したうえで、子供が多い家電量販店のゲーム売り場に行き、駿ちゃんを誘拐。「お父さんたちは先に行った」などと言って市中心部まで連れ出し、優しいお兄ちゃんを演じて駐車場屋上に連れ込んだ。しかし直後に態度を一変させ、はさみで脅して服を脱がせたうえ、素肌を傷つけたとみている。はさみで出来たとみられるV字形の切り傷があり、屋上には少量の血痕が残っていた。しかし、駿ちゃんが騒いで暴れたため横向きに抱きかかえ、そのまま投げ落としたとみられる。

 やはり、突き落としたわけではなかった。もっとひどいことを、計画的にやっていたのである。(Jul11, Jul13)

 「極刑にしてほしい」という遺族のコメントが伝えられているが、少年法に守られているから、1年たらず(300日以内?)、自立支援施設(少年院にあらず)に収用されただけで、出てくるのだろうか。

 遺族はコメントに「反省しているのですか。自首する時間はいっぱいあったのではないですか。捕まらなければ同じ罪を何度も犯したのではないですか」と書いているという。警察は「補導」という形はできれば避け、両親に連れられて出頭してくる形にしようと、待っていたという報道もある。

 少年法の話になると、刑罰を重くしても犯罪抑止には役立たないという識者が必ず出てくる。平たくいえば、子供には見せしめ効果はないということだ。しかし、刑罰は見せしめ効果だけを目的にしたものではないだろう。

 映画『刑務所の中』には、刑務所が教育施設という建前で運営されていることがおもしろおかしく描かれている。刑務所生活のディティールに関してはほぼ事実らしい。

 近代的行刑制度は復讐刑から教育刑へ転換したことによって成立したといわれている。フーコーのいう牧人型権力というやつであるが、刑務官は「先生」と呼ばれることからもわかるように、教育者という建前になっている。

 だが、いくら教育者ぶっても、獄吏は獄吏である。『刑務所の中』が描いているように、監獄の中は教育とは名ばかりの不条理で滑稽な規則のオンパレードのようだ。規則が馬鹿馬鹿しければ馬鹿馬鹿しいほど、無理矢理守らせることで、遵法精神が養えるという考え方もあるが、最終的には刑務官の暴力が規則を担保している以上、懲罰という面があるのは否定できない。

 「グリーン・マイル」や「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のような死刑をあつかったアメリカ映画には、刑の執行に遺族が招待される場面が出てくる。あれはどう考えても、遺族に代って、国家が復讐しているのだ。遺族に復讐を禁じる以上、国家は遺族に代って復讐する義務があるという見方も成り立つのではないか。

 わたしは少年犯罪の厳罰化は必要だと思う。抑止効果があろうとなかろうと、遺族の無念をいくらかでも慰め、社会に対する人々の不信感を緩和することにつながると思うからである。

Jul10

 Jul06にニセ募金集団をルポルタージュしたNTVの「報道特捜プロジェクト」をとりあげ、「殿下氏の御館」の殿下氏に、問題を追究した番組もあったとメールを差し上げたところ、7月7日の項に拙サイトを紹介してくださった。殿下氏の論調には共感し、ほぼ毎日閲覧させてもらっているが、やや批判的な言及になった。それなのに、わざわざリンクしていただいたことに感謝している。

 「殿下の御館」は人気サイトなので、アクセス数があがることは予想していたが、8日にはとりこぼしのあるcounter.digitsのカウンターでも1000アクセスを越えた。団藤保晴氏いうところの「津波アクセス」である。

 「殿下の御館」はこれまで拙サイトをリンクしていただいたサイトとは傾向が違うので、閲覧者の属性の統計をとってみたところ、やはり利用するサーバーとアクセスのピーク時刻にかなりの違いがあることがわかった。

 拙サイトの場合、企業ドメインと大学ドメインの割合が高いのだが、「殿下の御館」経由の来訪者はプロバイダ経由が圧倒的に多い。また、拙サイトは通常、12〜14時の間にピークが来るが、津波アクセスの押し寄せた8日は7〜9時にピークが来た(ロボットでないことは確認)。

 「殿下の御館」の読者には、出勤前に自宅からアクセスする折目正しい人が多いのに対し、拙サイトの読者は概して朝寝坊で、昼食をだらだらとった後、会社からこっそりアクセスしているということだろうか。

 もちろん、これは「殿下の御館」のリンク経由で拙サイトに来訪した人の傾向であって、「殿下の御館」の読者の実態と一致するかどうかはわからない。

 アクセス数が増えることは嬉しいが、津波アクセスにはあまり期待しないことにしている。津波アクセスは何度か経験してきているが、拙サイトの場合、津波来訪者がリピーターになる率は1〜2パーセントらしいのである。

 一過性でも、そのコンテンツは読まれるわけだからいいじゃないかという人がいるかもしれないが、甘い見方である。

 それがわかるのは、目当てのコンテンツが直接リンクされていない場合だ。これまでの経験だと、来訪したページから目当てのページに1クリック必要な場合、コンテンツにゆきつくのは10人に1人である。2クリック必要な場合は100人に一人に減る。

 1クリックすらしなかった人は、直接、目当てのページに来たとしても、ちらと目を走らせるだけではないかと思っている(自分自身が、他サイトではそうふるまっている)。

 「殿下の御館」経由の来訪者は7日182、8日722、9日96、10日30である。このうち、7日夜(ログからすると、午後10時頃にリンクしていただいたようで、アクセス数が跳ね上がる)、来訪した方は7月6日付エディトリアルを読むことができたが、午前1時頃、エディトリアルを更新し、7月6日分は「7月分エディトリアル」(このページ)に移したので、それ以降の来訪者は1クリックしなければ読めなくなった。

 「殿下の御館」来訪者数と7月分エディトリアルのアクセス数を表にしてみる。

7 8 9 10 合計
御館経由 182 722 96 30 1030
7月分閲覧 25 100 28 25 178

7月分エディトリアルの通常の閲覧数は20〜25だから、その分を引くと、クリックする労をとった人は9%くらいである。本当に読む気のある人は1割という仮説は今回も妥当なようだ(ブックマークを登録した人数を調べることは可能だが、そこまではやっていない。これまでの経験では、数パーセントである)。

 今回の津波アクセスでは4日間で千人の方に来訪いただいたが、目当てのコンテンツを読んだ方は7日夜の182人と、8日以降の推定80人だけである。これが津波アクセスの実態である。

Jul11

 Googleのキャッシュが問題になっている。発端はニューヨーク・タイムスの有料化である。現在、ニューヨーク・タイムスの記事は会員登録をし、料金を払わなければ読めないが、有料化以前の記事はGoogleのキャッシュで読めてしまうのだ。CNETの「米グーグルのキャッシュ機能は著作権侵害?」、ZDNetの「Googleに新たな懸念――キャッシュ機能はWeb出版の敵?」など。

 Google側ではニューヨーク・タイムスの申しいれに直ちに対応し、ニューヨーク・タイムスの記事をキャッシュで読もうとすると、NYTimes.comに飛ばすようにシステムを変更するという。

 しかし、同様の問題をかかえているサイトは多い。大半の新聞社・通信社・出版社は一定期間がすぎるとコンテンツを削除したり、有料にしたりしている。ニューヨーク・タイムスにはすぐに対応したにしても、Googleがすべての新聞社・通信社・出版社に同じように対応するかどうかわからない(現に、今まで放置してきた)。

 いつかは問題になると思っていたが、一概にGoogleを批判しにくい事情もある。Googleのキャッシュのおかげで、削除されたWWWページを閲覧することができるからだ。

 金正日が日本人拉致を認めると、社民党のサイトや北朝鮮寄り言論人のサイトから、拉致などでっち上げだと書かれたページが一斉に削除されてしまった。しかし、Goolgeのキャッシュを使うと、読むことができたのである。

 また、中国は自国のサイトを規制しているだけでなく、反中国的な海外サイトを閲覧できないようにサイバー版万里の長城をめぐらしたが(といっても、単なるフィルタリング)、Googleのキャッシュを使うと簡単に破れるのである。

 中国は閲覧規制が尻抜けになるのを防ぐために、Googleへアクセスできないようにしたが、たちまちGoogleのミラーサイトが簇生し、Google規制を無効にするソフトまで登場した。

 Google側では、キャッシュ閲覧されたくないサイトのための対処法を公開している。この対処法をとっていないサイトは、キャッシュ閲覧を許可していると見なすという考え方である。

 これが一番現実的な解決法だと思うが、どうだろうか。

追記:似たような事例で、CNETの「検索エンジンでのサムネイル画像の表示は合法:米控訴裁判決」という記事があるが、こちらは内容が読めないような小さなサムネイル画像ならOKということで、全文の読めるキャッシュとは事情が違う。

Jul12

電子ペーパーをもつ面谷氏

 『紙への挑戦電子ペーパー』の著者の面谷信氏の研究室にお邪魔して、電子ペーパー研究の現状をうかがってきた。

 電子ペーパーはガラス越しには見たことがあるが、実物に手を触れ、曲げてみたのは初めてである。液晶型、電気泳動型両方の試作品を見せてもらったが、液晶型はセルロイド、電気泳動型はビニールに近い感触で、どちらも予想以上に軟らかい。重さは厚手のアート紙数枚分といったところか。

 電子ペーパーの研究者にはプリンタ屋とディスプレイ屋の二大派閥があるが、面谷氏はプリンタ屋とのことで、NTT時代に開発した写真画質のプリンタの試作機も見せてもらった。電子コピーの発展型だが、トナーを液体にしたことで写真画質が実現できたということである。

 面谷氏は電子ペーパーの開発だけではなく、CRTやLCDのどんな要素が目を疲れさせているのかという人間的側面も研究されている。CRTやLCDは発光体だから疲れるという説があるが、実験したところ、反射型液晶でも疲労度は変らないので、発光体かどうかは関係ないという。発光体説を無批判に信じていたので、虚を衝かれた。闇雲に紙に近づけるのではなく、紙のどんな要素を電子ペーパーにとりこむかを絞りこんでおく必要があるという指摘は、コロンブスの卵だった。

 では、なにが眼精疲労の原因になっているのか? まだ結論は出ていないが、目との距離を変えにくい点が一番効いている可能性があるという。このあたりは『紙への挑戦電子ペーパー』に詳しいので、興味のある方は一読をお勧めする。

Jul13

 「出会い系サイト規制法」についてはJun05の項でとりあげたが、一部の人だけの問題で、自分には関係ないと思っている方も多いだろう。

 ところが、そうも言っていられないのである。ホームページに掲示板を置いているだけで、「インターネット異性紹介事業者」になってしまう可能性があるからだ。

 警察庁は7月24日まで「インターネット異性紹介事業」の定義に関するパブリックコメントを募集しているが(「インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律における「インターネット異性紹介事業」の定義について」)、説明を見ていくと疑問の箇所が目につく。

 まず、料金をとらなくても、「インターネット異性紹介事業者」になるとしている点である。

「事業」とは、反復継続的に遂行される同種の行為の総体をいうものであり、営利の目的の有無を問いません。

 したがって、利用者から料金を徴収しているか否かにより「インターネット異性紹介事業」の該当性が左右されるものではありません。

 「想定事例についての質疑」の項目には15の事例があげられているが、交換日記サイトなどは確実にひっかかる。投稿に性別欄を設けているかどうかが目安だそうで、「異性交際」目的でなく、同じ趣味をもつ人を対象にした掲示板であっても、性別欄があればひっかかる。

 性別を問わず「友達や仲間に気軽になれるように」するものは、必ずしも「異性交際」を目的とするものとは言えないと考えられますが、この事例では、サイト開設者の運営方針として、プロフィール情報に性別の項目を設けていることから、「友達や仲間に気軽になれるように」という運営方針に反しない形で「異性交際」の相手方を探す目的で利用される可能性も考えられ、そのような目的で利用されている実態があれば、運営方針として「異性交際希望者の求めに応じ」ていると評価できる場合があります。

 性別欄を設けていなくても、安心はできない。次の回答をご覧いただきたい。

 そのサイトの客観的な実態に照らし、たまたまサイト開設者の運営方針に反して「異性交際」に関する情報が書き込まれたにすぎないのであれば、「異性交際希望者の求めに応じ」ているとは評価できないと考えられます。

 しかしながら、サイト開設者の運営方針として、「異性交際」に関する情報が書き込まれていることを放置し、積極的に許容していると認められれば、「異性交際希望者の求めに応じ」ていると評価できると考えられます。

 掲示板利用者が勝手に「異性交際」関係の書きこみをしただけであっても、「放置」していると警察が見なすと、「インターネット異性紹介事業者」にされてしまうのである。

 「出会い系サイト規制法」は業者のみならず、一般のホームページ開設者全般に網をかける法律だということが、これではっきりした。

 もちろん、警察は無闇に捜査したりはしないだろう。しかし、その気になれば捜査できるが、御目こぼししてやっている情況が広範に生れることになり、警察関係者の権益が格段に強化される。

 こういう悪法はただちに廃案にすべきだ。

Jul14

 人名用漢字が大幅に追加されることになった。

 今回の追加のきっかけになったのは「ジカダンパン」という番組で、確か赤ん坊に「舵」という名前をつけることができなかった若い親が番組に投書したのが発端だったと記憶する。番組から相談を受けた渡辺喜美代議士が「梨」はいいのに、自分の選挙区名産の「苺」が命名に使えないと知って怒りだし、法務省にねじこむという展開だったか。

 使える字が増えるのは結構だが、そもそも役所が子供の名前の付け方を規制すること自体がおかしいのだ。野口悠紀雄氏が『1940年体制』で指摘したように、1930年代後半以降、日本は社会主義者によって牛耳られてきた。すこしづつだが、社会主義の呪縛から脱しつつあるのはよろこばしい。

 と思っていたら、事態はもっと進んでいたようだ。「しにか」のメール・マガジン、「月刊しにか通信」第16号に、次のような条があるではないか。

 嵐:2つ目は――先月号で人名の漢字の特集を組んだじゃない。その後、札幌高裁で、人名用漢字の存在自体を揺るがしかねない判決が出た。

 円:人名用漢字に含まれていない「曽」の字が入った名前の出生届を受理しないのは違法とされた、例の判決だね。

 嵐:札幌家裁決定に続いてだよ。これ、もっと大ニュースになってもいいと思うんだけど。意外に静かだよね。

 円:次は最高裁で争われるだろうから、そしたら話題になるだろうさ。

こんな判決が出ていたとは知らなかった。

 あわてて検索したが、それらしいページはさっぱり引っかからない。唯一、見つかったのは「POP STATION2」という漢字とは縁のなさそうなサイトの日記に引用された6月23日付報道である。

◆ニュースを探せ!◆

 漢字の「曽」を使った子どもの名前の届けを不受理とされた札幌市厚別区の男性が、区長に受理するよう求めた家事審判の即時抗告審で、札幌高裁の山崎健二裁判長は22日までに、男性の申し立てを認めた札幌家裁決定を支持、区長側の抗告を棄却する決定をした。

 「曽」は子どもの名前に使える文字を列挙した戸籍法施行規則に含まれておらず、厚別区はこれを不受理の理由にしていた。規則にない漢字の使用を認める高裁判断は初めてという。区側は最高裁に抗告する方針。

 違憲判断を避けるために、法務省が「曽」を人名用漢字に追加するという姑息な逃げに出る可能性もあるが(省令による規制なので、簡単に追加できる)、最高裁が区の上告を棄却したらおもしろいことになる。

 赤ん坊つながりというわけではないが、世界最大のコンドームの写真を紹介する。「世界人口の日」を記念して、中国吉林市のホテルにかぶせたもの。ギネス・ブックに申請したそうな。

Jul15

 アンケート集計結果を報告する。

 現時点までの回答数は6で、エディトリアルの正味読者が100人前後と推定されることからすると、予想の範囲である。性別は男性5に対し、女性1。過去のアンケートの結果よりも女性の比率がややすくないが、回答数がすくないので、誤差の範囲だろう。これまでのアンケート結果から考えて、男性が過半を締めるのは「ほら貝」の読者層を反映していると思われる。

 年代は20代が3と多く、30代2、40代1とすくなくなるが、過去の結果からすると、「ほら貝」の読者層を反映しているかどうかは微妙である。今回のアンケートが一ヶ月分のエディトリアルを読んで、採点するという手間のかかるものだったことが影響しているかもしれない。

 文系・理系では不明の一人を除いて、全員文系だった。文字コードのコーナーの更新をやめたので、理系の読者が離れたのかもしれない。

 来訪頻度はばらついた。週一回という人が皆無というのは意外だったが、これも回答数がすくないせいかもしれない。

 「現在のようなエディトリアルについて、どうお考えですか? 」という設問は、はじめて来訪した人が「不明」をつけた以外、すべて「良い」だったが、「良い」と思わなければ、今回のような面倒くさいアンケートに回答してくれるはずはなく、この設問は意味がなかった。

 さて、問題の「毎日の採点」だが、評価の高かったものを以下にあげる。

6点
出会い系サイト規制法案
5点
視覚障碍者のためのポータル
北朝鮮には暴発能力がない?!
アマゾンのイゾラド

著者としても納得のできる結果である。

 評価が低かったのは以下の三つである。

0点
万景峰号来航中止
2点
見られていないかもしれない不安
大乗仏教のルーツ

 「万景峰号」と「見られていないかもしれない不安」は「つまらない」がついて点が減ったが、「大乗仏教のルーツ」は「関心なし」が多く、結果として評価が低くなった。読者の関心とずれただけで、出来は悪くないと思う。「『アフガン・零年』のヒロイン」の点数が延びなかったのも、読者の関心からはずれたせいだろう。

 これだけの回答数で何がわかるのかという疑問もあるが、読者の関心のありかがぼんやりとながら見えてきたし、「つまらない」がどこにつくかは参考になる。手間のかかるアンケートに回答してくださった方々に感謝する。

 アンケートは当分掲載しつづけるので、これから答えてくださっても結構である。

Jul16

 来月25日の住基ネット第二次稼働を前に関連ニュースが増えているが、asahi.comの「住基カード、利用足踏み」によると、これまでに住基カード使用条例を制定した自治体は45にすぎない(全自治体の1.4%)。住基カードの発行だけなら新たな条例は必要ないが、基本情報以外の情報を盛りこんだり、総務省が鳴物入りで宣伝している住基カードを使った独自サービス(図書館カードや商店街のポイント・カード、公共料金の決済、印鑑登録の自動交付等々)をおこなうには条例が必要である。

 一週間前のMainichi INTERACTIVE「カード発行枚数は300万枚 住基ネット」では90の自治体が独自サービスを予定しているとあったが、これから駆けこみで制定する自治体があるとしても、90にはとどかないのではないか。

 発行枚数だが、総務省では300万枚(全国民の3%)を見こみ、その分の国庫補助を予算化するようである(あくまで総務省側の「予想」であって、実際に何枚発行されるかはわからない)。

 住基カードは1枚2000円程度のコストがかかるが、半額の1000円は特別交付税による国庫補助でまかなわれる。総務省は住民負担を500円程度におさえるように指導しているが、そうなると500円は自治体の持ちだしになる。

 自治体側の負担を減らすために、総務省は住基カードに民間企業の広告をいれてよいという通知を出したそうだが、この不景気の御時世、悪評高い住基カードをわざわざ媒体に使おうという業種は限られるだろう。サラ金の広告がはいった住基カードなんて出てきたら、いよいよ気味が悪い。

 住基ネットについては一般に流れている情報がすくなすぎる。住基ネットに流れるのは基本4情報だけと思っている人がほとんどのようだが、実際は本籍・続柄を含む12情報である。住基ネットについて知りたかったら、新聞やネット情報だけでは不十分で、本を読んだ方がよい。

 わたしが読んだ範囲では臺宏士氏の『危ない住基ネット』と、自治体政策情報研究所の黑田充氏の『「電子自治体」が暮しと自治をこう変える』がお勧めであるが、どちらも文字コードにまでは踏みこんでいない。手前味噌になるが、『図解 文字コード』も読んでいただけたらと思う。

Jul17

 スズナリでTHE・ガジラの「アンコントロール」を見た。なんとも鬼気迫る舞台で、七瀬なつみの狂気、南果歩の人格崩壊……今だに興奮がおさまらない。舞台については「演劇ファイル」に書くことにして、ここでは終演後におこなわれたトークセッションの模様を紹介したい。

 「アンコントロール」は520人の犠牲者を出した1985年の日航ジャンボ機墜落事故のその後をテーマにしている。トークセッションは作品にモチーフを提供した『墜落遺体』と『墜落現場遺された人たち』の著者である飯塚訓氏をむかえておこなわれた。

 飯塚氏はジャーナリズム畑の人ではなく、もとは群馬県警の警察官だった。墜落事故の際は身元確認班長として520人の遺体(というか、遺体の断片)の検死と遺族の対面に立ちあい、その経験を13年後、『墜落遺体』としてまとめた。

 日航機事故についてはdarkwolf氏によるFlashが秀逸。(Aug11 2004)

 事故現場が凄惨だったということは断片的に報道されたが、実際は凄惨どころではなかった。ジャンボ機は時速600kmで山腹に激突したと推定されているが、時速600kmのGは自動車事故などとはかけはなれた、超現実的な光景を生みだしていたという。ズボンを脱いだように下半身の皮膚がまるごと剥がれて、枝にひっかかっているとか、歯が銃弾のように飛びだして、前の人の頭蓋骨を貫通したり、脊椎に食いこんでいるとか、胎児だけが地面に転がっているとか、話を聞いているだけで頭がくらくらしてきた。

 群馬県警は4万平米にわたって散乱した遺体とその断片4000点を拾い集めて棺桶に入れ、藤岡市の体育館にならべ、遺族に引きあわせたが、DNA鑑定はまだなかったから、身元確認は困難をきわめた。御遺体ですといって棺桶を開けると、指が一本とか、手術痕で本人と確認できた内臓しかはいないということがよくあった。

 体育館は報道陣をシャットアウトするために窓をすべて締めきりにし、暗幕をはりめぐらしていたので、内部は40度を越えていた。暑さに加えて、生ゴミの臭いのような死臭とクレゾールとホルマリンの臭気がいりまじり、息をするのも困難だった。身元確認班長という責任ある立場にいた飯塚氏は、この中で三ヶ月間奮闘し、ありとあらゆる種類の極限のドラマを見た。

 こういう話はまず表に出てこないし、出せるものでもない(飯塚氏が本を書くまでには13年という年月が必要だった)。この事故については、事故調査委員会の出した圧力隔壁破壊説にさまざまな疑問が出されていて、事故原因を検証するドキュメンタリー番組まで放映されている。芝居の中では登場人物の一人が自衛隊陰謀説にすがって自分を支えていた。犯人を明確に名指しできれば、怒ることができ、怒ることができれば、立ち直ることができる。陰謀説を生きるための杖にせざるをえない人がいる所以だが、つきつめた観点から見れば、空談にすぎないともいえる。

 警察退職後、飯塚氏は講演で全国を飛びまわっている。以前は大人相手に話すばかりだったが、最近は中高校生に話すことが多い。中学生でもしんと静まりかえって聞き、真剣に感想文を書いてくるというが、こういう修羅場をくぐった人でないと、中学生を説得できないというのは困ったことでもある。

 鐘下氏は出演した役者とともに御巣鷹山の墜落現場を訪れた話を語った。劇中で使われたボイスレコーダーのテープには、最初の激突音の数秒後、録音が途絶える。最初の激突音はジャンボ機の主翼が尾根をかすった時のもので、尾根の一部をえぐりとった後、機体は向かいの山腹に激突した。翼にえぐりとられた痕は遠目にもはっきりわかって、えぐられたままに植物が繁茂している。

 激突した斜面は傾斜が30度以上ある。30度の傾斜は、前に立つとほとんど垂直にそびえ立っている感覚だが、その急峻な斜面のそこここに卒塔婆が立っている。卒塔婆は遺体の発見された場所に立てられていて、場所によっては密集していて、異様な光景だそうである。

 この急斜面を、80歳近い遺族が杖だけを頼りに登るという。こういう姿こそ、実地の生命教育だろう。

Jul18

 辻本清美元議員が逮捕された。Mainichi INTERACTIVEによると、当局は在宅起訴を考えていたが、関係者が捜査に非協力的だった上に、本人が犯意を否定しつづけたので、逮捕に踏み切ったという。「秘書給与ねん出、半月かけ分配決定」という報道もある。

 辻本氏の才能を惜しむ声が多いが、秘書給与疑惑を全面否定した最初の記者会見で、彼女は「疑惑のデパート」とはいわないまでも、「疑惑のコンビニ」ぐらいにはなってしまった。議員に返り咲き、国会でまた不正追及のパフォーマンスを演じたとしても、TVは虚偽記者会見の映像を繰りかえし流すだろう。不正追及型政治家にとって、あれは致命傷だった。

 ひょっとしたら、不正追及のパフォーマンス以外にも才能があるのかもしれないが、社民党というマルクス主義政党にいる限り、不正追及以外に活躍する場面があるとは思えない。秘書給与流用の実態を暴かず、社民党の組織防衛を選んだ時点で、辻本氏の政治家生命は終わっていたのではないか。

 社民党の解党は時間の問題だろうが、北朝鮮の命運も尽きかけている。

 Sankei Webによると、中国の情報機関は「核爆弾1個を製造できるだけのプルトニウムを既に抽出した」と結論づけたという。北朝鮮は8000本の使用済み核燃料の再処理を完了したとアメリカに通告したといわれていたが、8000本はブラフにしても、核爆弾を作れるだけの量は確保したわけで、中国にとっても大問題である。

 また、韓国国家情報院は、黄長燁元書記を「特別保護」対象から、警察当局による一般保護対象に変更したと発表した。黄元書記はかねてから訪米や訪日を希望していたが、「特別保護」のために出国できないでいた。

 黄元書記はかねてから韓国では喋れないことも、日本やアメリカでなら喋れると言明し、「金正日政権を武力を使わずに崩壊させるシナリオ」まで発表していただけに、この決定の意味するところは大きい。

 18日付のメルマガ「モーニング・コリア」にしか書いていないのだが、盧武鉉政権は、北朝鮮の崩壊による大規模難民の流入にそなえて、非武装地帯と東西海、北方境界線を遮断する「古堂計画」という対北朝鮮封鎖計画を今月末までにまとめるという。

 この計画はかなり前から準備されていたが、金大中政権末期にいったん凍結されていたのを、ここにきて急に復活させたそうである。これが事実だとしたら、金正日体制の崩壊は近い。

Jul19

 「西尾幹二のインターネット日録」の7月15〜19日の5回にわたり、「重要発言」として『新しい歴史教科書』の改訂問題の経緯を説明している。

 『新しい歴史教科書』は教科書としてはほとんど採択されなかったが、一般発売分がベストセラーになるという、教科書らしからぬ売れ方をした。右寄りとか、軍国主義の復活とかいわれているが、読んだ人に聞くと「普通の教科書で、つまらなかった」という感想ばかりなので、わたし自身は読んでいないし、読む予定もない。

 普通の教科書といっても、他社と較べると図版がすくないとか、文章が多くて堅いとか、最近の教科書としては異色の体裁らしい。扶桑社と「新しい歴史教科書を作る会」ではなんとか採択されるように、『新しい教科書』の改訂をおこなっているが、その方針をめぐって内部対立が生まれ、一時は分裂寸前の局面もあったという。

 改訂で一番問題になったのはページ数削減で、文章量を30%すくなくしたために、「つくる会」が力をいれた背景事情の説明がカットされたり、叙述の物語性が損なわれたという。どういう経緯があったかは西尾氏の文章を読んでいただくのが一番いいが、おやと思ったのは教科書協会という文部省の天下り団体の存在である。扶桑社側がページ数削減にこだわったのも、教科書協会の示唆らしい。

 文部省はページ数の制限を求めていません。教科書協会が文部省との間で話し合ったと称して、ページ数の大よその目度を示しているだけです。ページ数の目度も独禁法では許されない「談合」なのです。すでに市販本を出すなど教科書協会の枠を破って行動してきた「つくる会」の教科書が、今さら教科書協会にすり寄り、その基準に合わせてみたところで、だから採択に有利になるという保証はありません。採択のために、できるだけ世の教科書の外形に自分を合わせたいという編集会議と扶桑社スタッフの気持ちも分らないではありませんが、それは前回の失敗が生み出した心の迷いです。自らの特色、自分のもっている良さを見失ったら、元も子もないのです。

 典型的な護送船団方式だが、教科書協会はそれどころかカルテルに類することまでやっていた。公正取引委員会は1999年10月に、以下のような「社団法人教科書協会に対する勧告」と課徴金納付命令を出している。

4 排除措置 (1) 教科書協会は、会員が発行する予定の小学校用、中学校用及び高等学校用の教科書について、会員にそのページ数、色刷り度数等を記入した教科書体様届と称する届出書を提出させるなど、当該教科書の規格が、同協会が決定した体様のめやすに適合しているか否かを調査し、体様のめやすに適合していない教科書を発行しようとする会員に対し、体様のめやすに適合するように当該教科書の規格を変更するよう要請し、当該教科書の規格を変更させている行為を取りやめること。

 明文化されない部分で実質的な統制がおこなわれているという例がここにもある。

Jul20

 お陰様で、1996/03/27からのアクセス数が今日、25万を超えた。counter digits社の無料版カウンターは数え落しがかなりあるから、実際はもうちょっと多い。

 アクセス数は安定しているが、「月刊ほら貝」の読者はガタッと減った。発行部数は配送終了後にメールで通知されるのだが、5月の改装以来、1回あたり5〜10部づつ減りつづけ、今日の発行では一挙に43部減っていたことがわかった。

 「月刊ほら貝」は創刊時から昨春まで「作家事典」を柱にした構成だったが、「作家事典」が億劫になり、発行を休んで来た。

 5月にエディトリアルを毎日更新するようにしたのを期に、週刊ベースにして、その週のエディトリアルから4本を選んで掲載する体裁にあらためた。ところが、これが不評らしく発行のたびに読者が微減していった。

 前回の発行で大量に減った理由は見当がつく。Jul10の項で津波アクセスをとりあげた際に、アクセスログの解析結果にふれたのを監視カメラで見られているように感じ、購読をやめた人が多かったのだろう。

 アクセスログがどういうものか、なにがわかって、なにがわからないかについては「村上龍、村上春樹、そしてインターネット」に解説してあるので、読んでほしい。

 独自ドメインで運用しているサイトは100%、アクセスログをとっている。プロバイダに間借りしているページでも、アクセスログ付のカウンターを使っているところが増えているので、足跡は記録されているとみた方がいい。

 当サイトでやっている解析はごく初歩的なもので、レンタル・サーバー会社の提供する簡易レポートを眺める程度だ。津波アクセスのような異変があったら、自作のsedスクリプトでもうちょっと詳しく見るが、企業サイトでやっているような本格的解析には程遠い。

 Googleで「ログ 解析ツール」で検索すると、6000件以上ひっかかり、有料スポンサーも8件ならぶ。どのページでもいいけれども、たとえば一番上に出てきた「Webログ解析ツール-基礎講座Page.1」あたりを読めば、ログ解析がマーケティングの強力な武器になっていることがわかるだろう。

 当たり前の話だが、アクセスログの解析だけでは個人は特定できない。昨日と今日、同時刻に同じプロバイダから同じOS、同じブラウザでアクセスしてきたとしても、それが同一人物かどうかすらわからない。

 個人を特定するにはcookieというテクニックを使う必要がある。当サイトでは使っていないが、大半の企業サイトで使っているし、個人サイトで使っているところもすくなくない。ブラウザのcookieの設定で、要確認にした状態でネットサーフィンをすると、いかに多くのサイトでcookieが使われているかがわかるはずだ。

 cookieはプライバシー侵害になりかねないので、アメリカでは「ネットプライバシー法案」で規制が検討されているし、IE6にはcookie削除機能がついている。

 もっとも、cookieを使っても、特定された個人の実名と実住所まではわからない。実名と実住所を突きとめるには、プロバイダのログと照合する必要がある。個人には無理だが、捜査権限のある警察には簡単である。たいした知識もなしにネット犯罪をおこなったら、たちまち警察に実名と実住所をつきとめられ、お縄になるだろう。

 マスコミはインターネットは闇だとか、匿名だとか騒いでいるが、すこしでも知識があれば、闇でも匿名でもないことがわかるはずだ。

Jul21

 ロシアがソユーズを売却するという記事がSankei Webに載っている。

 売却先のアメリカの「スペース・アドベンチャーズ」社はスペース・シャトルで観光客に宇宙旅行をさせる予定だったが、2月の空中分解事故で目途が立たなくなり、急遽ソユーズ買いとりを打診したもの。ソユーズは使い捨てだから、何機も買うことになり、資金難のロシアにとってはいいお得意様になるだろう。

 社会主義国の威信を賭けた事業が、資本家の物見遊山の道具にされるわけで、ちょっと可哀相である。

 20日に放映されたNTV『特命リサーチ200X Ⅱ』の「奇跡の生還・解明ファイル 宇宙ステーション落下を食い止めろ!」では、1997年6月26日に起きたミールと無人貨物ロケット、プログレスの衝突事故をとりあげていた。

 プログレスにはミールとドッキングするための自動誘導装置が装備されていたが、資金難ではずすことになり、手動で誘導する実験をすることになった。ミールにつながっていたプログレスを一度切り離し、距離をとってから、手動で接近させ、ドッキングを試みたところ、リモコンが効かなくなった。プログレスは減速しないまま、ミールの科学実験棟スペクトルに激突し、穴をあけてしまった。

 空気がどんどん逃げだし、一刻も早くスペクトルに通じるエア・ロックを閉じなければならなかったが、ケーブルが何本もつながっていたので、一本一本切らなくてはならなかった。

 間一髪、エア・ロックを閉じることができたが、衝突の衝撃でミールは複雑な回転運動をはじめており、太陽電池を太陽に向けつづけることができず、バッテリーに蓄えた電気がどんどんなくなっていった。

 回転をとめなくてはならないが、ミールのコンピュータで姿勢制御を計算すると電力を食うので、地球の管制センターで計算して結果を送ってもらうことにしたが、その間にバッテリーがあがり、姿勢制御用ロケットに点火できなってしまった。

 ソユーズで脱出するという手もあったが、130トンのミールがコントロール不能のまま大気圏に再突入したら、人口密集地を直撃する恐れがあった。

 ここで、たまたまミールに同乗していたアメリカ人科学者が機転をきかせ、事なきを得た。映画になりそうなエピソードである。

 このあたりの話は『ドラゴンフライ』に書いてあるはずである。おもしろいに違いないのだが、部厚い二冊本なので、手をつけかねている。

 ミールは15年間、軌道を回っていたが、後半はトラブル続きで、この衝突もうっすらとしか記憶に残っていなかった。こういう大変な事故だったということは番組ではじめて知ったが、資金難で自動誘導装置をはずさなければならなくなったことが、そもそもの原因だったとは。

 老朽化したミールは2001年3月23日、計算通り、大気圏に再突入して、無事使命をまっとうした。ミール関係の情報は星ナビの「さよならミール」がまとまっている。背景事情に関しては田中宇氏の「宇宙ステーション「ミール」安楽死計画」が詳しい。損傷箇所の写真は横浜こども科学館で見ることができる。

Jul22

 ペンクラブの電子文藝館の委員会で、オンラインの新人文学賞を設けたらどうかという話が出た。ペンは財政的に苦しいので賞金はなし、電子文藝館に、日本近代文学史を飾る名作とならべて掲載するのが特典というような趣旨だった。

 この話は前からあるのだが、いい新人が出にくくなったという危機感には同感するものの、成果があがるか疑問に思う。

 公募の新人賞は雑誌をもっていない出版社まで設けていて、乱立状態がつづいている。最近は自治体で募集する賞も増えている。新人賞のとり方を伝授する本がひと抱えは出ていて、「公募ガイド」という専門誌まで発行されている。

 間口がかつてなく広がっているだけでなく、応募者側の意欲も旺盛で、「カラオケ文学」と揶揄されるくらいだ。新しい賞でも数百本、有名な賞だと数千本の応募があるという(文芸誌だと実売部数より応募数の方が多いという笑えない話もある)。自治体が賞を作りたがるのは、予算が手頃ということもあるが、応募作が簡単に集まるので、「実績」をアピールしやすいということもあるようだ。

 年々、受賞者は量産されているが、いい新人が育ちにくいのは受賞後の活動が難しくなっているからではないかと思う。面倒見のいい出版社と、よくない出版社があるが、面倒見のいい出版社でも、最近は面倒を見る余裕がなくなりつつあると聞く。

 担当編集者が声をかけることも面倒を見るうちだけれども、一番大きいのは作品を紙の単行本として出版することだ。学術系の文章はディスプレイでもかまわないが、小説を読むなら紙である。大手出版社から新人が育ちやすかったのは、新人の単行本を出す余裕があったことと、多くの雑誌をもっていて、発表の場を提供しやすいことが影響していると思う。

 実力があれば大丈夫という意見もあるだろうが、単行本を出せるかどうかは運の要素がかなりあるのも事実だ。受賞後のサポートが期待できない賞では、作品執筆以外の部分で無駄なエネルギーを費やし、嫌な思いをすることになる。本気で作家を目指すのなら、出版社、それも面倒見のよさそうな出版社を選んだ方がいい。自治体や団体の公募は勧めない。

 どこの出版社が面倒見がいいかは、大森望氏と豊崎由美氏の「文学賞メッタ斬り!」という対談をよく読むと、ヒントがえられるかもしれない。

 新人賞のとり方といった類の本は、特殊な経験を一般化したものがすくなくないが、大森氏は以前、「フォーカス」の会社にいた人で、独立後は多くの新人賞の選考にかかわってきただけに、賞の裏表を知りつくしている。

Jul23

 CNETの「インターネットが社交の場になる?」という記事で、netomatという新データ・フォーマットが紹介されている。

 netomatを使うと、公開されているページに別の人が注釈をつけたり、新しい情報を追加したりすることができる動的なサイトが作れるという。文字のコメントを追加するだけだったら、掲示板や読者参加型blogの延長だが、ページの中にリンクを追加したり、音声情報や画像情報も追加したりも許すという。ページを「落書き用の壁」として全面的に解放してしまうわけだ。

 こういうことはHTMLにはできないから、Javaをもとにした「Netomatマークアップ言語」という新たなマークアップ言語で記述する。

 netomatを考案したWisniewski氏は「ソフトウェアを芸術と捉える」プログラマーだそうで、80ヶ国100万人以上のユーザーがnetomat.comからβ版をダウンロードしており、数千のnetomatサイトが存在するという。

 正岡子規によって滅ぼされた、連歌や付句のような「座の芸術」が、netomatによってネット上で復興されるかもしれない。それはそれでよろこばしいことだが、「座の芸術」は信頼関係がなければなりたたないことは押さえておこう。

 ユーザーが芸術系の人に限られているうちは大丈夫だろうが、一般化したら掲示板のように「荒し」が横行するのではないか。netomatはマルチメディア化されている分、派手な「荒し」が可能のようだから、いくら新しもの好きでも、手を出す気にはなれない。

Jul24

 石川淳の祖父、石川釻太郎が省斎と号した儒学者だったことは年譜などで知られているが、具体的な活動となると、明治初年に数冊の漢詩のアンソロジーを上梓した以外ほとんどわかっていなかった。しかし、明治大学文学部の渡辺滋氏がこのほど発表された「石川省斎の『令集解』版行――近世における律令研究とその後世への影響を中心に」(「日本歴史」663号)によって省斎の経歴と事績がはじめてあきらかになった。

 省斎はこれまで昌平黌の儒官だったといわれていて、拙サイトの「石川淳小伝」にもそう書いたが(近々訂正する)、活動の中心は和学所にあった。省斎は文久4年(1864年)頃に昌平黌から和学所(和学講談所)に移り、幕府瓦解の時まで同所で後進の育成と『令集解』の研究にあたっていたのだ。渡辺論文を引く。

 この時期、和学所は最後の充実を見せており、黒川春村(一七九九〜一八六六)を実質的な筆頭として、幹部には小中村清矩(一八二一〜一八九五)・横山由清(一八二六〜一八七九)・木村正辞(一八二七〜一九一三)など明治前期に史学界の重鎮となる人物を擁し、後輩の教育にも力をいれつつあった。

 そうした施策の中心にあったのが文久三年(一八六三)十一月に設置された稽古所である。彼はその稽古所世話心得・読書方(素読教授)として迎えられたのであった。その一方で、他の稽古所の職員とともに和学所本来の業務である諸史料集の校訂・編纂作業にも携わっていた。こうした中で、省斎が実際にどのような役割を果たしていたかについては、和学所廃絶前後の関係史料が現存しておらず判然としない部分も少なくないが、入所の時点ですでに世話心得の地位にあり、その四年後の慶応三年(一八六七)までには早くも手伝出役に至っていた事や、後年の彼が「石川」と称していた事などを踏まえると、最終的には会頭の地位に昇り主導的な役割を果たしていた可能性が高い。

 貴重な発見である。特に『和学講学所御用留』という確かな史料の元治元年(文久四年)四月十日の条に「和学所稽古世話役心得申達之候。尤出役頭取可談候。講武所奉行組石川釻太郎」とあったという事実は、これまで知られていなかった。

 和学所の同僚の多くは新政府の設けた国史編輯局に横すべりするが、省斎は代々の幕臣としてあえて野にくだり、「韜晦型(=痩我慢組)」に連なった。町医者や農民からとりたてられた新参者とは違うということだろう。

 省斎が上梓した漢詩のアンソロジーについても、渡辺氏は注目すべき推定を述べておられる。

 石川は自らも校訂に参与していた『令集解』の校本が和学所廃止によって埋もれるに忍びずこれを独力で出版する遺志を固め、その資金集めの意味もあって前後の時期に諸漢詩集を刊行していたのではないだろうか。これらの出版事業が、不評によって幕を下ろした訳でないことは、前章で取りあげた彼の編著①が翌年には再版されている事、④からは大阪の諸書店も関与するようになっている事、さらには④の好評から同年中に続編(⑤)までが刊行されている事などからも明らかである。では、省斎による出版活動の停止は何に起因しているのっだろうか。私はその最大の背景として、彼の活動の中で中心的な位置を占めていた史料活字化事業に対する同時代の無理解があったと考える。

 『令集解りょうのしゅうげ』は律令研究の基本文献であって、インターネット上にもSHUUGEというデータベースができている。省斎は法制史の専門家だったのであり、当然、「理」の思想にも通じていたはずだ。

 渡辺滋氏は日本史を専攻されている方で、一年前、石川淳が祖父について書いていることはないかとメールで問い合せをいただいた。石川は反私小説の急先鋒だけに、家族のことはほとんどなにも書き残していない。渡辺喜一郎『石川淳研究』という本があるが、内容はないに等しいとしかお答えすることはなかったのだが、この御縁で論文を送っていただいた。日本史にまで目を届かせている石川淳研究者は多分いないはずで、インターネットがなかったら、文学畑の人間は渡辺氏の発見を知らずに終わっただろう。作品の読みと伝記的事実はあくまで峻別しなければならないが、貴重な発見であることは間違いない。

追記: 2006年11月、渡辺滋氏は『温故叢誌』60号に「和学講談所所員としての石川省斎とその後半生」と題する続稿を発表された。詳しくはDec16 2006参照。

Jul25

 チャリティのために、24時間ぶっとおしでblogを更新する「ブロッグマラソン2003」が7月26日に開かれるという(ZDNetの「チャリティー“ブロッグ”マラソン、間もなく開催」)。

 ブロッグマラソンに参加するブロッガーは24時間の間、すくなくとも30分おきにblogを更新しつづけなければならず、読者はこの頑張りに酬いてチャリティに寄付をする。読者は応援するブロッガーのスポンサーになることもできて、ブロッガーがブロッグマラソンを完走したら、ブロッガーの指定する募金に寄付をすることになっている。

 24時間TVのblog版だが、2001年に開催された第1回ブロッグマラソンには101人が参加して2万ドルの寄付を集め、今年は500人以上が登録をすませているという。

 英米でblogのコミュニティが着実に育ちつつあることは、Hotwiredの「ウェブログで生計を立てるジャーナリスト、成功の秘訣を語る」というインタビューからもうかがえる。

 インタビューに答えているラファット・アリ氏はシリコンアレー・レポーター誌の記者兼編集者だった2002年6月にPaidContentというblogを立ちあげた。人気が出て広告の話が来るようになり、独立してから広告を主な収入源として活動しているという。ページに載っているのは見出しと数行の要約だけで、詳しい記事を読みたかったら、登録し、広告入りメールで記事を送ってもらうという仕組のようである。

 プロのブロッガーが出てくる一方で、素人に裾野を拡げようという動きがはじまっている。

 7月5日には、東京の六本木で第一回の「International Moblogging Conference」が開催されている(CNetの「Moblogはビジネスになるか?---六本木で熱い議論」)。

 Moblogとは携帯電話から更新できるblogのことで、出先だから文章や他サイトへのリンクではなく、写真や音声メッセージが中心になる。Moblogの提唱者で、このイベントを企画したグリーンフィールド氏は、第一回会議の開催地に日本を選んだのは、カメラ付携帯電話が一番普及しているのは日本だからだという(「「MoblogとGPSが街の生活を変える」:Moblog提唱者が語る」)。

 「ソニーがMoblogに見るビジネスの可能性とは」や「オーディオBlogとMoblogが普及のきざし」を読むと、企業がblogを新たな大衆メディアとして注目していることがわかる。

 ソニーはMoblogを個人的な写真を保存するためのオンライン・アルバムと考えているようだ。いわゆるフォトログである。

 Moblogというのは、その場で自分が驚いた、面白かったといった感動の瞬間を切り取るものです。自分の経験や感動を人と分かち合えるもので、「人とつながりたい」という気持ちに応えるメディアだと思います。だからこそMoblogは非常にパワフルだと思うのです。

 しかし、この方向を推し進めていくと、「自分の1日の出来事、感動したことというのは、自分の周りの人にとってはすごく意味あることだけれども、赤の他人にはそんなに興味のないこと」とばかりはいっていられない状況が生まれてくるおそれがある。

 現時点ですら、「デジタル万引」や「デジタルのぞき」が問題になり、雑誌や街を歩くタレント、若い女性が被害にあっている。デジタル万引やデジタル覗きは技術的には防ぎようがなく、個人のモラルに期待するしかない。いずれ映画やコンサート、演劇、講演、展覧会をまるごと撮影できるようになるだろうが、著作権や肖像権を侵害した画像・音声をネットで勝手に公開できるとなったら、どういうことになるのか。

Jul26

 今日未明、イラク復興支援特別措置法が強行採決された(Sankei Webに全文掲載)。

 国内の関心はさっぱりだが、海外の関心は高いらしい。アメリカが歓迎するのは当然として、アラブ圏では野党の反対に注目している。Sankei Webによると、アルジャジーラは日本の国会の論戦を10分以上かけて紹介したということだが(NHKより長い?)、asahi.comの「イラク特措法成立めぐる審議を報道 アラブ主要メディア」がまとまっているので、次に引く。

 アルジャジーラのほか、アラブ首長国連邦の衛星テレビ局アルアラビアが、参院外交防衛委員会での強行採決の際、委員長を取り囲み怒鳴りつける野党議員の姿を繰り返し放送。アルジャジーラは「多くの日本人がイラク駐留米軍の被害拡大を見て、自衛隊が危険にさらされると心配している」などと紹介した。

 今、輿論は冷えているが、自衛隊の「戦死者」が次々と出たら、このままですむわけがない。

 日経の「イラク自衛隊派遣、危険手当過去最高の日額3万円へ」は、死亡時の賞恤金を一律6千万円から2〜3倍に引き上げると伝えている。自民党は総選挙前に「戦死者」が出てはまずいので、派遣の閣議決定を選挙後の11月に延ばす方針だそうである。自衛隊の現地到着は12月になる。

 1993年のカンボジア総選挙の際に、ボランティアの中田厚仁氏と文民警察官の高田晴行氏が武装勢力に襲われて亡くなったが、カンボジアはかつて日本が占領した地域であり、日本が一定の責任を負うことはやむをえないと思う。昨年、北朝鮮の不審船と巡視船の間で銃撃戦があったが、万一、犠牲者が出ていたとしても、国民は意味のある死と受けとめただろう。

 イラクの場合は事情が違う。アメリカの情報操作の証拠が次々と出てきて、いかがわしい戦争だったことがはっきりしてきた。アメリカ軍の統治に対する抵抗はゲリラ戦の様相をおびはじめ、戦争「終結」後の死者が、戦争中の死者を越えてしまった。アメリカ国内でもあいつぐ犠牲で厭戦気分が出はじめているという。こういう情況で、自衛隊員の「戦死」を意味のある死として受けとめるのは無理である。

 小泉総理は自衛隊を「戦闘がおこなわれていない安全な地域に派遣する」と言っていたが、23日の党首討論で非戦闘地域とはどこかと訊かれて、「そんなことが私にわかるわけがない」と答えた。「戦死者」が出た後で、この発言が繰りかえしTVで流れたら、小泉内閣は終わる。

 おそらく、次の衆院選は自衛隊イラク派遣の是非が軸になるだろう。これほどわかりやすい争点はない。政権交代の可能性はなくはないと思う。今、必要なのは自民党政権を終わらせることである。

 『マトリックス・リローデッド』のパロディで悦にいっている鳩山由紀夫氏から菅直人氏に党首が変ったことは、多少とも政権交代の可能性を高めた。小沢一郎氏の韓信の股くぐりに等しい決断が、ここで活きてくる。民主党には社会主義者が多数混じっており、政策には期待できないが、政権交代の可能性という一点で民主党を支持したい。

Jul27

 今年は朝鮮戦争の休戦協定が締結されて50年目にあたる。板門店では21ヶ国が参加して、国連主催の50周年記念式典が開かれた。

 国連は北朝鮮も式典に招待したが、拒否されたという。北朝鮮は国連軍と戦ったわけだし、7月27日は北朝鮮側の見解では休戦記念日ではなく、「戦勝」記念日だから、拒否は当然だろう。

 Mainichi INTERACTIVEの「北朝鮮:軍事パレード実施は見送りか 休戦協定締結50周年」によると、開催されると見られていた閲兵式は見送られた模様である。「対話実現へ仲介を進めている中国が「閲兵式は好ましくない」と、北朝鮮に圧力をかけたのではないか」と見られている。

 数日前、これまで金正日を「悪の独裁者」としか呼んでこなかったブッシュ大統領が、はじめて「ミスター・キム・ジョンイル」と敬称付フルネームで呼んだことが話題になった。ミスターの後で一瞬口ごもり、いかにも本意ではないという感じで「キム・ジョンイル」と発音した。やはり中国あたりから頼まれたのだろう。

 50周年を機に若干雰囲気が弛んだが、アメリカは北朝鮮を核攻撃する腹だという本が出た。Sankei Webの「著者に聞く」のコーナーで紹介されている日高義樹『アメリカは北朝鮮を核爆撃する』である。

 まだ読んでいないのだが、紹介によるとかなりリアルな内容のようである。

 著者は今年2月に上院軍事委員会が小型核爆弾開発用に1500万ドルを計上することを決定したことと、ラムズフェルド国防長官が在韓米軍の撤退をほのめかしたことに注目し、アメリカは金正日総書記の避難所と核施設が地下に作られている金剛山系を小型核爆弾のピンポイント攻撃で破壊する準備を進めていると推論する。

 時期は二期目のブッシュ政権が軌道に乗りはじめる2005年夏以降だという。「北の反撃でソウルが火の海になったとき、韓国人が在韓米軍に銃口を向ける可能性が高い」ので、3万7千人の在韓米軍を撤退させる必要があるからだ。

 平地のイラクですら、バンカーバスターでは地下施設を壊滅させることはできなかった。アメリカが北朝鮮に対して核兵器を使うという見方は根強くあり、著者の想定は決して絵空事ではない。

 北朝鮮が消滅すれば、アメリカは東アジアから全面的に手を引き、日本は窮地に立たされる。

「米国は台湾の保持と引き換えに、朝鮮半島を中国に任せてしまうでしょう。それは、西郷隆盛が征韓論を唱えたときと同じ状況になるということ。それに備えて、日本がすべきことは明確です。憲法を改正し、日本が応分の負担をする、新たな日米安全保障条約を結び、米国を東アジアに踏みとどまらせることです」

 アメリカが核攻撃に踏みきるかどうかはともかく、近い将来、北朝鮮が消滅するのは間違いない。統一朝鮮が中国の影響下にはいったら、日本は太平洋を背に中国と対峙することになる。同様の指摘は神浦元彰氏の『北朝鮮消滅』にもあったが、アメリカの保護をあてにしつづけるのかどうか、金王朝滅亡後の東アジア情勢を本気で考えるべき時が来ている。

Jul28

 アメリカの大手書店チェーン、Bordersは独自のオンライン書店をやめ、あっさりAmazonに合流したことで有名だが、このほど、過去の雑誌記事を読むことのできる有料サイト、KeepMediaを開設した(CNETの「米ボーダーズの創始者、オンラインのニューススタンドを開始」)。

 KeepMediaは会員制で、月5ドルの会費を払えば、140誌余の契約雑誌の2003年1月以降の号に載った記事を読むことができる。「エスクァイア」、「フォーブス」、「バラエティ」など、日本でおなじみの雑誌もラインアップされているが、半年程度の蓄積ではまだ役に立つところまではいかないだろう。

 日本では大宅壮一文庫Web OYA-bunkoとして、会員限定のオンライン記事検索サービスを提供しているが、月額1万2千円とプロ用の料金設定である。有料複写サービスがあるが、コピーの郵送は仕方ないとして、申し込みまで郵送というのは解せない。

 大日本印刷が試験的にやっていたBook Worldという電子本プロジェクトでは、雑誌記事のばら売りをやっていたが、どうなったのだろうか。

 雑誌のバックナンバーは情報の宝庫だが、町の図書館は数年で廃棄してしまうし、個人で保存するのは日本の住宅事情では難しい。物書きの業界には古雑誌のためだけに部屋を借りている人が時々いるが、なかなかそこまではできない。国会図書館の雑誌窓口の混雑からいっても、需要はあるのだから、リーズナブルな入手できるようになってほしい。

Jul29

 『群像』で今年の1月号から「現代小説・演習」という持ちまわりの連載をやっている。編集部のつけた前書を引くと、

この連載は、現在の小説表現のあり方を方法論と実作の両面から模作するのが目的です。毎回、第一部で方法の提案、第二部ではその提案を承けて、小説の実作が示されます。評論家と小説家のコラボレーションです。ご期待いただければ幸いです。

 難しいことをいっているが、要は評論家がお題を出し、小説家が実作にしてみせるという『笑点』のような趣向である。

 11月分をまかされることになって、1〜8回にざっと目を通したのだが、あわてた。いざとなればSFかコンピュータに逃げればいいと、一日延ばしにしていたが、これまでの8回分はそのどれかに引っかかっていたからだ。

 特にSFは半数の回でとりあげられていた。第一回の石川忠司氏はパラレル・ワールド小説を提案し、第二回の川田宇一郎氏は『惑星ソラリス』、『ストーカー』、『アルファヴィル』というSF映画三本をとりあげ、第七回の切通理作氏は『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』と『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』、第八回の安藤礼二氏は「聖杯の探求」という題からわかるように、正真正銘のディレイニー論である。

 そういえば、まだ読んでいないのだが、先日、芥川賞をとった吉村萬壱の『クチュクチュバーン』は、風野春樹氏の要約によると、こんな話だそうである。

 「クチュクチュバーン」は、ある日突然すべての人間が変形、腹から手が生えてきて蜘蛛状になったり、机と融合したり、巨大化したりしていく様子を淡々と描いた小説。併録の「人間離れ」も同じような話で、ある日突然緑色と藍色の生物が大量に宇宙からやってきて、人間が次々と食われていくという話。人間だから食われるのであって、食われないためには人間離れしなきゃダメだ、というわけで、人々は生物の前で肛門から直腸を引き出したり、人を殺したり、犬になりきったりしてみせる。

 ただそれだけ。救いはないし、教訓もない。あるのは徹底した無意味だけ(「人間離れ」の方にはわずかに寓意性が感じられるのが残念)。「人間性」とか「人間らしさ」といったものをすべてはぎとった人間の姿を、バカバカしくも冷徹に描いていて、異様にインパクトの強い小説である。しかし、こういうのが文學界の新人賞を獲るのか。なんかすごいことになってるんですね、純文学って。

 まるっきりラファティではないか。

 ディックやバラードならまだしも、ディレイニーとラファティといったら、ディープなSFの典型である。

 この十年ほど、書評用と寄贈本、両村上を除くと、「純文学」はほとんど読んでいなかった。書評でまわってくる本はなぜか女流作家のものばかりで(某通信社の担当者が女流作家に強い人と誤解したらしく、女流作家をたくさんやっているうちに、他のメディアも女流作家のものが多くなってしまった)、寄贈本はいまや中堅となった同世代の作家に限られている。「純文学」の世界は知らないうちにディープなSFに侵食されていたようだ。

 SFにもコンピュータにも逃げられず、ミステリは第三回の中俣暁生氏がとりあげている。明日が締切なのだが、さあ、どうしよう。

Jul30

 IP電話(VoIP)は月数千円で無制限に長距離通話ができるので、日本でも急速に広まりつつあるが、アメリカではFBIがIP電話をテコに、ブロードバンド・ユーザーの盗聴を可能にしようと動きだしている(CNET)。

 FBIはCarnivoreというシステムによって現在でもIP電話をふくめたブロードバンド・ユーザーを盗聴できるが、IP電話会社を経由するととりこぼしがでる場合があるので、監視用ハブをすべてのIP電話会社に設置させるように、FCC(連邦通信委員会)と話しあいを重ねているというのだ。

 義務化の根拠として、FBIは通信業者に捜査協力を義務づけるCALEA(法執行のための通信援助法)を使おうとしている。現在、CALEAの適用対象は有線電話と携帯電話に限られているが、FCCの裁量でIP電話業者をふくむブロードバンド接続業者全体に拡大することは可能である。

 FCCはブロードバンド接続業を規制がすくなく、CALEAも適用されない「情報サービス」の範疇にいれようとしていたので、FBIの要求は規制緩和に逆行することになる。当然、反発が多い。ZDNetを引く。

 米国自由人権協会(ACLU)の「技術と自由」プログラム担当ディレクター、バリー・スタインハート氏は、法律上、FCCは連邦議会による追加の議決なしではCALEAをインターネットに拡張できないとしている。「CALEAは“情報サービス”には適用されない。情報サービスとは、当時インターネットを指す専門用語だった。VoIPはインターネットを介した音声サービスであり、まさにこれに当たる。CALEAはVoIPに適用されるべきではないし、これまで適用されなかった」と同氏。

 IP電話は音声データをパケットに分割して送りだすが、ネット上ではメールのパケットも、画像のパケットも、インスタント・メッセージのパケットも、IP電話のパケットもいりまじって流れており、容疑者のIP電話のパケットだけをとりだすことは困難である(「通信傍受法への疑問」参照)。「ほかのインターネット通信に対する幅広い監視が容易になるかもしれない」のである。

 ZDNetはCALEAに詳しいベイカー弁護士の批判を紹介している。

 そしてもう1つ考えられる理由として、ベイカー氏は、FBIはVoIP通話の会話の内容だけでなく、詳細な通話情報にも関心を持っているという点を挙げている。誰が電話中かなどの詳細な通話情報は、CALEAでは「punch list items」と呼ばれている。「FBIが関心を持っているのは会話の内容ではなく、識別情報やトラフィック分析の入手だ。電話をしているのは誰か、電話の時間、回線を保留にしている人――そういった情報だ。FBIは常に、この情報を巧妙に、迅速に、便利な形で入手したいと望んできた」とベイカー氏。

 問題を複雑にしているのは、FBIの動きを歓迎するブロードバンド接続業者がすくなくないことだ。ブロードバンドが規制のすくない「情報サービス」と位置づけられると、競争が激化して困るというわけである。監視用ハブ設置にはかなりの費用がかかるが、CALEAが適用されると、費用は連邦政府もちとなるので(電話会社と携帯電話会社には5億ドルが支払われた)、接続業者には負担がかからないということもある。

 こうした動きは、いずれ日本でも本格化するだろうが、日本の場合、盗聴のための設備費用はプロバイダ側の負担になるので、アメリカのように業界が割れる心配はないだろう。

Jul31

 蓮池薫、祐木子さんご夫妻が拉致されてから25年目をむかえた今日、北朝鮮関係のニュースがつづいた。

 まず、韓国の大韓毎日紙が朝刊1面トップで、北朝鮮は蓮池、地村両ご夫妻が平壌に残してきたお子たちを日本に送還する用意があり、31日中にも日本政府に通告すると報じた。日本政府は報道された件については否定し、重村智計氏も信憑性に疑問があるとコメントした。

 ところが、夜になって、北朝鮮に支援をおこなっているNGO、「レインボーブリッヂ」の小坂浩彰事務局長が、平壌で蓮池、地村両ご夫妻と曽我ひとみさんのお子たちと会い、手紙を託されてきたと発表し、TBSの「ニュース23」で独占インタビューが放映された。曽我さんのお嬢さんは曽我さんが日本人であること、今、日本に来ていることを知っていたが、蓮池、地村両家のお子たちは両親が日本人であることも、拉致されてきたことも知らない様子だったので、拉致問題にはふれなかったという。

追記:「殿下の御館」8月1日の項に、「レインボーブリッヂ」に関する興味深い記述がある。以下に引いておく。

茨城県日立港で座礁した北朝鮮籍の貨物船チルソン号撤去を巡って、船主と茨城県との仲介を行なったがこのNGOであるとの報道を読んで、わたしは『ハハンなるほど。あの団体か』と得心するに至った。詳細は明らかにできないが、この交渉の茨城県側窓口のひとりとして交渉に深く関与した関係者は、わたしの仕事上付き合いのある人物である。その人物との会話の中で、わたしが『あっち系』として記憶していた団体こそこのNGOであることを知ったのである。このNGOについてわたしの印象をいうと次の一語に尽きる。胡散臭いのである。

NGOの名前は『レインボーブリッヂ』。そもそも、『レインボーブリッヂ』は『人道支援』を目的に数次に亘って北朝鮮に渡航し、あちこちの寒村を回っては、太陽光発電装置や風力発電装置の設置および食料支援を、しかも日朝メディアの取材付きで(!)、実施している団体である。メディアの報道ではあたかも『中立』の『非政府組織』のような顔をしているのだが(→http://www.asahi.com/special/abductees/TKY200307310305.html)、騙されてはいけない。なんのことはない、まごうことなき『あっち系』。しかも朝鮮新報で紹介されるほどの公認団体なのである(→http://www.korea-np.co.jp/Sinboj/sinboj2000/sinboj2000-9/sinboj000922/82.htm)。

 家族会の蓮池透事務局長は政府間で交渉しているところに、NGOがはいってくると問題を複雑にするとして「レインボー・ブリッヂ」の仲介を拒否した。手紙を直接手わたしすることに固執していた「レインボー・ブリッヂ」側も、最終的には政府支援室に手紙を託すことに同意し、政府支援室を介して家族のもとに届けられたが、北朝鮮当局は子供たちに「日本に抑留されている」と説明していることがわかったという。(Aug03 2003)

 この間、万景峰号が日本の安全基準に合うように船体を整備し、8月下旬に新潟に来航するという話が伝えられた。多くの貨物船が日朝の間を往復しているが、円をもった訪問団を運べるのは万景峰号だけだし、金正日一族のための高級フルーツを運ぶための冷蔵設備をそなえているということもある。9月の建国55周年記念のために、なにがなんでも万景峰号を往復させる必要があるのだろう。この調子だと、蓮池、地村両家のお子たちを万景峰号に乗せてくるくらいのことはやりかねない。

 また、バンコクの日本大使館に脱北者と見られる10人の男女が亡命をもとめて駆けこんでくるという騒ぎもあった。どこに亡命する意向かは不明だが、日本には韓国のような脱北者を資本主義社会に適用させるための専門施設もノウハウもなく、日本定住が脱北者の利益になるとは思えない。福田官房長官は韓国にいってもらった方がいいと述べたが、まったくその通りである。

追記:駆けこんできた10人のうち、5人は朝鮮労働党の幹部、2人は子供だったそうである。亡命希望国は公表されていない。タイには百人近い脱北者が潜伏しているらしい。(Aug03 2003)

 国レベルの動きもあわただしい。アメリカはKEDOが北朝鮮の琴湖で進めている軽水炉建設事業に対し、8月中旬以降、ライセンス供与と部品輸出の許可を出さないと日韓に通告し、両国とも受けいれた。太陽政策をとる韓国は軽水炉建設の続行に固執してきたが、アメリカの強硬な姿勢に韓国も折れざるをえなくなった。

 それを予想したのかどうかはわからないが、北朝鮮の駐ロシア大使は、ロシアの外務次官と会談し、核問題に関する多国間協議開催を支持すると述べた。北朝鮮は核についてはアメリカとの二国間協議を主張し、多国間協議を頑なに拒んできたが、ついに受けいれざるをえないところまで追いこまれたわけだ。ロシアをふくめた6者協議は9月に開かれる模様で、ロシア政府も歓迎している。

 北朝鮮が韓国に対して1970年以来つづけてきた宣伝罵倒放送「救国の声」を8月1日から中止すると韓国側に伝えたというニュースもある。Mainichi INTERACTIVEによると「北朝鮮側は韓国内にある親北朝鮮系の団体が放送しているものだと主張していた。だが、中止発表により、北朝鮮側が放送していたことを事実上認めた」ことになる。

 北朝鮮が急に軟化に転じた背景には、アメリカによる締めつけがあることは明白である。独裁者相手では、太陽政策はつけ上がらせるだけで、北風政策しかないことが明らかになったと思う。

 ただ、アメリカの北風政策は、ブリザードになりかねないという見方もある。神浦元彰氏のJ-r.com最新情報の7月31日の項から引く。

 さらに北朝鮮から脱北した黄元書記が、米国NGOの招きで9月24日に訪米することが決まった。アメリカには1ヵ月半ほど滞在するという。この秋、アメリカで一気に反金正日世論が高まることは間違いない。

 イラクの戦後問題で窮地に立ったブッシュ政権は、今年秋から始まる次期大統領選挙では、北朝鮮カードを使う選挙戦術を選んだのではないか。すなわち北朝鮮をグイグイと追い詰め、アメリカの力を誇示することで、米国民の支持を得ようとするのではないか。そんなときでも、北朝鮮国内ではアメリカとの戦争を狂ったように叫び続ける。ブッシュ政権にとって大統領選挙戦に向けてこんな都合のいいエサは他にない。

 最後になったが、拉致問題解決を願う識者がリレー形式でエッセイを発表するメールマガジン、「蒼いことばの絆」が今日創刊した。第一回の執筆者は拉致被害者家族連絡会事務局次長の増元照明氏で、週一回発行という。

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