エディトリアル   January 2004

加藤弘一 Dec 2003までのエディトリアル
Feb 2003からのエディトリアル
Jan01

 愛媛大の入舩徹男氏らは、海溝から沈みこんだプレートは分解せずにマントル最深部にまで達し、高圧でダイアモンド化している可能性があると発表した(YOMIURI ON-LINE)。

 プレート・テクトニクスの古い解説を読むと、沈みこんだプレートはマントル対流に乗って、そのままマントル下部におりていくとされていたが、実際はそうではないらしい。岩波新書の『生命と地球の歴史』によると、沈みこんだプレートは比重の関係でマントル上部に長期間とどまって、メガリスと呼ばれる巨大な塊になっていき、一億年ほどたって限界に達すると、マントル深部に落ちこんでいくそうである。その巨大メガリスがダイアモンド化するのだとしたら、景気のいい話ではある。

 もちろん、地の底であるから、ダイヤモンドは取りだしようがない。クラークの『2061年宇宙の旅』には、木星が第二の太陽になる際、核から巨大なダイアモンドの塊が飛びだしてきて、木星の周囲を回っている場面が出てきた。ラストでは、そのダイアモンドを地球まで引っ張ってきて、軌道エレベーターの材料にするという計画が披露され、『3001年終局への旅』につながるのだった。『2061年』は『2010年』より絵になる場面があると思うのだが、映画化の話はないのだろうか。

 地球にもどるが、メガリスがマントルを落ちこんでいくと、地上では大陸分裂をはじめとする大地殻変動が起こり、生物の大量絶滅に発展したりするという。近年、生物の進化と地球の変動が密接に連環していることがどんどん明らかになっていて、上掲書や川上紳一『生命と地球の共進化』、『全地球凍結』のような最先端の熱気をリアルタイムで伝える解説書が出てきている。正月の読書にお勧めである。

 「トリビアの泉」で手相の生命線が長いと長寿という俗説を検証していた。

 日本には100歳以上の高齢者が2000人余いて、140人以上調べれば統計的に有意ということで、高齢者140人、一般人2000人の生命線比(生命線の長さ/掌の縦の長さ)を調査したもの。地域的な偏りがでないように、全国を調べたのは人気番組ならではのこと。

 結果は一般人の生命線比0.72に対して、高齢者は1.03

 生命線が長いと長生きするという俗説は正しかったようである。

Jan02

 DVDで『紅楼夢』を見た。4枚組で8時間近くかかったが、オリジナルは1984年に中央電視台が製作した大河ドラマなので、1/3弱の長さしかない。多くの場面が抜けていたし、画質・音質ともにVHSなみだったが、最高の映像化と評価が高く、しかも幻のオリジナルに近い結末に目を見張った。異論のある人もいるだろうが、多分、これが『紅楼夢』の本当の形だったのだろう。

 ぼーっとした頭のまま、久しぶりに『紅楼夢』関係のサイトを訪れた。ページの更新はすくなかったが、「紅樓夢小辞典」の掲示板はにぎわっていて、新しい情報にふれることができた。

 まず、12月7日に、中央電視台版『紅楼夢』の放映20周年を記念して、出演者が北京大観園に集まったイベントが紹介されていた。NHKの『徳川家康』の出演者が日光江戸村に集まるようなものか。

 12月14日から放映のはじまった『曹雪芹』というTVドラマも話題になっている。曹雪芹関係の史料はないに等しく、全30回のドラマに仕立てるのは無茶なので、専門家は批判しているというが、『紅楼夢』人気がそれだけ根強いのだろう。不思議なことに、第1回が放映されたばかりなのに、全編を収録したVCDが店頭に並んでいるそうである。中国では海賊版対策のために、放映中にビデオやVCDが出てしまうというのだが……。

 『紅楼丫頭』という『紅楼夢』の女中たちを主人公にした全21回のTVドラマも作られていて、VCDとDVDになっているという。日本でも『女たちの忠臣蔵』というTVドラマがあったが、中国人にとっての『紅楼夢』は日本人にとっての『忠臣蔵』のようなものなのだろうか。

 陳凱歌の『覇王別姫』で、レスリー・チャンが扇を破りながら「芝居のヒロインは皆手紙を焼くものです」(日本語字幕)とすねる台詞は、原語では「林黛玉は書きものを焼いてこそ林黛玉です」となっているそうである。林黛玉が扇を破いて、詩を焼く場面はDVD版『紅楼夢』にもはいっていたが、中国の観客はこの台詞だけでピンと来るわけだ。

 脂硯斎本偽書説が当たり前に語られているのも驚いた。

 『紅楼夢』は乾隆帝の時代に写本の形で広まったが、早い時期に、曹雪芹の近親者とおぼしい脂硯斎を名乗る人物の評注をつけた版があらわれた(最初から評注つきで版行される予定だったという説もある)。

 ちょうど康煕帝の御代に江寧織造をつとめ、雍正帝に代がわりして没落した曹という一族があり、作者の曹雪芹と脂硯斎はこの一族の出と考えられている。

 邦訳されているのは後世に補作された120回本だが、曹雪芹の手になるのは80回までで、オリジナルの結末は現行本とはまったく違ったものだったらしい。中央電視台版がはじめて映像化した80回以降は、本文中にちりばめられた暗示と脂硯斎注をもとに推定されたものである。脂硯斎本が偽書だとしたら、200年にわたる紅学の積み重ねは根本から揺らぐことになる。これは大変なことである。

追記:脂硯斎本偽書説についてはJan31の続報を参照。

 その一方、曹雪芹双子説(伊藤漱平氏が肩入れしているとか)や、江寧織造の曹家とは無関係の曹雪芹がいて、その曹雪芹が『紅楼夢』を書いたという説もあるという。

 最後に、うれしい知らせ。復刊ドットコムで岩波文庫の松枝茂夫訳『紅楼夢』の投票が規定数に達し、復刊交渉にはいったとのこと。

 岩波文庫は定期的に復刊しているので、待っていれば出ると思うが、松枝茂夫訳は日本語で読める最高の『紅楼夢』だと思う。復刊などとけちなことはいわず、常に書店に並んでいてほしい。

Jan03

 このところDVDコーナーのアクセスが増えている。他のコーナーの更新が滞っている中、ここだけ毎月更新しているということもあるが、サーチエンジンで来訪する人が多いのだ(8割はサーチエンジンからである)。

 昨年一年間の累積アクセス数を集計してみた。ベスト20は以下の通り。

  1. ジア 裸のスーパーモデル
  2. 砂の女
  3. 突入せよ! 「あさま山荘」事件
  4. ロリータ』 キュブリック版
  5. 愛人ラマン
  6. ロリータ』 ライン版
  7. アナザヘブン
  8. レタッチ 裸の微笑
  9. 惑星ソラリス
  10. エドtv
  11. 月下の恋
  12. 悪魔の性キャサリン
  13. ナイトメアー・ビフォア・クリスマス
  14. 天空の城ラピュタ
  15. マリアの恋人
  16. 鬼戦車T-34
  17. 悪いことしましョ!
  18. 戦艦シュぺー号の最後
  19. スワロウテイル
  20. Les destinées sentimentales

 TVの影響は顕著で、『突入せよ! 「あさま山荘」事件』は暮れにTV放映されてから3位に急浮上した。『アナザヘブン』人気もTVのおかげだろう。

 『ロリータ』は8月に廉価版の出たライン版がずっと優位を保っていたが、12月に1500円のキュブリック版が復活したとたん、順位を逆転した。

 年間累積集計なので、10月掲載の『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』は不利なはずだが、廉価版が出たおかげでランク入りしている。もっとも、同時に廉価版の出ている『ジャイアント・ピーチ』はさっぱりだが(こちらもおもしろいのに)。

 どういうわけか、サーチエンジンからの来訪者はリピーターにあまりならない。映画ファイル読書ファイル演劇ファイルの場合、サーチエンジン来訪者はかなりの率でブックマークしたり、他のページを見ていくのだが、DVDではすぐに他サイトへ行ってしまうのである。

 内容的に映画ファイルや読書ファイルに劣るとは思わないのだが、DVDを検索する人は買うかどうかの指針をもとめているだけなのだろう(その割にはAmazonアソシエートの売上には結びつかないのだが)。

Jan09

 Hotwiredに「『グーグル』を超える新たな検索ツール」という記事が出ている。

 Googleは検索結果を、ページのマークアップ情報と被リンク数にもとづいて順位づけして表示するが、順位という一次元配列なので、上位数十位以内とか、頑張っても数百位以内にランクされたページしか見ないということになる。

 Googleが依然として人気があるのは、順位づけが比較的うまくいっていて、ユーザーがそこそこ満足しているからだろう。以前、Kobo Abeで検索して1500位まで調べたことがあるが、100位を過ぎるとゴミが増えはじめ、500位をすぎるとゴミしかなく、あらためてGoogleはよくできていると思った。複数の検索語で絞りこんでいけば、Googleで用は足りるのである。

 記事では新しい試みが三つ紹介されている。

 最初は検索結果をクラスターにわけて表示するVivisimoというサーチエンジンで、「Kobo Abe」と「安部公房」で検索すると、下のようになる。

「Kobo Abe」を検索

「安部公房」を検索

 左側のウィンドウにクラスターが表示され、見たいクラスターをクリックすると、右側のウィンドウにそのクラスターに分類されたページが一覧されるという仕掛けである。

 適切にクラスターがわけられるなら、Googleより格段に使いやすくなるはずだが、問題はクラスターわけが検索結果に応じて、そのつど自動的になされるという点である。

 「Kobo Abe」で検索した場合、159のページが以下の34のカテゴリーに分類されている(括弧の数字は該当ページ数)。

Novelist, Japanese(16)、Woman in the Dunes(21)、Plays by Kobo Abe(14)、Authors, Arts(11)、Scriptorium(7)、Kobo Abe Was Born In Tokyo(5)、Horagai, Literary(6)、Bibliography, Book(6)、Encyclopedia(8)、Kangaroo Notebook(9)、Amazon.com(8)、Inter Ice Age 4(7)、Japanese literature(6)、Ark Sakura(7)、Magical, Chalk(4)、Page for Ernest(3)、Wikipedia, Japanese author(4)、Books by Kobo Abe(5)、Theater(5)、Kobo Abe Commemoration Starts(2)、Allreaders.com(3)、Classic, Writer(3)、Novels Of Kobo Abe(4)、Bold Type(3)、Music, Movie(4)、Book Pages(3)、Nameless(2)、Computers, Electronics(3)、Kobo Abe, Juliet Winters(2)、Books, Listed(2)、Fiction 2001(2)、Property(2)、Other Topics(19)

 個別作品を論じたページや伝記のページ、演劇のページ等々にクラスターわけされていて、いかにも使えそうだが、個々に見ていくと、分類が滅茶苦茶で使いものにならない。大半のページで内容を反映しないマークアップがおこなわれている現状を考えると、サーチエンジン側でいくらアルゴリズムを工夫しても限界があるだろう。

 また、「安部公房」で検索した下図を見ればわかるように、多言語検索ではクラスターが完全に言語依存になってしまっているし、なぜか日本語のクラスターが存在しない。

 日本語のクラスターがないのは、安部公房が国際的な作家だからというより、単にVivisimoが日本語のページをまだ十分収集していないためだろうと思う(上位20位には日本語のページは4しかはいっていない)。日本語のページがたくさんインデックスされるようになれば、日本語のクラスターも出てくるかもしれないが、言語を横断したクラスターわけは困難だと思う。

 こうした問題はSematic WebOntologyといった技術が普及しなければ解決できないだろう。それまではGoogleが無難である。

 二番目に紹介されているgrokkerは検索結果をグラフィック表示するサーチエンジン・フロントエンドで、おもしろそうだが、試用版がダウンロードできなかったので割愛する。

蜘蛛の巣構造

 三番目のTouchgraph社のTouchgraphはWWWサイトのリンク関係を図示するフロントエンドで、文字通り、Webの蜘蛛の巣構造を見せてくれる。

 拙サイトを起点にしたリンク相関図を試しに描いてみたが、知らないサイトと太いパイプで結ばれていて当惑した。どこまで現実を反映しているのだろうか。

Jan10

 北朝鮮が拉致と核両方で軟化しはじめた。

 突然、柔軟姿勢に転じたのは、アメリカの強硬姿勢が効果をあげたという見方が強いが、ここにきて金正男復活が関係しているという説も浮上してきた(最後にふれる)。

 まず、拉致問題では、昨年末、対北朝鮮強硬派で、拉致議連事務局長の平沢勝栄衆院議員らを密かに北京に招き、帰国した拉致被害者五人が平壌に「出迎え」に来れば、子供たちを「120%」返すと確約した(Sankei Webの1月7日1月8日1月9日)。

 会談の模様は平沢議員自身と、仲介した若宮清氏がTVで語っていて、「ユウコの憂国日記」の12月25日12月26日1月5日の項に、テレビ朝日「スーパーモーニング」での発言が詳しくテキストに起こされている。今朝のフジテレビ「ワッツ!?ニッポン」にも両氏が出演したが、送金や貿易を止めるといっても北側は平然としていたのに、万景峰号の来航停止にふれたとたん、顔色が変わったという発言が目を引いた。万景峰号に固執するのは、冷蔵設備をそなえた船は他になく、金正日一族に献上する高級食材を日本から運べなくなるからという見方がもっぱらだ。

 政府と救う会、家族会は今回の提案に懐疑的で、1月9日、平壌空港出迎え方式は「検討に値しない」と確認しあった(Sankei Web)。

 核については、アメリカの民間の専門家一行と議会スタッフ一行を招いて寧辺の核施設を視察させるとともに、1月6日、朝鮮中央通信を通じ、「米国が北朝鮮へのテロ支援国家指定を解除する」ならば、平和利用をふくむ核開発の凍結を表明した(Sankei Webの1月7日1月10日)。専門家に確認させて、「核開発がホンモノであることを国際社会に改めて誇示し、威嚇しようという意図」だという見方もあるが、パウエル国務長官は当初歓迎の意向を表明した(もっとも、すぐに「恒久的な核の完全放棄」が先決と、従来の線にもどしたが)。

 これまでのところ、北朝鮮の柔軟姿勢は、後になってみれば、揺さぶりにすぎなかったことが明らかになっている。今回の場合も、揺さぶりという見方がある一方、フセイン逮捕とリビアの大量破壊兵器抛棄が効果をあげたという見方が有力である。

 もう一つの見方として、金正男後継決定説がある。

 今朝のフジテレビ「ワッツ!?ニッポン」によれば、将軍様は健康不安(昨年後半の128日間の動静不明は腸炎による長期入院という説がある)から、2001年の成田騒動以来、帰国を禁じていた長男の金正男をヨーロッパから呼びもどし、昨年11月30日付で護衛司令部保衛局長に抜擢したというのだ。いきなり中将に昇進させたという情報まであるそうである。

 将軍様自身は、朝鮮労働党の要職に抜擢されることで後継者の地位を固めたが、現在は軍が党に優先する先軍政治なので、後継者は軍のしかるべき地位につくだろうといわれている。後継者に指名されたかどうかはともかく、金正男が復権したことは間違いあるまい。

 テリー伊藤氏は、金正男は外国暮らしの長い遊び人なので、彼が後継者になるのは日本にとっては好都合だとコメントしていたが、この意見には賛成である。

 金正男は2001年5月に成田で逮捕されて将軍様の御不興をかうまで、北朝鮮のIT政策を仕切っていたといわれている。2000年11月のIRG(漢字連絡会)において、北朝鮮が無理難題をみずからひっこめるという北朝鮮らしからぬ行動に出たことは2002年11月23日の項で述べた。この決定には金正男がかかわっていたのではないか。もちろん、最終的には将軍様が決定したのだろうが、いくら万能の将軍様でも、文字コードのことまでは御存知ないだろうから、金正男の進言が影響していたのは間違いないと思うのだ。

 IRG関係者からうかがったところによると、もし、あの時、北朝鮮がもうちょっと粘っていたら、大元帥様と将軍様専用のハングルがISO 10646とユニコードに「互換ハングル」として収録されていた可能性が高い。北朝鮮は大元帥様と将軍様の栄光を電脳空間に永遠に刻みつける千載一遇のチャンスをみずからつぶしたことになるが、世界の情報化はこれで救われたのである。

Jan11

 韓国三大紙の日本版サイトをのぞいてびっくりした。「韓日ネチズンの「サイバー壬辰倭乱」が進行中」(朝鮮日報)とか「韓日「独島サイバー大戦」…相手サイトを攻撃」(中央日報)、「韓日のネチズン「独島サイバー大戦」」(東亞日報)という記事がトップニュースとして報じられていたのだ。日本の新聞サイトには今のところ報道はない。

追記:asahi.comに「「竹島」めぐりネットで日韓中傷合戦」という記事が12日08:11付で出た。韓国側の過剰反応であることを指摘しており、冷静な内容だと思う。(Jan12 2004)

 発端は竹島切手問題である。日本政府は韓国に「独島」こと竹島の切手の発行を再検討するようにもとめているが(Mainichi INTERACTIVE)、この件に関して日本の「2ch」と「Kの国の方式」が韓国を批判し、それに韓国の「DCインサイド」や「お笑い大学」といったサイトが反論した(ネット上の論議であるから、感情的にエスカレートした面はあっただろう)。ここまではよくある話だが、韓国のマスコミが大きくとりあげたことで問題が広がった。韓国から大量のアクセスがあった「Kの国の方式」は現在プロバイダがアクセス停止の措置をとっている。

 朝鮮日報は次のように報じている。

 国内の各サイトとコミュニティなどでは、時間帯別に作戦状況報告と今後の対策などを論じる「ネット戦時司令部」が設けられた。 一部の韓国ネチズンは「カイスト(KAIST、韓国科学技術院)、浦項(ポハン)工大ハッカーも手伝え」と専門家の応援を要請している。

 両国ネチズンは現在、インターネット掲示板で手の内を相手国に読まれないよう暗号化した文を書いたり、特殊文字やアルファベット、数字などを混ぜたいわゆる「外界語」を使って「戦闘指針」を伝えている。

 「両国」とあるが、2chの「ニュース速報板」やお祭りchの「韓国人ハッカー2chをハッキング?」、極東板の「■韓国DCinside、2ch攻撃中■」などをながめる限りでは、日本側はさめていて、韓国側が一方的に熱くなっているようにしか見えない。2ちゃんねるの「どうやら管理人」こと、ひろゆき氏は放置を呼びかけているし、ほとんどの2ちゃんねらーも同意見のようだ。

 韓国では今、盧泰愚政権のスキャンダルがとめどなく噴きだしており、子供の喧嘩どころではないだろう。盧泰愚政権批判の急先鋒である朝鮮日報までが、子供の喧嘩を外交問題に仕立てる片棒をかついでいるのだから、困ったものである。

Jan12

 韓国と中国の間で、高句麗をめぐって歴史問題がもちあがっている(Sankei Webasahi.com東亞日報日本版)。

 世界史の復習になるが、高句麗は紀元前後から7世紀にかけて、中朝国境をまたぐ一帯を支配していた古代国家で、最後は平壌に遷都したが、最初の首都卒本は中国の遼寧省桓仁市、二番目の首都国内城は吉林省集安市というように、遺跡の多くは中国領内にある。

 中国は2002年から、200億人民元を投入した「北東工程」という一大国家プロジェクトを推進していて、北魏、遼、契丹、渤海、金など、東北部に興亡した王朝を中国の地方政権として位置づけようとしており、高句麗もその対象になっている。中国は自国内の高句麗遺跡をユネスコの世界文化遺産に申請していて、今年6月に蘇州で開かれる世界遺産委員会総会で認められる見通しという(昨年、北朝鮮は平壌周辺の高句麗古墳群を世界文化遺産に登録しようとしたのに、中国の工作で先送りされたといわれている)。

 朝鮮日報日本版の「中国、高句麗遺跡への接近遮断」によると、昨年12月、韓国から高句麗遺跡の調査に訪中した調査団は中国公安当局の妨害によって調査ができなかった。

 さらに、「このままではわれわれの祖先である高句麗の歴史が中国によって隠蔽、破壊される」として、高句麗遺跡の出土物を北朝鮮にもちだそうとした朝鮮族が逮捕され、2人に死刑、2人に懲役25年の判決がくだされたことが明らかになった。

 韓国では中国による「歴史歪曲」に反発が起きていて、「高句麗を守れ」という市民運動が盛りあがっているという(朝鮮日報中央日報) 。

 中国はなぜ高句麗の帰属にこだわるのだろうか。どうも少数民族問題がからんでいるらしい。朝鮮日報日本版から社説を引く。

 中国がこのように歴史問題を国策事業として設定し、巨額の資金を投資するのは、それなりの政治的計算が働いたに違いない。

 朝鮮族の住んでいる東北地域に対する縁故権を再確認し、それを踏まえて、場合によっては北朝鮮地域にまで介入できる歴史的名分を作ろうとする高度の戦略的考慮が背景にあるという推論も出ている。

 実際、光明日報は「平壌遷都前までは中国史」といった従来の主張を捨て、「遷都以後の高句麗史も中国史」といったとてつもない主張をしている。「学術問題を政治化するな」という光明日報の出し抜けの要求こそ、われわれは言いたいことだ。

 中華帝国主義に対する韓国の抗議は当然だが、ちょっと待てよという部分もないではない。

 西尾幹二&金完燮の『日韓大討論』によると、近年、韓国では百済や高麗は朝鮮半島の国ではなく、広大な領土をもった帝国だったという説が大真面目に主張されていて、TVの特集番組になり、大反響を呼んだそうなのだ。

 その説によると、百済は中国大陸や東南アジアを支配する大国で、首都は北京の近くにあったが、領土の大部分を失ったために朝鮮半島西部に遷都したそうな。中華民国が大陸での戦いに敗れ、台湾に立てこもったのと同じようなことが古代にも起きたと考えているらしい(高麗も同じパターン)。

 高句麗に対する韓国の憂慮はもっともだが、歴史がからむと妙なことを言いだしかねない国なので、吟味が必要だろう。

Jan13

 韓国・朝鮮ネタがつづくが、12日、ワシントンのシンクタンク「国際経済研究所」のマーカス・ノランド上級研究員は「金正日後の韓国北朝鮮」という報告書を発表し、経済制裁が発動されれば、北朝鮮は2年で崩壊すると述べたという(Sankei Web東京新聞世界日報)。

 報道によると、ノランド氏は2002年7月の経済改革のために貧富の格差が深刻化していると分析し、三つのシナリオを示した。

  1. 対外関係改善に成功し、各国の経済支援によって危機を脱する。金正日体制は生きのびる。
  2. 対外関係が進まず、経済支援がとどこおり、経済成長率マイナス6%、物価上昇率300%に。政権交代可能性は15%。
  3. 国際社会から経済制裁を受け、核心階層が動揺。政権交代可能性は50%。

 ノランド氏はまた、体制崩壊後に南北が統一すると、韓国は今後10年間に6千億ドルの統一経費を負担しなければならなくなり、経済的に難しくなると指摘したそうである。

 北朝鮮の体制変革は、やはり宮廷革命しかないのだろう。すでに軍隊にも食料がゆきわたらなくなっているらしいから、経済制裁となったら2年ももたないような気がする。

Jan14

 拉致被害者のご家族の帰国が膠着状態だというのに、よど号ハイジャック犯の子供6人が北朝鮮から永住帰国した。Mainichi INTERACTIVEをリンクしておくが、いつものことながら、「メンバー」とか「元店主」という曖昧な肩書きがひっかかる(「稲垣メンバー」でもあるまいに)。

 Mainichiでは

 父親が起こしたよど号乗っ取り事件については「当時の世界情勢を考えると(事件の)背景は理解できるが、やり方は間違っている」と口をそろえた。

となっているが、TVのニュースでは「反戦運動」だったと主張している場面が流れた。おやおやである。

 当時の赤軍派は世界同時革命のために軍事訓練に躍起になっていた。大菩薩峠で兵隊ごっこをやったり、パレスチナでアラブ・ゲリラに仲間入りしたり、浅間山荘に立てこもって警察と銃撃戦を演じたりしたものだった。同志を次々とリンチで殺していったなんていうこともあった。それもこれもすべては革命のためであり、革命という崇高な目標は暴力という手段を正当化することになっていた。よど号ハイジャック犯も北朝鮮で軍事訓練を受けてから日本にもどり、暴力革命を起こす計画だった。「好戦運動」の間違いではないのか。

 子供たちには罪はないというが、あいもかわらず、こんな「妄言」を吐いている。

 一方、会見で陽子さんは、拉致被害者の有本恵子さん(行方不明時23歳)への誘拐容疑などで国際手配されている父の魚本容疑者(55)について「(事件は)父たちの出した見解によるとでっちあげ。私は父を信じる」と述べた。

 子供が親を信じるのは当たり前だなどと言ってはいけない。八尾恵さんの次女は、母親を「裏切り」となじり、泣きわめきながら母親を罵倒していた。あれはまったくカルト信者の顔だった。

 日本で生活したからといって、簡単に洗脳が解けるわけではないだろう。昨年のOct20の項で、よど号の子供たちの帰国第一陣の世話をしていた雨宮処凛かりん氏の体験記を紹介したが、親身に面倒をみたのに、北朝鮮に批判的な意見を出したとたん、「敵」としてあつかわれるようになり、ぞっとしたそうである。

 子供たちの周囲は「支援者」と呼ばれる集団が固めているらしいが、仮に「支援者」集団に疑問をもち、一人で「支援者」の輪を飛びだしたとしても、北朝鮮のよど号サティアンで純粋培養されて育ってきた彼らが世間の中にはいっていくのはなまなかのことではない。

 これはカルト教団の信者二世がひとしなみかかえている問題だ。米本和広氏の『カルトの子』 によると、カルト共同体の中で育っても、信仰に疑問をもつようになる子が何割か出てきて、ひとり立ちしようとするが、教団内部の「常識」しか知らないので、社会復帰は絶望的に難しいという。気の毒だが、どうしようもない。

Jan15

 うんざりするニュースがつづく中、明るいニュースがはいってきた。第130回芥川賞を19才の綿矢りさ氏と20才の金原ひとみ氏がW受賞し、文芸誌業界に久々に光があたったのだ(Mainichi INTERACTIVE)。芥川賞がこんなに大々的にマスコミに取りあげられたのは何年ぶりだろう。

 綿矢りさ氏には『インストール』と『蹴りたい背中』という著書があり、金原ひとみ氏には『蛇にピアス』がある。まだ読んでいないので感想は書けないが、話題になるのは結構なことである。

 毎日新聞社とMicrosoft社は「MainichiINTERACTIVE」と「MSNニュース」を統合し、4月から「MSN毎日インタラクティブ」として再出発すると発表した(Mainichi INTERACTIVEITmedia)。

 いろいろメリットがならべてあるが、一番注目したいのは、地方版記事もふくめて全記事を2ヶ月間保存するという点である。ほとんどのニュースサイトが記事を一週間足らずで消す中、Mainichi INTERACTIVEは主要な記事を長期公開してくれていた。それが全記事に拡大されるのである。

 もう一つ、MainichiINTERACTIVEとMSNは、記事の直接リンクを禁止していない点も大きい(直接リンクを許可するとは書いていないが、YOMIURI ON-LINEのようにリンク許可をとれとは書いていないし、トップページ限定とも書いていない。見出しに著作権があるとも主張していない)。

 そもそもリンクは「どの本の何ページを参照」と書くようなもので、いかなる意味でも複製ではなく、「無断転載」呼ばわりする根拠はないはずである(詳しくは真紀奈氏の「新聞記事の見出しの引用と無断リンクの禁止について 〜Ver.2〜」)。

 上掲ページからの孫引きだが、140回国会参議院文教委員会において、政府委員の小野元之氏は次のように答弁している。

 リンクを張る行為自体は現行の著作権法上も、この改正をもしお認めいただいた新しい著作権法の上におきましても自由に行われるものでございまして、リンク先のホームページ作成者の許諾というのは不要だというふうに私どもは考えておるところでございます。

 リンクの原理を考えればわかるように、これ以外の答えはありえないはずである。

 あきれたことに、読売ON-LINEは「著作権 リンクについて」でリンクを許可制とした上に、リンクを許可する条件として「読売新聞社の名誉や品位を損ねたり、経済的損失が生じるような材料としないでください」と書いている。読売に批判的な文章にはリンクを許可しないといっているに等しい。

 たとえ引用という複製をともなう行為であっても、制限を設けることはできない。万一、引用が許可制になったら、批判ができなくなってしまうではないか。

 言論機関としてこんな要求は自殺行為であることは言うまでもない。読売新聞は言論の自由に反する「著作権 リンクについて」をただちに削除するか、全面的に改訂するべきだ。

 この手のシーラカンス新聞は放っておくことにして、blogがブームになりつつある現在、全記事を2ヶ月間公開という「MSN毎日インタラクティブ」の決定はきわめて大きな意義をもつ。bloggerからのリンクが「MSN毎日インタラクティブ」に集中することは確実で、オンライン・ニュースサイトのトップに踊りでる可能性だってあるだろう(毎日新聞の論調がオンライン・ジャーナリズムのスタンダードになるのは、ちょっとなと思うが)。

Jan16

 12chの「たけしの誰でもピカソ」に市原悦子氏が出演した。アートスフィアの「狂風記」の公演が近いのでチャンネルをあわせたら、案の定、「狂風記」の舞台稽古の模様を紹介していた。

 「狂風記」は石川淳の同題の長編を、市原の夫君で演出家の塩見哲氏が脚色・演出する舞台で、今月30日〜2月11日まで17ステージ上演される。

 塩見演出・市原主演の舞台は武田泰淳原作の「怪しき村の旅人」を見ているが、あれもこれも詰めこみすぎて、さっぱり話が見えなかった。

 「狂風記」は石川淳の小説の例にもれず、単純明解な構造をしているので、「怪しき村の旅人」のようなことはないと思うのだが、怨念を祀るといっていたのがちょっと気にかかる。確かに作中にはそう書いてあるが、石川淳は骨の髄から儒の人なので、安部公房が「脱臭装置が働いている」と指摘したように、怨念どろどろにはならないのだ。

 当たればめっけものぐらいのつもりで、あまり期待せずに見にいくことにしよう。

 富士通研究所は普通のコピー用紙並みの白さとコントラストを実現した電子ペーパーを試作したと発表した(ITmedia)。実用化は2006年ごろの見こみ。

 すぐにも実用化できそうな報道がくりかえされてきたが、今回は「白色度80以上、反射型表示でコントラスト比15以上」という数字を出しているので、信用してよさそうだ。

 それにしても、2006年とは。これが現実だったか。

Jan17

 NHK BSの「地球に好奇心」で「放浪職人“ヴァルツ”が行く 〜ドイツ・若者たちの大工修行〜」を見た。

 この番組は昨年9月、NHK綜合の「地球に乾杯」で40分版が放映されたが(「ゴザンス」)、今回は倍近い75分版で、親方マイスターを目指す二人の大工と一人の家具職人の旅を追っていた。

 ドイツが中世からつづく親方マイスター国家資格として残しているのは有名だが、まさか放浪職人(Walz)制度まで健在だとは思わなかった。

 ドイツの子供は小学校卒業後、ギムナジュウム=大学のコースか、中学=職業訓練校のコースかを選ぶ。職業訓練校を卒業し、国家試験に合格すると職人の資格があたえられ、さらに3年間の実務経験をつむか、3年と1日の遍歴修行を終えるとマイスター試験を受けることができる。マイスター資格は医師免許と同じくらいの難関で、社会的ステータスも高いという(医者ももとは「職人」だったわけだが)。

 遍歴修行中は移動は徒歩かヒッチハイク以外認めないとか、親が死んだ時以外は故郷の町にもどってはいけないといった厳しいルールがあるので、放浪職人を選ぶ若者は年に150人くらいしかいない。3年間だから、全ドイツで500人そこそこか。

 放浪職人は伝統の制服を着用し、ねじれた杖をついて歩く。通販サイトに制服の写真が出ているが、実際の姿は黒い帽子に黒いボウタイをしめて、なかなかかっこいい。

 新しい町にはいると、職人の家という集会場兼居酒屋兼宿屋にいく。秘密の挨拶をして組合ツンフトの正式会員であることが認められると、その支部と関係を結ぶための儀式をおこなう。挨拶も儀式も撮影禁止だったが、フリーメイソンの挨拶や儀式のようなことをやるのだろうと思う(「フリーメイソン」も本来は石工の放浪職人だった)。それから土地の親方マイスターを訪ね、秘密の挨拶をしてようやく仕事がもらえるが、仕事につけない日がつづくと野宿するしかなくなる。番組に登場した三人のうち一人は女性だったが、放浪職人の制服を着ていれば野宿をしても大丈夫と語っていた。

 フリーメイソンばりの秘密の挨拶や儀式が生き残っているのはすごいが、若者の一人が草鞋を脱いだ大工の親方マイスターはパソコンで設計・施行を管理していて、現代化する部分は現代化していた。。

 ドイツは若者の失業問題が深刻で、登場した三人の放浪職人もなかなか修行の機会がもらえず苦労していたが、遍歴修業する若者に対する敬意は広くゆきわたっているらしく、居酒屋では人気者だった。

 遍歴修行は技術交流という意義もあるだろうが、若者が一人で旅をし、土地土地でさまざまな人と出会って成長するという意義が一番大きい。ドイツ「教養小説」の根はここにあったのだ。バフチンの関係で『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』を読もうと思いつつ、手をつけかねていたが、今度こそ読んでみよう。

Jan18

 NHKの「地震波が巨大構造物を襲う」を見た。日本の耐震設計技術は万全ということになっていたが、長周期地震動という大変な盲点があったという指摘。

 長周期地震動とは5秒以上の周期の揺れで、条件によっては10分くらいつづく。低い建物は大丈夫だが、柔構造の高層ビルや石油タンクは共振して、大きな振幅で揺れだす。昨年の十勝沖地震では、震度5にすぎなかった苫小牧市で石油タンク2基が炎上し、45基が破損してあわや出火という事態にいたったが(共同通信)、その原因となったのが長周期地震動である(消防研究所の「2003年十勝沖地震の際の長周期地震動」)。

 苫小牧は地下数千メートルのすり鉢のようにへこんだ岩盤の上に土砂が堆積した平野にできた町だが、すり鉢状の構造が地震で揺すられると、土砂が揺れうごき、長周期地震動が発生する。東京、名古屋、大阪の三大都市圏の地下も、苫小牧と同じようなすり鉢状の構造になっている。

 長周期地震動が注目されるようになったのは十勝沖地震からだが、1969年の新潟地震で存在が推定され、1983年の日本海沖地震で確認された。1986年には京大防災研の入倉孝二郎氏によって、小地震のデータから、その土地で起こる長周期地震動の規模を予測する「経験的グリーン関数法」が確立されている(詳しくは日本地震学会強震動委員会の「強震動地震学基礎講座」)。

 東海地震が起きた場合でシミュレートすると、東京湾北東部が一番長く揺すられるというが、ここには市川の石油貯蔵施設がある。油が側壁を乗り越える可能性のあるタンクが30基、浮き屋根が沈んで原油が剥きだしになるタンクが121基。川崎や横浜もくわえると、炎上する可能性のある石油タンクは223基。東京湾に流れだした油が発火する場合もありうる。

 危険なのは高層ビルも同じだ。霞ヶ関ビル建築の際は長周期地震動の存在が知られていなかったので仕方ないが、長周期地震動研究の第一人者の入倉氏が危険性を訴えつづけてきたにもかかわらず、ずっと無視されてきたという。2000年に改訂された建築基準法でも5秒以上の周期の震動は十分考慮されていないし、各種の被害想定も長周期地震動を無視したものが多いそうだ。「想定南海・東南海地震時の大阪都市部における地震動の特徴」は怖い。東京の被害を想定した同様の研究はあるのだろうか。

Jan19

 ITmediaに「IE使用率、不動の95%」という記事が出ている。

 100カ国、5万以上のWebサイトを調査したOnStat.comのデータを紹介しているが、ランキングは以下の通り。

IE6.0 68.1%
IE5.5 13.8%
IE5.0 11.8%
Mozilla 1.8%
Opera 0.8%
IE4.0 0.7%
Safari 0.48%

 拙サイトでも似たようなものである。

 すこし前になるが、japan.internet.comに「IE 以外のブラウザは必要ない!?――300人中241人が IE 一筋」というアンケート結果が掲載された。

 300人を対象にしたアンケートだが、IEユーザーに満足度を尋ねたところ、「満足」が61%、「不満な点がないわけではないが、乗り換えるほどではない」が37%、「不満な点がある」が2%だったという。

 82%が1つのブラウザ(99%がIE)しかインストールしておらず、IEに満足と答えたユーザーは食わず嫌いの可能性があるとしているが、複数ブラウザのユーザーでも大半がIEを常用ブラウザとしていることからいって、IEの満足度が高いことは間違いないだろう。

 複数ブラウザを使いわける人に理由を尋ねたところ、「用途に応じて使い分けている」と答えた人が多かったそうだが、これはどういうことか? 2ちゃんねるを利用しやすいようにMozillaを改造した「2ちゃんねるブラウザ」なるものがあるそうだが、それくらいしか「用途別」は思いつかない。

 わが常用機にもMozillaとOperaがはいっているが、レイアウト確認用にしか使っておらず、ふだんはIE一本槍である。Operaは速さを売りにしているが、速度を体感できるほどではない。

 ルビタグの問題もある。ルビタグに対応しているブラウザはIEだけである。W3Cの正式の規格になっているルビタグに対応しもしないで、日本語対応ブラウザを名乗るのはおこがましい。

 MozillaとOperaにあって、IEにない機能は日本語ドメイン名くらいだろうか(IEではi-Navというプラグインが必要)。日本語ドメイン名とは「www.官邸.jp」のように日本語を使ったドメイン名で、3年前に鳴り物入りで登場したが、まったくふるわず、登録数はピーク時の6万件から4万5000件に落ちこんでいるとか。

 日本レジストリサービス(JPRS)は、日本語ドメイン名を普及させるために、i-Nav未インストールのIEで日本語ドメイン名を使おうとした場合、エラーにするのではなく、「日本語JPナビ」(仮称)というページに誘導することを検討しているという(ITmediaCNET)。

 日本語ドメイン名が使われないのはIEが未対応のためだけだろうか? 「www.官邸.jp」と入力する場合、「www.」と打ちこんでから日本語IMEを起動し、「官邸」で変換・確定してから日本語IMEを切り、「.jp」と打ちこまなければならない。こんな面倒くさいことをやる人がそんなにいるとは思えない。

 もちろん、アルファベットのドメイン名は有限だから、ドメイン名をまだもっていない企業は日本語ドメイン名をとらざるをえなくなるだろう。その意味で将来性はあるわけだが、普及はかなり先になると思う。

Jan20

 16日に小泉首相が検討を指示した情報通信省構想は3日ももたなかったようだ。総務省と経済産業省の情報通信部門を統合するというのだから、難しいのはあたり前だが、それにしてもあっけなかった。

 総務省幹部は「いま、両省間で重複している業務はない」と語っているそうだが、文字コードはどうなのだ。

 文字コードはこれまで経済産業省が所管してきた。目下、電子政府の基盤を整えるために、公的機関で使われる漢字を網羅し、フォントを用意する「汎用電子情報交換環境整備プログラム」が国立国語研究所・情報処理学会・日本規格協会の三者連合で進められているが、これも経済産業省の事業である。

 ところが、住基ネットを立ちあげるにあたり、総務省は「統一文字コード」という独自文字コードを作ってしまった。「統一文字コード」は「文字コードから見た住基ネットの問題点」に書いたように、非常に問題のあるコードなのだが、さらにあきれたことに、公的個人認証サービスでは別の文字セット(JIS第1水準・第2水準+JIS補助漢字の1万3千字)を使っている。

 JIS第1水準・第2水準+JIS補助漢字というのは、Windowsの文字セットがもとになって出てきた制限だろう。Windowsで使えない文字は代替文字に置き換えろというわけだ。

 この問題については、自治体政策情報研究所の黑田充氏は「公的個人認証サービスの疑問に答えるQ&A集 その2」のQ29で、以下のように指摘しておられる。

公の記録である戸籍や住民登録に使用されている文字が使えない公的証明書発行システムとはお笑い種ですね。「番号で同一性を確認するから、氏名の表記なんてどうでも良い」という住民票コードによる国民管理の思想が透けて見えそうです。

 番号で国民を管理するつもりがあるかどうかわはわからないが、文字コードの混乱のために、住民票番号をキーとせざるをえなくなっているのは事実である。

 総務省自治行政局自治政策課の「全国市町村会 説明会資料(2)」」の「代替文字の取扱」にはこうある。

 JIS第1水準、第2水準およびJIS補助漢字に含まれない文字(外字)はパソコン等で表示できないため公的個人認証サービスにおいて利用することはできない。従って、申請者は氏名及び住所の中に該当する文字があれば、パソコン等で利用できる文字(代替文字)を別途選んでから、電子証明書の発行申請をする必要がある。

 住所は機械的に置き換えるのに対し、氏名は本人に代替文字を選ばせることになっているが、これはJISには異体字関係にある字が収録されているからだと思われる。だが、「稗」と「」が選択肢として並んでいるのはどうしたことだろう(「」は樽とか斧の柄の意味)。

 かくして、公的個人認証サービスの電子証明書は、住基ネットとは別の文字で記載されることになってしまった。経済産業省は30年近く、文字コードですったもんだをくりかえしてきたので、それなりの認識をもっているが、総務省の旧自治省系は文字コードのモの字もわかっていないらしい。

 これだけでも十分滅茶苦茶なのだが、総務省内の旧郵政省系がさらに別の文字コードを作ろうと画策しているという噂がある(噂で終わることを願う)。

 経済産業省、総務省旧自治省系、総務省急郵政省系が三つ巴になって、それぞれ勝手な文字コードで電子政府を作ろうとしているのが現状らしい。情報通信省の創設が無理なら、せめて電子政府の文字コードだけでも早急に統一すべきだ。

Jan21

 故黒澤明監督の長男の黒澤久夫氏らが、昨年1月5日放映の大河ドラマ『武蔵』第一回が『七人の侍』に酷似しているとして東京地裁に提訴し、NHKに損害賠償と再放送、ビデオ・DVD化の差し止めを求めている(Mainichi INTERACTIVE)。

 このケースが罪なのは、『武蔵』には吉川英治という原作者がいたことである。第一回が『七人の侍』と「酷似」しているのは一目瞭然あきらかだが、吉川英治という名前を冠していたために、原作を読んでいないと、黒澤明の方が吉川英治をパクったという誤解が生じたとしても不思議ではない(夕刊紙か週刊誌で、「どっちがパクリ?」という見出しを見かけた記憶がある)。

 NHK版『武蔵』第一回が『七人の侍』と「酷似」しているのは一目瞭然あきらかだが、原作を読んでいないと、『七人の侍』の方が吉川英治の『宮本武蔵』をパクったという誤解が生じたとしても不思議はない(夕刊紙か週刊誌で、「どっちがパクリ?」という見出しを見かけた記憶がある)。

 『宮本武蔵』は「国民文学」と呼ばれているが、読んでいない人の方が圧倒的に多いのだから、将来、黒澤明の方が吉川英治をパクったと誤解する人が出てくる可能性は否定できない。ビデオ化・DVD化にあたり、当該部分を削除するのは当然だと思う。

 訴えているのは黒澤明の遺族だが、NHKは吉川英治の遺族に対しても非礼を働いたことは忘れてはいけない。作品の冒頭部分を他の作者の作品と差し替えるということ自体、原作を冒瀆するものだし、その上に盗作疑惑で泥を塗ったのだから、著作人格権の侵害で訴えることだって不可能ではないだろう(人格権は法律上は相続できないが、日本では実質的には相続に等しいあつかいがおこなわれている)。

 盗作問題ではどちらが先かが決め手になるが、紙やフィルム媒体なら、証拠が物の形で残るのではっきりしているが、電子メディアではどうなるのだろう。

 WWWの場合、archive.orgがあるが、すべてのサイトをカバーしているわけではないし、巡回も数ヶ月に一度らしい。第三者機関が日本語WWWコンテンツを頻繁に保存するようにしておかないと、著作権紛争が持ちあがった時に解決の手がかりがなくなるのではないか。

 この問題はWWW文化が日々失われているという問題ともからんでいる。著作権はいつかは切れるのだから、文化庁は100年後公開というロングスパンの事業として、日本語のWWWコンテンツの保存に早急にとりかかるべきだろう。

Jan22

 有楽町駅にいこうとしたら、改札口横の吉野家にTVの取材クルーがはりついて、出てきた客にインタビューしていた。店内をのぞくと、半端な時間なのに満席に近かった。牛丼フィーバーが起こっているのだ。この調子だと、「牛丼最後の日」にはカウントダウンの実況中継があるかもしれない。

 アメリカの狂牛病発覚後、吉野家は間髪をいれず、在庫限り販売中止と発表したが、この決定が当たったわけだ。今回の吉野家の対応は、危機管理の成功例として、後々語りつがれることになると思う(対称的なのは民主党の古賀潤一郎議員の醜態)。

 アメリカ産牛肉の輸入再開の圧力は世論の後押しを受けそうだが、山内一也氏の「人獣共通感染症連続講座」を読むと、軽々の再開は疑問に思えてくる。

 アメリカは1997年に肉骨粉を餌にすることを禁止したが、山内氏によると有名無実化しているそうだ。

子牛には牛の血液が給餌されており、ノーベル賞受賞
者のスタンレー・プルシナーによれば「まったく馬鹿げた発想」とのこと。さ
らに重要な点は、この禁止令がほとんど守られていないことである。
2001年の会計検査院の調査では禁止された肉骨粉を取り扱うアメリカ
の飼料会社やレンダリング会社の1/5は牛の餌への混入を防止する
システムを持っていなかった。最大の肉牛生産州のひとつ、コロラド州
の飼料製造業者の1/4以上はBSE防止のための肉骨粉禁止の対策
を、実施4年後でも知らなかった。

 屠殺された牛は農務省によって抜きとり検査がおこなわれているが、年間3500頭のうち、検査されるのは2万頭にすぎない。なんと0.05%である。

 今回、狂牛病と判定された牛はカナダから輸入されたことがわかっているが、アメリカはメキシコからも年間百万頭を輸入している。メキシコはアメリカよりもさらにBSE対策が遅れているという。

 アメリカ産牛肉の安全性を力説している農務省のアリサ・ハリソン報道官の前職は全米肉牛協会(National Cattlemen's Beef Association)の広報部長だったという話もある。

 別に牛肉を食べなくてもいいじゃないかと思うのだが、今度はタイで鳥インフルエンザが人間に感染していたことがあきらかになり、鶏肉の輸入がストップした(Mainichi INTERACTIVE)。

 これまでのインフルエンザは喉の粘膜に侵入したが、タイの鳥インフルエンザは他の細胞にもはいりこむらしい。こんなものがはいってきたら大変である。

Jan23

 アフガニスタン情報文化省と共同でバーミヤンを調査していた文化財研究所は、多数の地下遺構群をレーダー探査でとらえたと発表した(Mainichi INTERACTIVEasahi.com)。

 探査したのは破壊された大仏の前に広がる東西1.7km、南北100〜300mの領域で、『大唐西域記』の記述に照らすと、巨大な涅槃仏ねはんぶつや王城などの可能性が高いとのこと。

 わくわくするニュースだが、地下1.5〜2mと浅いところに埋まっているのが気になる。NHK「文明の道」の第二回「アレクサンドロスの遺産 最果てのギリシャ都市」で、アレクサンダー大王の築いたアレキサンドリアにさかのぼると見られるアイ・ハヌム遺跡の現在が映しだされたが、一面、盗掘の穴だらけだった。CGで美しく再現された古代都市の映像がすばらしかっただけに、よけい衝撃を受けた。

 アイ・ハヌム遺跡は全容がわかりかけたところでソ連がアフガニスタンに侵攻し、つづく内戦で20年以上無法状態におかれた。国外に出た一部の出土品とカブール博物館のスタッフが内戦中に避難させた展示品は無事だったが、遺跡の大半は失われてしまった。

 タリバンの復活が懸念されている今、うっかり発掘するとアイ・ハヌム遺跡の二の舞になってしまうのではないだろうか。

Jan24

 12chの「出没!アド街ック天国」で神田神保町をとりあげていた。

 この番組では、2002年にも「THE 神田」というくくりで、神保町、秋葉原、神田をとりあげていて、今回と8〜10の項目がかぶっていた。古い街並みをもうちょっと映してもよかったのではないか。

 キッチン南海とキムラヤの発祥の地が神保町だったとは知らなかった。どちらもチェーンの中ではひときわ見すぼらしい店だが、一号店だったわけである。

 二週間ほど前、asahi.comに「神田の古書店街、逆風でも店増加 脱サラ・転職組が進出」という記事が載ったが、もう削除されてしまった。

 裏通りにミステリとかSFに専門をしぼった新規開店が増えているというのだが、家賃が安くなったことと、インターネットで通販ができるようになったことが理由だという。確かに無店舗より、神保町に店があるという方が、注文する方としては安心できる。

 本を探す人間にとって、インターネットは本当にありがたい。電子書籍に期待しなくなったのは、必要な本はネットでほとんど入手できるようになったことが大きい。紙の本の1/10くらいの値段にしないと、電子書籍は無理ではないだろうか。

Jan25

 1月17日と18日におこなわれた大学入試センター試験の世界史Bに、四択問題として「第二次世界大戦中、日本への強制連行が行われた」と受験生に答えさせる問題が出題されたことはご存知と思う。

 「強制連行」について今さら説明するのは面倒くさいので、産経新聞の22日付社説から引用させていただく。

 いわゆる「朝鮮人強制連行」は、戦時下の昭和十四年から二十年にかけ、約七十万人の朝鮮人労働者が朝鮮半島から日本内地へ渡ってきた事象を指す戦後の造語である。しかし、最近の実証的な研究や外務省の公式文書などにより、大半は自由意思に基づく渡航であり、そうでない場合も国民徴用令に基づく合法的な渡航だったことが明らかになっている。

 この通りなのだが、朝鮮総督府は第二次大戦末期まで、日本への渡航をずっと制限しつづけたのに、高い賃金をもとめる朝鮮人労働者があの手この手で日本に密航してきたという事実をつけくわえておきたい。「徴用」を「強制」と感じた朝鮮人(というか、当時は日本国民だったのだが)はいたが、国民徴用令が朝鮮に適用されるようになったのは1944年になってからで、この頃には日本近海は危険になっていて、渡日者数は激減していた(本人の意に反して日本に連れてこられた朝鮮人の比率は非常に低いはずである)。

 朝鮮人が勝手に本に密航してきたという事実を指摘されると、マルクス主義の洗脳が解けていない御老人たちは、日本資本主義が朝鮮の民族資本を根絶やしにしてしまったので、渡日せざるをえなかったのだと反論するのが常だった。

 ところが、金完燮氏の『「親日派」のための弁明』によると、近代化につながる民族資本など影も形もなかったという認識が韓国の学界でも有力になっているそうである。また、これから読もうと思っているのだが、朝鮮研究の基本文献とされているエッカートの『日本帝国の申し子――高敞の金一族と韓国資本主義の植民地起源 1876−1945』は、日本統治下で民族資本が育成されていったことを実証的に明らかにしているという。

 虚偽問題を作ったのはどんな素性の人間だろうか? どうも日本共産党系の学者らしい。「西尾幹二のインターネット日録」の1月24日の項によると、別の設問に「マルクス主義による社会分析の成果」として、『日本資本主義発達史講座』と答えさせる問題があるというのだ。「労農派 vs 講座派」なんていうことをまだやっていたのかとあきれるが、若い人のために書くと、日本の歴史学者は労農派=社会党系と、講座派=共産党系にわかれて内ゲバを延々とくりかえしてきた経緯があるのである(詳しくは立花隆『日本共産党の研究』参照。この本は滅法おもしろい)。

 両方の設問を同一人物が作ったのだとしたら、「強制連行」といっしょに講座派正当説を設問にまぎれこませることで、労農派の学者を黙らせることができるという読みだったのではないか。もしそうだとしたら、火事場泥棒の手口である。

 「新しい歴史教科書をつくる会」はただちに抗議声明を出し、採点から除外することを文部科学大臣に要望したが、文科省は「強制連行」はすべての教科書に書かれているから変更できないと答えた。だが、つくる会が調査したところ、「強制連行」の記述のない教科書は世界史Aで10冊中5冊、世界史Bで19冊中5冊もあった。なぜ、すぐにわかる嘘をつくのだろう。

Jan26

 再放送でNHK特集の「ソウルに生きる 〜脱北者たちの歌舞団〜」を見た。

 旧西ドイツでも、東からの亡命者は資本主義社会に適応できず、苦しんでいたというが、南北朝鮮の場合、経済格差も分断後の期間も東西ドイツの比ではない。現在、4000人の脱北者が韓国で生活しているが、なかなか仕事につけず、就職できたとしても平均賃金の半分以下の単純労働で、大半が生活保護で暮らしている。脱北者には北でそれなりの地位についていた人がすくなくないが、北での資格や学歴、経験はまったく役に立たず、プライドがずたずたになっているそうである。4000人しかいないのに、年間100人が犯罪を犯すというのだから、情況は深刻だ。

 番組では、芸能関係の仕事をしていた脱北者が結成した「統一芸術団」という歌舞団の悪戦苦闘をとりあげていた。北朝鮮で身につけた能力のうち、韓国で通用するのは、歌や踊りくらいしかないだろう。目のつけどころは悪くない。

 歌舞団の初仕事は右翼団体主催の演奏会だった。主催者側は北朝鮮の生活の実情を語るようにもとめたが、リーダーの女性は南北の溝を広げるようなことはしたくないと拒否し、歌と踊りだけで押し通した。

 会場は本物の脱北者を一目見たいという一般客でいっぱいだったが、熱演にもかかわらず、客の反応はしらっとしていた。NHKの取材班がマイクを向けると「物珍しさで来たけど、好みじゃないね」、「北の歌は異様な感じがするわ」、「もう一度聞きたいとは思わないよ」といった答えが返ってきた。北朝鮮流の歌と感きわまったようなナレーションは、韓国人も異様と感じていたのである。

 歌舞団のメンバーは冷ややかな反応にショックを受け、2時間も反省会を開いていたが、一所懸命にやればやるほど、客は引いていくという悪循環におちいるだけである。

 歌舞団にはなかなか仕事が来ず、辞めるメンバーが続出したが、空気清浄器の販売会社から長期契約の話が来て、経済的には息をつけるようになる。ただし、あくまで客寄せパンダであって、歌や踊りが受けているわけではない。

 番組では一番若い16才の女の子と、その家族を追っていたが、父親が韓国にいる叔父を訪ねたところ、未亡人からけんもほろろに追いかえされるなど、厳しい現実が次々と明らかになっていく。このあたり、国民性もあるのだおろう。

 一応、未来に希望を感じさせるような結末がついていたが、前途は多難である。

 4000人の脱北者ですら、これだけもてあましているのに、北朝鮮がつぶれたら、韓国経済はどん底に突き落とされるだろう。また、日本がたかられるのだろうか。

Jan27

 古賀潤一郎衆院議員の話は馬鹿馬鹿しいし、「古賀潤一郎学歴詐称事件リンク」や「古賀潤一郎代議士について」のような専門サイトまであるので、ここでとりあげるつもりはなかったが、博多駅前でおこなった涙、涙の居直り街頭演説にはあきれた(Mainichi INTERACTIVE)。支持者の壁を作ってパフォーマンスするのだから、卑劣にもほどがある。

 「三つのけじめ」と称して、歳費返上と、民主党離党、休暇を利用して米ペパーダイン大で残り19単位を取得することを公約したが、歳費返上は公選法上できないし、民主党を除名される前に「離党」するなど、自分に都合のいい話だ。休暇を利用した単位取得にいたっては理解不能。

 マスコミは久しぶりに疑惑追求に燃えているようだが、肝心なことを聞いていない。19単位が何科目に当たるかを質していないのだ。

 古賀議員はわざわざ渡米してペパーダイン大で確認してきたわけだから、科目数は具体的にわかっているはずである。19単位という半端な数字がどういうことなのか、ペパーダイン大の制度がわからないのではっきりしないが、すくなくとも5科目以上落としているはずである。これだけ落としているとなると、難関の科目がかなりまじっているのではないか。

追記:最初、1セメスターの授業の単位を2単位と考え、10科目以上と書いたが、アメリカの大学で講師をされているMunagurumaさんからメールをいただき、1セメスターの一科目の単位は4単位で、19単位は5科目にあたると御指摘いただいたので訂正する。「アメリカ人の学生ならともかく、長年大学から離れているような方には、1学期で取るのは無理でしょ う。また、1回の夏休みだけで取れるような単位の数ではありません」とのこと。卒業に必要な単位は128単位で、1セメスターに4科目とるのが標準らしい。

 次の一節はアメリカの大学を卒業した方の意見として重要なので、引用させていただく。

私自身、アメリカの大学、大学院を苦労して卒業しました。日本でキャリアが認められないかもしれないというリスク、経済的な負担などすべて乗り越えた上 で最後までやりとげたからこそ、意義のある学位だと思っています。また、同じように苦労して学位を取った人、また学位を取ろうとしている人を大勢知って います。古賀議員の留学は履歴書に大学名を載せるためだけのなんちゃって留学だったんでしょうが、それを卒業と言い張って通ってしまうならば、私たちの 苦労は何なのかと思ってしまいます。そんなわけで今回の件は腹が立ってなりません。

 わたしの出た学校は、卒業より中退の方が偉いなどといわれていたトンデモ大学だったが、アメリカの大学の「卒業」は日本の大学の「卒業」よりもはるかの重いのだ。(Jan30 2004)

 リンクの許可を戴いたので、Munagurumaさんのblogをリンクした。留学を考えている方やアメリカの大学制度に興味のある方は一読を。(Jan31 2004)

 1科目、2科目ならうっかりしていて卒業できなかったということはなくはないが(それで留年した知人がいる)、5科目以上となると、卒業していると勘違いするなんていうことはありえない。休暇に渡米して、取得するなどということも無理だろう(そんなに簡単に単位がとれるなら、とっくに卒業できていたはず)。

追記:Jan30付の追記でペパーダイン大には夏季講座がないと書いたが、実はあることが判明した。くわしくはMunagurumaさんのblogを参照されたい。一度にとれる単位制限や、国会閉会期間と夏季講座期間のずれなどで、これで卒業は難しいようである。

 もっとも、あまり卒業云々にこだわりすぎると、古賀議員の目くらましにひっかかることになる。(Jan31 2004)

 足りない科目数がわかれば、古賀議員の嘘は自動的に暴かれてしまうのである。だからこそ、古賀議員は「単位」数しかあきらにしないのだろう。

 任期いっぱい居すわる積もりなのだろうが、もし居すわれたとしても、政治活動はなにもできないし、再選される可能性などない。まったく理解不能である。

Jan28

 12chの「女と愛とミステリ」で「十年 妻が夫を裏切った日」を見た。このシリーズは年に何回か傑作があるが、傑作の時は最初の5分間でわかる。今回がまさにそれ。

 今が旬の寺島しのぶ主演かと思ったら、寺島しのぶは藤真利子にあやつられていて、その後ろに風吹ジュンがいたことがわかる。風吹ジュンは最後に全部さらっていってしまう得な役。三人の女に翻弄される大杉漣がまたいい。

 寺島しのぶは注目されるようになって、ずいぶんきれいになったが、風吹ジュンと藤真利子の熟年の美の前には影が薄い。二時間ドラマは馬鹿にされがちだが、ベテラン女優に活躍の場をあたえているという点では無視できない。

 原作は小杉健治の「十年」という短編で、『正義を測れ 不動産トラブル請負人』に収録されている。今度読んでみよう。

Jan29

 NHKの「アクターズ・スタジオ・インタビュー」に、レニー・ゼルウィガーが登場した。

 ゼルウィガーは黒いセーターにジーンズというラフなかっこうで、ハリウッドスターにはとても見えない。『ザ・エージェント』のキャメロン・クロウ監督はなぜ無名の彼女を起用したかと訊かれて、「一癖ある善良さ」と答えたそうだが、言いえて妙である。キャラクター的には『ベティ・サイズモア』のベティに一番近いのではないか。

 『ベティ・サイズモア』の印象があまりにも強烈だったので、あの映画でで出てきた人と思いこんでいたが、『母の眠り』ではメリル・ストリープの娘役で、ためを張っていたという。ただ、無名時代は長く、預金が13ドルしかなかったので、日曜に引きだせずに困ったと話していた(日曜には20ドル以上でないと引きだせないそうな)。

 『ベティ・サイズモア』の話は短かったが、『ブリジット・ジョーンズの日記』はヒュー・グラントの回のビデオを引用して、爆笑に次ぐ爆笑(ヒュー・グラントの回は「アクターズ・スタジオ」シリーズの中で一番おもしろかった)。彼女は役作りのために出版社でアルバイトしたが、まかせられた仕事は本の方の『ブリジット・ジョーンズの日記』に関する記事をスクラップするというもので、大衆紙に載った「テキサスの大根女優がブリジット役に!」という自分の映画に関する記事も切り抜いたそうである。

 一番長かったのは『シカゴ』の話で、彼女はこの作品でゴールデン・グローブ賞の主演女優賞をとっている。

 封切時には持続感が薄く、散漫な印象だったが、引用されている場面を見ると、やはりすごい。DVDで見直してみようか。

 陰謀史観は嫌いではないのだが、「週刊アカシック・レコード」から、「3月14〜29日の死闘」という記事が配信されてきた。今年、アカデミー賞授賞式が一ヶ月くりあげられて2月29日になったのは、イラクのテロのピークが3月14〜29日にくるとキッシンジャーが「予告」したからだというのである。

 キッシンジャーの「予告」自体は、1月4日に12chで放映された「日高リポート」のインタビューの中で語られたそうだが、それを渡辺謙のアカデミー助演男優賞受賞と結びつけるのが「週刊アカシック・レコード」ならではの味つけだ。次の条は眉唾とは承知しながらも、ひょっとしたらと思った。

渡辺謙の米映画界における立場は、日本球界から米大リーグに新人として進出した野茂英雄投手の立場にかなり似ている。どちらも米国にとって巨大な日本市場の扉を開くキーマンだ。筆者がアカデミー協会の幹部なら、大勢の同業者に呼びかけてでも、なんとしても渡辺謙に受賞させようとするだろう。

その渡辺謙が受賞するのなら、彼の写真が翌日の日本の新聞の1面に載るようにしなければならない。間違っても、彼を押しのけて、イラクで殉職した自衛官の遺影が新聞の1面に載ってはいけないのだ。そんなことになったら、日本へのPR効果は半減だ。世界でいちばんマーケティングや広告戦略に長けているハリウッドの幹部たちが、それをわからないはずはない。

 陰謀史観から離れても、アカデミー助演男優賞は『キリング・フィールド』で映画初出演のカンボジア人医師も受賞しているという指摘は興味深い。『ラストサムライ』の興行的成功は日本市場のおかげであって、その影響からか、スピルバーグの『サユリ』の主演はマギー・チャンではなく、日本人女優になるらしい。渡辺謙のオスカーはひょっとしたらあるかもしれない。

Jan30

 29日朝、ソウル日本人学校の正門から、保護者を装った男が敷地内に侵入した。男は登校してきた幼稚園児たちに襲いかかり、T君(6才)の頭を手斧で二回殴打し、さらに別の園児を襲おうとしたところで警備員に取り押さえられた。T君は頭蓋骨骨折の重症を負い、緊急手術をしたが、容態は安定しているという(朝鮮日報日本版Mainichi INTERACTIVESankei Web)。

 犯人の朴容疑者は警察で「前日、友人を見舞うためにソウルの高麗(コリョ)大学付属病院に行ったところ、日本人と思われる男3人が何の理由もなしに自分の頬を7回も殴り、暴言を吐いたので、その憂さ晴らしをしようと幼稚園に行った」と動機を話したが、外傷がみられず、陳述が支離滅裂の上、精神科に通院歴があることから、被害妄想を疑われている(朝鮮日報日本版)。

 どこの国でも妄想から凶行に走る人間はいるが、妄想内容は社会病理を反映する。類似の犯罪を犯した宅間守は学歴&ブランド信仰をグロテスクな形で体現していたが、今回の朴容疑者の場合は韓国社会に蔓延する病的な反日感情と無関係ではあるまい。TVニュースによると、朴容疑者は逮捕後のインタビューで「へー、子供がケガしたのか……。でも日本人でしょ」と語っているのである。

 日本人学校長が事件を防げなかったと陳謝したが、まず謝罪すべきは韓国の事実をねじ曲げた反日教育に反論せず、放置してきた外務省だと思う。

 ごく近い将来、北朝鮮は瓦解し、韓国は北という大きなお荷物を背負いこむことになる。韓国経済が統一の負担で長期間低迷することは間違いなく、国民の欲求不満は日本に振り向けられるだろう。

Jan31

 Jan02の項で、『紅樓夢』研究の基礎となっていた脂硯斎評が偽書だという説が出ていることにふれたが、「紅樓夢小辞典」の掲示板で、素人紅学氏が脂硯斎評偽書説をくわしく紹介されている(2004/01/24付)。

 偽書説を提唱しているのは清代小説を専門にしている歐陽健氏。最近、『還原脂硯斎-二十世紀紅学最大公案全面清点』という本を上梓し、脂硯斎は実在せず、脂硯斎評は20世紀になってからのでっち上げであることを詳細に論証しているという。

 脂硯斎評は訳書の解説や研究書を通じてしか知らないので、なんともいいようがないが、実際に評を読んだ素人紅学氏は次のように感想を書いている。

 私も最初紅楼夢の謎を解明したいと思い、脂硯斎の評を読んだのですが、正直言ってあまりたいしたことのないことが延々と書いてあるだけで、時々、一族のことが書いてあるという程度のものです。おそらく、この評をいくらいじくっても何も出てくることはないと思います。

 これまでの『紅樓夢』研究は蜃気楼だったということか。『紅樓夢』らしいといえば『紅樓夢』のだが、原典を知らないのは恐ろしいことだなとあらためて思った。

 中国では大変な論争になっているそうで、いよいよ気になるところだ。日本では松枝訳が絶版になるくらいだから、歐陽健氏の著書が邦訳される見こみは薄い。中国語を勉強するしかないのか。

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